いつか貴女と、肩を並べて   作:おおとり

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エピローグ

 演習が終わり、艤装を解いたあたしは真っ先に『お風呂』に向かう。

「はぁ……」

 あたしは溜息を吐きながら、顎まで湯船に浸かる。

 瑞鶴先輩を怒らせてしまった。

 途中まで、あんなに楽しかったのに……

 次に瑞鶴先輩と会ったら、なんて言おう。

 ごめんなさい、ありがとう、またよろしくお願いします。どれも違う気がする。

 

「何も、言えないよ……」

 

 このまま湯船に潜水してしまいそうになった時、『お風呂』の引き戸が空き、瑞鶴先輩が入ってきた。

 

「あ……」

 

 瑞鶴先輩は少し居心地の悪そうな顔をして、体を流しはじめた。

 いつもだったら、自然にどちらからともなく会話が生まれるのに、今日は何もない。

あたしは、居ても立っても居られず、湯船から出て瑞鶴先輩の横に座った。

 

「……なによ」

「ご、ごめんなさい」

 

きっとこの言葉のチョイスは間違いだ。

 

「なんで謝るのよ……」

「色々です」

「色々って……」

 

 はぁ、と瑞鶴先輩は溜息を吐く。

 

「どうして、あたしを倒さなかったのよ」

 

 瑞鶴先輩は、さっきの問いを再び口にした。

 あたしは、まとまらない頭でとめどもなく言葉を垂れ流す。

 

「あたしは、瑞鶴先輩に認めてもらえたら、それでよかったんです。先輩はあの時、演習で一本取ったら、って言ったけど、あたしにはそんな自信無くって。でも少しでも追いつきたくて、飛龍さんとか龍驤さんにも稽古付けてもらって。ちょっとは強くなったって思いました。戦ってるときは必死で……でもまさかあそこまで自分が瑞鶴先輩と戦えるようになってるなんて思いもしなかったんですよ。そう思ったらあたし……あ痛っ!?」

 

 ビシッ、と瑞鶴先輩のデコピンがあたしの額に刺さった。

 

「なにするんですか!?」

「うじうじするな。葛城らしくない」

「あたしだって悩みますよ」

「『前の戦い』を経験したなら、演習でも実践でも戦う意味はみんな分かってると思ったんだけど、そういや葛城は戦えなかったもんね」

「はい……」

「でもね、最後にあたしを庇ってくれたのは嬉しかった」

「え」

 

 顔を上げる。

 瑞鶴先輩の、少し困ったような笑みがそこにあった。

 

「わたしたち艦娘が戦うっていうことは、誰かを守ることに繋がっているのよ。敵を倒すのも、演習で勝つのも意味は同じ。自分が強くなって、守りたい誰かを守れることに繋がってるって、そう思うのよ」

 

 「まぁこれはとある人の受け売りだけど」と瑞鶴先輩は言って、

 

「でも今日は貴女の勝ちよ葛城。よく頑張ったわね」

 

 あぁ、と声が出る。

 こんなところにあったのだ。

 きっと一番欲しかった言葉だ。瑞鶴先輩の一言があたしの心をあっという間に満たしてくれる。

 感極まって、苦しくて、熱い吐息が抑えきれなかった。

 

「ありがとうございます。瑞鶴先輩!」

 

 感極まったついでに、あたしは瑞鶴先輩に飛びついた。

 

「きゃ、ちょっと葛城!」

 

 そのまま、すてん、とあたしたちはお風呂場の床に倒れこむ。

 

「瑞鶴先輩……」

「な、なによ葛城……」

 

 目の前に、あたしの大事な先輩がいる。

 瑞鶴先輩の白い肌が少し上気していた。

 勢いで押し倒してしまったが、これはひょっとして大変なことをしているんじゃないだろうか。

 しかしやってしまったものはしょうがない。

 きっと、今ならご褒美ということで――

 

「ずっと一緒にいたいです……」

 

 改めて言うと、なんだか恥ずかしくって、瑞鶴先輩の顔をまともに見れない。

 

「なんだ、そんなこと」

「ふあ!?」

 

 瑞鶴先輩は笑うと、思い切りあたしの頭を胸に抱きしめた。

 柔らかい肌に包まれて、多幸感が背筋を這い回る。

 

「ならば励みなさい」

「はい」

 

 あたしも、瑞鶴先輩を抱きしめる。

 瑞鶴先輩の甘い香りに包まれて、このまま溶けてしまうのではないだろうか。

 

「次は、絶対圧勝してやるんだからね」

「じゃああたしは、次も、そのまた次も瑞鶴先輩に負けないように鍛錬しますから」

 

 ――だから。

 

「もうちょっと、ぎゅっとしててください」

 

 

【終わり】

 

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