「苗字同じなんだね」
「じゃあ、下の名前で呼んでいい?」
「裕介だから…ゆうくん?」
「あはっそしたらゆうちゃんだ」
「ゆうくん」
「ん?」
だいすき
何で忘れてたんだろ
気づけばひとり、涙を流していた
花火の音が遠くで聞こえる
視界にあるのは小さな花火と、
彼の顔だけ
「ゆうちゃん」
全部思い出した…
あの日私は彼の部屋にいって
他愛ない話をして
「おやつ持っていきなさい」
彼のお母さんの声で、ふたりリビングへ向かった
インターホンが鳴って、私が代わりに出て
この家の住人になった気がして嬉しくて
確かめもせずドアを開けて
女の人がいて
包丁を振り上げて
驚いたのも束の間
お腹に鋭い痛み
聞こえる叫び声
思い出した
全部、私のせい
「ゆうちゃん」
「ごめんね、ゆうくん」
私のせいだ
私があのときドアを開けなければ
「何で謝るの?」
「だって私が…」
彼女は泣いていた
俺は涙を拭いてやることさえできなくて
抱き締めることさえできなくて
こうなることをわかっていた
俺が死んで、彼女は生き残って
絶対泣かしてはいけないと思った
この今にも消えそうな体で、俺のできることは
彼女の記憶を消すことだけだった
俺を好きになった記憶
俺と付き合っていた記憶
俺の名前
家族
俺がいたという記憶全て
消してやることだった
だけど彼女は記憶を最後まで消さなかった
幽霊になった俺の姿をしっかりと見ていた
彼女は今でも俺を好きでいてくれた
嬉しくて泣きそうだった
でも同時に、このままでは駄目だと思った
花火を見よう、ふたりで、最期に
「いつかふたりで花火見に行こうよ」
「いいね、今年行けたらいいね」
「いいね、じゃなくて、行こうよ、約束」
「いいけど…約束破ったら罰ゲームな?」
「まじでか」
彼女の笑顔が好きだった
今でもこの目に焼き付いていた
その日は手を繋いで、ふたりの影法師をアスファルトに伸ばして
初めて握った手の感触は柔らかかった
ずっと前から知っていたような、懐かしい気さえした
俺と同じ匂いがして、
ああ、夫婦って似るっていうよな、って思って
嬉しくて照れ臭くて
花火を一緒に見られるのが楽しみだったんだ
見終わったら消えよう、彼女の隣から
あの日、彼女に告げた言葉
俺の父親は女遊びが激しく、挙げ句刺されて死んだ
他にも女がいたのを知っていた
彼女が俺の、腹違いの妹だということ
あの日彼女は涙を流して呟いた
「まじでか」
もう全部思い出した
彼との関係
あの事件の真相
私は彼を見つめたまま動けなかった
「さよなら」
彼は言う
今度こそ泣いてはいけない
あの日を繰り返してはいけない
ちゃんと笑って言おう
「まじでか」
-END-