「次は織斑君との模擬戦だな」
オルコットさんとの模擬戦に勝利してピットに戻り、ボロボロになったマントを予備のと交換していると嵐山先輩が話しかけてきた。
「連戦で疲れているだろうけどがんばりなよ」
「オルコットさんと違って織斑君のデータは全くないから気をつけてね」
嵐山先輩に続いてとっきーと綾辻先輩が声をかけてくる。そうだな。綾辻先輩の言う通り、一夏はISの初心者だけどそれは言ったら俺も同じだし、データが全く無い事も考えたら油断は禁物だな。
「そんな心配そうな顔するなよ。大丈夫。空色人だったら勝てるって」
「佐鳥先輩の言う通りですね。四門先輩があの織斑一夏に負けるなんてまずあり得ませんから」
賢が俺をリラックスさせようと言うとそれに木虎が同意するのだけど……。木虎のヤツ、一夏に対してピリピリしていないか?
「木虎? 一体どうしたんだ? 一夏がどうかしたのか?」
「別に何でもありません。私はただ事実を言っただけです。だって彼は……」
『四門、準備はできたか? そろそろ織斑との模擬戦を開始するぞ』
木虎の言葉をスピーカーから聞こえてくる織斑先生の声が遮る。もうそんな時間か。
「それじゃあ皆、行ってきます」
俺は嵐山隊の皆にそう言うと、仲間達の応援を背に受けて一夏が待っているアリーナの上空に飛んだ。
「来たか、空色人。セシリアとの戦い見てたぜ。凄かったな」
アリーナの空には純白のISを身にまとった一夏がいた。
あれが一夏のISか。今まで見た事もないデザインをしたISだけど、もしかして第三世代型の試作機なのか?
「お前がやっぱり強いのは再確認できたけど俺も負ける気がないからな。全力でいかせてもらうぜ」
全力で戦うと宣言をする一夏。その表情を見るに本気なんだろうけど、構えようとしないどころか武装も出さなくて大丈夫なのか? 俺はすでに両手にサブマシンガンを持っているんだけど?
『四門空色人対織斑一夏。模擬戦開始!』
織斑先生の声が模擬戦の開始を告げる。さて、まずは一夏がどれだけ動けるか確認しないとな。とりあえずは牽制も兼ねて軽くサブマシンガンを撃ってみるか。
ガガガッ! ドドドン!
「う、うわぁああ!?」
「……………はい?」
牽制代わりに短く撃ったサブマシンガンの射撃。いくら何でもこれは避けるだろうと思っていたのにまさかの全弾命中。あまりに予想外の出来事に俺はたっぷり五秒程固まってしまい、そうしている間にもサブマシンガンの銃弾でバランスを崩した一夏はアリーナの地面に落ちていってた。
「この!」
アリーナの地面に激突する寸前でなんとかISの姿勢を制御して立て直した一夏。俺のISのハイパーセンサーはそんな彼の顔に大量の冷や汗が流れているのを捉えていた。
「……何やってるんだ? お前?」
「うるせぇな! 仕方ないだろ! まだISの操縦慣れていないんだから!」
俺が思わず外部音声をオンにして言うと、流石にあれは恥ずかしかったのか一夏も外部音声をオンにして怒鳴ってくる。でもISの操縦に慣れていないって、一週間の間に訓練したらもう少しマシな動きになるんじゃないか?
「……一夏。お前、この一週間何をしていたんだ?」
そう言えば俺って、この一週間のほとんどは授業が終わればボーダー本部に行っていたから、一夏がどんな訓練をしていたか知らないんだよな。
「えっ? ……箒と一緒に剣道の訓練をしてたな」
俺の質問に一夏は気まずそうに目をそらして答える。何だ? 一夏のこの態度は? ……もしかして。
「剣道の訓練……。それだけか?」
「……………ああ」
マジか? 一夏の奴、この一週間で剣道の訓練しかしていないって本気か? 確かに剣道の訓練で戦いのカンは得られるかもしれないけど、他にもやる事があるんじゃないのか?
「ISの知識とか調べてないのか?」
「……ガッコウノジュギョウニツイテイクノニセイイッパイデス」
ああ、そうだったな。一夏、初日に古い電話帳と勘違いして捨てた参考書に今も悪戦苦闘していたっけ。というより授業が終わると必ずと言っていいほど、先の授業で分からない所を俺に聞きにくるんだっけ。
「ISの操縦訓練は? 山田先生に頼めば放課後に訓練用ISとアリーナの使用許可がもらえただろ?」
実際俺はこの一週間でニ、三回くらいアリーナでISの操縦訓練をしたし、オルコットさんが毎日のようにアリーナに足を運んでいるのも目撃している。
「えっ!? そうなのか?」
心底驚いたって顔をする一夏だが、むしろ驚いたのはコッチの方だぞ。それくらい自分で確認しろよ。山田先生、模擬戦のために俺達三人がいつでもアリーナを使用できるように準備してくれていたってのに……。
「俺やオルコットさんの戦闘データは調べているんだろうな? せめてどういう風に戦うか考えているんだろうな?」
対戦相手のデータを集めてそれに対抗する作戦を練るのは戦いの基本中の基本だ。オルコットさんはイギリスの国家代表候補生だから宣伝の為の戦闘映像がいくつかネットに流れているし、俺もボーダーでの戦闘映像が数は少ないがあったはずだ。
「せ、戦闘データ? そんなのどうやったら手に入るんだ?」
…………………………。
気がつけば俺は、というかこのアリーナに集まっている全ての人間が冷めた目で一夏を見ていた。
そういえばピットで木虎が一夏の事になると機嫌を悪くしていたが、その理由が何となく分かった。恐らく木虎は、一夏が剣道の訓練以外で模擬戦に対する準備をしていなかったことを知っていたんだ。
木虎は自分にも他人にも厳しい努力家で、以前「無意味な努力をしている人を見たら腹が立つ」と言っていた気がする。この一週間で剣道の訓練しかしていない一夏の行動を俺は全く無駄とは言わないが、それでも「模擬戦で俺とオルコットさんに勝つ」という目標に向かっているとは言えないし、彼女だったら「そんなのは単なる現実逃避にすぎない」と断じるだろう。
というか一夏、完全にノープランじゃないか? それなのに最初、「負ける気がないからな」って言っていたのか?
「……お前、どうやって俺とオルコットさんに勝つつもりだったんだ?」
「え、え~と……。気合い、とか?」
「夢見んな馬鹿」
「ヒデェ!?」
思わず口に出た俺の言葉に一夏が絶叫した。
∞
『夢見んな馬鹿』
『ヒデェ!?』
「……否定は出来んな」
「あ、あはは……」
「………」
空色人と一夏のやり取りをピットで聞いていた千冬が呆れたように言い、真耶が苦笑いを浮かべ、箒が冷や汗を流しながら目をそらした。
∞
『夢見んな馬鹿』
『ヒデェ!?』
「だっははは! 空色人、ハッキリと言いすぎ!」
「まあ、気持ちは分かるけどね」
「空色人の奴、まるで賢と話している感じだな」
「だいぶ一夏君とうちとけてるみたいですね」
「………(パチパチ)」
また別のピットでは佐鳥が腹を抱えて爆笑し、時枝が無表情のまま頷き、嵐山と綾辻が少しズレた感想を言い、木虎が小さい拍手をしていた。
この話を書いてる時にワールドトリガー(Bランク戦編)とISの小説の一巻を読み直したのですが、修と一夏の差が凄いなと思いました。同じ主人公なのに……。