インフィニット・トリガー   作:兵庫人

14 / 16
第14話 クラス代表者決定戦(5)

「空色人! 今のは酷くないか!?」

 

「酷くない。それよりそろそろ模擬戦を再開するぞ。さっさと武装を展開しろ」

 

 一夏の抗議を無視して俺は、模擬戦を再開するべく下からこちらを見上げているIS初心者に武装を展開するように言った。

 

 不満そうな顔でこちらを睨んでいる一夏だが、こうして忠告しているだけ俺って良心的なんだぞ? これが他の敵だったら一夏の奴は武装を展開する暇すら与えられずボコボコにされているだろう。

 

「ほら、早くしろ」

 

「くっ! 分かったよ……って!? 俺の武装、ブレード一本だけ?」

 

 そう言って一夏が右手に出現させたのは片刃の近接格闘用ブレードだった。

 

 一夏の奴、自分のISの武装すら確認していなかったのかよ? というより武装がブレード一本だけなんていよいよ一夏も勝ち目がなくなっ……てもいないか?

 

 あの様子だと一夏は銃器の扱い方なんて知らないだろうし、それだったら剣道の訓練を活かせるブレードの方が有利なのかもしれない。……それに一夏の武装がブレードだったらこっちも助かるからね。

 

「やるしかないのか……。よし! 行く……ぜっ!?」

 

 戦う覚悟を決めてこちらに飛ぼうとした一夏だったが、その直後に悲鳴をあげて前ではなく後ろにと吹き飛んでいく。俺の放った銃弾が一夏のISの左肩に命中したからだ。

 

 今俺の両手には二挺のサブマシンガンではなく、未来的デザインのライフル……正確には長距離狙撃に対応できるレールガンがあって、それを見て一夏が目を見開いた。

 

「セシリアと同じライフルだって!?」

 

「同じじゃない。オルコットさんのはビームライフルで俺のはレールガンだ。それに嵐山隊の特集を見ていた一夏なら知っているだろ? 俺はポジションは『狙撃手』なんだぜ?」

 

 ボーダーの戦闘員はその交戦距離によって近距離の「攻撃手」、中距離の「銃手」、遠距離の「狙撃手」とポジションが分かれる。そして俺のポジションは今一夏に言ったように遠距離での戦いを得意とする狙撃手。

 

 俺はボーダーの狙撃手としては変り種で、状況に応じて中距離の銃手もするが本来の距離はこの遠距離だ。大人気ないかもしれないが、武装がブレード一本でこれだけ距離が離れている一夏に負ける気がしない。

 

「覚悟しろよ一夏? 今からお前にスナイパーの、銃の恐ろしさを教えてやる」

 

「くっ!」

 

 一夏がISを操作して飛び上がり、ジグザグの軌道を描きながらこちらに近づこうとする。ジグザグの軌道を描くのは俺に狙いを定めさせないための良い判断だが……俺から見ればまだまだ素直な動きでフェイントになっていない。

 

「(一夏。これは俺のせめての情けだ)」

 

 俺は小声で呟くとレールガンの銃爪を引いた。

 

 

「おっ。ヘッドショット三発目。空色人の奴、やるなぁ」

 

 ピットで空色人と一夏の模擬戦を見ていた佐鳥が感心した顔で言う。ピットのモニターの中では空色人の放ったレールガンの銃弾が一夏に命中する光景が映っていた。

 

 今までに空色人がレールガンを撃った回数は四回。その内最初の一発は一夏の左肩に命中したが、その後の三発は全て一夏の頭部に命中していた。

 

 頭部に銃弾を命中させるヘッドショットは「ワンショット・ワンキル」を理想とする狙撃手が攻撃する際に狙うものだが、動く人間の、それもISで高速機動をする一夏に三回連続でヘッドショットを決めるのは至難の技だ。だが空色人は相手以上に早く複雑な動きで先回りをし、フェイントを織り交ぜてヘッドショットを実現して、彼の技量がかなり高いのがモニターの様子から見て取れた。

 

「四門先輩、あんな風に技量の差を見せつけるなんて珍しいですね。やっぱり四門先輩も織斑一夏の不真面目さに腹を立てていたのでしょうか? ……………分かります」

 

 言葉の最後で木虎が暗い笑みを浮かべた気がするが佐鳥はそれを見ないふりして口を開く。

 

「んー……。それも少しはあるかもだけど、多分あの連続ヘッドショットは一夏の為だと思うぜ?」

 

「あれが織斑一夏の為? 一体どういうことですか?」

 

 疑問を感じたのは木虎だけでなくピットにいる他の嵐山隊のメンバー達も同じようで全員が佐鳥を見て、佐鳥は付き合いが長い友人の考えを自分なりに推察して説明する。

 

「空色人のヘッドショットが一夏の為になる理由は多分三つ。この模擬戦は相手のISのシールドエネルギーを先にゼロにした方が勝ちだから、ヘッドショットでシールドエネルギーだけを削って勝てば一夏の機体のダメージは最小限になる。そうしたら一夏は次のセシリアさんと万全に近い状態で戦えるだろ? これが一つ目の理由」

 

 ISは「当たっても損傷が軽微」と判断した攻撃はそのまま受けるが、「当たれば操縦者や機体に深刻なダメージが出る」と判断した攻撃はシールドエネルギーを大量に消費するがダメージを完全に無効化する絶対防御で防御をする。そして空色人のヘッドショットにはISは絶対防御を使わざるを得ず、現在一夏のISのシールドエネルギーはすで三分の一以下になっていた。

 

「それで二つ目なんだけど、ヘッドショットを何度も食らうなんて並大抵の恐怖じゃないだろ? あんだけヘッドショットを食らった一夏は狙撃手の射撃がどれだけ怖いか分かったはずだ。一夏に自分と同じ狙撃手タイプのセシリアさんに対する警戒心を植え付けること。これが二つ目の理由だな。警戒心があるとないとじゃ攻撃に対する反応速度が全く違うからね」

 

「なるほど。空色人は織斑君との勝負に手を抜かずに、彼を応援しているということだな」

 

 佐鳥の説明に嵐山が頷き、佐鳥も「ま、そんな所ですね」と頷き返す。

 

「最後の三つ目の理由は……」

 

 そこまで佐鳥が言った時、モニターの中で空色人が一夏に四度目のヘッドショットを決めた。

 

 

「ひっ!?」

 

「格が……違いすぎる……」

 

 空色人の放った銃弾が一夏に四度目のヘッドショットを決めた時、嵐山隊とは別のピットでモニターから模擬戦を見ていた真耶が短い悲鳴をあげ、箒が青い顔となって呟く。

 

「これが、四門君の本気の動き……。四門君、もう学生のレベルじゃないですよ……」

 

 真耶が思わず言葉を漏らす。日本の元国家代表候補生の彼女から見ても空色人の実力は高く、学生レベルどころか国家代表候補生の中でも上位に入るだろう。

 

「か、勝てるはずがない……。一夏ではアイツに、空色人に勝てない……」

 

(なるほどな……)

 

 誰よりも一夏の勝利を願っていたはずの箒がモニターの前で呟く。それはこのアリーナに集まった者達全ての意見であり、それを聞いた千冬は別のピットにいる佐鳥と同じく空色人のヘッドショットの意味を理解した。

 

(恐らく四門は一夏にこの後戦うオルコットに対する警戒心を与えて、その上で『一夏の面目を守る』ことを考えているのだろうな」

 

 空色人の学生レベルを遥かに超える動きと射撃と見せられた後で、空色人に負けた一夏を軽視する者はいないだろう。むしろ善戦したと考える者もいるはずだ。

 

 一夏はこの模擬戦で空色人とした会話で生徒達からの心象を悪くしている。それを少しでも何とかしようと空色人は考えたのだろう。

 

(全く……これは感謝すればいいのか分からんな……)

 

 千冬は表情を変える事なく内心で複雑な気持ちを抱いた。

 

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 アリーナの上空で一夏が荒い息を吐きながら俺を見ている。まだ模擬戦が始まって十分も経っていないが、一夏の顔には大量の汗が流れていて何時間も走り回ったような濃い疲労の色が見えた。

 

「もうそろそろシールドエネルギーも限界だな」

 

「……!?」

 

 俺がレールガンの銃口を一夏に向けると、一夏が慌ててブレードを構える。その目には明らかな怯えが見えて、どうやら銃に対する警戒心は芽生えたようだな。……まあ、ちょっとやりすぎた気もするが。

 

「銃の恐さは分かったようだな、一夏。さて、ここで終わらせるぞ。……『闇烏』起動」

 

「なっ!?」

 

 翡翠に装備された「鉛雀」とは別の特殊装備「闇烏」を起動させると俺の姿が溶けるように消えて、それを見た一夏が驚きの声を上げる。

 

 特殊装備「闇烏」は翡翠に装備されているマントの名前で、これはボーダーのオプショントリガー「カメレオン」と「バックワーム」の効果を同時に発動する事ができる。使っている間はシールドエネルギーを一秒ごとに消費していくが、それでも操縦者の目とISのハイパーセンサーから姿を隠す事ができるのは狙撃手の俺としては非常に助かる。

 

「ど、どこだ! 空色人、何処にいるんだ!」

 

 一夏がブレードを周囲を見回す。その間に俺は一夏の背後に回り込んでレールガンを構えた。

 

 ……一夏。狙撃手と戦う時は死角から攻撃に気をつけろよ。

 

 俺は心の中でそう呟くと一夏の後頭部に狙いを定めて銃爪を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーー『試合終了。勝者、四門空色人』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。