「お帰り、空色人。中々いい試合だったぞ」
「おめでとう。四門君」
一夏との模擬戦に勝利してピットに戻ると嵐山先輩と綾辻先輩が笑顔で出迎えてくれた。そしてその後で他の三人も俺に話しかけてきた。
「お疲れ様。見事な狙撃だったね」
「狙撃手の面目躍如ってところだな」
「……でも最後の闇烏の発動はサービスのしすぎだと思います。いくら織斑一夏の顔を立てるためだといっても……」
とっきーと賢は先の模擬戦で見せた連続ヘッドショットを凄いと言ってくれたが、木虎は特殊装備を使ったことについて不満そうに言う。……って、ちょっと待て。
「木虎? 何でその事を?」
「佐鳥先輩が教えてくれました。あの圧倒的な実力差を見せつける四門先輩の戦い方は織斑一夏の為だって」
そうか……。流石に付き合いが長いだけあって賢には俺の目的が分かっていたのか。
でもそのドヤ顔はやめろ、賢。正直ウザイ。
「でもあの闇烏っていう特殊装備って凄いよな。カメレオンとバッグワーム両方の効果を発動できるだなんて、もう無敵じゃないか?」
「いや、そうでもない。闇烏は使っている間、カメレオンやバッグワームと同じようにシールドエネルギーを消費するから、使いどころを間違えるとすぐにエネルギー切れになるんだ」
賢の言葉に俺は首を横に振って答える。
確かにカメレオンとバッグワーム両方の効果を同時に発動できる闇烏は強力だけど、その分燃費が悪いという弱点がある。闇烏を発動している間は一秒毎に十のシールドエネルギーを消費するので、シールドエネルギーが満タンの状態でも闇烏の発動状態を維持できるのは数十秒が限界だ。
だから闇烏を使うタイミングは短期決戦狙いの序盤か、お互いのシールドエネルギーを削った終盤だろう。
「そうなのか。でも鬼怒田さんもこんな便利な装備を作れるんだったら、同じ効果のトリガーを作ってくれたらいいのにな」
賢の意見はもっともで、嵐山先輩を初めとする嵐山隊全員が同意するように頷く。俺も初めて翡翠を渡されて闇烏の性能を知った時、開発者の鬼怒田さんに同じような質問をして、現在のトリガー技術では闇烏をトリガーにすることはできないことを説明されたんだよな。
「俺も同じことを考えたけど、鬼怒田さんが言うには例え作っても人間の脳じゃ使いこなせないそうだぞ」
「? 空色人、どういうことだ?」
嵐山先輩に聞かれ、俺は以前に鬼怒田さんから聞いた話を思い出しながら説明をする。
「説明をする前に聞きますけどトリオン体って、設定した武器を作って使える他にベイルアウト機能があったり、レーダーを使えたり、オペレーターと情報のやり取りをしたりと色々と多機能ですよね? これだけを見ればトリガーには小型のコンピューターがあって、それが使用者のサポートをしていると思いますよね?」
「……その言い方だと実は違うということですか?」
俺の話を聞いて木虎が何かに気付いたように口を挟んでくる。中々に勘がいいな。
「その通り。トリオン体を作るのも、ベイルアウト機能やレーダー機能を使うのも、全てトリガーを起動した使用者の脳がやっているんだ」
「え!? そうなの?」
賢が全く知らなかったという顔で驚き、他の嵐山隊の皆も似たような表情で驚く。それはそうだろうな。俺も鬼怒田さんから聞かされるまではそんな事考えたこともなかったからな。
「ああ。トリガーに内蔵されているトリガーチップは、使用者の脳に『トリオンをトリオン体や武器にする方法』を教える後付けの記憶装置でしかないようで、トリオン体がメインとサブの二つトリガーしか同時に使えないのは使用者の脳の負担を少しでも減らすための制限らしい」
「……なるほど。闇烏をトリガーにできない理由もそこにあるみたいだね」
ここまで話を聞いてようやく少し話が見えてきたと、とっきーが頷く。
「そういうこと。バッグワームとカメレオン……特にカメレオンは使ってる時の脳の仕事量が他のトリガーよりも多いらしい。鬼怒田さんが言うにはバッグワームとカメレオン両方の効果を発動できるトリガー、それの理論はすでに完成しているんだけど、実際にそれを使うと使用者の脳に負担がかかりすぎて最悪トリオン体が維持できなくなるって言ってた」
「……それじゃあ、闇烏をトリガーにはできないわね。残念」
闇烏をトリガーにできない理由に納得した綾辻先輩が残念そうに呟くがその気持ちは分かる。確かにバッグワームとカメレオン両方の効果が得られる反則のようなトリガーが使えたら、相手も同じのを使ってくるかもしれないランク戦ではともかくネイバーとの戦いでは有利だからな。
「そう言えば鬼怒田さんはこうも言っていたな。ISの技術を上手く利用できればトリガーの技術は飛躍的に進歩する可能性があるって」
ISの情報処理能力は人間の脳を遥かに上回るスパコン並みだ。その情報処理能力をトリオンの操作に利用できれば今まで以上に高性能な武器をいくらでも同時に使用できるようになると鬼怒田さんは言っていた。それがどれだけ便利で強力かは想像も難くないだろう。
「そうか。じゃあその可能性が現実になるかどうかは空色人と翡翠次第ってことだな」
「そういうことになりますね」
嵐山先輩の言葉に俺は頷いて見せる。
トリガーの技術が上がるということはそれだけボーダーの戦力が強まり、ネイバーとの戦いで仲間達が危険な目に遭う事がなくなるということ。そのためだったらいくらでも実験に付き合ってやるさ。
「……………あれ?」
そう考えていると突然賢が何かを思い出したかのように口を開いた。
「どうした? 賢?」
「いや、そういえば織斑とオルコットさんの試合ってどうなったんだ?」
『あっ……!』
賢の言葉に俺達は一斉にアリーナの様子を映しているモニターを見た。すると……。
『試合終了。勝者、セシリア・オルコット』
と、試合の終了を告げる織斑先生の声がモニターから聞こえてきた。
ヤバ……。一夏とオルコットさんの試合、全然見ていなかった……。