「さあ! はるばるやって来ました! 市立の多目的ホール!」
織斑一夏という俺と同い年の男子がISを起動させたというニュースが報道されてから数日後。日曜日の晴天の下で賢の馬鹿丸出しの声が響き渡った。
……うるさい。そしてうざったい。
「賢、あまり大声で騒ぐな。周りが見てるぞ」
ここには俺達二人だけでなく、俺達と同じ中学の同級生や下級生、そして三門市の高校の先輩方が大勢集まっていて、そのほとんどがこちらを見ていた。
本当に勘弁してほしい。俺、目立つのは好きじゃないんだよ。あー、何だか目がチカチカしてきた……。
しかしそんな俺の内心を知らずに賢はテンションを下げることなく、むしろ更に上げて声を出す。
「何言ってるんだよ? 今日が何の日か忘れたのか? 『IS適合検査の日』だぞ。こんなビックイベントの日にテンションが上がらなかったら嘘でしょ!」
そう、賢が言う通り、今日はここ市立の多目的ホールで三門市中の男子中学生と男子高校生を集めてISの適合検査を行うのだ。
織斑一夏がISを起動させたという報せを聞いた世界各国は、「織斑一夏以外にもISを起動できる男子がいるのではないか?」と考え、自国の織斑一夏と同年代の男子を集めて一斉にISの適合検査をすることにした。……うん。それをやる意味は分かるんだけど、それでもやっぱり休日返上で集められる俺たち学生としてはたまったものではない。
「ああ~。もしISを起動できたらどうしよう? クラスメートが全員女の子のバラ色青春が始まったらどうしようかな~?」
賢の奴は自分がISを起動した未来を想像して気持ち悪く体をくねらせているが、このようにテンションを上げているのはコイツだけだった。他の男子達は最初から興味がないような諦めたような白けた表情をしている。
……まあ、それもそうか。
「賢、いい加減にしろ。俺達がISを起動できるはずないだろ? 俺達は『世界平均トリオン数』が断トツ一位の日本の中で『全国平均トリオン数』が圧倒的一位の三門市の人間なんだぞ」
そろそろ俺の中で鬱陶しさがピークに達してきたので、俺は残酷だと思うが隣の友人に現実を告げた。
今俺が言った世界平均トリオン数というのは世界各国の国民の平均的なトリオンの強さを表す数字のことで、日本以外の国の平均トリオン数は「1」から「2」なのに対して日本の平均トリオン数は「3.8」。
ちなみにほとんどの人のトリオン数は「1」くらいで、トリオンを武器として使用するボーダー隊員になるにはトリオン数が最低でも「3」は必要とされる。
そして全国平均トリオン数というのは世界平均トリオン数の日本版みたいなもので、これは三門市があるうちの県が他の県の二倍以上の数字を記録しており、しかも高いトリオン能力を持つ人間は決まって三門市に集中していた。
……本当に今更なんだけど何なんだろうな、この三門市って所は? 前に何かの資料で知ったけど三門市の住民って全員がトリオン数が「2」以上で「1」の人間っていないらしいぞ?
まあ、要するに三門市の住民は世間から見れば決まって高いトリオン能力を持っていて、それがどうしてISを起動できない話に繋がるかと言うとそれはISの特徴にある。
ISには世間に大きく知られている特徴が二つある。
一つは「女性にしか起動できない」という特徴。(これは織斑一夏の登場によって覆されてしまったが)
そしてもう一つは「トリオン能力が高い人間には起動できない」という特徴だ。どういう訳かISはトリオン数が「2」以上あると、それが女性であっても起動させることができないのだ。
ここまで言えばもう分かると思うが、つまり男でトリオン能力が高いここに集まっている三門市の男子はISを起動できる可能性が限りなく低いということである。それは皆も分かっているから白けた表情をしているわけだ。
更に言えば、三門市の住民でも特にトリオン能力が高いボーダー隊員の俺と賢がISを起動できる可能性は限りなく低いどころか全くのゼロだ。それは賢も充分分かっているはずなのに、幸せな奴だ……。
とにかくISの適合検査が始まったら賢の奴も夢から覚めるだろう。俺達がISを起動できるなんてまずありえないんだから。
「俺達がISを起動できるなんてまずありえない……はずだったんだけどなぁ……」
多目的ホールの一室で俺は天井を見上げながらぼんやりと呟いた。
今俺がいるのはISの適合検査をする部屋で、そこで俺は……………「ISを装着した状態」で立ち尽くしていた。
適合検査が始まって三時間くらいが経ち、ようやく俺の番になって早く終わらせようと用意されたIS……確か打鉄だったっけ? それに触れた瞬間、目の前が真っ白になって次に視界が戻ると俺は打鉄を装着していた。
部屋にいる係員の人達は全員信じられない、といった表情でこちらを見ていたが、一番今起こったことが信じられないのは俺だからね? 何で男で、自分で言うのもなんだけどトリオン能力がかなり高い俺がISを起動できるんだよ?
「ら、空色人……?」
俺より先にISに触れたが全く反応せず、今まで「OTZ」状態だった賢が俺を見上げてくる。
「あ~、賢? 俺、IS起動できたみたいだ」
「ふざけるな------! 何でお前なんだ-------!?」
多目的ホールの一室に血の涙を流さんばかりの表情をした賢の叫びが響き渡った。