インフィニット・トリガー   作:兵庫人

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第4話 IS学園入学

 俺がISを起動させてから数ヶ月後。

 

 上層部からの命令でボーダー本部の一室を自室にして生活をし、IS関連の検査やインタビューにボーダーでの訓練と、色々と忙しい日々を送っているうちに運命の日が来てしまった。

 

 すなわちIS学園の入学日である。

 

 数ヶ月前に迅さんから「この学園に入学すると面倒なトラブルに巻き込まれる」という不吉な予言をいただいた俺は正直行きたくなかったが、ボーダー本部と政府からの命令を無視する訳にはいかず渋々とIS学園の敷地に足を踏み入れることに。……あー、帰りたい。

 

 俺のクラスは一年一組。

 

 そこには俺より先に……と言うより世界で最初にISを起動させた男性適合者、織斑一夏がいたが他のクラスメートは当然女子ばかりであった。これって賢が見たら泣いて喜びそうな光景だな。

 

『…………………………』

 

 クラスメートの女子達は一言も話そうとせず、ただひたすらに俺と織斑一夏を凝視していた。

 

 視線の集中し具合は、俺に八で織斑一夏に二と言ったところだろうか。俺は今日まで散々テレビのインタビューを受けて耐性がついた為、これくらいの視線はもうなんともなかったが、織斑一夏の方は慣れていないのか非常に辛そうで何度もこちらに救いを求めるような視線を向けてきた。

 

 いや、何で今日会ったばかりの俺にそんな目を向けるんだよ? そんな風に見られても俺何もできないぞ?

 

 織斑一夏とクラスメートの女子達の視線を無視していると教室の扉が開いて眼鏡をかけた良く言えば優しそうな、悪く言えば気弱そうな女性の先生が入ってきた。

 

「皆さん、おはようございます。そして入学おめでとう」

 

『…………………………』

 

 女性の先生は笑顔で挨拶をしてくれたのだがクラスメートの女子達は俺か織斑一夏を見るのに夢中で、そして俺と織斑一夏もこの空気の中では中々声を出すことが出来ず、先生に返事をする者は一人もいなかった。

 

「うっ……! え、えーと、遅れている人はいませんね? それじゃあ朝のHRを始めます」

 

『…………………………』

 

 誰も返事をしようとせず沈黙を貫くクラスに、女性の先生はひきつった表情となりながらも話すが、やはりこれも返事は返ってこなかった。何だか気の毒になってきたな。

 

「わ、私は、このクラスの副担任の山田真耶、です……。皆さん、よろしくおねがいしますね……?」

 

 一言も話さないクラスに女性の先生、山田先生はおずおずと自己紹介をする。よく見れば山田先生の目には若干の涙が浮かんでいた。……ん?

 

『………!』

 

 ふと視界の端に違和感を覚えてそちらを見ると、そこにはここにはいないはずの賢の幻が握り拳を作りながらこちらを睨み付けていた。その表情は「あんな綺麗なお姉さんが困っているのに助けないなんて、お前男か!?」と言っているように見えた。

 

 幻になってまでついてくるとは凄い執念だな、賢? でもまあ、お前の意見ももっともか。

 

「はい! よろしくおねがいします」

 

 賢(の幻)からのお叱りを受けた俺は席に座ったまま山田先生にクラス中に聞こえるような大きな声で挨拶を返した。そのせいでクラスメート達が全員驚いた顔で見てきたが気にしない事にした。

 

「あ……。は、はい! よろしくおねがいしますね!」

 

 おれの挨拶にクラスメートと同じく驚いた顔をしていた山田先生だったが、すぐに嬉しそうな顔になって何度も頷いてくれた。良かった。どうやら機嫌は治ってくれたようだ。

 

『………♪』

 

 見れは賢の幻も笑顔を浮かべてこちらにサムズアップをしていた。

 

「それではまず自己紹介をしてもらいます。出席番号順で……」

 

 山田先生に呼ばれた生徒が順番に教壇に立って自己紹介をしていく。そして二、三人の生徒の自己紹介が終わって織斑一夏の番になったのだが、当の織斑一夏は何かを考えているようで自分の番になった事に気付いていないようだった。

 

「織斑くん。織斑一夏くん!」

 

「は、はい!?」

 

 山田先生に呼ばれてようやく気がついた織斑一夏は何か山田先生に言ってから教壇に立つ。すると自然とクラスメートの女子達の視線の圧力が増した。

 

「え、えーと……。織斑一夏です。よろしくおねがいします。……………以上です」

 

 ガタタッ!

 

 たっぷりと間を置いた織斑一夏の言葉にクラスメートの女子達の半分がずっこけた。中々ノリがいいな、このクラス。賢がいれば爆笑していただろうな。

 

 と、俺がそう思っていると「パァン!」と何やら痛そうな音が聞こえてきた。音がした方を見たら織斑一夏の頭をいつ間にか現れた新しい女性の先生が叩いていた。……あれ? あの先生ってどこかで見たような気が。

 

「げぇっ、関羽!?」

 

 スパァンッ!

 

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

 

 織斑一夏の言葉に女性の先生は再び彼の頭を叩く。あの先生も中々ノリがいいな。あんな痛そうなツッコミ、俺は嫌だけど。

 

「お前は自己紹介もまともにできんのか?」

 

「ち、千冬姉!、なんでここに!?」

 

 バシィインッ!

 

「織斑先生だ」

 

 女性の先生、織斑先生に三度頭を叩かれて織斑一夏が教壇の前にある机に突っ伏す。何やら頭から煙が出ている気がするが気のせいだろう。

 

 ……というかあの先生の名字も織斑?

 

「諸君、私がこのクラスの担任の織斑千冬だ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。いいか、いいなら返事をしろよ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」

 

 織斑先生の教師というよりは軍隊の教官のようセリフにクラスは静寂に包まれた。しかしその直後、

 

『キャアアアァァアァ!!』

 

 クラスメートの女子達が一斉に叫んだ。うわっ、うるさっ!? 今教室のガラスが震えたぞ!

 

「ほ、本物の千冬様よー!」

 

「ずっとファンでした!!」

 

「千冬様に会うためにIS学園に来ました!」

 

「私は北九州から来ました!!」

 

 織斑先生に向けてクラスメートの女子達が熱い声を上げる。

 

 ああ、そうか。どこかで見たと思ったら織斑先生って、あの「ブリュンヒルデ」か。

 

 ISの世界には「モンド・グロッソ」という各国家の代表者達がISの操縦技術や格闘技術を競うオリンピックみたいな大会がある。

 

 そして織斑先生こと織斑千冬は、第一回モンド・グロッソの日本代表で他を寄せ付けない圧倒的な強さで優勝し、その戦いぶりから「ブリュンヒルデ」という異名で呼ばれるようになった。

 

 なるほど、第一回モンド・グロッソの優勝者ともなればISに携わる女性にとって憧れの存在だろう。そう考えればこのクラスメートの女子達の浮かれぶりも理解できる。

 

 しかし当の本人である織斑先生はすごく呆れた顔をしていた。

 

「全く、毎年毎年よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ。私のクラスに集中させているのか?」

 

「もっと叱って! 罵って!!」

 

「そしてつけあがらないように躾して!」

 

 織斑先生の冷たい、突き放すような言葉にもクラスメートの女子達はめげることなく、むしろ更に興奮しているように見える。色々とタフだな、このクラス。

 

「はぁ……。もういい、そろそろ静かにして自己紹介の続きをしろ。織斑も自分の席に戻れ」

 

 織斑先生の指示に従ってクラスメート達は次々と教壇に立って自己紹介をしていき、いよいよ俺の番になった。教壇に立つと女子達の視線が光線みたいになって一斉に突き刺さってくるが、俺はそれを無視して一つ息を吸うと口を開いた。

 

 ここで失敗をするわけにはいかない。何せ俺はボーダーの代表としてここに来たのだ。IS学園でのボーダーのイメージを俺のせいで下げる訳にはいかないからな。

 

「はじめまして四門空色人です。四つの門と書いてシモン、空色に人と書いてライトです。好きなものはポテトチップスと将棋、趣味は……ボーダー本部で行う射撃訓練ですかね? ISの勉強は皆より遅れていて、授業で足を引っ張ったりするかもしれませんがどうかよろしくおねがいします」

 

「うわぁ……本物の四門君よ」

 

「テレビで見るよりカッコいいかも……」

 

「四門君って、あの嵐山隊なんでしょ? テレビで見たし」

 

「でもISを起動させた時、IS学園に入学するために嵐山隊を辞めたって聞いたよ?」

 

 俺の挨拶にクラスメートの女子達が小声で話す。聞こえてくる分にはそれなりに好印象のようだ。

 

 でも入学初日からこんな騒ぎになるなんてこれから先、ちょっと不安だな……。




この小説の主人公は積極的に(ボーダーの仕事で)テレビに出ているため、一夏よりも有名人だという設定です。
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