「なあ……。本当に『あの』四門なのか?」
HRと一時限目が終わって休憩時間になるといきなり織斑一夏が話しかけてきた。
織斑一夏がはなしかけてきた途端、周囲の女子達がざわめきだしたが織斑一夏はそれに全く気づいていないようで、どこか興奮したような目で俺を見ていた。……一体何なんだ? コイツ?
「あの、が一体何のことだか知らないけど、俺の名前は四門空色人だ。HRでも自己紹介しただろ?」
「そ、そうか。そうだよな。いや、悪い。テレビでよく見る嵐山隊の隊員を生で見て少し興奮してな。ああ、俺のことは一夏でいいからな」
照れた風に言う織斑こと一夏が言うように、俺は数ヶ月前までは嵐山さんが率いる嵐山隊に所属していた。そして嵐山隊は防衛任務の他にボーダーの活動をアピールする広報活動も行っていて、俺自身ISを起動させる前から何度もテレビに出たりモデルの真似事をやったことがある。
だがISを起動させてIS学園に入学すると「高いトリオン能力を持つ者がISにどの様な影響を与えるか」の実験を優先するようにと、国連……主に日本政府から指示が出た。そしてそれがボーダーが資金援助を受ける条件だったので、ボーダー本部からもISの実験を優先させる命令が出て、俺は嵐山隊を抜けることになったのだ。
「じゃあ俺のことも空色人でいいよ。……ボーダーに興味があるのか?」
ふと気になったことを聞いてみると一夏は「ああっ!」といい笑顔で答えた。
「だってカッコいいじゃないかボーダーって。俺も二年くらい前に弾……友達と一緒にボーダーの入隊試験を受けたんだけど落ちてさ。でも、テレビのボーダー特集や嵐山隊の活躍はいつも見ているぜ」
……何て言うか、ここまでいい笑顔で言われるとちょっとむずかゆいな。でも今まで世話になった隊をよく言われると悪い気はしないな。
「そうか、ありがとう。そう言ってくれると嵐山さん達もきっと喜んでくれるよ。これからも嵐山隊を応援してくれよな」
「……? なんか他人のことみたいな言い方だな? どうかしたのか?」
「え? 別に他人事のつもりで言ったつもりじゃないけど……俺はもう嵐山隊じゃないからな」
頭に疑問符を浮かべる一夏に俺は肩をすくめて答える。
「えっ!? 何でだよ!」
「落ち着けよ、一夏。俺はこのIS学園に入学する時にボーダー本部と日本政府から、ISに関する実験を優先するようにって命令されたんだよ。それで嵐山隊と一緒に活動できなくなったから辞めることになったんだよ」
「そ、そうなのか……」
心底驚いた顔になって詰め寄ってくる一夏だったが、事情を説明すると納得したようで引き下がってくれた。
「でも急に空色人が抜けて嵐山隊は大丈夫なのか?」
「嵐山さん達はそんなにヤワじゃないさ。それに俺と入れ替わりで有能な隊員が一人、嵐山隊に入ったから大丈夫だよ」
一夏の質問に答えながら俺は、俺と入れ替わりで嵐山隊に入った一人の隊員の顔を思い浮かべる。アイツは腕も確かだし、素直じゃない性格がトラブルを生むかもだけどなんとかなるだろう。
「そうなのか。それじゃあ……」
一夏が何かを言おうとした時、二時限目を知らせるチャイムが鳴った。もうこんな時間か。
「あ、やべ。じゃあ空色人、次の休み時間にボーダーの事を教えてくれよ」
そう言うと一夏は自分の席に戻っていった。
織斑一夏、か。まあ、悪い奴ではなさそうだな。
二時限目はISの基礎理論の授業だった。
授業を進める山田先生の口からISに関する専門用語がすらすらと出てくる。というかこれって高一の授業のレベルじゃないって。IS学園の入学が決まった時に渡された広辞苑並みの厚さのISの参考書を読んで予習をしてなかったらとても授業についていけなかっただろう。
あれは本当に大変だった。東さんや風間さんといったボーダーでも頭がいい人達が手伝ってくれなかったら、多分参考書の十分の一も理解できなかっただろう。
実際、太刀川さん米屋先輩がISの参考書を読んだら三秒くらいで青い顔となってギブアップしたもんな。そう、丁度ここから見える一夏のように……って、アレ? 何だかイヤな予感がするぞ?
「織斑君? 何か分からないところはありますか?」
俺がイヤな予感を感じていると山田先生が一夏に話しかけていた。
「分からないところがあったら訊いてくださいね。何せ私は先生ですから」
「先生!」
「はい、織斑君!」
胸を張って言う山田先生に一夏は意を決したような表情で口を開き、山田先生もそれにやる気に満ちた声で返事をする。
山田先生っていい先生だよな。優しいし頼りになるし。山田先生だったら一夏に分からないところがあっても丁寧に教えてくれるだろう。
「ほとんど全部分かりません!」
………………………………………。
一夏の発言に山田先生がフリーズした。いや、山田先生だけでなく、俺を初めとするこの教室にいる全員がフリーズした。
「え……。ぜ、全部、ですか……?」
山田先生が困り果てた表情で呟く。うん、その気持ちは分かる。いくら頼りになる先生でも「全部分かりません」と言われたらどうしようもないからな。
「……………織斑。入学前の参考書は読んだのか?」
いつの間にか一夏の隣に立っていた織斑先生が一夏に声をかける。気のせいか、その声からは寒気がするくらいの怒気が感じられた。一夏も織斑先生から怒気を感じているようで、よくみると冷や汗を流している。
「古い電話帳と間違えて捨てました」
「必読と書いてあっただろうが馬鹿者!」
パァン!
怒声と共に織斑先生の出席簿が一夏の頭に直撃する音が教室に響き渡った。
織斑一夏、か。悪い奴ではなさそうだけど大丈夫なのか?