「ちょっとよろしくて?」
二時限目の授業が終わった後の休憩時間。一人で次の授業の予習をしているとクラスメートの一人が話しかけてきた。
ちなみに一夏は休憩時間が始まるとクラスメートの一人と一緒にどこかにと行っている。何でもそのクラスメートは一夏の幼馴染らしく、久し振りに会ったので色々と話すこともあるだろう。
そして俺に話しかけてきたのはまるでモデルのように容姿の整った外国人の女の子だった。このIS学園は世界で唯一のISの技術を教える学園だ。だから様々な国の女の子が集まってくるので彼女のような外国人は珍しくない。
「えっと……確かセシリア・オルコットさんだったっけ? 俺に何か用?」
「まあ! 何ですのそのお返事は? このわたくしに声をかけられたのですから、もっとそれなりの対応をするべきではなくて?」
俺が返事をするとオルコットさんはわざとらしいくらいに驚いて上から目線で言ってくる。
そういえばISよりボーダーの方が知名度が高い三門市ではそうではないのだが、世間では「ISを起動できる女性は男性よりも偉い」と考えている女性が大勢いるらしい。そしてこのオルコットさんも話してみた感じだと女性の方が偉いと信じて疑わない典型的な「今時の女性」のようだ。
「そう言われてもな……。俺、オルコットさんのこと名前以外何も知らないんだけど?」
「し、知らない!? セシリア・オルコットを? イギリスの国家代表候補生であるこのわたくしを!?」
オルコットさんが信じられないといった表情で叫ぶ。
へぇ、オルコットさんって、イギリスの国家代表候補生だったんだ。
国家代表候補生というのは文字通り、モンド・グロッソに出場する国家代表の候補生のことだ。つまりはその国のエリートと言える存在で、それだったらあの自信に満ちた態度も納得がいくかな? でも……。
「ああ、すまない。というかオルコットさん? オルコットさんって他国の代表候補生の名前、何人言える?」
「えっ!? そ、それは……」
俺が謝ってから訊ねるとオルコットさんは言葉につまって視線を横にそらした。
国家代表候補生は確かに国のエリートであるが、それでも言ってしまえば国家代表の候補でしかない。国家代表だったら他国でも名前と顔が知られているかもしれないが、候補生だと怪しいだろう。
実際俺は国家代表だったら何人か知っているが候補生で知っているのは日本の候補生だけで、オルコットさんもこの様子を見たらあまり他国の候補生に詳しくないようだ。
「そ、そんなことどうでもよろしいですわ。それよりも……」
オルコットさんが誤魔化すように大声を上げた時、三時限目を知らせるチャイムが鳴り、一夏達も教室に戻ってきた。
「っ……! また後で来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」
まるで捨て台詞みたいな言葉を残して自分の席に戻っていくオルコットさん。……別に逃げる気はないけど何だか面倒そうな人に目をつけられたみたいだ。
「それではこの時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する。………いや、その前に再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
三時限目は山田先生ではなく織斑先生が教壇に立っていて、織斑先生は授業を始めようとした時にふと思い出した様に言った。
「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席もする……まあ、クラス長だな。ちなみに一度決まると一年間変更はないからそのつもりで」
クラス代表者か……。確かになれば生徒会や委員会に顔を覚えてもらって色々とプラスになるかもだけど、俺はISの実験やボーダーの訓練があるから遠慮したいか……、
「はい! 四門くんを推薦します」
なっ!? 遠慮したいと思った矢先にクラスメートの一人が俺の名前をあげてくれた。なんてことを。正直、ありがた迷惑だ。
「私は織斑くんを推薦します」
「お、俺!?」
別のクラスメートが今度は一夏を推薦して、驚いた一夏が自分を指差して声をあげる。いや、お前以外にいないだろ?
「では候補者は四門空色人と織斑一夏……他にはいないか? 自他推薦は問わないぞ?」
織斑先生がそういうがクラスメート達は手をあげる様子はみられなかった。あー、これは「世界に二人しかいない男子がいるからクラス代表者にして他のクラスより目立とう」って感じのノリだな。さっきからクラスメート達がそう言っているし……。クラス代表者くらいもっとしっかり決めた方がよくないか?
そう思っていると、クラス中に広まっている「クラス代表者は俺か一夏で決まり」という雰囲気に異議を申し立てる人物が現れた。
「待ってください! 納得がいきませんわ! そのようないい加減な推薦はみとめられません! 大体、男がクラス代表者だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
……………。
オルコットさんのヒステリックな叫びにクラス中が静まりかえった。
いや、オルコットさん? いくらなんでもそれは言い過ぎじゃない? 俺か一夏がクラス代表者になるのがそんなにイヤなの? 別にクラス代表者になりたいわけじゃないけどさ。
「大体、文化としても後進的な国でくらさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で……」
「イギリスだって大してお国自慢ないだろ? 世界一まずい料理で何年覇者だよ?」
自分の世界に入ったオルコットさんの言葉を一夏が挑発で遮る。一夏の方を見てみると一夏は思わず言ってしまったという表情をしていたがもう遅く、オルコットさんは顔を真っ赤にして震えていた。
「あ、貴方! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
「先に言ったのはそっちだろ!」
「あー、はいはい! 二人ともストップストップ!」
このままだと一夏とオルコットさんの口喧嘩が始まると考えた俺は、手を叩きながら立ち上がって二人を止めることにした。そのお陰でクラスメート達の視線が集まったが勘弁してくれよ。俺、元々目立つのは苦手なんだからさ。ほら、目がチカチカしてきた……。
「何で止めるんだよ、空色人! 言われっぱなしで悔しくないのかよ!?」
「悪口を言われたからってすぐに熱くなるなよ。子供じゃないんだから落ち着けよ」
「……くっ!」
食って掛かってきた一夏だったが落ち着くように言うと大人しく引き下がってくれた。
「全く、これだから男って野蛮で短慮で嫌なのですわ」
「何だと!?」
「だから落ち着けよ一夏。……それよりオルコットさん? 二つ質問があるんだけどいいかな?」
先程の自分を棚にあげるオルコットさんに一夏が再び怒鳴ろうとするが、俺はそれを止めると彼女に声をかけた。
「質問ですの? ええ、構わなくてよ」
「じゃあ一つ目の質問だ。ISの開発者と第一回モンド・グロッソの優勝者の名前と出身国を教えてくれないか?」
「……はい? 貴方、そんなことも知らないんですの? それ、は………」
俺の質問にオルコットさんは一瞬馬鹿にしたような表情となるがすぐにこちらの意図に気づいて顔を青くする。
そう、ISの開発者である篠ノ之束と第一回モンド・グロッソの優勝者である織斑千冬の国籍は日本。つまりこの日本という国は、ISに関係する者達からすれば後進的どころか最先端の文化を持つ国と言える。彼女はそれを、よりにもよって当事者の片割れである織斑先生の前で罵倒したのだ。
「二つ目の質問。オルコットさんはさっきの休憩時間で俺に自分はイギリスの国家代表候補生だって名乗ったよね? 国家代表候補生っていったら国でもそれなりに責任がある立場だよね? それがこんな大勢の前で他国を馬鹿にする発言をするなんて下手したら外交問題になるんじゃないの?」
「……………」
続けて言う俺の質問にオルコットさんは言葉を無くして立ち尽くす。
国家代表候補生というのがどれだけの権力と責任を持つのかは分からないが、それでも国から注目を受けている彼女の言葉にはそれなりの影響力があるはずだ。最悪、今俺が言ったように外交問題に発展する可能性だってあるかもしれない。
気がつけば一夏を初めとするクラスメート達は全員俺とオルコットさんを見ており、オルコットさんは無言でうつむいていた。
……少し言いすぎたかな? 一夏に落ち着けと言っておきながら俺の方もさっきのオルコットさんに腹をたてていたみたいだ。
「あ~、オルコットさん? 何だか少し……」
「………すわ」
「え?」
「決闘ですわ! このような恥をかかされた以上、もはや決闘しかありませんわ!」
何かを呟いたかと思ったら勢いよく顔を上げてこちらを指差しながら宣言をするオルコットさん。……って、はい? 何で事実を指摘だけで決闘なんて流れになるんだよ?
よく分からないがここは彼女を落ち着かせないと……。
「いいぜ。その方が分かりやすいからな」
ヲイ。
俺が何かを言うよりも先に、一夏が好戦的な笑みを浮かべて言うが何でお前が言うんだよ? まさかお前もオルコットさんと戦うつもりか?
「話は纏まったようだな。四門空色人、セシリア・オルコット、織斑一夏の三名は一週間後に模擬戦をしてもらう。そしてその結果をもってクラス代表者を決める」
ヲイ。(二回目)
それまで黙って話を聞いていた織斑先生が言うが話が纏まったんじゃなくて先生が強引に話を纏めたんでしょうが。
なんと言うか、こういうところは一夏と織斑先生は似てると思う。やっぱり姉弟ということか。
こうして俺と一夏、そしてオルコットさんは一週間後に一組のクラス代表者の座を懸けて模擬戦をすることとなった。
……どうやら俺は入学一日目にして以前に迅さんが言っていた厄介事に巻き込まれたみたいだ。