「そうか。国家代表候補生ってそんなに凄いのか」
「ああ……。国家代表候補生に選ばれるのは凄い事なんだよ……」
入学一日目の授業が終わった放課後。俺は納得した表情をする一夏の言葉に苦い顔で返した。
何故俺がこんな苦い顔をしているのかというと帰り道に一夏から「そういえば国家代表候補生って何だ?」というあり得ない質問をされたからだ。
いや、本当にあり得ないって。その名前からも想像できるだろうし、何で姉に日本の元国家代表がいる一夏が国家代表候補生について知らないんだよ?
「一夏。お前、そんなのでよくオルコットさんとの勝負を了承したな? というより何で俺とオルコットさんの会話に首を突っ込んだんだ?」
俺が言っているのはあの三時限目でのオルコットさんとの言い争いのことだ。あそこで一夏が首を突っ込んでこなかったら模擬戦なんて面倒なことにならなかったんじゃないか?
「何を言ってるんだよ? あそこまで言われたら男として黙っていられないだろ?」
一夏は胸を張って答えるが「何を言ってるんだよ?」はこちらの台詞だった。
まあいい。今話し合うことはそんなことじゃない。
「それよりも一週間後の模擬戦はどうするんだ? 何かオルコットさんへの対策はあるのか?」
「対策? いや、それはないけど……一週間もあるんだし、ISの訓練をすればなんとかなるんじゃないか?」
なるか馬鹿。
俺は内心で一夏に毒づいた。たった一週間の付け焼刃で国家代表候補生に勝てるとでも思っているのか?
それとも一夏ってば初めてISを起動した日から今日までにISの猛特訓をしてかなりの実力を身につけているのか?
「……一夏。ISの起動時間って合計でどれくらいだ?」
「え? 起動時間か? ……確か初めて起動させた時とIS学園の入試で教官と戦った時だけだから合わせて二十分くらい?」
ふざけるな馬鹿。
俺は内心でもう一度一夏に毒づいた。一夏に何か勝算があるかと思った俺が馬鹿だった。
IS操縦者の実力はISの起動時間に比例すると言ってもいい。そして国家代表候補生は実験や訓練を合わせて起動時間が最低でも三百時間を超えると資料で読んだことがある。そんな国家代表候補生のオルコットさんに起動時間が二十分くらいしかない一夏ってば勝てる気でいるのか?
正直言って俺は一夏がオルコットさんに勝てる目はないと思う。もし一夏が高性能のISを所持していたら勝てる確率もあるかもだが、一夏がISを持っているように見えないし……やっぱり無理か。
とにかく一夏の心配ばかりしていないで俺自身もオルコットさんの対策を考えないといけないな。何しろ一週間後に模擬戦をするのは俺も同じなんだし。
「まあ、模擬戦のことはもっと真剣に考えた方がいいぞ。じゃあ、俺はもう寮に帰るからまた明日な」
「おう、また明日な」
俺は最初からIS学園の寮で生活する事が決まっているが、一夏はしばらくの間は自宅からIS学園に通うらしい。だから俺は一夏と別れると一人で寮にある自分の部屋へと向かった。
俺の部屋は寮の五階、寮館の最上階の一番端にあった。……何だかここに来るまでに見た他の生徒の部屋より大きいような気がするんだけど気のせいか?
「まあいいか。とにかく今日は疲れたからゆっくり……」
「よお、お帰……」
パタン。
扉を開けた瞬間、俺は部屋の中にいる人物を見て反射的に扉を閉めた。
え? どうして? 何であの人がここにいるんだ? ……いや、もしかしたら俺の見間違いかもしれないし、ここはもう一度確認をして……。
「おいおい、いきなり扉を閉めるだなんてあんまりじゃないか?」
俺が混乱する頭を落ち着かせてもう一度扉を開けようとしたその時、部屋の中にいた人物の方から扉を開けてその姿を現した。……ああ、やっぱり俺の見間違いなんかじゃなかった。
「……何でここにいるんですか? 迅さん?」
そう。俺の部屋に俺より先に入っていたのはボーダーでも二人しかいないS級隊員、実力派エリートこと迅さんだった。
「まあまあ、そんな怖い顔をしていないでほら、ぼんち揚げでも食べて落ち着けって。その辺りの説明もするから部屋に入れって」
「……分かりました」
俺は迅さんが差し出す袋からぼんち揚げを一つ取り出して食べると、迅さんと一緒に部屋に入った。うん。やっぱり美味しいな、ぼんち揚げ。ポテトチップスには及ばないけど。
「それで? 一体どうして迅さんがIS学園に来ているんですか?」
「簡単に言うと俺はお前の護衛に来たんだよ」
「護衛、ですか?」
迅さんの言葉に俺は思わずおうむ返しに呟いた。護衛ってどういう事だ?
「そう、護衛だ。……空色人、お前は織斑一夏と同じ男性のIS適合者だ。世界に二人しかいない男性の適合者が色々と危険なのは知っているな?」
「知っていますよ。だから俺はIS学園に入学したんですよ。ここだったらどの国も手出しができないから……」
「それに加えてお前は高いトリオン能力を持ちながらISを起動できる人間だ。……ぶっちゃけて言うと空色人、お前は織斑一夏よりもずっと世界に重要視されているんだよ。男で、高いトリオン能力をもつIS適合者。IS学園の不可侵条約を無視してお前を拐い、実験体にしようと考える国も出てきてもおかしくはない」
「………!」
迅さんの言葉に俺は思わず絶句した。この人は無駄なことはしないし、言わない主義だ。もしかしたら彼の未来視には、本当に俺がどこかの国に拉致されて実験体にされている未来が見えているのかもしれない。
「だから迅さんがここに来たって事ですか? トリガーが使えるボーダーなら例え相手がISを使ってきても対抗できるから」
「そういうこと。もう少し言えばお前の護衛は俺だけじゃなくて、ボーダーで信用できて非番の隊員がやってくることになってる」
「なるほど。この部屋が他の生徒の部屋よりも大きいのはその為ですか」
こうして中から見ると俺達がいる部屋は五、六人くらいは楽に泊まることができる広さがある。これは他のボーダー隊員が複数泊まることを考えてのことだろう。
「そうそう。ちなみにこの部屋、本当は国のお偉いさんを泊める用のかなりイイ部屋らしいんだよね。それを唐沢さんが交渉してお前用の部屋にしてくれたみたいだから次会ったらお礼言っとけよ?」
マジかよ? 唐沢さん、どんな交渉をしたんだよ? 本当にあの人の交渉能力は凄いよな……。