時間が経つのは意外にも早いもので、ISの実験や訓練しながらボーダーの皆に協力してもらってオルコットさんの対策を立てているとあっという間に一週間が経過して、今日はいよいよクラス代表者を決める模擬戦の日となった。
昨日まで俺の護衛としてついていてくれた迅さんは今日の朝イチに「ちょっと用事があるから」と言ってボーダー本部に戻り、その為一人で食堂に行くと何やら大勢の生徒が集まって人だかりができていた。
「これは何だ? ……って、あれは……」
一体何事かと人だかりの中心を見てみれば、そこには俺のよく知る五人の男女の姿があった。
嵐山先輩に綾辻先輩、とっきー(時枝)。そして俺と入れ替わりに嵐山隊に入った木虎……あとオマケに賢。
俺がIS学園に入学するまでに所属していたボーダーの部隊のメンバーが、大勢の生徒に囲まれて何かを話している姿がそこにあった。
「……ん? ああ、空色人! やっと来たか!」
生徒と話していた嵐山先輩が俺に気付いて声をかけてきて、その声に反応したかのように人だかりが割れて嵐山隊の皆との道ができた。……まるでモーゼですな。
「久しぶりだな、空色人。本当はもっと早くに会いに来たかったんだが、最近広報とかの仕事が多くてな。中々時間が取れなかったんだ」
嵐山先輩がこちらに歩いてきていつもの爽やかな笑顔で話しかけてくる。嵐山先輩の言う通り、俺が始めてISを起動させた日から俺と嵐山隊は何かとすれ違いが続き、こうして顔を会わせるの久しぶりであった。
「いえ、気にしないでください。それとこちらこそお久しぶりです、嵐山先輩」
「久しぶり。元気そうだね」
「かなり頑張っているみたいだね。ボーダーの皆から聞いているよ。あと、そのIS学園の制服似合っていると思うよ」
嵐山先輩と挨拶をかわしていると他のメンバーもこちらにやって来て、綾辻先輩ととっきーが声をかけてきた。
「お久しぶりです、綾辻先輩。それとありがとうなとっきー。木虎も久しぶりだな」
「あ……はい。お久しぶりです……」
綾辻先輩ととっきーに言葉を返してから木虎に声をかけると、木虎は俺から目をそらして小さな声で返事をする。
木虎の奴、一体どうしたんだ? いつもの元気がないみたいだけど調子でも悪いのか?
「おいおい空色人! IS学園の生徒って本当に美人ばかりだな! くぅ~、来て良かったー! こんな所で生活できるだなんて本当に羨ましいなー!」
いつもと調子が違う木虎に内心で首を傾げていると、賢の奴が馬鹿みたいな大きな声で馬鹿みたいなことを言ってきた。そんな友人に俺は……、
「帰れ」
と、一言で簡潔に個人的要求を突きつけた。
「ちょっ!? お前、いきなりそれは酷いんじゃないか?」
「酷くない。お前がここで周りに迷惑をかけたら嵐山隊とボーダーの名前に傷がつく」
「どういう意味だよソレ!?」
「ははは! 空色人と賢は相変わらず仲が良いな」
俺と賢が言い争っていると嵐山先輩が笑う。あの笑顔を見るに、嵐山先輩は本気で俺達が仲良くじゃれ合っている様に見えているのがハッキリと分かる。本当にこの人ってポジティブだよな。
「……それで嵐山先輩、それに皆? どうしてここに?」
「決まっているだろ。空色人の護衛さ。何しろ今日はクラス代表者の座をかけてもう一人の男性適合者とイギリスの国家代表候補生と戦う空色人の晴れ舞台だからな。警護は俺達に任せておけ」
そういうと嵐山先輩は熱血漢なイケメンフェイスでサムズアップをし、それを見てIS学園の生徒達が黄色い声を上げる。本当にこの人ってば天然のヒーローでアイドルだよな。俺みたいななんちゃって(元)ヒーローとは格が違うよ。
食堂で簡単な食事をすませて嵐山隊の皆とアリーナのピットに行き、そこで今日までどんな事をしていたか皆と話していると、ピットにあるスピーカーから織斑先生の声が聞こえてきた。
『四門。今日の模擬戦だが、先にお前とオルコットの試合をやってもらう。織斑は専用機が丁度今来たばかりで、機体の初期化と最適化に時間がかかる。やれるな?』
一夏も専用機をもらえたんだ。まあ、俺も男性適合者のデータ収集の為に専用機を貰えたんだし、同じ男性適合者の一夏も貰えても不思議じゃないか。
でも一夏の専用機が今来たばかりなんて少し遅すぎないか? 俺なんて初めてISを起動させた数日後にデータ収集用として専用機を貰えたぞ? ……まあ、そのお陰で一日に何時間も実験や特訓をするなんていう地獄のスケジュールが組まされたんだけどね。
「はい。分かりました」
俺はスピーカーから聞こえてくる織斑先生の声に返事をするとポケットからあるものを取り出した。取り出したのは青い鳥の絵が描かれているトリガー。
これが俺のトリガーであり、俺のIS。
正確にはトリガーチップと基板を覆うカバー、トリガーホルダーが俺のISの待機状態であった。
俺はトリガーを右手で握りしめると意識を集中させて自身のISに呼びかける。
「『翡翠』起動」
ISを起動させた瞬間、目の前が真っ白な光で染まり、光が収まると俺はISを身に纏った状態でピットに立っていた。
IS「翡翠」は日本製の量産型IS「打鉄」を俺のボーダーでの戦い方に合わせてカスタマイズした機体だ。
本来なら左右に浮かんでいる浮遊ユニットを取り外して、代わりに濃緑色のマントを取り付けて青のカラーリングをされた機体を隠しているため、一見すると打鉄の改造機とは気付かれない外見だが俺はこの機体を気に入っていた。
「いよいよだな。頑張れよ、空色人」
「四門君ならいつもの調子でいけば大丈夫だよ」
「相手はイギリスの国家代表候補生だからね。気をつけて」
「四門先輩……。その、負けないでください」
「ここで勝ってカッコいいところをみせたらモテモテだぜ! 気合い入れていけよ!」
嵐山先輩、綾辻先輩、とっきー、木虎、賢が声をかけてくれて、俺はそれに笑みとサムズアップで返す。
「皆、行ってくる。……四門空色人、翡翠、出るぞ!」
俺は翡翠に操るとオルコットさんが待っているであろうアリーナの空に飛び立った。