今日は私の誕生日でございます。……いや、だからと言って何だという話なんだけどね。
今日は四月十七日。私、藁井菜来は今から約十九年前に生まれ、ゼロ歳から淡々と太陽の浮き沈みの往復を三百六十五掛ける十九回の時間、生きてきた訳ですよ。たったそれだけですよ、どうせ。
いや、考えてみたら凄いな。太陽は銀河と共に回っているだけで実際には地球が太陽の周りを自転しながら公転してる訳だから地球が一番お疲れ様なんだけども。地球お疲れ様、私もお疲れ様。延々と絶やすことなく燃え続けている太陽も、まぁお疲れさん。
で、何が言いたいのかと言えば、そんな風に今に至るまでこうものうのうと私は生きてきた訳ですけどね、誕生日って一体何なのと、まぁ改めて考えてみようと思う訳ですよ。どうせ、皆さんも暇でしょ、だから改めて考えてみてください。
例えば十二月二十五日。キリストさんの誕生日はですね、いや実際には違う日だったって説が濃厚になってきましたけど、その日はクリスマスなんていう日になっちゃってる訳ですけど、人の誕生日に何カップルなり家族なりでプレゼント送り合ってんだよ、俺にプレゼント送れよとキリストさんが怒りそうな感じになってる訳ですよ。そういえばイースターこと生誕祭がまた新たなお賑やかイベントとして仲間入りを果たしましたがこれもまたキリストさんはどう思ってるんでしょうか。――ともかく、お前ら人の誕生日なり生き返った日なりを、何してくれてんだと本人が思うような感じにしたてあげてる訳ですよ、私達は。私関係ないけど。しかもしれっと自分の誕生日でもプレゼント貰ったりして、どんだけしたたかなんだよ。メンタル強すぎだろ、と。
たかだか誕生日でっせ、お前ら何一々誕生日にその人を主役にしてくれてんですか。不幸体質な人の気持ち考えたことあるんですか。普通に不幸なだけなのに誕生日だからってもっと残念な感じにしてやんなよ可哀想だろと、そう思うわけですよ。
何が言いたいかと言えば、何を宣いたいのかと言えば、何を叫びたいのかと言えば。
「一年三百六十五日もあんだからそりゃ一日くらい誰かの誕生日ですけど、んなもん日常と変わんねぇのよ!」
ということなんですよ。
「……どうしたー、菜来。いつも通り頭狂ってんなー」
休み時間の三時間目が終わって四時間目に繋がる十分休み。それも残り一分くらいとなったところで私は叫ぶ。叫ぶというか喚き散らす。
「うるさい、霊都。三回死んでワンって言っとけバーカ」
腐れ縁というか腐り果てて途切れて欲しいくらいに鬱陶しい縁で強制ワンセットにされてしまって――具体的には小学校一年生から高校三年の今に至るまで常にクラスが一緒、一人暮らしを始めたら偶然家が隣という――叫声を上げたいくらいの縁で結ばれた幼馴染母屋霊都に吐き捨てて着席する。私が変なことをするのはいつも通りなのでみんなスルーである。クラスメイトや霊都曰く、私は変なことさえしなければ滅茶苦茶いいやつ、らしいのだ。うるせぇ、変なことしなくちゃやってられないんだよ。
「三回死んだ挙句に犬の真似させられる理不尽さはともかく、またそんなことで怒ってんの? 馬鹿だねぇ」
「うるせぇ、指切りげんまんした後で強制的に罰を実行するわよ、しかも言葉とおりの奴を」
「小指を切断して握りこぶしで一万回殴られた後に針を千本飲ますって、アレ考えたら滅茶苦茶怖いよね。子供の頃って無邪気だからなぁ、意味も深く考えてなかったけど」
「何世間話にしようとしてやがりますのよこんちくしょう!」
「言語不安定になってるから落ち着いて。深呼吸しよう。吸ってー、吸ってー、吸ってー、吸ってー、吐くように見せて吸って―」
「殺す気か!?」
「うし、落ち着いたみたいだなって――やっべ、次移動教室じゃん、んじゃあね」
「あっ、ちょ、待って、私の話を――」
しまった。霊都に流されてしまった。はぁ……、あり得ないあり得ないあり得ない。いや、まぁいいんだけどね。
さて、とりあえず授業を受けますか。
「……菜来?」
「はい?」
あれ? なんで視線集中? みんな慣れてるはずじゃないの?
「菜来も、移動教室だよね?」
「あっ、しまっ」
そのタイミングでチャイムが鳴った。遅刻決定。面倒くさいから授業もサボろうと思います。保健室へレッツゴー。そのタイミングで女性教師登場。
「すいません、メランコリー型うつ病なんで保健室に行って来ます」
「自分でうつ病は言わない方がいいよ。甘え甘えって言われるわよ」
ネットに詳しいで有名の女性教師はそんなことを言う。あ、それ、知ってる、進研ゼミでやったところだ。自分が苦しんでるからそういうのが許せない黒い会社の皆さんが頑張って道連れにしようとしてるんでしょ。
「甘えん坊なのでいいと思います」
「そういうことじゃないわよ!」
閑話休題。さて四時間目の終了。お昼休み。そして本題である。
誕生日というのはつまりただの通過点であり祝うべきものではない。アンダースタン? だから誕生日だからどうのこうのなんて言うべきじゃないし、誕生日だから祝うべきじゃない。正直言って私はああいうの嫌いだ。マジで嫌い。もー、死ねばいいと思う。
保健室から自分が在籍する三年二組のクラスまでには、階段を登ってなんやかんやした後に三年一組のクラスを通らなければならないし通っている訳だけど、そういえば昨日も誰かの誕生日を祝っていたんじゃないだろうか。ああ、もう、アレ、誕生日の人と友達じゃない人にとったら迷惑極まりないなと思う。いや、本当に。なんか腹立つから一組のクラスを睨んでおこう。
「……はぁ、さて飯だ飯だ」
と教室に入った所で、パンパンパーンとクラッカーが盛大に私を襲撃した。
「は……?」
「「「誕生日おめでとーう!!!!!」」」
「…………」
「ん? なんだよ、そんなブスが豆鉄砲食らった顔しやがって」
「さらっとブス呼ばわりしてんじゃないわよ! 一体何のつもりよ!」
「そんな下衆の勘繰りはよせって、単に善意でお前の誕生日を祝ってやってんじゃねぇかよ」
「さりげに今ゲス呼ばわりしたわね」
「はははは、まぁともかく、おめでとう。ほれ、これ俺からのプレゼント」
そう言って渡されたのは小説の文庫本サイズのプレゼント。重さからしてアクセサリーの類だろうか。
「…………」
「……ん? あれ? 間違ったか? どうせお前のことだから、誕生日を祝われなかったら拗ねてんじゃねぇかなと思って企画したんだけど、迷惑だったか?」
「……はぁ、あんた十二年ちょいも一緒にいるんだから、私のことくらい、分かってるでしょうか」
ああ、もう、本当に、コイツって奴は。
ああ、もう、本当に、私って奴は。
一体全体、本当にもう、本当にもう。一体どうして、こうも、回りくどくてややこしくて、素直じゃなくて。
「嬉しいに決まってんでしょうが、バカタレが!」
とりあえず、そう言って一発、私、
愛情を暴力で表すなんてよくあることよくあること。
まぁ、どうせどんな理屈を並べているような奴も純粋に祝われたら、どんな理屈を並べていても内心嬉しいもんですよ。
それはともかく、誕生日おめでとう、俺。あと十二年くらい生きたらもう十分だと思うぜ、世の中しんどいし、年金払うの面倒臭いし。