ハイスクールD×Dには初めて触れます、エステバリスです。
元は息抜きがてらに普段の自分ではやらないタイプの作品で、やらない主人公で物語を書いてみようという考えで書き始めたのですが、なんかビックリするほどすらっと進んで驚いています。
乙女な男とシリアルキラーな女ばっか書いてた弊害で普通の女の子ってどんなのだっけと思ってしまう病気にかかってしまっていてね!
とまぁ、そんなことは置いておきまして、
ハイスクールD×D 人物語
どうか御覧にいただければ、幸いです。
序 夢十夜
世界はカタチを変える。
幻想は現実となり、現実は遠い夢へと在り方を変える。
世界に幸福などないし、不幸もまた存在しない。存在するとすればただ、当人の受け取り方次第。
世界が在り方を変えても、人は変わらない。変われない。普遍的に不変だ。
道を避けた先に在るのは、常に運命と相場が決まっている。
だから私は叫ぶ。お願いだ、助けて。どんなことになってもいい。誰でもいい。彼が人でなくなってもいい。だから━━━
「お願いです……イッくんを助けて……!」
小さな望みは、果てしない物語の始まりとなった。夢は、眠りと共に終わる。
◆◇◆
小鳥の囀ずる音が聞こえる。朝だ。
両親が互いに出張で留守にしている私にとって今は、この小鳥の奏でる歌が母のモーニングコールの代用でもある。
「朝ご飯……パンでいいや。どうせお昼に一杯食べるから」
独り言をごちりながらオーブンにパンを適当に突っ込み、その間に昼食の準備に取り掛かる。
昨日は夜中長くまで起きていたせいで相当眠たい。
「……お前の光は今、何処にある」
なんとなく呟く。シェイクスピアのリア王。個人的に好きな言葉だ。いや、好きというのは違うか。
過剰に移入している言葉というのが正しい。自分に見据えているなんて自惚れはしない。
本当になんとなく。理由を言えないようなそれの類いだ。
「っと、そんなバカなこと呟いてる暇なかったよね」
ささっと準備して、家を出る。向かう場所はすぐ近く。兵藤と書かれた表札の家のチャイムを鳴らすなり、できる限りの高い声で、近所の迷惑も省みずに第一声。
「イッくーーーーん!!!おーはよぉーーーー!!」
◆◇◆
「おい、ティファ。お前またこんな時間から大声出したな。近所迷惑になるからやめときなって何度も言ってるだろ?」
「ん~?だってイッくんと早く会いたかったんだもん」
彼女、
今こうして兵藤 一誠と女子高生らしいとも言える甲高い声で喋っているが、彼がいなければこの時間も彼女は憂いを帯びた……月下美人という言葉で形容されるような表情をしているだろう。
月下美人は花の名ではあるが、あくまで言葉のイメージだ。黒曜の髪と母方の祖母から譲り受けた翡翠の瞳は日本人じゃないという風を漂わせながらも絶妙にマッチしている。まさしく月の下で光る花を見ているようだ。
が、今の彼女はどうだろうか。一誠の隣を歩いているだけでその幻想的と言われる姿はなりを潜めて、にへらにへらと表情を弛緩させる。
「そういやティファ、お前数学の課題やった?今日当てられるだろ?」
「あーあーきこえなーい」
耳を塞いで露骨に聞こえていない、という演技をする。一誠も別に勉強ができることでもないし、そもそも、二人が通う元・女子校の駒王学園に入ろうとしたのも割りと笑えない、邪な考えがあり、それが動力源になっていたにすぎない。
エンジンのない一誠とスペックがよろしくないティファではそんな会話はたったそれだけで終わってしまった。
そんな風にいつも通り、他愛のない話をしているとやがて校舎に着いて、一誠はピロートーク……と言うにはあまりに華がないが、を友人の松田と元浜の三人とで繰り広げ、ティファはその様子を常に、何処であっても脇で見ながら三銃士の小説を適当に読み進める。
一誠のいない彼女の雰囲気は先程までの朗らかなものとは180度違う、近寄り難さを醸し出している。
「イッセー、最近逆上どう?」
「んー?そうだな……お尻」
「だよな!逆上のお尻の破壊力!アレは全校生徒でもトップクラスだと思うぞ!」
「81/56/92。ヒップが飛び抜けている。あのブルマから溢れんばかりの豊満な!」
「流石だ元浜。常に正確な数値を割り出している……最高だ!」
もう、日頃からこんな感じだ。だが彼女はそんな会話意に介さない。むしろ無視していた方が彼女にとって都合がいい。
彼、兵藤 一誠。通称イッセーは一言で言うなら大変なレベルの変態だ。駒王学園に入った理由だって元・女子校のここは男女の人数比がすごいことになる、という保証があり、ハーレム作れるんじゃない?というもの。
そんな理由で元々あまり芳しくなかった成績を伸ばしに伸ばして進学校の駒王学園に入学したのだ。その努力と自分に正直すぎる点は見習うべきなのかもしれない。
ともかく、そんな理由で入学した彼は勿論、このどうしようもなさすぎる我欲も相まって超がつくほど嫌われている。
ティファが現状を黙認している理由はそこだ。
こうして噂、実状のどれにせよ、イッセーの美点を見向きもしない女子達というのはとても都合がいい。実質彼女が彼を独り占めしていると言ってもいい。
イッセーの性格も知っているし、知っているからこそそこも含めてティファは彼を好いている。
まぁ、つまり
イッセーは今のこの立場を願望はどうあれ享受しているし、この立場はティファが望む範囲でかなりの優良物件。
彼女はいつかはいつかと彼が自分に目を向けてくれることを待ち続けている。だって、兵藤 一誠には現状、逆上 ティファしか彼を異性として知ってくれる人間がいないのだから。
◆◇◆
変化が起きたのは調度その翌日だった。何時ものように松田と元浜の三人とで語らう姿を傍観していようと思っていた矢先、ティファにとって信じがたいことをイッセーが口走ったのだ。
「俺、彼女ができました!」
瞬間、世界が凍り付く。松田、元浜、そしてティファ。三人揃って何を言ってるんだこのトンチンカンは、とでも言いたげな顔をして、やがて状況を理解し出して━━━
「ぃ、いいいいいいぃいいいぃぃいぃいいいイッくん!!!??なななな何バカなこと言ってるの!?熱!?熱ある!?大丈夫!?頭貸して!?」
「そうだぞイッセー!なに戯言を抜かしているんだ!あとサラッと逆上とおでここっつんしてるんだ!死ね!」
「前々から思ってたがかわいい幼馴染み侍らせておきながらハーレムだと!?死ね!悪魔か堕天使かに胸部貫かれて死ね!」
「ひでぇなお前ら!あとティファ、俺は至って健康体だって!」
ええい、とティファを引き剥がしながらキレる若者二人に言い返す。そしてイッセーはふぅん、と自慢げな表情をして、
「悔しかったらお前らの彼女の一人でも作るんだな!俺はこれからリア充ロードを邁進する!」
「「裏切り者めがぁ……ッ!!」」
「イッくんに彼女……イッくんが女の子にモテて……あ、あはは……へへ……」
怒りの二人と放心する一人。イッセーは一人が放心する理由を曲解し、勝ち誇ったような笑みを見せながら高笑いをするのだった。
◆◇◆
それから何日かが過ぎた。あの日からなんとか己を取り戻したティファが次に突き付けられたのは現実。
天野 夕麻という少女。駒王とは違う高校に通っているとのことで、美人だった。正直嫉妬するくらいに、綺麗だった。
そして松田、元浜の二人と一緒に二人がイチャついている場面を見せられて後悔した。
畜生、しまった。なんでそういう可能性を考慮することができなかった。そんな風に自分の浅慮さを恥じ、そして今更取り返すことのできない現実をやがて受け入れて、彼女はイッセーと夕麻の幸せを願うことにした。
それが本心でないのは語るまでもない。
それから二日くらいが、今日。特にやることも浮かばずぼうっと外をうろついていたら、見覚えのある人物に引き留められた。
「あれ?もしかして、逆上さん?」
「木場くん?」
木場 祐斗。駒王学園で知らぬ者はいない校内一のイケメン。当然ティファも彼の名前を知っている。
「……って、木場くんって私の名前知ってたの?」
「そりゃあね、キミも有名だよ?態々校内有数の嫌われもの達と一緒にいる変わった子って」
そう言われると反論できない。ティファだってイッセー達がどうしようもない変態だと知っている。それについている自分に奇異の視線が向くのも今考えてみれば当たり前か。
「ところで木場くん、なんで私を呼んだの?」
「うん?そうだね……一言で言うと猫みたいだったからかな?」
「……猫?」
「そう、猫。散歩の途中で迷子になって帰れなくなった猫」
それはつまり、落ち込んでいるということなのだろうか。成績優秀、ルックスも最高級。更には気遣いと視野の広さと察しの良さ。なるほど、ここまで出来た人間ならば確かに女子にちやほやとされるのも不思議ではない。
惚れた、というわけではないが、不思議とティファは彼にならそうなった事情を話してもいいのかもしれないと思ってしまう。
そんなことさえ思わせてしまう。この魅力はまさに悪魔的だ。
「僕でよければ話を聞かせて貰えないかな?対価はいらないし、一人の男の同級生へのお節介だと思ってほしい」
ズルい。内心で毒吐く。思っていたこと……というか、そうしてほしいと願ったことをその場で言ってきた。
ニコッ、と屈託のない笑みを向ける木場にティファはこれ以上考えても意味はないと悟り、身の上話をすることにした。
その辺のベンチに二人で座って、なんて話をしようかと思ったが……びっくりするほどすんなりと話し始めることができた。
「イッくん……兵藤 一誠くん、て知ってるよね」
「勿論。あんまり言いたくはないけど、彼も有名だからね」
「あのね……私、そのイッくんのこと、好きなんだよね……」
そう言うと木場は少し意外、という風に目を丸めていた。
「……木場くん?」
「あ、あぁ……ごめん。少しビックリしちゃった。逆上さん、あんまりそういう話に食いつかないって聞いてるからさ。……そっか。だから兵藤くん達と一緒にいるわけだね」
「うっ……まぁ、そうだよ。えっと、それで、そのイッくんがつい最近彼女ができちゃったみたいで」
「兵藤くんが!?それ本当かい!?」
「そういう反応するよね……本当。私も見たから」
あはは、と思い出したくないことを思い出す。あの時は脳のキャパシティを軽くオーバーして本当に意味がわからなかったが、今ならそれについて軽くなら考察することもできる。
まぁ、そんなの本人の心が拒んで結局できないことに変わりはないから、こうして今までロクに喋ったことのないきあに話してしまっているのだが。
「そっか……意外だなぁ。兵藤くんの彼女ができたことよりも、逆上さんが兵藤くんのことを好きだったなんて」
「わ、悪い?」
「ううん、全然。むしろ羨ましいくらいだよ……僕には、そんなことしてるヒマがないからさ」
なにか含みを持った呟きだ。忙しい、の意味を深く追及することはしないが、彼にもなにかあるのだろうという程度に記憶の片隅に置いておく。
「っと……ごめんね、逆上さんの話なのに変な空気にさせちゃって。それで逆上さんのことの答え?なんだけど」
木場は少しだけ陽光を鬱陶しそうに手で目元に影を作る。確かに今日は春にしては気温が高い。うっすらと汗を滲ませているその姿もまた、美形ならではの良さがあるのだろうか。
「逆上さんがどうしたいか次第だよね。我こそはと兵藤くんを独占したいのであれば世間的にはよく思われないけど寝とってもいいし、それまでに見切りをつけるのなら心の整理には僕も手を貸す。僕が言えるのはこんなところかな?」
「……だよね」
そう簡単に最適解が得られるわけじゃないとは理解していた。だけどこうして自分の想いを誰かに吐露できたのはとても良い。心なしか気持ちも軽くなってきた。
「ありがとね木場くん。おかげでちょっとスッキリした。もう少しだけ時間を使って考え直すことにするよ」
「僕が力になれたのならそれで」
あいもかわらず爽やかに笑う。それで本当に踏ん切りがついたのか、よし!とティファはベンチから立ち上がり、
「木場くん、デートしようか!私の気晴らしに付き合って!」
デート、というのは語弊があるか。いや、広義的にはデートに違いはないのかもしれない。そんなどうでもいいことを考えなら木場はやはりにこやかな笑みを浮かべて「うん、いいよ」と返す。
それから何時間か、二人は色々なところを回った。ブラックコーヒーを優雅に飲む木場の真似をして苦さに撃沈したり、イメージから想像もつかないほどのクレーン捌きでゲームセンターの商品を漁ったり、とにかく退屈することはなかった。
退屈することはなかったのだが……なさすぎて、考えるヒマもない。木場のエスコートは完璧すぎてティファを飽きさせることはない。
だから不思議にも思わなかった。なんでこんなにエスコートが上手いのかと。学園内でちやほやされていてもそういう色恋の噂はあまり聞かないからこそ、一度そこに気付けば色々と疑問が浮かんだのだろうが、彼女はそれに気づくことはなかった。
そうやっているうちに夕暮れ時になり、木場と別れた。曰く、彼も用事がある。
そんな時にデートだなんて悪いことしたよなぁ、と自嘲気味に笑いながら帰路につく。暫く歩いて、公園の辺りに差し掛かった時━━━見えた。
「━━━イッくん?」
公園で一人、少年が倒れていた。少年と曖昧に言ったが、誰かははっきりわかる。いや、本能が理解したくなかったのだろうか。
風邪を引く、とらしくもない注意をしようかとイッセーの近くに駆け寄ると、ようやくそこで、事の異常さに気付いた。
「……嘘」
血だ。鮮やかな赤い色。動脈から血液が噴出したと一目でわかるくらいに綺麗な色をしていた。
口元も吐血か喀血を吐いたのだろうか。拭き取られていない血が溢れている。
そんな状況でありながら、呼吸音は極めて小さい音だった。それは信じられないことに、一つの答えを示していて、ティファは一気に、イッセーに彼女が出来たと伝えられた時のそれよりも確実に頭がおいてけぼりになっていた。
「嘘、嘘。嘘だよね、イッくん?」
ゆさゆさ、と身体を揺さぶる。放心状態でただイッセーに起きろ、と言いながら彼の身体を叩いたりもするが、やはり反応がない。
「冗談やってる場合?風邪引くよ?お母さんとお父さんも心配しちゃうよ?ねぇ、イッくん」
起きない。兵藤 一誠の身体はただ重く、そして冷たく、ティファに無情な返答を無言で返すだけだ。
「起きてよ、イッくんの大好きなおっぱい触ってもいいから。吸ってもいい。ていうかそれ以上のこともやってもいいから。むしろやってよ」
本心ではあるけど、それをハッキリと口にするのは初めてかもしれない。いや、彼女は兵藤 一誠が動かなくなってしまったからこそ今まで言えなかったことを吐露できているのか。
「起きてよイッくん!!起きて、起きて!!」
とうとう叫び出す。いつもならうるさいな、と目覚めるだろう。だけど彼は微動だにしない。
「かみ、さま……!イッくんを助けて……!悪魔でもいい、イッくんを、イッくんを起こしてよぉ!!助けて……イッくんを、私を助けてよッ!!!」
悲痛な叫び。その声は誰に届くこともない。もう他に縋るものもないから、もっともっと叫ぶ。
「私のあげられるものならなんでもあげるから!悪魔って願いを叶えるのに対価を必要とするんでしょ!?なら私の未来も、命だってあげる!だから!!助けてよ!!!!じゃなきゃ私……」
━━━生きてる意味、ない……!
そう呟きかけた時、その場になかったはずの三人目の影が現れる。
「━━━その願い、確かに聞き届けたわ」
どこからどう見ても普通の女の子に仕上がってて満足だ。そんなウシミツアワー近づく夜中。
これからよろしくお願いいたします、と月並みなご挨拶をして終わりにしましょう。
それでは、サラダバー!