主人公のステータスリセットモノが好きです。
でもこの物語がするのはステータスのリセットじゃない。
リセットするのは、軌跡です。
「イッくーん、おはよー」
翌日、ティファは何事もなかったかのように兵藤家を訪れた。イッセーの両親に何時ものように軽く挨拶をする。
「ティファちゃん、悪いけどイッセー起こしてくれる?あの子、今日寝つけ悪いみたいで……」
「わかりましたー」
頼みを二つ返事で承諾する。階段を登って部屋をノックする。既に部屋はイッセー御用達の"ランダムで色んなパターンのデレを見せてくれる女の子"の音声を響かせていた。それでも少しだけ、イッセーの「うん……」という寝息が聞こえるのでティファは少しだけ呆れる。
「イッくん起きなってば」
そう言いながら入室。なおも目覚めない彼に呆れつつも、少しだけイッセーの寝顔を見ることにする。
「━━━寝顔をちょっとくらい、いいよね。夕麻さんごめんね……」
そう呟きながら彼の顔を見る。
かわいいな、と思った。好きだからというのもあるのだろうが、普段獣欲の限りに色々な事をくっちゃべっているイッセーが静かに寝ているところを見るというのは新鮮だったのか━━━
「━━━え?」
だが、そんな想いは一瞬で散った。
おかしい。なにかが変だ。
イッセーの顔を見ることができない。それも、
「━━━ぅ、え!」
それを知覚した瞬間、気持ち悪さが止まらなくなった。
自分はイッセーのことを知っている。恋だってしていた。だのに、なのにどうしてなんで━━━!?
なんで、私は彼が初めて遇う男性に見えてしまうんだ。
「ぅ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!?????」
思わず駆け出す。その声を聞いてイッセーも目覚めてしまう。
「な、なんだ!?」
━━━出そう、出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう出そう!!!!
ただ一心不乱にトイレに駆け込み、胃のなかに入っていたものを残らず吐き出す。その間も訳のわからなさと事の異常さに混乱していて、水を流す音でわからなかったのか、すぐ後ろにいたイッセーにも気付かずに怯え出す。
「怖い、怖い!怖い!!怖い!!!」
「落ち着けティファ!どうしたんだよ!?」
「━━━━!!?こ、来ないで!?」
思わずイッセーの手を押し退ける。それでも彼はティファを落ち着かせようと両手を掴む。
それに更に驚いたティファは一層抵抗を強くして━━━結果、体勢の崩れたイッセーはそのままティファを押し倒すようなカタチで倒れ込む。
「ぁ……」
「あ、ご、ごめ……」
その状況に陥って返って落ち着いたのか、今度は二人とも頬を真っ赤に染めながらそのままの体勢になる。
……いや、ティファは気が動転しすぎて動くことも、大声を挙げることもできないのだ。
イッセーも動転していないと言えば嘘になる。突然幼馴染みが奇怪な叫び声を挙げたと思ったら走り出し、吐き、自分に怯えている。こんな光景を見て慌てない方がどうかしている。
「どうしたのイッセー、もしかしてティファちゃんに寝起きでいやらしいことで……も」
「「………」」
母がそんな呑気なことを言いながら階段を登って声が聞こえたトイレに顔を出す。
あ、これ詰んだ。二人とも先程までの状況を忘れて、赤らめた顔すら真っ青にして口元をひくつかせている。
「………」
「か、母さん……これは……」
「その、別段そういうことをしていたわけじゃ、なくってですね……お母さん、聞いてます?お母さん?」
「お父さん!イッセーが!イッセーとティファちゃんがとうとう大人の階段を!!」
「違うって言ってるじゃんかもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
◆◇◆
「というわけなんです、思わずイッくんのいやらしい本を見たせいでビックリしちゃってですね」
「まぁ、確かにイッセーの本は松田くんと元浜くんに借りてあるのもすごいしねぇ」
「ぶふぉっ!?」
朝食時、食べたものをそのまま戻してしまったティファは改めてイッセーの家でご馳走になっていた。最初はいいです、と言ってはいたが二人ともこういうところはイッセーの親と思わされる、芯の通った強い自我を感じさせる。
あまり人に強く言われることに弱いティファは思わず承諾してしまった次第だ。
「母さん!朝からなに変な話してるんだよ!」
そんな尤もすぎる指摘は一家一同ガンスルー。正しいことを言っているはずなのに聞く耳持ってくれないイッセーは割りと本気で凹んだ。
「まぁそんなことより、今日も二人は一緒に学校行くの?」
おあついわねー、と加える。ここでいつもの彼女ならば「いえいえそれほどでも」と言うのだが、今日は少し違った。
「あ……いえ、実は私今日大事な用事があるんでした。態々着替えてから気づいて……あはは」
「そうなの?」
「そうなんです」
━━━嘘だ。
今彼女は自覚症状がある程にイッセーを拒絶している。本人が望もうと望むまいと、今自分が抱いている彼への不信が怖い。
今日はもう学校に行くことすら億劫だ。一日中家に引き籠っていたい。
そんな彼女の想いを察したのか否か、兵藤家の人達は誰一人それ以上を追及してこなかった。
助かる、と内心で呟いてにこやかな笑みのまま食器を洗って、今日はさっさと帰ることにした。
◆◇◆
町外れには一軒の寂れた教会がある。その教会は木枯らしが吹く姿が異常に似合っており、まるで無人のそれのような風貌だ。
だが、神父は一応いるからちゃんとした教会なのだろう。やることもないし、神がいるのならこの想いを懺悔したくてティファはここに足を運んでいた。
「ようこそ天野教会へ。私はこの教会の神父を勤めております……めんどくさいんで普通に喋っていいっすかね?」
驚いた。その急に変貌した軽い口調もそうだが、なにより神父の外見。高く見積もっても二十歳前半。普通に見るとティファ達より一つくらい上か、同い年の可能性もある。
「……神父様、なんですか?」
「そうでござんすよぉ?俺はフリード・セルゼン。一応神父。
「……懺悔に来ました、という感じで」
「あーはいはい懺悔ね、よっぽど心に深ぁい傷でもできたんでございましょかね。だとすると、何?失恋?」
図星だ。正確には失恋してから今現在まで頭の中がパンクしそうでたまらない。
それにしてもエクソシストか、と考えてしまう。もしかしたら昨夜の一件はキリスト的に断罪案件なのかなぁ、と思っていると、気付いたらフリードという神父の顔がすぐ目の前にまで迫っていた。
「わ、きゃ!?」
「失恋絡みなら懺悔よりも効果適面なとっておきの治療法があるぜお嬢さんや。だいたい俺ちゃん聖書とか読むのダルいからそっちにしない?」
扉を背に、ちょっとヤバそう……と思いながらフリードの言葉を聞く。スッ、と彼の腕が優しく扉を叩き、若干威圧的な風貌をとる。
「……神父様、一応聞きますけど、その治療法っていうのは……」
「やだなぁ、わかってるくせに子羊ちゃん。━━━ヤることヤるんすよ」
ゾクッ━━━と怖気が立つ。ニタァ、と粘着質な笑みを浮かべるフリード。どう見ても神父じゃない。
だいたい神の御前でヤろうか、と聞いてくるキリシタンなんているわけがない。いたとすればそれは神の教えを冒涜し、怒れる神の前で神聖な場を嬉々として汚す悪魔だ。
「あ、なた……!本当に神父ですか……!?」
「神父よぉ?純度百二十パーセント、しっかり教会に神父と認められた神父ですよぉ?」
ケタケタと嗤うフリード。着替えることさえ面倒で着たままだったブレザーのボタンを一つ、また一つと外す。ブレザーを脱がし終わった。次は恐らくもなにも、シャツだ。
「ほんとにやめてください……!本気で訴えますよ!?PTAとかイギリスとかに訴えますよ!?」
「気にしなーい気にしない。嫌なのは最初だけだかんさ、ちょおっとすればほら、失恋の傷みだなんだなんて忘れて俺様のわんちゃんになっちまうぜ?」
シャツのボタンにも手を出し始めた。イッくんのため!とあらゆる本を読んでそれなりに育てた乳房が露となり、怒りと驚愕のあまりとうとうティファは敬語すら使わなくなる。
「ほ、ほんとにやめて……やめなさい!!」
虚しい抵抗というのは自分でも理解している。もうこれ以上は目を開けていられないとギュッ、と瞳を閉じる。
だが、その時は一向にやってこない。二十秒もなにもされないとなるとさすがにティファも訝しみ、つ、とゆっくり瞳を開く。
そこには先程までのノリノリだったはずのフリードがうって変わってめんどくさそうな顔をして彼女から離れていた。
「……あー、シケた。つっまんね。もういいや、アンタ帰んな。なんなら聖書も読んでやっから」
「……え?」
「えもへもねーですよ。俺ちゃんは優しいからここでやめたげるって言ってんの。法律スレスレっすわぁ」
「………」
普通にセクハラでアウトなのだが。さてどうしよう。
本当に訴えてもいいが、彼のよくわからないテンションには思わず毒気を抜かれる。
「で、どうするガール。やっぱホンバン行っとく!?」
「……通報してもいいかな」
シケたとか言っておきながらすぐこんなことを言うので通報するに越したことはないのだろうが、何故だかこの男には法というものは機能しない気がした。
だから、しない。めんどくさいし、自分だけでもこのことは他言無用にしておいたほうがいいだろう。
「行かないんで帰ります。神父様ありがとうございました。一生恨みます」
「その冷た~い目は俺様のハンサムフェイスに突き刺さるぜ……今度またなにかあれば天野教会を御贔屓に~♪」
「二度と来ませんよクソ神父」
結局ティファは懺悔もなにもしないままに教会を後にした。彼女が態々教会にまで足を運んだ理由を思い出す頃にはもう家で横になっていたが。
◆◇◆
翌朝はなんとなく学校に行く気力が起きた。正直に言うとまだイッセーと会うのは怖いが、それでも学業を疎かにするのは元々そこまでよろしくない頭なのに有り得ない。
そう思い立つといつも通りの時間に起きて、いつも通りの食事をして、いつものように兵藤家へ━━━は、行かなかった。
ティファは兵藤家を目指すことなく学校に直行し、教室に着く。
元々イッセーが起きてご飯を食べて準備をして、彼と談笑しながらの登校までを考慮にいれての早起きだったのだ。その行程をまるごとすっ飛ばしたことで今の校舎には誰もいない。
ぱら、と小説を捲る。今日選んできたのはライトノベルだった。内容は性格に難のありすぎる三人組が異世界で成り上がりをする、神話や人類史、伝奇のごった煮と言ってもいいくらいのスケールのファンタジー。
ティファが持っている本のだいたいは深い考察を要する、あるいは考察をすることで面白味が増すものが締めているが、これもその一つ。広い知識と雑学、それらを柔軟な発想できる物語に組み込んでいる独特の世界観。
勿論、一度読み終えているのなら主人公達の性格上、軽い気持ちで、気晴らしに読むこともできる。味の消えないガムのようだ。
暫くすると、やがて教室から喧騒が聞こえ始めてくる。時計を見るとホームルームの十五分前だ。どうやら時間を忘れるくらいに読み耽っていたらしい。
丁度その時、一際喧騒が大きくなった。集中力も途切れ始めていたことだし、なんだとそちらに視線を移す。
「あ……」
イッセーがいた。そして彼の隣にいるのは、女子生徒一の有名人、リアス・グレモリー。深紅の髪を靡かせ優雅に歩いている。
この光景を皆に言わせれば美女と野獣なんだろうな、と思う。そしてまたティファは溜め息を一つ。
「違うでしょ……そこは」
本当に、嫌になる。一昨日までの自分ならイッセーとグレモリーが並んでいた姿を見ただけでも嫉妬心が芽生えて二人の間に割り込んでいただろう。そもそも美女と野獣という表現すら使わない。イッセーは獣欲の塊であれど獣ではないから、彼女は彼をそういった風には扱っていなかった。
だが、なんだ。イッセーがグレモリーと並んで歩いて、しかもそれなりに楽しそうに談話をしていても別段何も湧いてこない。
怒りも、嫉妬も。それどころか羨望すらも。
なんとなくイッセーを見るのが嫌になった。ティファは栞代わりにしていた指を離し、再び読書に励むことにした。
◆◇◆
そして放課後、イッセーに色々と聞きたいことがあったのだが、気分じゃない。早々に帰る準備をしようかと思っていたら、教室に見覚えのある顔が出てくる。
「や、どうも」
木場 祐斗。彼の姿を見たときにふとあやまらないとな、と思った。なにに謝るのかはわからないけど、多分デートなんて言って無理矢理連れ出して相談にまで乗ってくれた癖に事態が悪化していること。
イッセーは露骨に嫌そうな顔をして「なんだよ」と返す。木場はそれを聞かれたくなかったのか、耳打ちで何かを伝える。
その時女子の声が悲鳴に変わったような、新たな世界を見出だした黄色に変わったような気がしたが、ティファは見逃さなかった。
それまで本当に嫌そうな顔をしていたイッセーが少しだけ真剣味を帯びた顔をする。それを見て木場はすこし気分をよくして、唐突に思いだかのようにこちらに目を向ける。
「逆上さん、キミにも用事がある。着いてきてほしい」
ナンパか!?新手のナンパか!?そんな感じの悲鳴も聞こえて、ところどころで木場はバイセクシャルだなんだと聞こえるが、ぶっちゃけどうでもいいのでスルーすることにした。
「用事って、何?」
「一昨日の夜、部長……リアス先輩に遇ったろう?その時のことで少しね」
ああ、なるほど。と頷く。確かにアレは衝撃的だった。その光景を見せられた後にティファは「後日説明するからそれまでは他言無用」と言われていたが、都合よくそれが今日だったのか。
「わかった。どこにでも連れていって」
「そんな変な場所には連れていかないよ。僕らの部室さ」
何時ものような笑みを残したまま校舎の裏手へと回っていく木場に二人は着いていく。途中、何度か目が合ったが、その時は互いに気まずくなって目を逸らす。
そうやって五分ほどゆっくりと歩いているうちに旧校舎についた。古いがしっかりと手当てもされているし、人がいると言われても頭ごなしに否定することはできない。
「ここに部長がいるんだよ」
表札には『オカルト研究部』と書かれていた。一応名前くらいは聞いたことはあるが、表だってなにかをしたという実績もないから空気といってもいい。
「部長、二人を連れてきました」
木場がそういいながら入室する。二人とも少しだけ畏まって頭を下げて入室。その場にいた二人━━━三年生の姫島 朱乃と一年生の塔城 子猫に軽く挨拶だけ済ませて、奥から聞こえるシャワー━━━曰く、昨日はイッセーの家に泊まっていたから浴びていなかったという、を浴び終えるのを待つ。
暫くすると、湯気で少し上気したリアスが出てくる。その姿をガン見していたイッセーに呆れて、それになにかをさるつもりもなかったが、そのままイッセーを無視し続けると自分が自分じゃなくなる気がしたので無理矢理にでも視線を動かす。
「さて、全員揃ったようで何より。それじゃあまず早速━━━兵藤 一誠くん、逆上 ティファさん」
「は、はいっ」
「はぁ」
「私達オカルト研究部は貴方達を歓迎します」
……入部勧誘で終わるわけがないと思っていたので次の一節を待つ。正確には待つほども間はなかったが、確かに存在した間。少しだけ冷えついた空気の中でリアスは、最後の一つを付け加えるのだった。
「特にイッセー、貴方は悪魔としてね」
悪魔、悪魔。
どうやら自分達はかなり、アレな人物達に目をつけられてしまったようだ。
ティファは呆然とするイッセーを尻目に、呆れたように天井に視線を移すのだった。
やっぱりD×Dの……書きやすさを……最高やな!
早くこの若干シリアス漂う空気を吹っ飛ばしておっぱいがおっぱいしたい(願望)