えーー……とだな。烏間さんから聞いたことをまとめてみるぜ。
数日前、月が爆発してリアル三日月のようになったという事件があった。まぁ、あんなニュースを見て俺は自分の目がどうにかなったかと思ったが…とりあえず異常事態だった。
んで、その犯人が
「はい、この私です。因みに来年の3月には地球も爆発します」
…このタコだ。
しかもこいつトンデモナイ発言しやがったぞ。地球も三日月のようにするのかよ…
「信じられないかもしれないが本当のことだ。こいつは3月に地球を爆破する。だから、このE組には一つやってほしいことがある」
すると、烏間さんは懐からナイフを取り出した。
…へ?ナイフ?ちょっと烏間さん⁉︎一体何を…
「それは、こいつの…暗殺だ!!」
烏間さんは目にも止まらない速さでナイフを突きつけた。だが、殺せんせーはあっという間に烏間さんの背後に移動する。すげぇ、瞬間移動だったぞ。
「だが、この生物はとにかく速い。ナイフを避けながら俺の眉を整えるくらいだ。丁寧にな」
瞬間移動で避けながらその触手で烏間さんの眉を整えてやがる。丁寧にな。
「最高速度はマッハ20。その気になれば誰の目にも止まらず移動できる」
えーと…マッハ1は大体秒速340mだから…秒速6.8Km⁉︎どうやって目で追えと⁉︎
「幸いこいつはE組の担任をしている。生徒にとっては殺しやすい環境にあるわけだ。そんな危険生物がいることを知ってるのは、政府の人間、殺し屋数人、E組の生徒、ここの理事長だ」
何で俺が暗殺を?そんな俺の疑問は一瞬で吹き飛んだ。
「成功報酬は100億」
…へ?ひゃ…100億⁉︎うめぇ棒10億本分⁉︎すげぇ大金だなオイ
「地球の危機に関わってくる問題だ。当然の額。学生はこいつになめられてる。この緑のシマシマの模様になってる時はなめている時の顔だ」
…分かりやすい。つーかどんな皮膚してんだよ。
「国の軍隊でさえ私を殺すことなど出来なかった。生徒に私を殺すことなど万に一つの可能性もありませんねぇ」
なんか腹立ってくる。あ、これが『殺意が沸く』というやつか。
「殺せるといいですねぇ。卒業までに」
◇
「これがこいつに効くナイフと銃だ。一丁ずつ君に渡す」
烏間さんから受け取ったのはゴム製のナイフとおもちゃのピストル。玉はパチンコ玉だ。こんなんで効くのかと疑問に思ったが、前で殺せんせーが実際に腕を破壊して教えてくれた。
「ところで一つ気になったんだが…浅野ということは、理事長の…?」
烏間さんが聞いてきた。ま、浅野なんて此処らへんではあまり聞かないしな。
「はい、息子です」
「ほぉ、理事長の息子。そんな子がE組に来るとは、珍しいこともあるんですね」
殺せんせーは少し驚いてる。まぁ、この人…いやタコ?は知らないだろうな。俺の親父のことを。
「…落とされたよ。ちょっと…な」
「いえいえ、責めてるわけではありません。それに、E組に落とされたことが全て終わったこととイコールではありません」
「………」
「浅野くん、私はね。ターゲットである前に先生なのです。私の役目は、此処の生徒の個性を伸ばすことです。例え何かで劣っていたとしても恐れることはない。先生が自信を持てるよう『手入れ』します」
言ってることはメチャクチャだが、明らかに1つ分かった。
この人は、先生としては最高だと
「それでは、また明日お会いしましょう。その時は、生徒に紹介しますので」
ひと通り話した後、俺は家に帰った。明日から本格的に、俺のE組生活が始まる。
◇烏間視点
転入生がE組校舎に来ていた。本当は明日からなのだが…どうやら1日間違えたらしい。それを伝えたら顔を覆い隠して座り込んでいた。まぁ日程を間違えるなど、学生にとっては恥ずかしいことだろう。俺が声をかけて気を取り戻させ(俺から見ると動揺してるようにしか見えなかったが…)、暗殺について説明した。途中で本人が登場するのは意外だった。挙げ句の果てに眉毛まで手入れされた。丁寧にな。
だが、彼について一つ気になることがある。それは、この椚ヶ丘中学校の理事長である浅野學峯の息子であることだ。本人は嫌っているようだが、E組にとってみれば豊かな家で育っているのに変わりはない。そうなると、生徒は距離を開けてしまうかもしれない。
上手くクラスに馴染めるかどうか…怪しいものだな。
◇三人称視点
月曜日の始業前、今日もここ椚ヶ丘中学校E組校舎に生徒たちが登校してくる。話してる内容は1つで持ちきりだった。
「なぁ渚(なぎさ)、烏間先生からのメール見たか?」
E組校舎に続く階段を上りながら、短髪の明るめな男子…杉野 友人(すぎの ともひと)は、見た目女性のような姿をした男子…潮田 渚(しおた なぎさ)に声をかけた。
「うん、これだよね。」
そう言って渚は携帯を開いた。その画面には烏間からのメールが載っていた。
『今日からE組に転入生が入ってくる。元A組だが、仲良くしてほしい。彼にも暗殺の事は話している。詳しくは、奴から紹介されるだろう』
「E組に転入か〜。やり辛ぇだろうな。A組からE組に落とされるなんてさ」
E組に落とされた時はかなり落ち込んでしまう。『あぁ、俺もエンドのE組か…』という絶望感に陥ってしまう。その転入生の目は決まって暗い。
「でも…此処はただの落ちこぼれ教室じゃない。いずれは殺せんせーを殺すための仲間になるんだから」
渚の目には期待が籠っている。一緒に殺す為の作戦を立てる仲間が増えることに…
◇学真視点
「おはようございます。浅野くん」
登校して階段を上る一歩手前、殺せんせーが俺を出迎えてくれた。心遣いは凄く嬉しいが、急に現れるのは心臓に悪いのでやめてほしい。
「ギリギリですねぇ。あと1分ですよ」
「起きるのが少し遅れてですね…直ぐ上がりますから先行っといてくださいよ」
クッソォ…二度寝は想定外だ。日程間違えた次の日は寝坊かい。規律正しい生活なんて俺には無理そうだな。
とりあえず俺が遅れることよりも先生が遅れることの方が問題だろう。先に行っといてと伝えて走ろうとした俺は…
触手に絡まれていた。
「安心してください浅野くん。先生は困っている生徒を見放しには出来ない」
は?おいちょっと待て。まさかとは思うがおま……
《ドヒュン!!》(ジャンプする音)
えええええぇぇぇぇ!!!?
◇
「さ、着きましたよ。僅か10秒で教室前です。」
お、おぉ……俺生きてる。
殺せんせーの触手が絡みついたままハイジャンプして校舎に着地。玄関で俺の靴を上靴に変えてあっという間に教室前。そりゃマッハじゃなくても階段登るよりは速いだろうよ。でも生きた心地はしなかったよ。だって高いんだもん。(ガクガク)
「どうでしたか浅野くん。空を飛んでみた感想は」
「もう二度とやりたくねぇ」
俺は決心した。もう寝坊はしないと。だって怖いもん。(ガクガク)
《キーンコーンカーンコーン》
「おやチャイムが鳴りましたね。それでは朝礼をしてきますから呼ばれたら入って来てください」
殺せんせーは扉を開けて教室に入っていった。つーか律儀だよな。ちゃんと扉を閉めてやがる。
「起立!気をつけ!礼!」
と同時にお決まりの号令がかかった。みんな揃って朝の挨拶を…
《ズドドドドドドド!!!》
いや待てなんだその音は!何が起こってんだ一体⁉︎
気になって教室の中を覗いてみると、全生徒が殺せんせー目掛けて発砲してやがる。昨日のパチンコ玉…通称対先生BB弾が教室中に飛び交う。だが殺せんせーは一発も当たることなく交わしていく。シューティングゲームより難しいぞアレ。あと普通に出席とってんのな。
「全員出席。素晴らしい!先生はとても嬉しいですよ」
出席をとりおわり、殺せんせーは満足のようだ。顔に◯がついてる。マジで何者なんだあのタコ。
「今日は転入生が来てます。それでは皆さんに紹介しましょう。どうぞ、お入りください」
おっと、殺せんせーが俺を呼んだ。俺は教室の扉を開けて中に足を踏み入れる。
ーーツルッ
《バターーーン!!!》
(((((こけた!!!)))))
足下に散らばった対先生BB弾で足を滑らせてしまい盛大にこけてしまった。恥ずかしい。
「ギャーーーー!!!大丈夫ですか浅野くん!!」
殺せんせーは気が動転してやがる。意外とパニックになりやすいんだな。
「だ…大丈夫です。心配しないでください」
「よ…良かったぁ。転入初日で大怪我させてしまうかと…取り敢えず通り道の特殊弾はどかしますので安心してください」
…殺せんせーは箒と塵取りを使って俺の通り道にある対先生BB弾を掃除していた。相変わらず速い。
さて、気を引き締めて挨拶するか。さっきのミスから立ち直る為じゃない。さっき殺せんせーが名前を読んだことで俺の姓だけは知ったはず。そして多くの生徒は『浅野』が何を指すか分かっているはずだ。実際何人か微妙な顔をしている。だから、俺は精一杯の挨拶をする。
「浅野 学真です。宜しくお願いします!」
次回予告
「へぇ…理事長の息子ね」
「学真って呼んでくれよ。浅野はちょっとな…」
「エリート様がこんな所に来るなんて大丈夫なのかぁ?」
「彼は中々成績がいい。ですが…クラスに馴染みにくいようですね」
「一緒に頑張ろうぜ。あいつを殺す為に」
『距離間の時間』