俺は今、机に向かっている。アイツらに仕返しするための作戦を考えるためだ。何しろ殺せんせーに言われたしな。
ってか…あー!中々思いつかん!こんなのやった事無いし大体嫌がらせの作戦ならカルマ向きだろ!なんで俺に…
っと愚痴を言ってもしょうがない。言われた事はキッチリやろう。そうして俺は殺せんせーから言われたアドバイスを思い出す。
『ややこしいのは抜きにしましょう。ちょっとだけ凝らしたものであれば、あのA組の生徒には分かりません。相手の目に届かないこと、つまり盲点を意識するくらいで充分です。あぁ、それから…皆さんの才能を活かせるようにして下さい』
えー…とつまり…
『作戦をややこしくしない』『相手の死角や盲点を突く』『みんなの才能を活かす』ってところか。そんで『屈辱を与えること』が狙いだから…
あ!1つ思いついた。…普通なら無理だけど…奥田さんなら出来そうだ。思いついた後それをどの様に実行するかを考える。…我ながら次から次に思いつくぞ…
だが…こりゃもっと多くの生徒に協力を出さないと行けないな…
特に…『アイツ』には絶対協力して貰わないと…
俺は携帯電話を取り出し、ある人に電話をかける。
◇矢田視点
ハァッ…梅雨ってやだな…学校が終わっても外で遊んだりもできない。家の中でって言っても気が乗らない。
それに…最近私は何かと複雑な気持ちを抱えている。多分気のせいと思いたいけど…
《ピロリロリロリロ…ピロリロリロリロ…》
…?電話だ。携帯電話を見ると、発信者は出てない。登録されてない人のかな…?
「はい、矢田です」
『おう、矢田。俺だよ、学真』
!!
「え…ちょ、学真くん⁉︎何で…⁉︎」
『茅野から聞いてな。突然でごめんな』
「あ…いや、良いけど……」
…やばい、動揺が隠しきれてない。落ち着け私…
『実は、お前に頼みたいことがあってな…』
10分後
学真くんから大まかな話は聞いた。前原くんが本校舎の人たちに酷いことされて、殺せんせー主体で仕返しを目論んでいるって。そして、学真くんはその作戦を考えていて、その協力として私に電話をかけたらしい。その内容も聞いた。それなら心得てるけど、初めてやることだから自信が無い。
『どうだ?突然すぎるが、出来そうか?』
「う…うーん、分からない…でも何で私に…?」
その事に興味がある事は認めるけど、私じゃなくても良いんじゃ無いか、と思った。だってその話は、クラス全員で聞いてるし…
『あ〜…色々と考えたんだが…
こう言うのはお前が1番頼りになりそうだから…かな』
……ッ!?!?!?
『…どうしても無理なら、別の人を探すけど…』
「う…ううん、大丈夫。何とかやって見せるから」
『…そうか、助かる。じゃあ、詳しくは明日な』
「う、うん…じゃあね」
そこで電話を切る。そして電話を切った瞬間、私はその場で倒れこんだ。
「……ハァッ…どうしちゃったんだろ、私…」
…最近、私は学真くんのことを意識しちゃってる。見かけると心が、モヤモヤしちゃう。
そうなった初めは、修学旅行からだ。2日目の夜、売店の前で絡まれた時に、学真くんが男たちを倒した。そういう喧嘩ごとは嫌いだったから、暫くは呆然としてた様な気がするけど、同時に心が締め付けられる感覚がした。
そして、私が弟の話をした時に、学真くんが私を元気付けてくれた。あの時のセリフは、今でもしっかりと覚えてる。
このモヤモヤは何だ、という問題の答えは何となく分かる。だけど、それをハッキリと認めてしまうのが何となく怖い。E組に落ちた私は、理事長が何となく嫌だ。そして、学真くんは理事長の息子…その人にこんな事を思うのは何処か複雑な気がする。
私が彼の全てを理解しているわけじゃ無い事は分かってる。それでも…私はそう簡単に認めることが出来なかった。
◇学真視点
何とか了承を得れた。矢田がいれば一先ずは安心だ。
それにしても…矢田の声は歯切れが悪かったな。不思議に思ったがその後直ぐに納得した。忘れていたが、今のE組は殆どが俺を避けている状態だ。瀬尾らに対する怒りと作戦の内容でスッカリ忘れていた。
ってことは…それなりに話せる奴以外には、別の人に協力してもらうしか無いな。頼れるのは渚と…杉野と…あと茅野か…
ハァッ…先が長い…
◇
翌日、とある喫茶店にアイツらはいた。瀬尾と土屋だ。しかも外の席で座ってる。つーか瀬尾の奴行儀悪すぎんだろ。足投げ出して座んじゃねぇ。どこの社長だテメェは。
そしてソイツらに老人2人が近づいていく。奥の席に座るから足をどけてくれと言う。瀬尾は嫌味を言いながら足をどかせた。その老人は奥の席に座る。
さて、1つ訂正しよう。さっきから老人老人言ってるが、アレは…
変装している渚と茅野だ。
「パーティ用の変装マスクあったろ?ちょいと改造すりゃあの通り」
相変わらずすげぇよな菅谷。あそこまで完成度を高めるとは。俺から見ても全くわかんねぇ。
菅谷が言うことによると、殺せんせーには通じないが、アイツらにはあれで十分だろとのこと。そりゃそうだろ。アイツら、弱そうな奴には興味ないし。
因みに俺らは近くの家の2階からアイツらを見てる。それ大丈夫なのか?と思うかもだが心配ない。矢田と倉橋の接待のお陰で家主さんにあげてもらえた。ビッチ先生から教わってるだけはある。矢田に頼んだ甲斐があったぜ。
さて…今この場には杉野と俺と岡野と前原以外に、磯貝、千葉、速水、奥田さん、菅谷がいる。家主さんと話している矢田と倉橋を含めれば7人集まってくれた。渚や杉野や茅野のおかげだな。
「ヌルフフフフ、学真くんが考えてくれた作戦は本当に素晴らしいものです。さぁ皆さん、始めましょう。奥田さん、例の弾は?」
「あ、はい。急いで調合しました。BB弾の形にするのに苦労しましたけど…」
奥田さんが黒い球型の物…丸薬を取り出した。効果は俺が頼んだ通りになってるらしい。しかも、それは銃で発砲できるようになってる。それを、千葉と速水が銃に入れた。取り敢えず、コッチの準備は万全だ。
「なぁ、良いのか?浅野。オレは…お前を遠ざけてきたんだぜ?」
…?突然前原が不思議そうに聞いてくる。なんで遠ざけてきた前原の為にこんな事するかだって?そりゃあ決まってんだろ。
「遠ざけてきた云々は関係ねぇよ。あの女がやった事はタダのクズ行為だ。自分より格下だと勝手に決めつけかかって逆ギレと正当化のオンパレード。
オレはそれが1番嫌いなんだよ。そうやって人を平気で傷つけれる奴がな」
土屋とか言ったっけな。あのタイプは俺の中で最悪の部類だ。まして、間違ってる事を『その人のためにやってるんだ』とかで正当化する奴はもっと嫌いだ。
「まぁ、1番の理由はそうだな…あそこまでクラスメイトをバカにしたのが、結構腹立つからだ」
それを抜きにしても…前原をあそこまでコケにしやがるんだ。それぐらいの事やられておいて黙っていられるか、て話だ。
「………………………………」
…?その場の全員が俺を見て呆然としてやがる。いや別に呆然とするのはいいが、いい加減動かねぇと作戦が始まらねぇぜ。
「何ぼけっとしてやがる。やる事あんだろ?早くしようぜ。アイツらが店を出る前に」
「…おう、そうだな」
いよいよ始まる仕返し戦。この後アイツらがどうなるか、てのを想像して興奮してた。
◇三人称視点
渚の携帯にラインが届く。連絡係の杉野からだ。
『準備完了。タイミングはそっちに合わせる』
どうやら準備が整ったようだ。アイコンタクトで茅野に合図を出す。
「あなた、ここら辺にトイレはあったかしら。100メートル先のコンビニにはあると思うけど」
「おいおいここで借りれば良いじゃろうが、席は外でもこの店の客なんじゃから」
「そうでした。それでは借りてきますよ、と」
見事に老人を演じ、茅野は店の中に入る。
「やだボケかけ。あぁはなりたくは無いわよね、私たち」
茅野(老人)が店の中に入る所を見て陰口を言う。
《ガチャン!》
「あ、しまっ…」
渚(老人)がサラダを落とす。金属が落ちる音はかなり大きく、瀬尾らはその方向に向く。その視線がコーヒーから外れる事が目的だった。
《ドキュン!ドキュン!》
千葉と速水が、家の二階の窓からコーヒーに向かって、先ほど奥田からもらった丸薬を狙撃する。見事的中したようで、コーヒーの中に入った。
「お、流石だな」
「マッハ20に比べればチョロいね」
窓の外から学真は感心したように言う。対して千葉や速水は平然としている。それだけ余裕という事か…
「良い加減にしてよさっきから!」
「ガチャガチャうるせーんだよボケ老人!」
土屋と瀬尾が渚(老人)に向かって怒鳴る。当然、コーヒーに異物が入ってた事は知らない。
「っとと、すいませんのぉ。連れがトイレから帰ったら店出ますんで」
片付けながら謝る渚(老人)。そして悪態を吐きながら瀬尾と土屋はコーヒーを飲んだ。
《グギュルルルル…》
「え…あ、あれ…⁉︎お腹が急に…」
「…⁉︎お前…この店味大丈夫か⁉︎」
「ば…バカ言わないでよ!私の行きつけの店に!」
急にお腹が痛くなり、腹を抑える。原因は先ほど入れた黒い丸薬だ。
「マグネシウムを主成分として調合しました。市販薬の数倍の刺激を大腸に与えます。すなわち強力下剤。『ビクトリアフォール』と名付けました」
「「……………」」
楽しそうに語る奥田を見て、杉野と学真は恐ろしく感じた。
「ちょっ…トイレ!」
「あ、ズルい!私が先!」
瀬尾と土屋はトイレに向かう。だが…
「なんでトイレが空いてないの⁉︎」
「あ、さっきのババァ!」
トイレは茅野が使っている(折り紙をして時間つぶしをしてる)ため、空いてなかった。
「店長!他のトイレは無いの⁉︎」
「う…ウチはそこ1つだけで…後は近所に」
この喫茶店にはトイレがもう無い。そうなると近くのトイレを使うしか無い。その時、茅野(老人)が『100メートル先にコンビニがある』と言ってたのを思い出す。
それを思い出したあと、2人揃って外に出た。
「なに一緒に来てんのよ!あんた男なんだからそこらでしなさいよ!」
「出来るか!」
文句を言い合いながら2人はコンビニに向かって走る。下していく腹を抑えながら何十メートルか走った。すると…
《ピシッ…バチャ!!》
「ぎゃっ!!」
2人の頭に木の枝が落ちてきた。雨の中なので水を多く含んでおり、2人は直ぐにズブ濡れになった。
「ひっどい!何これズブ濡れ…ひゃあ!毛虫!?」
「誰だ!こんな…てやば、そんな事よりトイレだ」
体がびしょ濡れになり、見るに堪えない姿で2人はそのままトイレに向かった。
「はは、状況を把握する余裕も無いだろうね」
「ありがとね〜邪魔な木を切ってくれて。それにしても君たち身軽だねぇ」
「あ、いえいえ。待ち伏…木登りの練習をしてるので」
実は、磯貝と前原と岡野が、近所の家に植えてある木の枝を切り落としたのだ。その切り落とした枝が瀬尾たちの頭に落ちてきたのである。
◇学真視点
「ま、少しはスッキリしましたかねぇ。汚れた姿で大慌てでトイレに駆け込む。彼らにはずいぶんな屈辱でしょう」
作戦が見事成功で終わった。この後何も知らないアイツらは冷静になった時かなり恥ずかしい思いをするだろう。清々したぜ。
「えっと…ありがとな。ここまで大きな話にしてくれて」
礼を言うも何処か複雑そうにしている。その羞恥心は作戦を立てた俺のせいだ。だが俺は謝らない。
「それにしても学真くん、あのような作戦をよく見事に立てれましたね。中々のものでした」
「…まぁな、それぞれに何ができて、どこが優れてるのか把握してたし。ま、E組じゃなきゃこんな事はしねぇだろうがよ」
「ヌルフフフ、学真くんは本当にクラスメイトを理解してますね」
どこか楽しそうに話し、殺せんせーは前原に向く。
「どうですか前原くん。自分はまだ弱い者いじめを平気でする人間だと思いますか?」
「…いや、今のみんなを見たらそんな事出来ないや。お前ら一見何も強そうに見えないけどさ…皆どこか頼れる武器を持っていて、そこには俺にも持ってない武器も沢山あって…そして学真みたいに、それを理解してるから、皆と一緒にとんでもない行動を考えることが出来る」
…成る程ね。それで俺に作戦を立てたわけだ。皆の隠れた強さを知る事の重要性を、前原に教える為に。
「その通り、強い弱いは一目見ただけじゃ測れない。それを知った君は、この先弱者を蔑む事は無いでしょう」
「…うん、そう思うよ殺せんせー」
前原の目から曇りが消えた。吹っ切れた感じだな。これで、一件落着ってとこか。
「あ、やばっ。俺これから他校の女子とメシ食いに行かねーと、じゃあ皆ありがとなまた明日!!」
なんでや!また懲りずに女とデートかい!
◇
翌日、また学校が始まる。今日もまた、とんでもない日常が始まるんだよな。それを待ち切れない俺がいる。
「おはよう、学真」
「おお、岡野か。おはよう」
とは言っても友人関係は渚とかぐらいしかまだ築けてないしな。あの暗殺教室に馴染めるのはいつになるのやら…
…………………あれ?
「へ?岡野、お前俺に挨拶したのか?」
「何言ってんの?返したじゃん」
「…いや咄嗟だから返したけど…今までそんな明るく挨拶したっけ?」
「失礼ね。………まぁ、理事長の息子ってところで避けてたけど、そうやって避け続けるのが馬鹿みたいに思ってさ」
「…嬉しいけど、何でだ?」
「決まってんじゃん、昨日の事だよ。前原が虐められてた事に腹たってるって言ったでしょ?」
…それだけ?
いや、別に岡野が親しくしてくれる事が嫌ってわけじゃねぇぞ。ただ、そうなった理由が『クラスメイトを傷つけられた事で怒ったから』ってのは意外な気がする。だって…当たり前のことだろ?
俺が呆然としていたからだろう。岡野は俺が何を思ったのか察したようだ。
「…それだけで良いの。今まで私は、あんたを得体の知れない何かと思ってた。理事長の息子だから…私たちを落ちこぼれにした人間の息子だから不気味に思ってたの。
でも、昨日のアレでハッキリと分かった。『何だ、私たちと同じ人間じゃない』って。私たちと一緒に笑ったり、心配してくれたり、怒ってくれたり。だからもう決めたの。もう変な理由で避けたりはしないって」
……ヤベェ、感動した。あの何気ない言葉が、警戒心を解いてくれたとか、嬉しすぎる。全私が泣いた。
「そうか…良かったよ。お前がそう思ってくれて」
「…私だけじゃないよ?」
「……へ?」
岡野が何やら不思議な事を言うと、扉を開けた。すると…
「あ、おっは〜学真くん」
「おはよう、学真」
「…おはよう」
「よう、学真」
すると倉橋、千葉、速水、菅谷がおれに挨拶してくる。…まさか…
「よ、元気だな。学真」
「前原…」
「昨日はありがとな。お陰で色々と楽になったわ」
「…いや、そんな事は」
「あるんだよ!もうちょっと堂々としてくれよ!俺が感謝しずれぇじゃねぇか」
前原が俺に肩組んでくれてる。
「へ〜…聞いたけどとんでもない事やったらしいね」
「…輝く友情ね」
「良いじゃないか、僕らの為に怒ってくれるなんて」
「ほんと、凄く嬉しくなるね」
中村…不破…竹林…原…
何だよ…昨日までの嫌な感じが…無くなってんじゃねぇか。もう既に…昨日まであった距離感は殆ど無くなっていた。
「学真くん」
「…矢田?」
「そういえばさ、この前はありがとね」
「…?何のことだ?」
「ほら、宿の件だよ。あの時はお礼を言ってなかったなーって思ってさ」
「…あぁ、あれか。まぁどういたしまして…か」
「うん」
…矢田も話しかけてくれた。
そうだよな。人と話せるってのは…こんなに嬉しいもんだよな。
「学真」
「磯貝…?」
「既に自己紹介が終わって何ヶ月か経つけどさ。もう一度、改めて言ってくれないか。今度は、仲間として」
……長くかかったような気もする。だけど、此処に始めて来たのが、つい昨日のようにも思える。そして、短いような長いような月日を超えて…
「浅野 学真。瞬間記憶能力を持っている。趣味はカードゲームだ。未だ慣れてないが、それでも皆と一緒に殺せんせーを殺せるように頑張りたい。
この1年、よろしくな」
漸く、この教室の一員になれたような気がする。
◇三人称視点
「なんか…知らない間に溶け込んだわね、学真」
窓から教室の様子を見てるイリーナと殺せんせー、教室の中ではクラスに明るく話しかけている学真がいた。
「友情とは、いつの間にか出来るパターンが多いです。自分の何気ない行動や言葉によって、人に感銘を与え、いつの間にか友達になっている。だから、友達は面白いのです。
学真くんは記憶力も優れてますが、同時に周りの人間たちをよく見てる。そして、その人に何が出来るのか、どのように行動出来るのかを考えれる。当に理想の参謀でしょう。
彼がE組に溶け込んだ事でこの教室はもっと強くなります」
学真が溶け込んだ事に喜びと期待を感じ、殺せんせーは楽しそうな顔になっていた。
「それにしても…とんでもない事したわね。ずぶ濡れにさせてトイレに行かせるなんて…」
「ヌルフフフ、何をしようがバレなきゃ良いんです」
悪戯っぽい顔になる。どっからどう見ても犯罪者顔だ。
「ほう、大した論拠だな」
その後ろから恐ろしい声がかけられる。その声に、殺せんせーは体を仰け反ってしまう。
「にゅやッ!!?烏間先生…⁉︎」
「その話…もう少し詳しく話してくれないか?」
その後、昨日の計画に加担していた者らは指導室で烏間から説教を受けるのであった。
ようやく学真くんがクラスに溶け込みました〜…長かった…
殺せんせーはコレを狙って学真くんに作戦を立ててもらったんですね。
さぁ、次回はあの人の出番です。
次回 『ビッチの時間』