◇渚視点
放課後特訓が終わり、みんなが家に帰る頃、僕は学真くんの家に向かっていた。今日日直だったせいもあって、教室の点検をしていると、学真くんが携帯を忘れていってた。明日になれば教室に来るだろうけど、物が携帯だ。学真くんの家は、前に行った事があるし、届けに行こうとしていた。
学真くんの家…正確にはアパートの前に着くと、学真くんがいた。携帯を渡すために歩こうとしたけど、その足は止めた。いま、学真くんは別の誰かと話していた。
「随分懐かしいね〜、1ヶ月…いや、2ヶ月ぶりかな?E組に落ちて、さっぱり会わなくなったんだし」
懐かしい…?ひょっとして、学真くんが前にいたクラス…A組のクラスメイト?
「テメェとお喋りする暇はねぇ、窠山。何しにおれの家の前に来た」
窠山…どこかで…あ!中間テストで3位の人だ!確か、学真くんは何気なく、卒なくこなす人って言ってたけど…
「京都で、君を見たよ。随分仲良くしてるようだね、E組と。祇園で班行動しててさ。楽しそうだったなー。『暗殺にピッタリ』とか訳わかんないこと言ってたけど」
え…それって、修学旅行で狙撃スポットに向かってた時?
危なかった。その時に殺せんせーのことを話していたら、秘密が漏れることになってた。でも、なんで…祇園に来てたんだろ。
「…妬みを言うために来たのか?」
「それもあるねぇ。僕たちと一緒にいた時より楽しそうだもん。なーんか羨ましくってさ。クラスメイトと仲良く青春満喫してる、て感じがさ」
…シロさんも掴み所は無かったけど、この人も掴みづらい。口では普通にお喋りをしているけど、なんか乾いてる。何となく…裏があると思わせるような感じがする。
「いつまで本性を隠す気でいるの?」
……本…性………?
「…どういう事だ?」
「いつまで装っているつもりでいるの?て事。全く危険のない人間を演じてE組と仲良く過ごす。いい人だと思わせといてね。あー、怖い。君に騙されて信じているなんて、流石にE組の人たちが可哀想に思えてくるよ」
装う…?演じる…?一体何を言ってるんだろう、この人は…
「…おれはあいつらを騙してるつもりはない」
「またまた〜、じゃあ君のしでかした事を彼らは知ってんの?」
「それは…」
「ほーら、知らせて無いじゃん。警戒されると不都合だから黙ってるんでしょ?」
…学真くんが、かなりキツそうな顔をしてる。…なんか、あの人って、学真くんの過去を知ってるのかな?
「ま、楽しい学校生活ももう終わりだよ。もう直ぐ、君たちには地獄が待ってる」
地獄…そうだ、もう直ぐであのイベントが起こるんだ。
「球技大会、これで君らは大きな傷を残す事になる。それを楽しみにしてるよ。堕ちたエリートくん」
そう言い残して、窠山と言っていた人はどこかに行ってしまった。…結局何がしたかったのか分からなかったけど、嫌な予感しかしない。
取り敢えず、僕は学真くんに携帯を渡すため歩いて行った。
「学真くん!」
「ん?あぁ、渚か…どうした?」
「教室にコレ、忘れていってたよ」
携帯を学真くんに手渡した。それを見るなり、学真くんは鞄のポケットを探る。いつもならそこに入れてるんだろうか。
「へ?マジでおれのだ…悪りぃな、今度奢る」
「あ、うん…ねぇ、さっきの人…」
「…ひょっとして…聞いてたか」
学真くんに、さっきの人の事を聞こうとすると…ちょっと暗い顔をしてる。…やっぱり、辛いのかな。
「あ、悪いとは思ったけど、聞こえちゃったんだ。別に嫌な事だったら…」
「どこまで聞いた?」
気を張り詰めないよう声をかけようとすると、逆に聞かれた。一体何をどこまで聞いたのか、という事だろう。
「えっと…本性を隠してるとか…学真くんが何かしでかしたこと、て…」
「そうか…」
学真くんは何かを考えているように眉を顰めた。なんて言おうとするべきか考えているんだろうか。
「…渚」
学真くんは僕を見た。その目は、真剣だった。
「詳しく言えなくて悪いとは思ってる。お前にしてみりゃ不審かもしれない。だけどこれだけは信じてくれ。
俺はお前らを、騙したりはしていない」
学真くんは、隠し事は有るかもしれないけど、いつだって僕らと真剣に向き合ってくれた。理事長の息子だからと若干距離を開けるクラスメイトにも嫌な顔1つせずに接して、クラスメイトが嫌な目にあった時も本気で怒ってくれた。
…分かってる。学真くんは人を悲しませるような嘘はつかない。昔あった事を知ってる訳じゃ無いけど、なぜか、そう思えた。
「うん、分かった。疑ったりはしないよ」
「…悪いな。じゃ、また明日」
学真くんはその後マンションに帰っていった。彼がいなくなるのを見て、僕も家に向かって歩き出した。
◇学真視点
「クラス対抗球技大会…ですか。健康な心身をスポーツで養う。大いに結構!…ただ、トーナメント表にE組が無いのはどうしてです?」
窠山に会って数日後、殺せんせーはもうじき行われる球技大会の予定表を見ている。因みにトーナメント表にE組が載ってない理由は三村くんが言います。
「E組は本戦にエントリーされてないんだ。1チーム余るっていう素敵な理由で。その代わり大会のシメのエキシビジョンに出なきゃなんない」
「エキシビジョン?」
「要するに見せものさ。全校生徒が見てる前で、男子は野球部の、女子はバスケ部の選抜チームとやらせんだ。
一般生徒のための大会だから、部の連中も本戦に出れない。だからここでみんなに力を示す場を設けたわけ。
トーナメントで負けたクラスもE組がボコボコに負けるのを見てスッキリ終われるし、E組に落ちたらこんな恥かきますよって宣伝にもなる」
「……なるほど、いつものやつですか」
「そう」
と言うわけだ。俺たちにとって集会の次に恥ずかしい機会である。本当にヒデェ話だ。
「でも心配しないで殺せんせー、暗殺で基礎体力ついてるし、良い試合して全校生徒を盛り下げるよ。ねーみんな」
「「「おー」」」
女子の方はかなり良さげだ。スポーツ万能の片岡なら、見ている生徒を盛り下げるぐらいの接戦を作れるだろう。流石はイケメグ。
『お任せを、片岡さん。ゴール率100%のボール射出器を製作しました』
「あ、いや…律はコートに出るにはちょーっと四角いかなーっと…」
…まぁそうだよな。練習で付き合える程度だろ律は。
「俺ら晒し者とか勘弁だわ。お前らで適当にやっといてくれや」
「寺坂!ったく…」
寺坂組…寺坂と吉田と村松は教室から出て行った。うーん…あいつらは相変わらず非協力的なんだよな。
吉田 大成
何と言ってもドレッドヘアが特徴的。顔つきもかなり悪い。実家がバイク屋とかでかなりバイクマニア。…無免許運転とかすんなよ。
村松 拓哉
金髪で出っ歯、基本的にニヤけた顔をしている。こいつは実家がラーメン屋であり本人曰く『クソ不味い』だそうだ…どんな味だよ。
因みに俺とも上手く行ってない3人組でもある。…まぁ、面白く無いんだろ。俺がここに入ってきた頃、寺坂にはキツく当たったし。
「野球といえば頼れるのは杉野と…学真も元野球部だっけ?」
「まぁ…2ヶ月しかやってないけど」
「いや別に良いけどさ、なんか勝つ秘策ねーの?」
勝つ秘策ねー、野球部に勝つのはかなりキツいと思う。…アイツもいるし。
「…無理だよ。最低でも3年間野球してきたあいつらと…ほとんどが野球未経験者のE組。勝つどころか勝負になんねー。
それにさ。かなり強ぇんだうちの野球部。特に今の主将 進藤。豪速球で高校からも注目されてる。
俺からエースの座を奪い取った奴なんだけどさ」
ほとんどが杉野の言う通りだ。進藤 一孝、あいつの豪速球は途轍もなく速い。入り始めの頃は俺もそこそこ打ててたが、だんだんとスピードが速くなっていった。恐らくは…130キロは超えてるだろう。
「勉強もスポーツも一流とか、不公平だよな人間って…だけどさ」
お?なんか杉野がマジ顔になった。
「だけど勝ちたいんだ、殺せんせー。善戦じゃなくて勝ちたい。好きな野球で負けたくない。野球部追い出されてE組になって…むしろその想いが強くなった。E組とチームで勝ちたい!」
…杉野は、かなり積極的になった。俺と一緒にいた野球部では、自信が無くなって弱気になってた。たぶん、殺せんせーの教育のおかげだろうな。『まぁでも、無理かな殺せんせー』と杉野が話しかけると…
ユニフォームを着て顔が何故か野球のボールになってる殺せんせーがウキウキしていた。
「お、おう…殺せんせーも野球したいのはよく伝わった」
「ヌルフフフ、先生一度スポ根ものの熱血コーチをやりたかったんです。殴ったりは出来ないのでちゃぶ台返しで代用します」
「用意良すぎだろ!」
…殺せんせーのこういう斜め上の準備の良さは見習うべきなのか?
「最近の君たちは目的意識をはっきりと口にするようになりました。殺りたい、勝ちたい…どんな困難な目標にも揺るがずに、その心意気に答えて殺監督が、勝てる作戦とトレーニングを授けましょう」
杉野の想いは、殺せんせーに伝わったようだ。殺せんせーは、生徒の想いを正面から受け止め、それを叶えるために色々と工夫を凝らしてくれる。俺らには本当に頼もしい先生だ。
よっしゃ、杉野があそこまで言ったんだ。俺も、一肌脱ぎますかね。
◇
そんな訳でグラウンドでござる。野球は外でやるからな。天気も良いし、野球が終わったら何かで遊びたいな。
「じゃあさ、釣りとかどう?」
…カルマは口にした覚えのねぇ言葉に答えやがった。釣り…か。この時期だと何が釣れるんだ?
「夏場はヤンキーが旬なんだ。渚くんをエサにカツアゲを釣って、逆にお金を巻き上げよう」
…ヤンキーに旬とかあるのかよ。
『1回戦終了ー!!A組対B組は、A組の勝利です!』
1回戦が終わったようだ。やっぱりA組か。
「やっぱりA組すげぇよな。B組も結構強いのに」
前原の言う通り、決してB組は弱くはない。野球部は出てないものの、その他の運動部もいるんだ。運動神経だけで言えばA組に劣ってはいない。
…にしても、A組に兄貴はいねぇな。何か理由があるのか、それとも出る必要無いという意味か…
それを抜きにしても、A組には厄介者がいる。数週間前、俺の家で嫌味を言いにきた窠山だ。正直言って、兄貴の次に厄介だと思う。それも、性格的には兄貴より最悪だ。アイツがいるから、A組の勝利は揺るがな…
《グワッキィィィィン!!》
んあ?なんか凄え音。
『な、ほ、ホームラン‼︎どんな馬鹿力をしてるんだ⁉︎D組が1点取りました!』
あー、そういや、D組にはアイツがいたな。
◇窠山視点
クラス対抗球技大会、野球場で2回戦を見ていた。学秀くんは用事があるからとこの試合には参加していない。で、この試合はD組が有利だ。恐らくキーマンは、アイツだ。
黒崎 裕翔
中間テストで見事2位を叩き出した男だ。風の噂じゃああいつは赤羽 カルマと喧嘩で対等だとか。恐らく本当だし、それを抜きにしてもアイツの身体能力は化け物並だ。京都で僕の
「おい窠山、大丈夫なのか?俺たちが優勝しないと、全校生徒に遭わす顔がねぇぞ」
五英傑の1人、瀬尾くんが心配そうに尋ねてくる。まぁ…心配事は最もだね。
「そうだねぇ…黒崎と身体能力で勝てる人なんて、学秀くんぐらいでしょ。野球チームのみんなではアイツに勝てない」
「おい!!?」
おお慌ててる慌ててる。コイツの慌ててる顔はマジで笑えるんだよねぇ、アゴもデカイし。
「おい!ちょっと真面目になれよお前!」
「真面目に考えてるよ。瀬尾くんの面白顔を見ながら」
「そういうの真面目って言わねぇよ!」
うん、ツッコミも素晴らしい。
「大丈夫だって。
あいつには1つだけ弱点がある。それも致命的な」
「へ?弱点?あの試合にはそんなの全く分かんなかったけど…」
まぁ分かんないだろうね。少なくともあの試合では出なかっただろう。だが僕と戦うとなれば、別の話だ。
僕の手下を虐めてくれた借り…ここで返すよ、最強の黒崎くん。
◇学真視点
『試合終了ー!2回戦はD組の勝利です!』
2回戦はD組の勝利で終わった。やっぱり強いな、黒崎。
「凄い…いつの間にか、どんどん強くなっていく」
渚はその試合を見て、感心している。…多分、八幡さんのとこに通ってたこともあるんだろうな。あの人筋トレとかガチでやらせるし。
「って事は…決勝はA組対D組か」
「そうだな…どっちが勝つと思う?」
磯貝が言うように次はA組とD組のバトルだ。それを聞いて、前原がどっちが勝つかと聞いている。
「僕としては…D組に勝ってほしいかな」
「…黒崎がいるからか?」
「うん、黒崎くんは色々と世話になったし…負けて欲しく無いかな」
「良いね〜、渚くんのタイプ?」
「違うよ!僕男だし」
カルマは黙っててほしい。まぁ渚の言うように、黒崎には勝ってほしいと思う。てか、多分兄貴無しのA組じゃ、アイツには勝てねぇだろ。
誰だ、コイツいま余計なフラグ立てやがったなとか思った奴。
◇三人称視点
『それでは、決勝戦、A組対D組の試合を始めます!』
球技大会の決勝戦が始まった。攻守を決めるため、各チームの主将がじゃんけんをしてる。その結果は、先攻はA組だ。
因みに主将は、窠山(A組)と、黒崎(D組)だ。
「それじゃ良い試合しようぜ、黒崎くん」
「あぁ、全力で叩き潰す」
じゃんけんの後握手をする2人組。だが…
《ゴゴゴゴゴゴゴ…》
「ちょ!?怖い怖い!何やってるんだお前ら!」
邪悪というか、険悪というか…取り敢えずその握手は爽やかなものとはかけ離れていた。
そして、守備側になったD組が守備配置についた。
『それでは、試合開始です!』
原作ではエキシビジョンしか無いですけど、E組以外にオリキャラがいるので折角ですし決勝戦を行います。予定としては2,3話目が決勝戦、4,5,6話目がエキシビジョンです。
そんな訳でA組対D組、どちらが勝つでしょうか?次回もぜひ宜しくお願いします。