浅野 学真の暗殺教室   作:黒尾の狼牙

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今回は比較的早めに投稿できました。


第35話 学真の時間

天性、という言葉がある。生まれつきそうである、と言う意味で努力とか環境とか遺伝じゃない、天によって授かれた性質という事だ。オレの、1番嫌いな言葉だ。

同じ条件で生まれても、同じ環境で生まれても、同じ時間で生まれても、才能は平等に分け与えられないようで、片方が恵まれ、片方が損をする。何故そんなに差が出るのかって思ったとき、天性という言葉を使うとあっさり説明できる。そんなあっさり答えが出てもダメだろうに。

 

オレは…神さまが大嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

椚ヶ丘中学校、俺らが住んでる地域では1番有名な学校で、俗に言う名門校だ。ハタから見れば有力な生徒を育て上げている学校だしな。だが実際はそんな綺麗な校風では無い。有力な生徒を育て上げるために特定の生徒を落としているのが現実だ。

そんな椚ヶ丘中学校に、俺は通っている。クラスは1年A組…まぁ、特待生みたいな感じだ。

だが楽しいと思ったことはない。先生もロクな授業をする奴も居ないし、何より雰囲気が嫌いだ。E組の生徒を、暇さえあればバカにする雰囲気を楽しむことは出来なかった。

 

 

 

弱者を貶めるこの学校は、あまり好きではなかった。

出来れば来たくなかった。だが親父に強制的に入学させられた。だからここに来ている。

 

 

 

俺は恵まれなかった。体が弱く、才能もなく、瞬間記憶能力という特殊な力があるだけだった。そんな力なんて、特に意味なかった。強者になれない力は、俺の家では意味が無かった。

生き残るためには、強くなるしか方法が無かった。必死に足掻くしか無かった。勉強をひたすらやり、道場にも通い、様々な事に手をつけた。だがどれも上手く行くものはなく、全てにおいて俺は極めることが無かった。

9月に入る頃には、全てを諦めていた。

 

 

 

 

周りは俺を見て、指をさして笑ってやがる。それは当然、変わり果てたこの髪を見てるからだろう。

俺は、自分の髪の色を金色に変えた。言っておくが、デビューとかではない。

親父と同じ色の髪が嫌だったんだ。あの、橙色の髪が。同じ髪をしていれば、俺は親父と一緒の血が流れていることが立証され、それが立証されれば、同じ血が流れて居ながら何も出来ない落ちこぼれである事が立証される。俺がダメな人間であると認めるのが嫌で、髪の色を変えた。だがそれでも、血や戸籍が変わるわけじゃない。どう抗おうと、己の劣等感が付き纏う。そんな日常が、俺の日常だった。

 

 

 

 

そんな日常が続いて嫌になってきた。何をするでもなく、遠く離れた公園で横になる。最近はこればかりだ。誰の目にも触れて欲しく無かった。誰にも気にして欲しく無かった。誰の目にも入らない、俺だけの空間に居たかった。

 

 

 

「こんにちは」

 

 

 

そんな俺だけの空間に、断りもなく入り込んだ人がいた。

 

 

 

 

 

 

 

「私、日沢 榛名って言うの。ねぇ、友達になろう」

 

 

 

 

 

俺の前に突然現れて、訳も分からない事を言い始めた。これが、俺とアイツの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは学真くん、今日もいつも通りの時間に来たね」

「今日もいたか…」

 

その日から、公園に来れば絶対にアイツがいた。初日は俺が先に来ていたのに、その後は何故か俺より先に来ている。どうやらソイツは他校の中学校の生徒で、学校が終わるといつも此処に来るらしい。

 

「今日の学校はどうだった?私は社会が酷くて、課題が出ちゃったんだ」

「…聞いてねぇよ」

「ちょっと、何回聞いても学真くんの事を話してくれないから、コッチから話しかけてるのに」

「いや知るかよ!」

 

ソイツはしつこく俺に話しかけてくる。学校はどうだっただのテレビがどうだっただの…しつこく話しかけて来た。知らないフリをかましても、グイグイと話しかけてくる。

 

「あ!珍しい草が生えてる!なんの雑草かな?」

「オイコラ!話題変えんの急すぎんだろうが!」

 

…そのくせ変な草が生えていると強引にその話をしてくる。ソイツ曰く、『雑草マニア』なんだと。

 

「だって珍しいじゃない!なんか、ときめかない?」

「知るか、て言ってんだろ!世界の全人類が雑草でときめくと思うなよ!」

 

何から何まで訳わかんない。テンションも変だし、趣味も変だし、何より強引すぎる。それが俺の、彼女に対する印象だった。

 

「…なんで俺に話しかける」

 

呆れながら、俺はソイツに尋ねた。なぜ俺に話しかけるのだと。俺にとって、それが1番訳わからない事だったから。

 

「お前が友達になろうって言った時も、俺は断った筈だぞ。それもキッパリと。そのあと話しかけてきても、俺は答えたりはしなかった。何故だ。何故それでも俺に話しかけてくる」

 

俺がそう聞いた後、ソイツはうーん、と言いながら顎に指を当てて考える素振りをしている。…何を考える必要がある、と思ったが、その後の答えが酷すぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「金髪だから?」

「答えになってねぇだろうが!」

 

あれだけ考えた挙句、答えとして、俺が金髪であるからと言った。その答えがあまりにも変すぎて、俺の声もかなりでかくなってしまった。

 

「やっぱりダメかな?金髪だからって言うのは」

「いやなんで良いと思うんだよ!そんなペラッペラな理由でいい筈ないだろ!金髪の人にはグイグイ話しかけると言う事か⁉︎」

「あはは、ごめんごめん。実を言うと、深く考えてなくて…そういえばなんでだろって思ってしまった」

 

コイツ、意味わからない通り越して、メチャクチャだ。俺の尋ねた質問が、そんなに難しかったのか?あと『あはは』じゃねぇ。

 

「逆にさ。学真くんは何故此処に来るの?そんなに嫌なら此処に来なければ良いのに」

 

今度は逆に聞かれた。俺の質問は答えないくせに。

だがそれに文句を言おうとは思わなかった。と言うより文句を言う気が失せた。抗議しても無駄だと分かったからだ。

 

「…この公園は、人が少ないからだ」

 

だから答えることにした。文句を言っても伝わらない。長引かせても無意味だ。なら話を切り上げる方向にした方が速い。

 

「大勢の人といるのが嫌って事?」

「いや。人が嫌と言う訳じゃ無い。人目に入りたくないんだ」

 

答えとしては、そういう事だった。

人間が嫌いという訳じゃない。寧ろ好きだ。けど、蔑まれる目をずっと向けられた俺は、だんだん人目を避ける方に動き出した。

今回ここに来たのも、人目がないところを探していたからだ。人目がないという事は人がいないという事だから、結局人のいない所を目指す事になる。

そしたらこの公園に着いた。その公園は人がいない。俺と、目の前にいるソイツだけだった。それ以外の場所はそんな人がいない所なんて無いから、俺の足はそこ以外に向かない。

 

「人目に入りたくないって…見られたくないってこと?」

「そういう事だよ。俺を見て欲しくない」

 

ソイツの言う通り、人目に入りたくないと言う事は人に見られたくないってことだ。俺はこんな情けない自分の姿を見られるのが嫌なんだ。

 

「…気にしなくても良いんじゃない?顔は悪くないし、嫌な所なんて無いよ」

 

ソイツは言った。

 

顔は悪くないし、嫌な所なんて無いから、そんな事を気にする必要は無いと。

 

そうか、気にしすぎと言うことか。

 

成る程な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけるな」

 

少し低い声で言った。俺がいま怒っているんだと分かる。何故怒っているのかは分からない。ただ、自分の中で、ソイツの言っていた事が許さなかった。

 

「お前は何も分かっちゃいねぇ。顔が悪くないとか、嫌な所があるとかの問題じゃねぇ。寧ろ何も無いんだ。取り柄も、良い所も、何もない男の苦痛が、お前に分かんのか?」

 

俺の声が突然変わった事に驚いたのだろうか、ソイツは俺の顔を見てビックリしてやがる。良く知らねぇけど、怒った時の俺の顔は怖いらしい。…こういうところだけ親父に似てるのが腹がたつ。

 

「馴れ馴れしくするな。もう良いから」

 

俺は荷物をまとめた。話していくうちに、だんだんと気分が悪くなっていると分かった。これ以上ここにいるのは耐えられない。だからとっととその場から離れる。

 

「俺の前に現れんな」

 

 

 

 

 

 

 

それ以降、公園にソイツは現れなかった。俺が来た頃には人が誰もいなかった。あれだけ言ったんだ。そりゃ来るわけねぇ。

ソイツが来なかったからと言って気にしてはいない。寧ろせいせいする。

 

 

誰も居ない公園で横になる。

 

 

どこと無く吹く風の音と、そこらに飛び回る鳥の鳴き声だけが、俺の耳に入る。

 

 

なんとも言えない、静かな空間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウザい奴が居なくなるって事が、こんなにも嬉しい事だとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、勝手に居ないもの扱いされると困るんだけど」

「…ちょっとは夢を見させてくれても良いじゃないか」

 

そんな空間を夢みてたが、現実はそんなものでは無かった。神さまってのはとことん俺に悪戯するらしい。

 

「ねぇ見て。今日の数学の小テスト3点取れたんだよ」

「聞いてねぇよ!そんな自慢できる話でもねぇだろうが!」

 

ソイツは鞄から今日の数学の小テストを取り出した。10点満点中3点って、そんなに威張れるものではないだろ。いつも0点とか1点だったからいつもより高い得点だったって事だろうが、『3x=6』程度の方程式が出来たぐらいで喜ぶなよ。数学苦手の俺でも出来るわ。

 

「だいたい俺の前に現れんなって言ったよな!なんでまた俺に話しかけてくんだよ!」

「えーと…」

「あー!もう良いよ!『金髪だから』は聞きたくない!」

 

…どうしてこんなに頭が痛いんだよ。さっきからコイツのおかしな所をつっこんでばかりだ。

 

「前から言ってる事だがな…」

 

俺の怒りをぶつけるために、俺が声をかけようとする。

 

 

 

 

 

 

 

「榛名ァ!!!」

 

だが第三者の叫びによってそれは遮られた。公園の入り口で、1人の男が、俺らに向かって叫んでいた。

 

「最近何処かに行くなと思ったら、こんな所に居たの!!?行方をくらますから何かあったのかって心配になったよ!!少しは僕に話してくれたって良いじゃない!!」

「あはは、ごめんね如月くん。なんとなくだったから」

「なんとなくじゃないよ!全く!!」

 

…日沢という女を探して居たんだろう。息もきらしていてハァハァと荒い。黒い髪は汗に濡れている。

 

つーかさっきから思ったんだが…

 

「ていうかその人誰!?他校の生徒!!?無闇に知らない人に話しかけないでって先生にも…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるっせぇんだよさっきから!!!!!!」

 

 

 

…うるさい。マジでそう思う。

 

いま思ったことを大声で叫んだ。なんかブーメランになってる気がするが気にしない。人間ってこんなに声が出せるもんなんだな。

 

「近くでギャンギャンやかましい!俺の耳の中でハウリングしてて脳がガンガン揺れてんだよ!もう少し静かに出来ないのか!」

「あ、いや…すみません」

「そして打たれ弱っ!!何なのお前!?」

「いやホント…うるさいだけの男でゴメンなさい」

「いや良いよ!俺も…ていうか全面的に俺が悪かったから!」

「あ、そう?分かった」

「切り替え早っ!」

 

…さっきから落ち込んだり気分取り戻したり…コロコロ変わりすぎだろ。…俗にいう単細胞か。

 

「で、誰だ」

「えっと…如月 涼介。榛名と同じ中学の生徒です」

「…浅野 学真。椚ヶ丘中学校の生徒だ」

「椚ヶ丘⁉︎名門校じゃん!」

 

一先ず落ち着いたところで自己紹介をする。やはり椚ヶ丘と言った瞬間に驚かれた。それはもう分かっていた。

 

「…てあれ?浅野って確か…理事長の先生じゃない?」

 

…如月は更に俺の親父が理事長である事を知っていた。くそ、日沢は知らなかったから話す事なく行けるかなと思ってたのに。

 

「…あぁ、そうだよ」

「本当!?そんな事1回も言ってくれなかったじゃん!」

 

本当の事を明かすと、やっぱり日沢に驚かれた。日沢にしてみればいままで言ってくれなかったのに、と思ったんだろうな。

 

 

「言いたくなかったんだよ。俺の父親が理事長だなんて」

「なんで?凄い立派なお父さんじゃん」

「凄く立派だからだ。親父は凄ぇ、それは明らかだ。だから俺が劣ってるってのも明らかになるんだよ」

 

だが俺は言いたくなかったんだ。その事を伝えると、日沢はなんで?という反応をした。その気持ちは分かるが、どうしても言いたくない理由があった。

親が凄い偉い人なんだ、てのは自慢できる事なのかもしれない。だが父親がそんな実績を出していれば、子どもにもそれに見合うだけの実績を求められるってことになる。それが無理だと、『あの人の息子なのに』みたいな目で見られる。実際その視線を受けてきた。

だから言わなかったんだ。その視線が怖くなって。ある意味逃げてる、ということかもしれない。そう思うと余計に自分が惨めになっていく。

 

「…そっか。悪いことしちゃったね」

 

なんか日沢が謝ってるが…いつもいつも話しかけてくる方が迷惑なんだけど。

 

「いや悪いっつーか…」

 

俺がその事を伝えようと振り向いた時、俺はあるものに目がついた。公園から少し見える交差点で止まっている車…それもオープンカーか?で騒ぎが起こっている。

 

 

「俺の車にぶつけてなんのつもりだガキ」

「返してよ〜」

「ハッ!タダで返すわけねぇだろタコ」

 

なんか、車に乗ってる奴がボールを持ってるが…話の内容から察するに、あのボールは子どものものか?で、ボールが車に当たったとか?

…ウザったいな、ああいう奴。そうやって面白がりやがって…!

 

「学真くん?どうしたの?」

「おい、どこ行くんだよ!」

 

俺がその車に歩き始めた事を不思議に思った2人が俺に何か話しかけているが、今の俺はそれに答える気がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいガキ。ボール返して欲しけりゃカネだしな、100万円」

「そんなお金持ってないよ」

「ウルセェ、修理代に使うんだ。ママにでもおねだりしろよ」

 

車に乗ってる男は、子どもに金を要求した。修理代に使うとか言ってるが、そんな目立つ傷はついてない。ただ金を取ろうとしてるだけなのだろう。

俺は、男が持っているサッカーボールを奪った。

 

「ああ!?なんだテメェ!」

「テメェじゃねぇ。道路で車停めてギャーギャー言うな。迷惑だろうが。

大体ここは駐停車禁止だろうが。そこに車停めたお前にも非がある。相手の非だけを責めるな」

「…知るかよ!駐停車禁止なんて。お前もやる側だろ!?」

「髪で判断するな。マナーはマナーだ」

 

車に乗っていた方の男が俺を睨みつけるが、俺もソイツを睨みつけている。その目を見て一瞬ビビってたが、直ぐに持ち直した。

こう言う輩には理解させようとしても意味がない。聞く気がないからな。だからこうして、ハッキリと迷惑だと伝える方がマシだ。例え怒らせる結果になったとしても。

 

「ふざけてんじゃねぇよ、返せ!」

 

ソイツは、俺からボールを取り上げようと掴んだ。だが…

 

「…⁉︎な、こいつ、力が…」

 

ボールを取り上げることが出来ずにいた。必死に取り上げようとするがビクともしない。

そりゃそうだ。これでも道場に通ってた事がある。武道をやってた人に比べれば力が全くない方だが…ソイツみたいに粋がってるだけの相手なら余裕で勝てる。

 

「くそ!その手を離せ…!?」

 

ボールを取り上げる事が無理だと判断したのか、ソイツは俺に掴みかかろうとした。だがその手は逆に俺に掴まれていた。

 

「…100万よこせ?くだらねぇ因縁つけて金を取ろうとするな。

なんだったら俺が出してやろうか?テメェの治療費として」

 

手に力を込めて、ソイツに話しかけた。俺の怒りがソイツに効いたのかどうかは分からないが、ソイツはもう意気消沈しているのが分かった。

 

「…くそ!覚えてろクソガキ!」

 

逃げるようにソイツは車のエンジンをかけて走り出した。…どう見たって速度制限オーバーなんだけど。

 

「ほらよ。お前も遊ぶときは周りに注意しとけ」

「…うん!ありがとう、金髪のお兄ちゃん!」

 

ボールを持ち主に返すと、子どもは俺に礼を言ってその場を去った。別に礼を言われる事じゃ…

 

「…学真…!君って人は…なんていい奴なんだ!」

「ハッ!!?」

 

突然、如月が凄い感傷的に語り始めた。なんか演技くさくて気持ち悪い。

 

「悪い大人に絡まれる子どもを助けるために、正面から戦うなんて…僕にはとても出来ない!

君の優しさがとても良い!さっきまで『なんだこの金髪バカは』とか思ってた僕が恥ずかしい!」

「いや言わなくて良いよ!」

 

…こいつ何に感動してやがるんだよ。

 

「学真くん、凄い優しいね」

「…優しくても何にもならないだろ」

「でも、学真くんのおかげで、あの子は何事もなくボールを取り戻せたんだよ」

 

日沢は俺に言った。あの子どもが俺のおかげでボールを取り戻せたと。確かにとは思う。

けど、それだとなんの意味もない。俺は強者になるための必要なものが何もない。こんな優しさだけがあったって…

 

 

 

「困ってる人を助けれる。それって、リーダーにとって1番大切な事だと思うから」

 

 

……

 

…ハ?

 

 

…1番大切な事?

 

 

 

 

 

 

「…どういう事だ」

「お母さんがよく言ってた。力だけが有るだけのリーダーよりも、困ってる時に助けてくれるリーダーの方が良いって。じゃないと、力ある人はついてこれても、力無い人はついてこれない。だから、思いやりの心は持ちなさいって。

学真くんはその心がある。誰かが困ってる時に助けようとしてくれる。私が出会った中で、お母さんが言ってた理想のリーダーに1番近い人だと思う」

 

 

理想の、リーダー?

親父からは、強者になることを強く言われてきた。そうでなければリーダーにはならないと。

リーダーとは、指揮者のことで、力がなければ、部下に反発されて終わる。強さを持たなければ、従う事が出来ない。

だから俺には、そんなものになれるとは思ってなかった。

 

「…エリートの息子のクセに、なんの力もない俺が?」

「ううん、エリートとか関係ない。優しい学真くんだから良いの。

エリートだから凄いんじゃなくて、自分が自分らしくあるのが凄いんだってお母さんも言ってた。多分学真くんは、力不足で強者にはならないのかもしれないけど、弱い人を思いやる事ができる。それが、学真くんの何よりの取り柄じゃないかな?」

 

…弱い人を思いやる事ができる?それが取り柄?

考えたことが無かった。寧ろ意味がないと思ってた。弱い人を幾ら助けても、自分自身が強くなければなんの意味もないと思ってた。

…そんな俺を、そうやって凄いって言ってくれる奴がいるなんて、思ってもいなかった。

 

「…なぁ学真、僕とも友達になってくれないか?僕も学校じゃ友達少なくて」

 

…如月が俺に手を差し出した。握手でも求めているのだろうか。でも…

 

「わからない。俺は、『友達』なんて持った事がない」

 

誰も俺と友達になろうとしなかった。野球部の中で1人やたら話しかけてくる男を1人知ってはいるが、ソイツとも友達になったわけじゃねぇ。そんな俺は、友達の作り方なんて分かるはずも無かった。

 

「私たちもよく分からないんだよね」

 

……ハイ?

 

「…え?お前らも無いの?」

「うん、私たちも学校では孤立していてさ。班を作るときも大抵避けられるんだよね」

「そうそう」

 

…そうか。いや、理由は分かる。日沢はしつこく話しかけてくるし、如月はうるさいから、避けられてるんだろう。どっちも相手するとメンドくさい。

 

「じゃあさ、この3人で探してみようよ。僕たちだけの、友達の作り方を」

 

すると、如月がそう言った。3人だけの友達の作り方を探そうと。

 

「どういうことだ?」

「友達いない人同士、探してみようってこと。楽しそうだし何より淋しく無いから悪く無いよね」

「いや淋しいよ。寧ろ虚しいよなんか」

 

…友達いない同士で仲良くしようってことか。なんかマイナーな動機だな。

 

「良いじゃん。私たちで話し合うのって面白そうだし」

「おい!」

「じゃあ学真、君はどうする?」

 

日沢は賛成らしい。面白そうと言うが俺にはサッパリ分からない。

如月と日沢がそのグループに入り、入ってないのは俺1人になった。如月が俺に入るのか入らないのかを聞く。

あまり乗り気では無い。そんなマイナーなグループに入りたくない。寧ろ嫌だ。

 

 

 

でも、こいつらは良くも悪くも、俺を蔑んだりはしないと思う。これと言った長所がない俺を誘うぐらいだから。

こういうことは、椚ヶ丘中学校では出来ないと思う。理事長の息子というレッテルが貼られている以上、親父と比べられるだろうから。

 

 

 

 

なら、こいつらと一緒にいた方が楽しいだろう。

 

 

 

「分かったよ。ただし、やることはお喋りだけだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しつこく話しかけてくる雑草マニアと、感情の変動が激しい単細胞。俺にとっての初めての『友達』は、その2人だった。

 

 

 

この関係がずっと続ければ良いな、と思った。

 

 

 

 

 

この関係が崩れることになるのは

 

 

 

 

 

 

 

もう少し、後の話だ。

 




過去編を1話だけ投稿しました。話数的にはかなり少ないですが、彼にとって1番影響がある過去編はまた後で投稿します。次回は時間軸が現在に戻ります。


次回 『目覚めの時間』
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