浅野 学真の暗殺教室   作:黒尾の狼牙

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第39話 才能の時間

◇鷹岡視点

 

よりにもよってこのガキを選ぶとは、烏間も目が曇ったな。優れた教官は集団の中の個々の実力を瞬時に見抜く。そのガキは間違いなくここの男子で最弱クラスだ。運動能力は平凡、体格と馬力は女子並み。

おまけに使うナイフは本物だ。本物のナイフを人間に向けた時、素人はそこで初めてその意味に気付き、萎縮して普段の力の一割も出せなくなる。目をつぶっても勝てる勝負だ。

さぁ、公開処刑だ!!全て攻撃をかわしてからいたぶり尽くす。生徒全員が俺に恐怖し…俺の教育に従うようにな。

 

◇学真視点

 

烏間先生は何故か渚を指名した。理由はわからない。鷹岡にナイフを当てるなら、もっと強い奴を当てた方が無難だと思う。けど…このクラスで鷹岡にナイフを当てれる奴はいない。あそこまでフルボッコにやられたら思い知る。多分無理だと。

烏間先生の事だから、その事も分かっている筈だ。鷹岡の実力も、俺たちの実力も知っている。その事を分かっていながら、敢えて渚を選んだのだろう。

クラスのみんなも不安そうに渚の様子を見ている。恐らく俺もそんな風に見えるだろう。

そうしていくうちに、渚と鷹岡の勝負が始まった。

 

 

 

 

◇渚視点

 

僕は、ナイフを持って鷹岡先生に向かい合っている。けど、本物のナイフを持ってどう動けば良いのか分からなくて、困っていた。その時、僕は烏間先生の言葉を思い出していた。

 

『ナイフを当てるか寸止めすれば君の勝ち。君を素手で制圧すれば鷹岡の勝ち。それが奴の決めたルールだ。だがこの勝負。君と奴の最大の違いはナイフの有無じゃない。わかるか?』

『……?』

『いいか。鷹岡にとってのこの勝負は「戦闘」だ。目的が見せしめだからだ。二度と皆を逆らえなくする為には・・・攻防ともに自分の強さを見せつける必要がある。

対して君は「暗殺」だ。強さを示す必要もなく、ただ一回当てればいい。そこに君の勝機がある。

奴は君にしばらくの間好きに攻撃させるだろう。それらを見切って戦闘技術を誇示してから。じわじわと君を嬲りにかかるはずだ。つまり反撃の来ない最初の数撃が最大のチャンス。君ならそこを突けると俺は思う』

 

烏間先生は言った。強さを示す必要は無い。一回当てれば勝ちなんだと。

 

 

そうだ。闘って、勝てなくていい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺せば勝ちなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから僕は笑って、普通に歩いて近づいた。通学路を歩くみたいに普通に。

そして無警戒な鷹岡先生の腕に僕の胸が当たる。いま、僕と鷹岡先生の距離は無い。確実に、暗殺が仕掛けれる間合いになった。だから僕は鷹岡先生の首を狙って、ナイフを振った。

 

「……ッ!!」

 

ここで初めて鷹岡先生は気付いたみたいだ。自分が殺されかけている事に。

鷹岡先生はギョッとして体勢を崩した。誰だって殺されかけたらギョッとする。殺せんせーでもそうなんだから。

重心が後ろに偏ってたから、服を引っ張ったら転んだ。

僕は仕留めにかかる。正面からだと防がれるので、背後に回って確実に…

 

鷹岡先生の目を覆って、ナイフの峰を首に当てた。

 

 

「がっ…あ!」

「捕まえた」

 

 

 

◇烏間視点

 

なんて事だ…予想を遥かに上回った!!

普通の学校生活では、絶対に発掘される事のない才能!!

殺気を隠して近付く才能、殺気で相手を怯ませる才能、「本番」に物怖じしない才能!!

俺が訓練で感じた寒気は…あれが訓練じゃなく本物の暗殺だったら!!

戦闘の才能でも、暴力の才能でもない…暗殺の才能!!

これは…咲かせても良い才能なのか!?

 

「…あれ?ひょっとして烏間先生…ミネ打ちじゃダメなんでしたっけ?」

 

 

 

「そこまで!!勝負ありですよね。烏間先生。まったく・・・本物のナイフを生徒に持たすなど正気の沙汰ではありません。ケガでもしたらどうするんですか」

 

すると奴が渚くんからナイフを取り上げ、このナイフを噛み砕いた。奴の歯はどうなっている。…それにしても…

 

「やったじゃんか渚!!」

「ホッとしたよもー!!」

「大したモンだよよくあそこで本気でナイフ振れたよな」

 

「いや…烏間先生に言われた通りやっただけで。鷹岡先生強いから…本気で振らなきゃ驚かす事すらできないかなって。…いたっ!何で叩くの前原君!?」

「あ 悪い・・・ちょっと信じられなくてさ。でもサンキュな渚!!今の暗殺スカッとしたわ!!」

 

ああしてるととても彼が強くは見えない。だからこそ鷹岡はまんまと油断し反応が遅れた。暗殺者にとっては…「弱そう」な事はむしろ立派な才能なのだ。

さらに、自然に近付く体運びのセンス。敵の力量を見て急所を狙える思い切りの良さ。暗殺でしか使えない才能!!

だが、喜ぶべき事なのか?このご時世に暗殺者の才能を伸ばしたとして…E組ではともかく彼の将来にプラスになるのか?

 

「烏間先生。今回はずいぶん迷ってばかりいますねぇ。あなたらしくない」

 

奴が妙な笑い方をしている。肩に頭を乗せるとは、どういうつもりだ。

 

「…悪いか」

「いえいえ。でもね、烏間先生」

 

奴が何やら言おうとしていた時、驚くべき事が起きた。意識を取り戻した鷹岡が、渚くんの後ろに立っていた。しかも、かなり怒った様子で渚くんを睨みつけている。

 

「このガキ…父親も同然の俺に刃向かって、まぐれの勝ちがそんなに嬉しいか!もう1回だ!!今度は絶対油断しねぇ!心も体も全部残らずへし折ってやる!」

 

鷹岡を止めようと動くが、それを標的(ターゲット)に止められた。どういうつもりだ…!?

すると、鷹岡に渚くんが話し始めた。

 

「…確かに次やったら絶対に僕が負けます。

でもはっきりしたのは鷹岡先生、僕等の「担任」は殺せんせーで、僕等の「教官」は烏間先生です。これは絶対に譲れません。父親を押しつける鷹岡先生より、プロに徹する烏間先生の方が僕はあったかく感じます。

本気で僕等を強くしようとしてくれてたのは感謝してます。でもごめんなさい出て行って下さい」

 

…!

 

「先生をしてて一番嬉しい瞬間はね、迷いながら自分が与えた教えに…生徒がはっきり答えを出してくれた時です。

そして烏間先生。生徒がはっきり出した答えには…先生もはっきり応えなくてはなりませんねぇ」

 

…フン、言われなくてもそのつもりだ。

 

 

 

 

「黙っ…て聞いてりゃガキの分際で…大人になんて口を…」

 

顔をピクピクさせながら、鷹岡は渚くんに殴りかかる。その横に立ち、肘を鷹岡の顔に当てた。走り出そうとしていた勢いは足だけに働き、鷹岡は仰向けに倒れる。

 

「俺の身内が、迷惑かけてすまなかった。後の事は心配するな。俺1人で君達の教官を務めれるよう上と交渉する。いざとなれば銃で脅してでも許可をもらうさ」

「「「烏間先生!!」」」

「くっ…やらせるかそんな事!俺が先にかけあって…」

 

俺はこれから、教官の仕事をいままで通り俺が出来るように上と交渉しに行く。この仕事は、鷹岡には任せられない。さっきまではそれをしていいかどうか迷っていたが、渚くんの話を聞いて考えが変わった。

だが鷹岡も上に交渉しに行こうとする。そんな事をさせれば、上との交渉が進まなくなる。そんな事をさせるわけには…

 

 

 

 

「交渉の必要はありません」

 

 

 

すると、1人の意外な男が校庭に現れた。

 

「…理事長!?」

 

椚ヶ丘中学校の、理事長をしている浅野 學峯だ。

 

「…ご用は?」

「経営者として様子を見に来てみました。新任の先生の手腕に興味があったのでね」

 

浅野 學峯は鷹岡に歩き出して行く。まずいな…この男の教育理念からすると、E組を消耗させる鷹岡の続投を望むのか?

 

「でもね。鷹岡先生、あなたの授業はつまらなかった。

教育に恐怖は必要です。一流の教育者は恐怖を巧みに使いこなす。が、暴力でしか恐怖を与える事ができないなら…その教師は三流以下だ。

自分より強い暴力に負けた時点でそれの授業は説得力を完全に失う」

 

倒れている鷹岡の近くで座り込み、話しかけている。特に何かをしているわけではないが、彼の放つ威厳が鷹岡を鎮圧させているように見えた。

彼は紙に何かを書いて、その紙を鷹岡の口の中に突っ込んだ。

 

「解雇通知です。以後あなたはここで教える事は出来ない。

椚ヶ岡中の教師の任命権は防衛省には無い。全て私の支配下だという事をお忘れなく」

 

…浅野 學峯はそれだけを言って、校庭から去って行った。彼は解雇通知だと言った。つまり…鷹岡をクビにしたということか。

 

「くそ…くそくそくそ…くそおおおお!!」

 

口に突っ込まれた紙を噛み砕くように歯をくいしばり、鷹岡はその場から荷物を持って去って行った。

 

「鷹岡クビ…」

「ってことは、今まで通り烏間先生が…」

 

 

 

 

 

「「「やったァァァ!!!」」」

 

 

鷹岡が居なくなったことで、生徒たちは歓喜の声を上げた。彼らからしてみれば、地獄のような訓練から解放されたようなものだろう。

 

「理事長もたまには良い事するじゃんよ」

「う、うん…あっちの方がよっぽど恐いけどね」

 

杉野くんや渚くんが浅野 學峯の行動について話している。だが彼のやった事は別の意味もある。鷹岡を切る事で、誰が支配者かを明確に示した事をしたのだ。

 

「相変わらずあの人の教育は迷いが無いですねぇ」

 

いつの間に、俺の隣に移動してきた標的(ターゲット)が言った。その通りだ。あの理事長の行動には一切の迷いがない。

迷いといえば、コイツには立場上話しておかなければならない事がある。

 

「…例えばおまえは、『将来殺し屋になりたい』と()が言ったら、それでも迷わずに育てるのか?

彼自身は気付いてないが、その才能がある。おまえの暗殺に役立つかは疑問だが、人間相手なら有能な殺し屋になれるだろう」

 

それは渚くんの事だ。先ほども言った通り、渚くんは暗殺の才能がある。だがそれを育てていいのかどうか、俺は全く分からない。コイツは、どうすれば良いのか、答えを迷わず出すことが出来るのだろうか。

 

「…答えに迷うでしょうねぇ」

 

返ってきたのは、意外…というよりやはり、と思う内容だった。コイツでも、それは答えることが出来ないのか。

 

「ですが、良い教師は迷うものです。本当に自分はベストの答えを教えているのか。内心は散々迷いながら、生徒の前では毅然として教えなくてはいけない。決して迷いを悟られぬよう堂々とね。

だからこそカッコいいんです先生っていう職業は」

 

…なるほど。そういう考え方もあるか。今まで『先生』というものがどういう職業なのかはあまり分からなかったが、コイツからきいて少しだけ理解した。…癪な話だが。

 

「ところで烏間先生さ。生徒の努力で体育教師に返り咲けたし、なんか臨時報酬あってもいいんじゃない?」

「そーそー。鷹岡先生そーいうのだけは充実してたよねー」

 

中村さんと倉橋さんが何やら話しかけている。内容的に、お菓子でも要求してきているのだろうか。

 

「…フン、甘いものなど俺は知らん。財布は出すから食いたいものを街で言え」

 

財布を出すと生徒とイリーナがはしゃぎ出した。イリーナ…いつの間にそこにいる。

 

「にゃや!先生にもその報酬を…」

「えー、殺せんせーはどうなの?」

「今回はロクな活躍無かったよな」

「いやいやいや!!烏間先生に教師のやりがいを知ってもらおうと静観して…」

「放っといて行こ!烏間先生!」

「…あぁ、先に学真くんを病院に送ってからな」

 

歩き出した生徒たちについていくように歩き出す。

俺も暗殺教室で熱中(ハマ)ってしまっているのかもな。迷いながら人を育てる面白さに。

 

 

 

「あれ?学真は?」

「奥田さんが保健室で応急処置をしているんだって。暫く安静らしいよ」

「そっか…じゃあアイツの様子を見に行っとくか」

 

 

 

 

◇学真視点

 

鷹岡が親父にクビを告げられた時、矢田と奥田に言われて保健室に行った。後で病院に行くにしても、応急処置したいという事だ。

奥田は怪我の治療も出来るんだと。流石、理科(主に化学)が得意なだけはある。

 

「取り敢えず処置は終わりましたので、安静にしていてください。これから先生たちのところに行って来ますので」

 

応急処置が終わり、奥田は校庭に出かける。まぁ、バタバタしてて報告してないから、言っておくに越した事は無いだろう。

奥田が保健室から出た事で、保健室には俺と矢田だけが残っている。矢田は俺の様子を心配そうにしている。

 

改めて、今日のことを振り返ってみる。鷹岡にブチギレて喧嘩をしかけ、見事に完敗した。一発も当たらず、俺はフルボッコにやられた。

そして矢田は…俺を庇うように俺の前に立ち、鷹岡に殴られそうになっていた。烏間先生が止めたから良かったものの…手遅れだったら取り返しのつかない事になっていた。

正直に酷すぎると思った。金宮の時より酷い。暴力に走っただけじゃなくコテンパンにやられて、みんなに迷惑をかけたのだから…

 

「ごめんな、矢田」

 

俺は謝った。こういう時に俺は謝ることしか出来ない。そのこと自体も本当に情けない。

 

「ううん、学真くんは悪くないよ。学真くんは鷹岡先生に怒っただけだから」

 

別に気にしないで、と矢田が言った。別に謝る必要は無いと俺にフォローをしてくれる。その時、俺は1つ疑問に思った。

 

…なんでそんな笑顔が出せるのだろうか。

 

「なぁ、矢田…怖くないのか?」

 

俺は矢田に聞いた。いま怖くないのか、と。あんな目にあったのに、どうしていつも通りに振る舞っているのかと。

 

「…鷹岡先生が殴りかかろうとしていた時は怖かったけど…渚くんが倒してくれて少し安心したよ」

 

やはり鷹岡に殴られそうになった時は怖かったようだ。…まぁ、怖がってたのはあの時に見てて分かったし。

けど、聞きたかったのはそれではない。

 

「いや、そうじゃなくて…俺が怖くないのか?目の前で暴力を振るったんだぞ?しかも二回目だ。そんな奴の近くにいて、怖くないのか?」

 

矢田は争いごとは嫌いだった。鷹岡のやった事も、俺がやった事も乱暴なものだ。それを見れば怖がってそこから離れてしまってもおかしく無い。

なのに矢田は、怖がりながらも鷹岡の前に立った。自分が殴られると分かってて。そして今も俺のことを心配している。

思えば金宮の時もだ。暴力を振るっていた俺の姿を見たら、俺から距離を開けてもおかしくはない。それにも関わらず、俺に優しく声をかけてくれた。

何故俺を怖がらないのだろうか。それが気になってしょうがなかった。

 

「そんな事無いよ…学真くんは前原くんやみんなのために怒ったんだから。私たちのために戦ってくれる人を怖がる事なんて無いよ」

 

矢田は言った。みんなのために戦ってくれた俺を怖がる事は無いと。…なるほど、だから俺を怖がら無いということか。

 

「前も言ったけど、学真くんは凄く優しい人だよ。だから安心できる」

 

矢田は言った。優しいから安心していられると。…なるほど、だからこうして普通に接してくれるということか。

 

「それに鷹岡先生に恐れないで挑む学真くんが凄くカッコ良かったから」

 

矢田は言った。鷹岡に恐れずに挑む俺がカッコいいと。なるほど…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ん?……はい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ?…矢田…?」

 

俺が矢田に声をかけると、矢田はハッと口元を覆った。

 

いや待て。コイツなんて言った?この人は何を発した?このかたは何と仰った?

空耳とかじゃなけりゃ…聞き間違いじゃなけりゃ…

 

 

 

 

『カッコいい』とか言ってた気が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラガラガラ、と扉が開く。扉には杉野と倉橋と中村が居た。恐らくは俺の様子を見に杉野が、矢田を迎えに倉橋が、中村は…何でいるんだお前。

 

ニヤリ

 

と中村が笑った気がした。しかもからかう時のカルマと同じような感じで。すると杉野と倉橋を保健室から出して、扉を閉める。ガラガラガラ…と音を立てて。

 

 

 

 

 

 

「いやちょっと!?入ってきてソッコーで閉めないでよ!いまこの空気重いから!」

 

 

矢田が何か言いながら保健室の扉から出ていった。…中村の奴、何考えてるんだ。

そんな訳で保健室には俺だけが残った。何この孤独感。

 

ふと、もう一度矢田が言っていた言葉を思い返す。

 

『あの時の学真くん…凄くカッコ良かったから』

 

…鷹岡に立ち向かう俺のことが、カッコいいと思ったという事だろうか。俺としては自分勝手に挑戦しただけなんだが。強い奴に恐れないで立ち向かう姿がカッコ良く見えるのだろうか。…不破ならそうだと言いそうだな。

 

…カッコいいと言われるのは、何気に初めてだ。優しいと言われる事はあっても、カッコいいとは言われたことなかったな…

 

 

 

 

 

……なんか、変な感じだな。




鷹岡撃破!清々しい気分だ!


そして何やら学真くんの様子が…?




次回は1話分のオリストーリーを行います。

次回『病院の時間』
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