浅野 学真の暗殺教室   作:黒尾の狼牙

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間が空きすぎてしまいました。本当にすみません。


第40話 病院の時間

あてて…まだ傷が痛む。

俺はいま病院に入院している。鷹岡によってやられた傷を治療しに来たんだ。傷は酷いわ血が出てるわ体がヘコむわ歯は抜けるわ…ホントに悲惨だったよ。

頭が包帯巻きにされてはいるがこれでもまだ何とかなった方だ。体の方は回復した。どうも顔の傷が特に酷いからそっちの治療は長くなるんだと。

 

「少しマシになったようだね。最初ここに来た時はどうしたんだと思ったけど」

 

俺の様子を見て感想を言う男が1人いた。

 

そいつの名は、多川 秀人だ。

 

覚えているだろうか。俺が修行のために道場に通った時に、俺と一緒に門下生として修行に励んでいた男だ。

なんでそいつがいるか、てのも簡単な話だ。実はコイツ、この病院の息子なんだ。それもこんな大規模な病院を担当してるぐらいだから腕は確かだ。俺も何度かお世話になった事がある。

因みに多川はこの病院を継ぐことになるそうだ。多川はそれに反対はしない。けどいまはやりたい事があるからまだそっちの方に進展してない様子。やりたい事ってのは、八幡さんの所の修行の事だろう。

まぁそんなわけで病院のスタッフではないが、治療を受けることになった俺の様子を見に来てくれている。

 

「まぁな。顔に力を入れなければ特にどうって事はない」

「それは良かった。まぁ無理はするなよ。…それにしても、何をしてあんな大怪我をするんだよ」

 

とりあえず大丈夫だアピールをする。体は動かせるし、痛みも最初の時よりかは癒えて来た。

この病院は、本当に凄い腕の医者がいる。少なくとも怪我だらけな俺の姿を見て顔どころか眉1つも動かさなかったぐらいだ。

とは言っても理由は聞かれた。まぁ…原因を知る事は当然だ。怪我の原因によっては治療の方法が変わると聞いたことがある。

とは言っても暗殺教室の事を話すわけにもいかないから、それっぽい理由を考えるのが大変だった。とりあえずは『厄介な奴に絡まれて暴力を振るわれた』と言った。

 

「…まぁ俺が煽ったような感じだし、こうなったのはしょうがない」

「いつものことだけど、自分の体を大切にしろよ」

 

…まぁ、多川の言う通りか。今回の事はいくら何でも無茶しすぎた。いや、鷹岡に挑んだ事は間違っては無いと思うけど、その結果他人に心配かけるのは逆効果なんだよな。

それにこの治療費はかなりかかった。まぁあれだけ怪我してたし、そうなるのは当たり前だ。一応治療費は親父に払ってもらった。

あんな怖い父親だが、一応小遣いは貰ってるし、今回の事は特別にしてもらった。親父も鷹岡の事については一部始終見てたみたいだし。貰った時、『憐れだな』とでも言ってるような親父の顔に殺意が湧いたのは良い思い出だ。

 

「じゃあ俺は父さんのところに手伝いに行くから。また後でな」

 

多川はそう言って俺と別れた。そう言うわけで俺は部屋に1人でいる事になる。サビシー…

さてどうしようか。あと2日で退院とはなるがかなり暇だ。治療も受けるわけでも無いし、しないといけない物があるわけでも無い。あのタコから問題集は貰ったけど、飽きてきた。

まぁそんな事言ってもしょうがないし、売店に行って一息ついてから、病室でその問題集でも眺めるか。どうせそれ以外する事ねぇし。

 

 

そんなわけで売店に着き、飲み物を買った俺は、休憩室に行った。別に病室で飲み物を飲んでも良いんだけど、布団に座りながら飲みたくは無い。飲み物は椅子に座って飲むのが1番だ。まぁ、結局は俺がそっちの方が好きなんだと言う事なんだが…

休憩室に入ると、1人の男がいた。身長的に小学生だろうか。休憩室でボーッとしているが何してるんだろうか。

いや、そんなことよりも…

 

「ちょっと悪い。そこの椅子取りたいから少し避けてくれないか?」

「あ…ゴメンなさい」

 

そいつは休憩室で座るための椅子が置いてあるところの近くに座っていた。通路スペースがそんなに広くないから椅子を取ることが出来ない。それだとちょっと困ると思い、少し通らせてくれないかと尋ねる。

するとそいつは素直に退いてくれた。謝らなくても良いんだが…けどそいつの謝る声が少し弱々しい。声を上手く出すことが出来ないのだろうか。

まぁ退いてくれたんだから、椅子が取りやすくなった。そんなわけで鉄パイプで出来た椅子を一脚取って適当なところで椅子を組み立てる。

組み立てた椅子に座ってさっき買ったコーヒー牛乳のパックにストローを刺して飲む。結構美味しい。

飲みながら目の前の男の様子を見る。男は椅子に座り込んで何かを食べている。目がちょっと大きいな…というか、顔つきが誰かに似ている気がする。

そいつが食べてるのは何か…パンだろうか。小さくて黄色いパンを手に持っている。机の上にはそれがたくさん入っている箱が置いてある。半分以上食べてるけど…

 

ん?アレって…

 

京都に行った時に矢田が買ってきた奴じゃねぇか…?

 

「なぁ、ひょっとして矢田と…矢田 桃花と何か関係があるのか?」

「…!お姉ちゃんを知っているんですか?」

 

…なるほど、矢田の弟だったか。言われてみれば矢田に似ているな。それにしても…修学旅行はかなり前に買った物のはずだけど、恐らくは矢田が長く保つ奴を買ってきたんだろう。そしてそれを食べてるって事か。

 

「まぁ、クラスメートだしな」

「あ…という事は、E組の…?」

「…まぁな」

 

とりあえず俺が矢田のクラスメートである事を伝える。なんで知ってるのかという事を伝えないといけないし。

すると矢田の弟は少し暗い表情になった。恐らくは、E組の事を知っているんだろうな。

 

「あ、あの…お姉ちゃん、学校ではどんな様子ですか?」

 

すると矢田について聞かれた。矢田の事が気になるんだろうな。姉に似て優しいなコイツ。

 

「元気そうにしているよクラスの友達と仲良くしてる。勉強もかなり積極的に参加してるよ」

 

まぁ、矢田については率直に言う。矢田は勉強にも(暗殺にも)積極的に参加している。特にビッチ先生の話に一番興味を持って聞いている。ビッチ先生も矢田とよく話しているようだし。

 

「そう…良かった…」

 

矢田の弟はホッと安心したかのようにしている。その様子に違和感を感じた。なんか…心配の様子が異常な気がする。

 

「良かったって、どう言う事だ?」

「その…お姉ちゃんは僕のせいでE組に落ちちゃったんだ。僕の看病で授業やテストを受けなくて…それが原因で…」

 

…なるほど。矢田がE組に行ったことに責任を感じているから、矢田の事が心配になっていると言う事か。必要以上に責任を感じるところも似ているな。

まぁ…その気持ちは凄く分かる。自分のせいで周りの誰かが不幸になっていくのを見るのは辛い。

 

「そうだな…矢田…お前の姉は、自分が不幸になろうとも、弟を助けようとするからな。そんな姿を見ると、申し訳ない気持ちになるのも当然だろう。

実を言うとな。俺もお前の姉に助けられたんだ」

 

俺が言った言葉に、矢田の弟は少し驚いたような感じの顔をしている。他のところでも自分が損するような行動をしていたのかと思っているだろう。

矢田は結構お人好しだ。鷹岡から俺を庇おうとしたり、弟の看病のためにテストを休んだり、たとえ後で自分が痛い目を見ると分かっていても、困っている人を助けようとする。

そんな姿を見ると助けられている方も少し複雑な気分になる。俺はあの時そう思ったし、恐らくは矢田の弟もそう思っているだろう。だがそれで苦しむ事はしないで良い。だから俺は負担を少しでも軽くしたかった。

 

「けど俺は1つ、助けてくれた人を元気にさせる方法を知っている。それが何か分かるか?」

 

俺が矢田の弟に質問すると、少し難しそうな顔をしている。それが一体何なのかを知らないと言う事だろう。だから答えを言うことにした。

 

「感謝だ。たった一言、『ありがとう』と言うだけで良い。一生懸命助けた人がそう言うだけでとても嬉しくなるんだ」

 

俺が言ったのは、感謝する事だ。ありきたりだと思うだろう。何を今更と思うかもしれない。

けどそれで良いと俺は思っている。ありきたりで良い。当たり前で良い。それ以上の事をしようと考えるだけ無駄だ。それは痛いほど分かっているつもりだ。

 

「だから、今は甘えておけ。お前の姉は、お前がそんな悲しい顔をする事を望んでいない。だからお前は笑って、姉にお礼を言っておけ。それが、姉にとって何より嬉しい事だ。

まぁ、それだけじゃ物足りないと思うなら、お前が元気になった時にしてあげろ。不格好でもお前の姉は、とても喜ぶと思うぜ」

 

言いたい事を全て言い終えた。ちゃんとした事を言っているかどうかは分からないが、矢田の弟の不安を軽くする事が出来たならそれで良いと思う。

 

「…うん、そうだね」

 

矢田の弟は、俺の言うことにそう返した。納得したかどうかは分からないが、俺の言いたい事は一応分かったらしい。

俺はコーヒー牛乳を飲み終えた。パックをゴミ箱に捨てて俺は休憩室の扉に手をかける。

 

「まぁ、先ずは頑張って元気になれよ。お前の姉は何よりお前が元気になってくれる事を望んでいるはずだからな」

 

矢田の弟を励ますためにそう言って、俺は扉を開けて外に出た。

廊下を歩いて俺の病室に向かっていく。もともと休憩室で一息ついたら部屋で問題集を眺ることにしていたしな。

 

「お、学真、また会ったね」

 

すると前から多川がコッチに向かって歩いて来ている。なんでこんなに短い時間で同じ人に2回も会わないといけないのだろうか。

 

すると、多川の隣に1人いるのが分かった。

 

遠くから見ただけでは女性と言うことだけは分かるが、それ以外の事がわからない。だが近くに来てそいつの姿がハッキリと分かったとき、俺はフラつきそうになった。

 

この絶妙なタイミングで()()かよ…

 

 

「学真くん…?」

「矢田…」

 

 

 

 

 

「へぇ、2人はクラスメイトだったのか」

 

多川は感心しているように呟く。どうやら多川は、矢田に道案内をしていたようだ。

 

「まぁな…ここで会うとは、思わなかったけど」

「うん…学真くんはここで入院していたんだ…」

「そうだ…まぁ、後2日で退院らしいけど」

 

退院の話は、担当の医者に言われた。とりあえずは日常生活に支障なくはなったから、後はじっくり様子を見ようという事らしい。

あと2日でまたあの暗殺教室に戻れると思うと少し楽しみだ。変な話、あの教室にハマっているようなもんだしな。

 

「学真くんのクラスメイトって良い人だね。同い年でこの子みたいに礼儀正しい子なんてそういないよ」

 

多川は矢田に好印象のようだ。まぁ、E組のクラスメイトは基本的に良いやつばかりだ。例外はいるけどな。

 

「そりゃな。特に矢田は家族思いだったりするしな」

「そうだね、それに…」

 

多川が何か言おうとしているのを見て、俺と矢田は何を言うのだろうかと気にしていた。だから、多川のセリフが俺たちにはかなり驚くものだった。

 

 

 

 

「矢田さんって良い体してるよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多川が爆弾発言を発した。俺はずっこけた。俺の頭が壁に当たる。俺に15のダメージ!

 

「…っっ!???」

 

矢田の精神に150のダメージ!矢田の顔が赤くなった!

ってRPGみたいなコメント言ってる場合じゃねぇ!!

 

「ちゃんと鍛えられた体つきだし、しかもついてるだけじゃなく十分な柔らかさとハリがある。それに健康的な顔をしている。それならナニ(何)をするにしても…」

「待て待て待て待て!その口を止めろォォ!!」

 

 

「オメーはもう少し言葉を選べ!」

「いや…俺はそのまま率直に褒めたんだけど」

「言い方がマズイんだよ!それだと別の意味に聞こえるから!」

 

俺は叫ぶように多川に文句を言った。あんな言葉を聞くと周りから変な視線で見られる。矢田なんかはオーバーヒートして椅子に座ってるし。

忘れてたけど、多川は話すのがかなり下手だ。適切な言葉が選べずに凄い誤解されるような事を言う。

しかも思った事を素直に口に出すから困ったものだ。この前女性に『頰にニキビがついてるけど大丈夫か?』みたいな事を言って怒らせたと聞いたぞ。磯貝に負けず劣らずのイケメンなのに、未だに彼女ができないのはそれが明らかに原因だろう。

 

「ところでどうする?矢田さんが意識を失っているけど」

「お前のせいだよ…おーい、矢田、意識あるか?」

「ふぇ!!?あ、うん…大丈夫…」

 

どうやら意識を取り戻したようだ。どっからどう見ても大丈夫ではないが、暫く時間が経つと頭が冷えてくるだろう。

 

「まぁ、暫くしたら矢田さんは家族の見舞いに行かないと行けないから」

 

多川が言うことには、どうやら矢田は家族の見舞いに来たらしい。なるほど…ん?

 

「なぁ、その家族って、弟のことか?」

「あ、うん。ここの病院で看病してもらっているんだ」

 

やはりな…ていうかそれ以外の展開があるのだろうか。

 

「…さっき会ったよ。休憩室で」

「え、休憩室に居たの!?」

「まぁな。さっき話してきたばかりだし、まだそこにいるかもしれねぇぞ」

 

矢田の弟が休憩室にいるのを伝えると、矢田は少し驚いたようだ。まぁ、まさか病室にいるとは思わなかったんだろう。

すると矢田と多川は休憩室に向かう事になったようだ。そして何故か知らんが俺も連れて行かされている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきなんで俺が休憩室に連れて行かれたんだって気になってたが、来て正解だった。ホントウにすまん」

「まぁ、こうなる事を予測するのは経験が無いと無理だし」

 

俺と多川は矢田の弟の病室の扉の前にいた。休憩室に行ったらその途中で矢田の弟がぶっ倒れていた。多川曰く、『身体もそんなに回復していない状態で休憩室と病室の距離を歩けるわけが無い』とのこと。じゃあ行きはどうしたんだろうか。

で、廊下で倒れているだろうと予測していた多川は一緒に彼を運ぶために俺を連れて来たのだろう。

それで運び終わり、俺らは扉の外にいる。自分の醜態を晒してしまったんだ。世話をした人と一緒にいるのは少し居た堪れないだろう。

 

『ムチャしないでよ。まだそんなに歩けるほど回復してないんだから』

『うん…ごめんね、お姉ちゃん』

 

部屋の中から情けなさそうな弟の声が聞こえる。その気持ちは痛いほど分かる。あの話をして早速迷惑をかけてしまったもんな。しかもその話をした俺もいるし。

 

「飲みたいものがあれば、私が買ってきてあげるから。決してムチャはしないでね」

 

窓から部屋の様子を見ると、矢田が袋から商品を取り出して冷蔵庫に入れていた。何度もやった事があるからなのか凄く手際が良い。

 

『うん、分かったよ。ねぇ、お姉ちゃん』

 

すると弟が話し始めた。矢田は弟の言おうとしている事を書こうとしている。

 

『いつも…ありがとう』

 

…ああ、そうか。俺が言ったことをやってみたのか。矢田の弟ってかなり素直だな。俺の言った事を素直に聞いてくれるし。

それを見て矢田は少しビックリしたようで戸惑っている。ここでお礼が出てくるとは思わなかったんだろう。

 

『…ううん、私もありがとう。いつも私の言うことを聞いてくれて』

 

だがその戸惑いから直ぐに立ち直り、矢田も弟にお礼を返した。

その姉弟の様子が見てて微笑ましい。本当に良い関係だなと思う。

まぁ、羨ましいとも思うよ。俺にもアニキがいるんだが…アニキは俺のことを気にしたりはしない。常に負けている俺のことを良くは思っていないだろう。だから、俺が困っていても気にしたりはしない。

もしこんな姉がいたら、どんだけ嬉しい事だろうか…

 

『そういえばさっきお兄さんと話したんだ』

『あ、学真くんのこと?』

『うん、それで気になった事があるんだけど…』

 

矢田の姉弟が何やら俺の話をしている。ま、俺がその中身を聞く必要は無いだろう。俺はさっき多川が買ってきたお茶を飲んでいる。弟を運ぶ時に、労いの意味も兼ねて貰った。俺はそのお茶を口に含む。

 

『あのお兄さんってお姉ちゃんの彼氏さん?』

 

そのお茶はいい感じに冷えてて涼しさを感じる。濃くも無く薄くもなく、適度な味だ。

………ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブウウウウウウゥゥ!!!?」

 

 

 

 

思わず吹き出してしまった。ヤベェ、床にお茶が…!

 

『ちょ!?何言ってんの!?』

『え…でもお姉ちゃんと仲よかったし…』

 

ってあの子は何とんでも無いことを言ってんだ!?素か!?天然か!?どっちにしてもあの言葉は反則だろ!?

 

「え…恋人だったの?」

 

多川(お前)は黙ってろォ!部屋の中で矢田が違うと言ってんだろうが!

 

『違うよ!?私と学真くんはそんな関係じゃ無いし…友だちだよ!うん、友だち!』

『そうなの?でも…』

 

ヤベェ、ここに居てられねぇ…!

 

「悪りぃ、病室に戻る!」

「あ、ちょっと学真!」

 

俺は一目散にその場から離れた。後ろで多川が慌てて呼んでいるけど、ゴメン、それに答えることはできない…!

 

 

 

 

◇矢田視点

 

今日は何故か弟に驚かされてばかりな気がする。あんな笑顔でお礼を言ってくれた時は凄く驚いた。でも、その時は凄く嬉しかった。私が一生懸命頑張って来たのが意味あったんだなと思った。

でも、本当に驚かされたのはその次の言葉だった。学真くんが私の…か、彼氏なのかって質問が…

 

「違うよ!?私と学真くんはそんな関係じゃ無いし…友だちだよ!うん、友だち!」

 

弟の言ってる事を否定しようとしたけど、私は多分かなり焦っている。私と彼の関係と言われて思いついたのが『友だち』だけだった。

 

「そうなの?でも…もしそうだったら嬉しいなと思って」

 

私の弟は何故か、もしそうだったら嬉しいと言い始めた。どうして?と聞いたら答えてくれた。

 

「あのお兄さん、僕に勇気をくれたんだ。みんなを元気にさせてくれるような人だったよ。もしお姉ちゃんがお兄さんと付き合ってたら幸せになるんじゃ無いかと思ったんだ」

 

弟の話を聞いて、返せなかった。呆気にとられている。

弟の言うことはその通りだと思う。学真くんは凄く優しいし、励まされたことも助けてくれたこともあった。学真くんは本当に良い人だと思う。

 

でも、私が彼と付き合えるのだろうか。

 

だって私は…この間まで、学真くんを遠ざけて来たんだから。クラスメイトとして接してくれてはいるけど、私のことを本当に悪く思って居ないのだろうか。ひょっとすると、学真くんは私のことを怒っているのでは無いか。

 

私が、彼と一緒に幸せになれるほどの魅力はあるのだろうか。私はそれが不安でしょうがなかった。

 

 

◇学真視点

 

…マズい。

 

 

病室に戻って問題集を見ているが、内容が全く入って来ない。一度見ればその風景が頭の中に浮かび上がるはずなのに、頭の中はフワーッとしていた。頭の中で芥川龍之介が迷子になっている。

 

多分俺の顔は少し赤くなってる。

 

熱とかでは無いけど、顔だけ体温が高くなっているから、顔が赤くなった事を感じる根拠としては充分だ。

何故赤くなってるかだと?聞くなよそんなの。矢田の弟が言ったことが頭に残ってるからだ。俺が矢田の彼氏か何か言ってただろ?

それ自体は間違っているけど、それを聞いては居られなくなっていた。これがもう少し前の日に言われていたら別だっただろうなと思う。

 

実を言えば、俺は矢田の事をいままでとは別の視点で見るようになっていた。原因は、鷹岡のときだ。

 

俺が鷹岡にフルボッコにされ、鷹岡が俺にトドメをさそうかとした時に、矢田は震えながら鷹岡の前に立った。あの時は正直驚いていたが、嬉しく思った自分もいた。あんな風に誰かに守られた事が無かったから。

守ろうとしてくれた事が嬉しくて、怖くても守ろうとする姿勢が良くて、俺を励ましてくれた事が嬉しくて…そこから、矢田を見る目が変わった。これを何と言うかは大体わかる。一応2()()()だし。

でも…

 

俺には、恋愛をする資格はない。

 

例えば俺が誰かと付き合ったとして、俺はそいつを幸せにする事は出来ない。寧ろ不幸にしてしまう。そうなってしまうんなら…そうしない方が良い。




学真はなかなかくっつこうとしない男なんですよね…かなり時間がかかると思います。

次回『水泳の時間』
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