今回からオリジナルストーリーです。大体4話ぐらいかと思います。
あ、今回は学真くんはいません。
三人称視点
少し遡る。それは、学真が鷹岡にやられて、入院していたときの話だ。
ある映画が流行っていた。その映画の作品名は、『
そしてその公開日、しかも休日なのだから見にくる人が多い。その中には、見慣れた人の姿もあった。
◇渚視点
少し前に見た『流離う侍』の第2弾が上映されると聞いて、僕は映画館に行ってその映画を見ることにした。杉野がその映画を勧めてきて、第1弾のDVDを見た事がある。ストーリーも面白かったし、迫力が凄かったから、結構ハマった。
第2弾は映画館に行って見ようと思った。杉野も誘おうかと思ったけど、地域の野球チームの練習で行けなかったみたいだった。
現代にタイムスリップした侍が、現代の悪事をしている人間を粛清と言う形で打ち倒す。現代という時代が背景でありながら侍が戦うシーンはなかなか珍しいのが見どころみたいだ。
僕の町の近くには映画館が無いから、電車で映画館のある街に移動していく。今は電車から出て、映画館に向かって歩いているところだ。歩きながら、映画を観れる時を楽しみにしていた。
「引ったくりよー!誰かー!」
…けど、現実で突然、トラブルが起こった。
叫び声がする方を見ると、黒いニット帽子を被っている男が、バックを持ってかなりの速さで走って…滑っている?その靴は、ローラースケートだったのかな?
周りが振り向いても、その男を捕まえることは出来なかった。何しろ、スピードが速い上に細かな軌道変更があって、目で追いかけられるかどうかも怪しいほどだ。
その男はコッチに向かって近づいてきている。何とかして止めたいとは思っているけど、止められるかどうか不安だ。
けどそんな事は理由にならない。烏間先生がよく言っていた。強い相手に、ナイフで仕掛けるには相手の動きを先読みする事が大切だと。そのことを応用してこの男を止めないと…!
「………!」
《キキッ!ギュイ!》
「うわ!」
男が走ろうとした方に移動したは良いけど、急に進路変更をされて、ついていく事が出来なかった。
これじゃそのまま抜かれて…
《ドゴ!》
「うわ!」
突然、男が吹き飛ばされる。誰かに飛ばされたのか、体制を立て直せずに尻餅をついていた。
「窃盗とは感心しないな。大人しく返せ。今なら多めに見てやるぞ」
後ろの方から声が聞こえた。その人が、さっきの男を飛ばした人なんだと直ぐに分かる。その男に話しかけた人の姿を見ると、それは知っている人だった。
「…黒崎くん?」
そう、黒崎くんだった。椚ヶ丘中学校の制服じゃなくて、チェックの模様のシャツを着ている。黒崎くんも電車でここまで来たのだろうか。
「こんなところで会うとはな、渚」
黒崎くんは僕に話しかけて来た。いや、それよりも…
「くそがァァァ!」
吹き飛ばされた男が大きな声で叫んだ。男は懐から、ナイフを取り出している。周りの人がそれを見て、絶叫している。パニック状態だ。
男はナイフで黒崎くんを斬りかかろうと近づく。ローラースケートで滑りながら、ナイフを持っている腕を思いっきり上げて、そのまま振り下ろす。
黒崎くんはその斬撃を受けてしまう
《バン!》
なんて事はなく男の持っていたナイフを飛ばし
《ドン!》
体で男の突進を受け止めて勢いを殺し、男は倒れた。
《ギュオ!》
黒崎くんは、中指を男の喉元に突きつけた。指で首を押し込んだりはしていない。
なのに、男はそのまま気絶した。
「ナイフは持つだけでは何の脅しにも役にも立たない。貴様が握るナイフでは、俺の指一本の発する殺気の足元にも及ばん」
黒崎くんが話していても、男はそれを聞こえる筈もない。男が盗んだバックの持ち主から感謝の言葉を言われて、男は警察に連れて行かれた。
◇
「ひと段落、と言うところか」
「うん…相変わらず強いね、黒崎くんは」
警察の取り調べが終わって、黒崎くんはとりあえず一安心と言うような感じだ。喜んでいる様子も焦っている様子もなく、平静を保っている。
1年生の頃から、彼はそうだった。人に迷惑をかける事を特に嫌い、さっきみたいな事態が起きた時は粛清せずにはいられない。一緒に街に出た時に、暴走族に喧嘩をした時は肝が冷えた。
正しく生きる事を心得ながら日々を過ごしている黒崎くんは、正に模範的と言えた。本校舎に在籍していても、差別対象とされているE組を非難する事はせずに普通に接してくれている。学級委員の磯貝くんや片岡さんも、彼の事を信頼しているようだった。
熱心すぎるのが唯一の欠点で、彼は一切の手抜きを許さない。だからカルマくんとは良く喧嘩をしていた。カルマくんはサボりが多かったし。
「それにしても…僕まで貰っていいのかな?」
気になって僕は持っている封筒を見る。バックを取られた人がお礼として、僕と黒崎くんにお金を渡してくれたのだ。黒崎くんはともかく…僕まで貰う必要は無いと思うんだけど…
「何言ってる。アレはお前の手柄でもある」
「…え?」
「最初にあの男の行く手の先を防いだだろ。男はそれを見て進路変更をしたが、それが隙だ。あれだけのスピードを出しながら急に進路変更をすれば、体制が大きく崩れる。だからあの男を簡単に止められた」
…そうか。一応役には立ったんだ。
でも…僕らの標的はマッハ20の標的だ。僕はあのスピードでさえついていけなかった。役に立ったとは言っても、それじゃあの先生は殺せない。
「あ、渚ー!」
…?誰が呼んでいるんだろう。
「…あ、優里奈ちゃん!」
黒崎くんの後ろから、僕に向かって手を振っている子が見えた。それが優里奈ちゃんだと直ぐ分かった。
すると優里奈ちゃんの隣にもう1人居るのが分かった。やっぱり、この子も来ていたみたいだ。
「こんにちは、誠くん」
僕はその子に声をかける。けど返事は返ってこなかった。何処と無く上の空で、僕の声が聞こえないのかなと思ってしまう。
「誠、挨拶はしろ」
「……ちわ」
…うん、やっぱり無愛想だ。黒崎くんに言われて仕方なく挨拶したけど、彼はすごくめんどくさそうにして居る。
彼は黒崎くんの弟、黒崎
「…悪いな、躾がなってなくて」
「ううん、僕は気にしてないよ」
黒崎くんが申し訳なさそうに言う。黒崎くんからすると、礼儀がなってないのが目につくんだろう。
凄い無愛想な子だけど、去年はそうでもなかった。優里奈ちゃんと同じくらい元気な子だったし、僕とも仲良く話してくれた。
3月になってから、彼は暗くなった。その時期は確か、黒崎くんの両親が死んだ時期だ。誠くんは精神的にショックを受けて居るんだろう。黒崎くんや優里奈ちゃんはいつも通りだけど、彼はやっぱり張り切らないでいる。
それは、当たり前だと思う。突然両親がいなくなれば悔しいし、なかなか振り切れない。
「ところで、黒崎くんたちはどこに?」
「優里奈が『流離う侍』とやらを見に行きたいとかいいだしてな。映画を見に行くところだ」
「…え?僕もその映画を見に行こうとしていたけど…」
黒崎くんが何をしにここに来たのかと尋ねると、黒崎くんたちも映画を見に来たようだ。しかも見る映画も同じだ。ここまで重なる事は逆に無いよね。
「じゃあ、渚も一緒に行く、てことね!」
急に、腕を誰かに引っ張られる。右手を小さな手が引っ張っているから、誰が引っ張っているのかは直ぐに分かる。
「優里奈ちゃん?」
「一緒に行こう!1人で行くより楽しいよ!」
「あ、うん…ちょ、引っ張らないで」
優里奈ちゃんは僕の袖を引っ張って映画館に向かおうとする。一緒に行くのは賛成だけど黒崎くんたちを置いて先に言っちゃうのはマズイ。とは言っても思いっきり引っ張る訳にも行かないからそのまま連れて行かれてしまう。…こう言う時、どうすれば良いんだろう。
「…相変わらずか」
何か黒崎くんが喋った気がするけど、その意味を知ることはなく僕たちはそのまま進んで行くのだった。恐らく黒崎くんは誠くんを連れて後で合流することになるだろう。とりあえず僕は優里奈ちゃんに連れられて映画館に行く事にした。
◇
映画館に着くと、そこは沢山の人がいた。ほとんどの人は僕たちと同じように『流離う侍』を観に来たのだろう。第一弾の時もかなり大人数の人が映画館の中にいたって杉野が言っていた。
「早く買おうよ、ポップコーン」
「あ、うん…ちょっと待ってて」
結局、僕は優里奈ちゃんと2人で此処に着いてしまった。
優里奈ちゃんは早くポップコーンを買いたいみたいだ。甘いものが好きだと言っていたし。買いたい気持ちは分かるけど、黒崎くんを放って置いて良いのかな?
「あ、ほら、結構並んでいるよ」
優里奈ちゃんが指差しているのを見ると、ポップコーンを売っているところで行列が出来ているのが見えた。とは言っても1分間には買うことが出来るぐらいの長さだ。それにしても色々な人が来ている。家族連れだったり、学生だったり、サラリーマンの人だったり…多くの世帯で人気になっていることが分かる。
「おや、渚くんでは無いですか」
ポップコーンを買おうと並ぼうとしていた時に、聞き慣れた声が聞こえた。いつも教室で聞く声だから、誰が言っているのか直ぐに分かった。
「殺せんせー」
後ろを振り向くと、やっぱり殺せんせーがいた。いつも通り変装して来ている。殺せんせーもここに来たということは…
「殺せんせーも見に来たの?この映画」
「ええ勿論。第1弾の時は凄く興奮しました」
やっぱり、殺せんせーも同じ映画を見に来たようだ。『ソニック忍者』も好きだったし、ひょっとして、映画が好きなのかな?
「渚、この大きい人誰?」
優里奈ちゃんが僕に聞いてきた。優里奈ちゃんは殺せんせーの事を知らないから気になるのだろう。
「僕の担任の先生だよ」
「へー、渚の先生、随分大きいんだね」
「ヌルフフフ、初めまして。ニックネームで『殺せんせー』と言います」
「初めまして、『コロ先生』!」
殺せんせーの挨拶に優里奈ちゃんはしっかり返した。やっぱり礼儀正しい。黒崎くんがしっかりと躾をしているのがよく分かる。
それにしても、殺せんせーの漢字が『殺』と認識されていないだろうか。そうで無いと困る。この年になってそんな物騒な言葉は覚えて欲しく無いし、何より殺せんせーの事は国家機密だし…
「それにしても、この子は…?」
殺せんせーは優里奈ちゃんを見て聞いた。殺せんせーからすると、優里奈ちゃんとは初対面だ。一体誰なのか気になるのは当然かもしれない。
「黒崎 優里奈。俺の妹だよ、『殺せんせー』」
その答えは意外なところから返ってきた。どうやら、黒崎くんが追いついてきたみたいだ。
「君は……」
「一応俺も『初めまして』だな。黒崎 裕翔だ。渚とは1年2年の頃クラスメートだった」
「…ああ、ご丁寧にどうも」
黒崎くんが殺せんせーに挨拶をしている。殺せんせーは少し意外そうにしているようだけど。
そういえば…
◆修学旅行の時
「渚、黒崎って…どういう奴だ?」
修学旅行の夜、温泉に入り終わった後、学真くんが僕に聞いてきた。一応、黒崎くんについて簡単に説明はした筈だけど…
「…この前言った通りだよ。正義感が強いと言うか…正しく生きようとしている感じだよ。それがどうしたの?」
僕が彼にどうしたのかと聞くと、彼から信じられない答えが返ってきた。
「いやさ…アイツ、殺せんせーの事を知ってるんだよ」
最初は、聞き間違いかなと思った。でも、聞き間違いではないと直ぐに分かった。学真くんは真剣にそう言ったと言うのが分かった
「だから気になるんだよ。俺はアイツの事をよく知らないけど、とんでもなくヤバい奴じゃ無いのか、てな…」
◇現在
黒崎くんは殺せんせーの事を知っている…それを学真くんから聞いた。だとすれば、黒崎くんは殺せんせーが来年の3月に地球を爆発する事も分かっているかもしれない。
けど黒崎くんは殺せんせーに仕掛けようとはしない。
地球を爆発する生物である事を知らない…とは思えない。徹底的な黒崎くんの事だし、気になる事があると徹底的に調べるから。
でも…じゃあなぜ黒崎くんは殺せんせーに何も仕掛けようとしないんだろう。
「渚、なにボーッとしているの?もう直ぐ始まるよ」
「あ、ごめん…ちょっと考え事を…」
優里奈ちゃんに言われて意識を取り戻す。そうだった。折角映画を見にきたんだから楽しまないとね。
「席なら俺がとっておく。サッサと自分の欲しいものを買ってこい」
黒崎くんが優里奈ちゃんに小銭を渡す。その後、誠くんを連れて映画館に入っていった。
「殺せんせーは?」
「先生は買うものは買ってますので、先生も入ります」
殺せんせーも中に入るようだ。だから僕と優里奈ちゃんがそこに残った。じゃあ急いで買わないと…
◇
映画はやっぱり凄かった。DVDで見たときも凄かったけど、大画面で見るとやっぱり迫力が違う。
現代にタイムスリップしてしまった侍の戦闘シーンは特に印象に残る。侍は現代日本でも憧れるし、それを取り扱うドラマや映画ではその凄さを実感する。
この映画は、敵が現代のギャングなどが多いから、銃を使う敵がほとんどだ。その珍しい対立もこの映画の見どころだ。第1弾では侍が少し戸惑うシーンがあったけど、後半で銃弾の合間を縫って間合いを詰めるシーンがあった時は色々とビックリした。
優里奈ちゃんも楽しそうだ。黒崎くんが言うには、優里奈ちゃんはヒーロー物が好きらしい。だからこう言うアクション系の映画は結構楽しそうに見ている。
誠くんはボーッと見ている。映画はあまり好きじゃないと言っていたし、退屈なんだろう。
黒崎くんはシッカリ見ている。映画を結構楽しんでいるようだ。
周りの人は黒崎くんは堅物でアニメとかは見ない人だとよく誤解されるけど(僕も昔はそうだったけど…)黒崎くんは結構余暇を楽しむ性格だ。特にアニメとかはよく見ている。黒崎くん曰く『楽しむ事が興味を深めること』だそうだ。アニメのキャラクターに影響されるので、時々おかしな発言をする時があるけど…
殺せんせーは…相変わらずだ。ストーリーを楽しんでいると言うよりも、ヒロインを見て楽しんでいる。巨乳の女性俳優がヒロインをしているから、殺せんせーは気に入っているらしい。この間『ソニック忍者』を見たときも、巨乳の女性俳優目当てだったことを覚えている。
『ここにお前の味方は居ない。お前はただ1人で死ぬんだよ』
主人公である侍が追い詰められている。悪役の1人がその侍に言っていた。
『味方など、最初から居ない…拙者は既に1人だ』
◇
「面白かったね、渚」
「うん…第3弾も楽しみになるね」
映画が終わり、優里奈ちゃんは結構満足そうに言った。その気持ちはわかる。僕も楽しかったし。
「誠くんはどうだった?」
「…ま、良かったと思います…」
誠くんに映画の感想について聞いたけど、ぶっきらぼうに答えられた。まぁ…誠くんはアクションというか、映画は基本的に好きじゃないし、どうでも良いと思っているんだろうな…
「たった1人で戦い抜ける強い意志…なんと素晴らしい精神力なのでしょう」
「…殺せんせーは相変わらずだね」
殺せんせーは凄く号泣している。ソニック忍者もそうだったけど、殺せんせーは意外に涙脆い。
恐らくは侍のあのセリフに感動しているんだろう。確か…『拙者は既に1人だ』だったっけ。
現代にタイムスリップする前もその侍は仲間が1人もいなくて、しかも確か犯罪者として追われていたという設定だった。だからあのセリフを言ったんだろう。
「そういえば、黒崎くんはどうだった?」
折角だし、黒崎くんの感想も聞こうと振り向くと、少し驚く事があった。
「…泣かせるじゃねぇか」
そうだった…
黒崎くん、こういう系統に弱かった…
黒崎の弱点2 感動モノに弱い
「お兄ちゃん、折角だしゲームセンターで遊んで良い?」
優里奈ちゃんが黒崎くんにゲームセンターに遊びに行っても良いか尋ねている。まぁ…小学2年生なら当然かな。
「…1時間だけな。それ以降は何と言っても連れ戻す」
「はーい」
優里奈ちゃんは黒崎くんからお金を貰った。黒崎くんがまるで親のように行動している。
「じゃあ渚、一緒に行こう!」
「えっ、あっ…ちょ」
「…まぁ渚と一緒なら大丈夫だろう。付き合ってやってくれ。ついでだ。誠も一緒に行ってこい」
優里奈ちゃんは僕の袖を掴んで一緒に行こうとする。なんで僕と一緒なんだろうか。
黒崎くんはアッサリと認め、誠くんもついてきた。…アレ?子守を押し付けられた?
でも、黒崎くんはいつも2人を支えている訳だし、今日ぐらいは負担を減らしても良いかもしれない。
「じゃ、行こっか。優里奈ちゃん、誠くん」
優里奈ちゃんと誠くんを連れて、ゲームセンターに向かった。
◇三人称視点
渚と優里奈と誠が一緒にゲームセンターに向かって行き、そこには殺せんせーと黒崎が残っている。
「黒崎くん、よろしければお話良いですか?」
「…あぁ」
殺せんせーが黒崎を誘う。黒崎はアッサリ認めた。特に断る理由がなければ、その誘いを受ける、彼なりの考え方だ。
「…まずは黒崎くん。どこまで知っていますか?」
先に話しかけたのは、殺せんせーだ。どこまで知っているか、という抽象的すぎる問い。だが何について聞いているのかは分かる。殺せんせーの事だ。
「…月の事、来年の3月に起きる事、お前がE組の担任をしている事、暗殺の事…ぐらいだ」
黒崎は殺せんせーの問いに出来る限り答えた。場所が場所なので、言葉は選んでいるが。
情報量はE組の生徒が知っている事と同じ量…
「情報源は黙秘しますか?」
「……ああ」
殺せんせーの問いに頷いて返す。流石に教えるつもりはない。それは殺せんせーもなんとなく分かっていた。情報源を教えるという事は自分の秘密がバレる可能性を含む。
「分かりました。詳しい事は聞きません」
殺せんせーはそれ以上追及する事を辞めた。別に黒崎の秘密を知りたい訳ではない。黒崎が話したくないのであれば、無理に話させる必要はない。
「ただ、1つだけ聞かせてください。君は私を、どう思っていますか?」
殺せんせーは黒崎にそれだけ聞いた。
来年以降に地球を爆発するという危険生物であるならば、排除しようと動くのが定石…否、当たり前の行為だ。
にも関わらず、黒崎は殺せんせーを排除しようと動かない。今日の映画にしても、殺せんせーに対して仕掛ける様子は全くなかった。
どう思ってそうしないのか、それだけを殺せんせーは聞きたかった。そのために、殺せんせーに対してどう思っているかを聞いた。
「…少なくとも、敵では無いと認識している」
黒崎は話し始めた。殺せんせーをどう思っているかについて。「敵では無い」という一言が、黒崎の印象の全てだった。
「中間テスト前に、渚を見たことがあった。俺の知っている渚は、他人を脅すほどの実力は持っていなかった。だがあの日、渚は本校舎の生徒を黙らせた。あの『殺気』は…お前が育てたんだな」
「…ええ、私も目にしました」
「どんな力であれ、それを身につけさせる事が出来る教師を敵とは思えない。それだけだ」
黒崎は集会の時に、渚を見ているのだ。そして彼が、本校舎の2人の生徒を黙らせた。
2年生の頃の彼なら、カルマのような反撃はしないものの、それを耐える事しかしなかった。だから、あの時生徒を黙らせた渚が、衝撃的だった。
その殺気を育てた殺せんせーを、黒崎は敵としては見ない。生物としては厄介ではあるものの、教師としては滅多にいない凄腕の教師だ。
「…分かりました。それだけ聞ければ充分です。よければこれからも、E組の生徒たちと、親友として関わってください」
「…そのつもりだ」
黒崎と殺せんせーが握手を交わす。互いにクラスが違う生徒と教師、彼らが仲良くなるというのはかなり珍しい感じであった。
「それよりも、あんたの耳に入れておかないといけない事がある」
急に話題が変わった。唐突であるが、同時に、深刻そうな表情になっている黒崎を見て、殺せんせーは黒崎の話に耳を傾ける。
「畑崎中学…を知っているか?」
「えぇ、知っています。一応この地域全体の学校は知っていますので」
畑崎中学、その中学の事を殺せんせーは知っていた。その地域における、公立中学校で、中学受験をしない生徒は大抵その中学校に行く。その中学校の事を知らない筈がない。しかも、その中学校は、
「なら良い。俺の話したい事なんだが…」
殺せんせーの台詞を聞いて、黒崎は話し始めた。
「そこに通っていた俺の知り合いが、椚ヶ丘中学のE組に近いうちに行く事になった」
黒崎が話して暫く沈黙が続く。
転校生が来る。それは、烏間から言われていたので知っていた。恐らくは暗殺者の戦力として入れるつもりなのだと言う事は分かった。
だが、驚くべき事が別にあった。律にしてもイトナにしても、暗殺者として用意された人材であった。だが今回は畑崎中学からの転校生…つまり、一般の転校生という事だ。
「黒崎くんの知り合い…ですか。その子とは親しいのですか?」
「いや、知り合いになったのは4月ごろだ。そんなに詳しいわけでは無い。
だが気をつけろ。奴は
黒崎の忠告を聞いて、殺せんせーは不安の空気を感じた。黒崎ほどの実力者が厄介という生徒…今までより厄介な展開になる予感だけ感じた。
暫くして殺せんせーはその場から消えていった。あくまで映画を見に来ただけであり、他の用事をしに行くのだろう。それが、もう直ぐ発売期間が終わるデザートの買い物に行くという事を、黒崎は知るよしもなかった。
「行ったぞ。出てこい」
周りに人の姿が無いにも関わらず、黒崎は声をかけた。すると彼のもとに1人の男が現れた。
「…アレが『殺せんせー』か…想像していたより普通の姿だったな」
その男が話しかけた。殺せんせーの姿を『普通の姿』と言う所から、この男は、一体どのような姿を想像していたと言うのだろう。
黒崎が映画に来たのは、優里奈たちの付き添い以外にもう1つあった。それは、この男を殺せんせーに会わせる事だ。
黄色い生物が、この映画館に出没すると言う噂を小耳に挟み、学校が無い日にこの映画館に来て様子を見た所、新しい映画が公開される日の後の休日に、主に昼に来る傾向がある事に気付いた。
そして優里奈が好んでいた『流離う侍』の公開の後の休日に、優里奈と誠を連れて昼の時間の上映時間に映画館に来た。そして、この男にも、殺せんせーに会わせるために呼んだのである。勿論、渚が同じ時間に来ていたのは想定外ではあったが。
「…数週間後、お前はE組に転入する。そこから先はお前の仕事だ」
その男に黒崎は言う。ここから先は彼は干渉出来ない。その男自身の力のみで戦わないといけない。
「勿論だ。失敗はしない」
男は自信満々に言う。
ふと、映画を見終わった男女一組が男の後ろを通って行った。だがその女性の着ていたセーターの一部がほつれている。そう注意しなければ、気づかないほどの糸が飛び出ているだけだった。
だが後ろを通っていく瞬間、『何か』が風のように移動して、飛び出ていた糸が完全に切り取られていた。
「目的のためなら…どのような生物でも切り裂いてみせる」
現代では、侍は存在しない。それこそ、映画のようなフィクションでない限りは。
だが、それに近い存在はいる。
この男は、正に
侍という言葉が似合う、剣術の使い手だ。
漸く出すことが出来る…3人目の転校生です。前々から出す出すと言ってかなり時間がかかってしまいました。
この転校生とはどのような人物なのか、次回お楽しみに。
次回『驚嘆する時間』