浅野 学真の暗殺教室   作:黒尾の狼牙

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お待たせしました…もう一つの小説に時間をかけてました。




第49話 霧宮の時間

畑崎中学校、コレと言った特徴のない1つの中学校。俺はその1人の生徒だった。

 

学校の中で、俺はコレと言った特徴が無い生徒だった。顔がいいわけでもなく、成績は最底辺に近い方、運動能力は高いがスポーツは苦手…殆どの分野で良い成績を出すことが出来なかった。

 

先生は言った。これでは将来困ると。級友は言った。取り柄が無いと。

それでも構わなかった。俺は別に、社会に居場所がなくても困らないと。

 

 

 

 

 

「凄いな拓郎は」

「まさに天才ね」

「俺らも鼻が高いよ」

 

父親が師範をしているこの道場で、多くの門下生を打ち負かしてきた俺に絶賛の声が出た。子どもの頃から憧れていた剣術に、見よう見まねで練習して…師範の父には敵わないが、父の域に達するまであと少しだと実感した。

 

俺の居場所はここにある。心の底からそう思っていた。

 

 

 

 

この道場で、もっと剣を極めよう…そう誓った。

 

 

 

 

 

 

 

◇学真視点

 

目の前の男、霧宮に立ち向かう訳だが、下手をすれば死に繋がる。なんで命がかかるんだって文句を言いたくなるが、今はそんな事を言ってられない。コイツは本気だから。

 

「霧宮、お前がその刀を使うんなら、俺はコレを使うぞ」

 

俺はカバンの中から、対先生用ナイフを取り出した。殺傷力がゼロに近いが、俺はコイツを殺すつもりはない。俺の目的は、コイツに認めさせる事だ。

 

「ルールを決めようぜ。俺がお前にコイツを当てたら、俺の勝ち。その時点でお前の暗殺は諦めてもらう」

「…良いだろう。もしお前に当てられたなら、俺にあの標的を暗殺する資格はないという事だからな」

 

話し合いが終わった。取り敢えずは理解してもらったようだ。コイツは俺を殺す事を目的としていて、俺はコイツを殺す事を目的としていない。目的が違うもの同士の対決は、どこを落としどころにするかをハッキリさせておかないと、いつまで経っても平行線のぶつかり合いをしてしまう恐れがあるからな。

 

 

 

 

 

 

 

「学真くん、本当に大丈夫なの?」

 

話し合いをしている最中の俺に、誰かが話しかけた。ソイツは、矢田だった。かなり心配そうにしてるようだ。

この対決には、俺が死ぬという結果が含まれている。心配するのは当然だ。

 

「…仕方ねぇよ。アイツを正気に戻すためには、コッチがリスクを負わないといけない」

「……でも…」

 

矢田はやっぱり納得していない。他人思いなコイツの事だ。理解はしていても認めたくは無いだろう。

こんな時に、『大丈夫だ』とか言えれば良いんだろうけど…根拠のない事を言うのはあまり好きじゃないから、とても言えない。漫画の主人公とかを見ると本当にスゴいと思う。

じゃあ何を言ったら良いのだろうか。俺には、コレしか言えなかった。

 

 

 

 

 

 

「取り返しのつかない事になる事も分かっている。けど、ここでひいたら、俺は絶対に後悔する」

 

 

 

 

後悔する行動はしたくない。それが俺の本音だ。霧宮のところに来たのも、この勝負を受けてたったのも、俺がそうしないと気が済まない。

ワガママだってのは分かっている。けど、ワガママに生きなければ、自分が損するだけだ。

 

俺の言葉に納得したのか、矢田は後ろに下がった。取り敢えずはコッチの心配はしなくても良いみたいだ。

 

「終わったか」

「…待っててくれたのか。それはありがたいな」

 

霧宮は待っててくれたのか。まぁ、気が逸れた時に仕掛けてくるかと警戒していたが、何もしてこなかったのは意外だった。

 

「勝負を受けて立つと言った者に、不意打ちを仕掛けるのは好きではない」

 

…なるほど、暗殺なら不意打ちは仕掛けるけど、勝負ではそうしない。根っこからの勝負人気質って奴か。本当に侍…ていうか武士みたいだな。

 

それだけの会話をして、霧宮は構えた。刀は左に持っている。基本左手を使って、いざという時に右手に持ち替えるつもりだろう。

力の差は歴然としている。霧宮は道場の師範の息子、コッチは剣術…ナイフの扱いとか体術は齧り程度だ。圧倒的にあちらに士気がある。

力で劣るなら、頭を使うしかないだろう。今日一日中観察して、霧宮には大きな弱点がある事が分かった。そこをつくしかない。肝心なのはそのタイミングだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくぞ」

 

 

 

 

 

 

霧宮がそう言った。勝負開始の合図というところだ。それだけで緊張感が高まっていくのを感じる。

霧宮が最初に斬りかかって来た。振りかぶってくる刀の腕を押さえる。速さでは負けているから、ある程度先読みしないと追いつかない。

上手く防いだ後、腕を押さえた手とは別の腕を使って、ナイフで仕掛ける。観察力が高いからなのか、そのナイフをギリギリで躱された。

ナイフを振る方に力を入れたせいで、押さえつけていた霧宮の手が解かれた。横一線、勢いよく振る霧宮の刀を屈んで回避する。

だが視界はそのまま霧宮の方を向いたままだ。コイツの1番厄介なところは、連続して斬撃を繰り出してくるところだ。霧宮の動きを見失えば、あっという間に斬られてしまうからな。

やはり連続して刀を振ってきた。少し前と同じように、一方的に俺が攻撃を避け続けていく形になっていった。

 

 

 

◇第三者視点

 

学真と霧宮の一騎打ちを見届けている生徒たち、彼らの視線の先は霧宮の攻撃を避け続けている学真の姿だ。一見互角そうだが、経験は当然霧宮の方が持っており、学真に不利だ。

 

「なぁ…いまは無理だけど、霧宮が隙を見せた時に全員で押さえかかれば良いんじゃねぇか?」

 

その様子を見続けていた村松が話した。霧宮は目の前の学真に集中しており、他の生徒からは気が逸れている。今のうちに霧宮を押さえつけれる場所まで移動して、いざという時に押さえつければ良いんじゃないのか…そう提案した。

 

多くの生徒は、それに納得した。それは、学真に怪我を負わせないかつ、霧宮を押さえる最善の方法だ。

 

「いやダメでしょ。それじゃ納得しない」

 

だが1人の男は賛成しなかった。その男、カルマは村松の言うことに賛成出来なかった。

 

「な、納得しないといっても、押さえないとしょうがないだろ。いまの霧宮を説得する方法なんて…」

 

吉田は言った。霧宮が納得するしないの問題ではない。霧宮がやろうとしているのは学真を殺そうとしていることで、取り返しがつかない行動だ。

ましていまの霧宮は冷静に話を聞ける状態ではない。穏便に話を済ませようとしても無理であり、止めるなら力づくでないと不可能だろうと。

だがカルマは、首を振った。

 

「霧宮が、じゃない。学真が納得しないんだよ。

アイツ、スイッチ入ると妙なところに拘りが出るからさ。その状態で俺らが止めても、アイツは多分止まらない。不完全燃焼のままになる。

ああなると本人が納得するところまでやらせるしかないよ。勿論命の危険になると助けに行くつもりだけど、そうでないなら見守るしかないよ」

 

カルマの言葉を聞いて、数人の生徒は思い当たるものがあった。

それは、とあるデパートで学真が金宮に襲いかかった時だった。学真は金宮に強く怒り、磯貝らの制止を聞かなかった事がある。その時カルマは、学真は一線を越えると納得するところまでしないと気が済まない性格があると認識した。

金宮の時は問題に繋がりかねないから力づくで止めたが、今回は霧宮を納得させることを目的に動いている。その状態の彼を止めても何にもならない。何かしら変化が起こらない限りは、見物に徹するのが良いだろうと考えている。

 

そんな話し合いが進んでいる間も、霧宮と学真の戦いも変化が生じ始めた。

 

 

 

 

◆霧宮視点

 

いつも通り、学校に通い始めていた。学校に行きたい理由はないが、学校には行かないといけないと言われて、通っている。今日もまた、退屈な時間が始まる。そう思っていた。

 

だが、その日はいつも通りでは無かった。

 

 

 

 

【バリィィィン!!】

 

 

 

 

 

ガラスが割れる音がしたかと思うと、目の前に、誰かが立った。

姿は分からない。黒い覆面で顔を覆っており、その姿を隠すように全身を隠していた。

その右手には、ガラスを割ったであろう武器を持っている。

 

 

 

悲鳴がなる。それは周りの生徒の声だ。

 

 

 

俺は悲鳴さえ出せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

戸惑っていたからだ。いつも通りでないこの現状に、どう対処していけば良いか分からない。

刀や木刀で戦う練習はした筈なのに、どう戦えば良いのかが思いつかない。

 

 

どうすれば良い、どうすれば良い、どうすれば…

 

 

 

 

 

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 

聞くに耐えない叫び声が響く。目の前の男が叫んだ。

その声に、漸く意識を取り戻した時は遅かった。その男は既に俺の前に近づいていたのだから。

 

その男は俺に向かってその武器を振りかぶり…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《バコン!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

反射的に、中途半端に避けようとした俺の右腕に武器をぶつけた。感じたのは、右手に走る激痛…

 

 

そして、右腕の感覚がなくなった実感だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺に襲いかかったあの人物は、先生がこちらに来た時に学校の外に逃げ出し、行方を絡ませている。

被害者である俺は、先生に言われて病院で審査された。

審査結果は、骨折だった。骨が折れているためまともに動かす事が出来ないらしい。

完治まで、1年かかると言われた。病院で治療して、骨の位置を直し、完全に固定されるまで暫く腕を酷使せずにいるべきだと。だから腕自体は問題がない。

 

「ダメだ。お前はもう、ここを継がせる訳にはいかん」

 

だが師範である父は、腕についての現状を聞いた時にそう言った。

 

「と…師範!どういう事で…」

「刀を振る腕が使えなくなったお前に、ここを継がせる訳にはいかないだろう」

「…!今だけの話です。腕が元に戻った時には更なる研鑽に励んで…」

「1年も修行出来なかった奴を、後継と認めれるか」

 

…父は、俺を切り捨てた。1年修行が出来ない俺に、道場は任せられないと言った。

納得はする。俺が居ない1年の間、他の門下生は力をつける。その中に、後釜を狙っている者もいる。そんな中、1年間も修行が出来なかった俺が後継になるというのは、納得はしないだろう。

だから、後継として認めない。その判断は間違っている訳ではない。

 

 

 

 

だが、後継になれない俺には、何も残らない。

勉強も、運動も、剣術以外の才能がない俺が、父の道場の後継にならなければ、俺という存在には何の意味もない。

 

 

嫌だ…嫌だ…嫌だ…

 

 

 

 

 

あの道場の後継以外に、俺の居場所はない。それを失えば…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「世界を救う英雄になる気はあるか」

 

 

1人の男が、蹲っている俺に話しかけた。その男は、4月に父と知り合いになり、同時に俺とも知り合いになった。

俺の事情を知った彼は、俺にその話を持ち出した。いま世界で抱えている危険因子、それを殺せば、百億という成功報酬が得られると。

 

その話を聞いて、いてもたってもいられなくなった。日本では1ヶ月でも、外国の病院に行けばもっと短い時間で完治するかもしれない。

 

世界を救った実績と、報酬による腕の速い完治があれば、あの道場に戻れるかもしれない。

 

なりふり構ってはいられない。だって俺は戻らないと行けないから。

 

 

 

俺は、あの居場所に戻らないといけないんだ…!

 

 

 

 

 

◇学真視点

 

時間としてはかなりかかったと思う。それなりに耐えている…そう実感している。けど、俺が不利である状況は変わっていなくて、長引くだけ寧ろ不利になっていく、そんな流れが出来つつあった。

 

この状況を打開するためには、こちらから仕掛けないといけない。そう思った時から、既に行動は始まっていた。霧宮の足を払うように踏み込む。足に攻撃が来るのかと思った霧宮は足の防御に集中していた。そのせいで俺の腕の動きから意識が抜けている。

霧宮の足のすぐ側に足を踏みとどまらせて、ナイフを霧宮の頭目掛けてナイフを振る。

躱すために後ろに下がろうとしていたようだが、距離を開けることを許すつもりはない。霧宮が下がったぶんだけ前に詰めて至近距離を維持する。ナイフと刀なら、至近距離の方が有利になる。

 

ブン、と空気を切る音がした。恐らくは躱されたんだろう。だがそれは分かっていた。今の1発目で当たるだろうとは思っていない。ここから何回か攻撃を繰り返して、こちらが有利になるようにしていく。

大振りはせず、小さくナイフを振ることで、続けて攻撃をすることが出来るようにする。攻撃を躱されれば、間を置かずに次の攻撃を出す。隙を見せれば、折角詰めた至近距離から離れて、あっという間に形勢逆転される。

 

暫く攻撃をしつづける。先ほどから躱され続けてはいるが、問題ではない。

 

 

 

 

 

当てる事が目的では無い。

 

 

「ふっ!」

 

誘導が目的だからだ。

 

「…!」

 

先ほどまでナイフを振る戦術から、ナイフを一旦引いて真っ直ぐ剣先を霧宮に向かって伸ばす。いわゆる、『突き』という奴だ。

先ほどまで縦横方向に、最小限に避けていたのが続いていたせいで、咄嗟に繰り出した突きの反応が少し遅れた。体の中心に向かって伸びていくそれを躱すなら、小さな回避で躱せる筈がない。

 

「……ぐ!」

 

渾身の力を振り絞って、後ろに傾けた。けど咄嗟の反応だったせいで、体が後ろに倒れている。相手の体制が大きく崩れている。攻撃するなら今しかない。

突き出していたナイフを、自分の方に引き寄せて、遠くに倒れている霧宮に向かって突っ込む。体制が崩れた霧宮に向かってナイフを当てる。それが俺の作戦だ。

 

 

 

 

 

 

 

だが、それは甘い判断だった。

 

 

 

 

 

 

「な…!?」

 

 

後ろに傾いていた筈の霧宮は、まだ動いていなかった足を使い、一歩半ほど後ろに飛んだ。飛んでから着陸する間に、霧宮は体制を立て直し、地に足をつける。崩れたかのように思えた体制を、一瞬で元に戻した。

 

「継ぎ足という。剣術の修行を長年やってきた者が、簡単に体制を崩すと思ったか」

 

…ウッカリしていた。武術を心得ている奴が、そう簡単に隙を見せる筈がない。少し崩れたとしても直ぐに立て直せる術を持っていたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「そしてその距離は、俺の攻撃範囲だ」

 

 

…不味い。霧宮は刀を右手に持ち替えている。あの高速斬撃かよ。

霧宮が後ろに飛んだことで、先ほどまで詰めていた距離が離れている。この距離だと、あの刀で一刀両断される。

前に飛び込みすぎたせいで距離を開けることも出来ない。距離を詰めて回避するにしても間に合わない。

 

将棋でいえば、詰みになっている状態だ。相手の攻撃を回避する術がない。このままだと、真っ二つに斬り裂かれて…

 

 

 

 

 

『さよなら、学真くん』

 

 

 

 

 

 

 

 

ふざけんな。

 

 

 

 

 

まだ償いもしていない状態で、終わってられるかよ…!

 

 

 

 

 

 

こういう時は、大抵頭に血が上っていくところだろう。

 

けど何故か、寧ろ頭が冷えていくような気がした。

 

 

 

 

 

一見、回避不可能なこの状態に…

 

 

 

 

 

 

 

打開する道が見えたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




危機一髪の学真くん、彼の運命やいかに!?

次回は霧宮編の最後のストーリーになります。

次回『必要の時間』
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