浅野 学真の暗殺教室   作:黒尾の狼牙

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霧宮編のラストストーリーです。





第50話 必要の時間

◇第三者視点

 

周りの同級生らは、とても焦っていた。学真が既にピンチだったのだから。霧宮の斬撃が繰り出され、学真は避ける事が出来ない。

いまの状況では、助けに行っても間に合わない。

 

ある生徒は、大声を上げた。何の意図があった訳ではなく、無意識に叫んでいた。

ある生徒は、目を覆った。目の前に起こる惨状を、見るのを避けるためだったのか。

 

 

一瞬で、霧宮の刀は振り抜かれた。

 

 

つまり、学真を両断した

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

訳ではなかった。

 

 

周りの生徒が見えたのは、霧宮の近くで…

 

 

 

 

 

 

 

斬られていない体のままでいる学真の姿だった。

 

 

 

 

 

 

◇霧宮視点

 

 

……馬鹿な。

 

 

 

 

この男…学真は、信じられない事をやってのけた。

 

あの状態で回避は不可能。学真の持っている武器は、対先生用のナイフ…刀を防げるものでは無い。あの斬撃を躱す事が出来ず、学真を斬り裂けると思っていた。

 

 

 

だが、学真は刀がそこまで迫っていた瞬間…

 

 

 

 

 

 

 

下からナイフを当てて、刀の軌道を晒したのだ。

 

 

 

それだけではない。刀を当てた時に、そのナイフを軸に体を1回転して、刀の軌道から身体を逃した。

流石に刀に当たったナイフと…手ばかりは躱せず、ナイフの先は斬れ、手からは血が出ているが…

 

あり得るのか…?

 

達人同士の戦闘なら、攻撃してくるところを弾くことはある。だがこの男は剣術に関しての経験はないはず。ましていまの動きは、剣術をやっていてもできるものでは無い。

 

この男は、いったい……!?

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

 

 

学真は、切れているナイフを見ている。ナイフは切れてはいるが、当てるだけならば問題はないと判断しているのだろう。

信じられない事をやってのけたと言うのに、なんで平然としていられる…いや、それ以前に…

 

 

 

 

 

 

なんで『死』を恐れない…?

 

 

 

 

 

 

「…学真、貴様何者だ」

 

 

 

 

 

命のやり取りをすると言うのに、全く怖がる様子もない。その時点で違和感は感じていたが、今みたいな死の瀬戸際であっても臆するどころか、冷静に対処する…そんな男が、普通の人間であるはずはない。

 

 

 

 

 

 

「…?ただの中学生だよ。理事長の息子という特別枠だけど」

「理事長…?」

「…そういや親父の事を知らないのか。なら言っておくぜ。俺のところの親父は普通じゃない。かなり異常だ。そのせいで、ある意味色々な力が身についてはいる」

 

 

 

…異常な、父親?それが、死に恐怖しない事に繋がるのか?

 

 

 

 

「なぁ、霧宮。お前に1つだけ聞いておきたいんだけどよ」

「…なんだ」

「道場の後継に、なんでそこまで拘るんだ?」

 

…!

 

「お前ほどの力があれば…道場の後継じゃ無くても、選択肢はあると思うぞ。その道場の補佐としても申し分ないだろうし、他の生き方も考えるという手もある。後継以外の道を選ぶという事も…考えないのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様に…何が分かる!」

 

 

 

 

…先ほどまでの困惑が、一気に消えた。その事は、どうでもいいと思ったからだ。

後継以外の道だと…!?

 

 

 

「後継になれない俺に、なんの価値があると言うのだ!」

 

 

 

怒りのままに、刀を振った。追い詰めた訳ではないから、容易に躱される。学真は後ろに下がった。

 

 

 

 

 

 

 

あの剣術以外に、俺の取り柄はない。それが全てだったからだ。勉学も、スポーツも、剣術以外の事は何1つ出来なかった。

そんな俺が他の生き方など、出来るはずもない。もともと、それだけの生き方しかしなかった。

 

父親は、俺を見限った。その時点で、俺は全てを失った。

 

だから、元に戻るためには、あの生物を殺さないといけない。そのためには、こいつらを殺さなければならない。

 

一刻も速く…戻らなければならない!

 

 

 

 

「お喋りは終わりだ…!」

 

 

 

 

 

 

容赦はしない。今度は殺す。先ほどみたいに躱されないように…!

 

 

 

 

「…そうか」

 

 

 

 

学真は、俺の攻撃に備えて、いつでも躱せるようにしている。

 

 

だが、躱させない。この短時間で、シッカリ分かった。

 

 

 

 

 

 

 

この男は、体術に関しては優れているが、力はそれほど強くはない。確かめた訳ではないが、いまのいままで力勝負を全く仕掛けなかったのがその証拠だ。

 

 

 

 

「ふっ!!」

「…うげ…!体当たり…!?」

 

刀で攻撃せずに、学真に向かって体当たりを仕掛ける。

想定外だったのか、受けきれずに飛ばされている。

あの状態では、着地は出来ない。吹き飛ばされている最中に立て直す事は不可能だ。少し後ろの方で、不時着して倒れている。

遠く離れている敵に向かって、再び距離を詰める。今度は刀で攻撃する。走った勢いをつけて、手に持っている刀で身体を貫く。先ほどのような避け方は出来ない。

 

 

これで、成功…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《バチン!》

 

 

 

 

 

顔に衝撃が走った。それによって一瞬気が逸れてしまい、刀の突きが外れてしまう。

そして、何かにつまづいてしまい、その場で横転した。自分でつけた勢いを、止める事は出来なかった。

 

視界が一変する。背中を打ってしまい、激痛がする。

 

視界が安定した時、いま何が起きたかを考えた。だが、考える余地も無かった。

 

 

 

 

 

 

「ナイフを当てたら、俺の勝ちだったよな」

 

 

 

…!まさか、さっき顔に当たったのは…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の勝ちだ。霧宮」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇学真視点

 

 

危機一髪と言えるだろう。試合として勝ちに持っていく事が出来た。

体当たりは…読んでた。流石に斬る構えじゃ無かったから、剣術以外の攻撃を警戒していた。

けど俺はわざと、不意を突かれたかのような動きをした。受け身は死ぬほど習ったし。

 

 

 

最初に言っていた、コイツの弱点は、攻めると決めた時に直進しか出来ないところだ。迷いがないという意味では長所だが、柔軟性に欠けるという事でもある。

殺せんせーに防がれた暗殺も同じだ。殺せんせーに隙が生じたとみなした瞬間、暗殺を仕掛けて防がれていた。

コイツは恐らく、疑うことをしないんだろう。斬ると決めたら迷わずに斬る…侍らしいといえば侍らしい。

殺せんせーは言った。疑うことを覚えろと。さっき騙されていた俺が言える事じゃねぇが、コイツはそれが顕著に現れていた。

 

 

 

コイツが突っ込んだ瞬間、先っぽが切れたナイフを投げた。当たったのは、運が良かったとしか言えねぇな。

『ナイフを当てたら勝ち』にしておいて助かった。もし『斬る事が出来れば勝ち』とかにしてたら、勝つ事は出来なかった。

勢い余っていた霧宮の足を引っ掛けて転ばせたのは、申し訳ない。でも、そうしないと危なかったし。

 

「…!バカな、ナイフを投げるやり方など…そんなの、剣術の戦いでは!」

「いやあるだろ。剣道とかじゃ反則だけど、戦闘なら剣を投げるという事もある。まぁ、当てる技術は剣術じゃなくて野球の技術だけど」

 

納得してないような感じだが勘弁してほしい。本当に剣術だけで戦ったら負け確定だし。

だから刀を投げる戦法を使うことにした。短い間とは言え、小さい物を狙った場所に投げるという技術は身についている。

 

 

 

 

 

 

 

「野球と言えば…大好きな野球が出来なくて苦しんでいた知り合いがいたな」

 

ふと、思い出したように話した。取り敢えず試合には勝てたのだから、いまの状態なら話を聞く状態にはなっているだろう。

 

「ソイツはよ…メジャーの有田選手に憧れていて、その選手みたいな豪速球を投げる事が出来る事を夢みてたんだ。けど、有田選手のような豪速球が流れないどころか、投げる球が遅すぎて相手選手に打たれ放題だった。結果ソイツはベンチに下ろされた。とても苦しそうにしていたよ」

 

野球部を辞めて、2年生になった頃だった。どこかの学校と戦っている野球部がいたから遠くから見ていた。その時、その知り合いが何本も打たれて、ベンチに下げられたのを見た。遠くから見ても、ソイツが苦しんでいたのが見えた。

 

「けどソイツはいま、別の才能を見つけたんだ。殺せんせーに、変化球を投げる才能があると言われて、変化球を投げる事を極めはじめたんだ。気づけば、並大抵の野球部員じゃ打てないような変化球を投げる事が出来て、とある大会で久々に完投する事が出来たんだよ」

 

けどこの校舎に来て、ソイツは変わっていた。表情もどこか明るかったし、投げ方も変わっていた。この校舎に初めて来た時、ソイツが笑顔に戻っているのが分かった。

 

「ある先生が言っていた。才能は使い方によると。自分の思いがけないところで役に立つ事もあるって。

なぁ、霧宮…」

 

一旦区切って、霧宮を見る。コイツに言わないといけない事がある。

 

 

 

 

 

 

「『自分の全てがコレしかない』とか、自分の長所を限定するなよ。道場の後継としての霧宮以外のお前に、本当に何もないわけがねぇだろうが」

 

 

 

少し前に、霧宮は言った。『後継になれない俺に、何の価値があるのか』と。その時に、自分自身に対する諦めの感情が見えた。

恐らく、道場以外に取り柄がないと思っているのだろう。自分に対して、その他の長所が見つからない。だから道場の後継に拘っていたという事だろう。

いつしか、暗殺という拠り所が無くなったら、E組の劣等感しか残らないと殺せんせーは言っていた。いまの霧宮は、まさにその状態になっていた。道場という居場所が無くなったから、自分に持てる強さが無くなったように感じたんだろう。

 

「今の戦いで見せてくれた剣術とか、殺せんせーを暗殺するために磨いたミスディレクションの技術とかもな…俺らからすれば羨ましい才能だし、心強いと思っているよ。お前ほどのスキルを身につけている奴はいないからな」

 

そんなはずは無い。それは俺らがよく分かっている。霧宮は道場の後継以外の長所がある。剣術やミスディレクションの技術…それだけじゃ無い。剣術に対する真っ直ぐな思いも、霧宮の長所だ。

決して、霧宮は劣っていない。それを、伝えようと思った。例え道場の後継になれなかったとしても、霧宮の価値が無い訳ではない。それだけは言いたかった。

そして、霧宮に1番言いたい事がある。

 

「どうしても道場が諦めきれないなら、お前の親父としっかり話しあえよ。どうすれば良いのかが分からないなら、協力してやるから。

 

だからお前も、俺たちに力を貸してくれ。お前の力が必要なんだからさ」

 

霧宮には、力になって欲しかった。誰よりも優れている剣術のセンス…それを心強く思ったのは確かだ。霧宮が仲間になってくれたなら、ナイフによる暗殺の幅が広がる。

それに、戦力になるからだけでもない。力になってほしい理由は、決まっている。

 

 

 

「お前は、れっきとしたE組の生徒だからな」

 

 

 

それ以外の理由はあるだろうか。

クラスメートになったのは偶然だ。けど、偶然であっても、理由にはなるんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…俺が本当に、お前らの役に立てるのか?」

 

 

暫く時間が経って、霧宮が言った。勿論役に立つ。そう言おうとしたが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立ちますよ。皆さんにとって必要だから、君のところに来たんですよ」

 

 

それは先に言われた。その声の主は誰なのか、確認するまでもない。当然、殺せんせーだ。どうやら戻って来たらしい。このタイミングで来るとは…色々とナイスタイミングだ。

 

 

「皆さんがここに来てくれたのは、君の事が心配だったからなんです。心配する理由は他でもない。学真くんが言った通り、君がE組の生徒だからです。

1人じゃどうしようも無いときに支え合う…それが仲間というものです。この暗殺教室に在籍している人は、全員が仲間なんですから。

先生も、君には教室に来てほしい。君は生徒なんですから」

 

どうやら殺せんせーには色々と見透かされたらしい。俺らの事情も、この現状を見ただけで分かったんだろう。観察力は強いし。

 

 

 

 

「…仲間…今まで考えた事もなかった」

 

ポツリと、霧宮が言った。仲間という事を、考えたことも無かったんだろう。

 

 

「明日から、仲間のために…そして君のために、殺しに来てくれますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。

 

そうだな。

 

 

 

 

 

殺しにくるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなのために」

 

 

 

 

霧宮は、殺せんせーに『殺す』と言った。けど、さっきまでの殺伐とした雰囲気はない。

殺意に、綺麗とか汚いとかの違いがあるとかは分からない。けど、その時の霧宮の殺意は…

 

 

 

 

 

 

清らかだった、と感じた。

 

 

 

 

 

 

取り敢えずは、一見落着と言うところか。その場で解散という事になる。とりあえずはみんな家に…

 

「学真!大丈夫かよその手!?」

 

帰らねぇか…俺がこんな怪我をしているわけだし。

 

「大丈夫だよ。止血すれば、どうってことない」

「いや大丈夫じゃねぇよ…」

 

大丈夫だアピールをしても、信用はされなかった。まぁこの状態で大丈夫だと言っている男を信じろと言う方が無理か。

 

「直ぐに手当てした方が良いですよ。放置しておく方が危険ですから」

 

殺せんせーからも直ぐに手当てするように言われる。…ここは素直に従うしかないか。

 

 

 

 

 

 

…ん?

 

 

 

 

「大丈夫?桃花ちゃん」

「う、うん…なんか、力が…」

 

 

 

 

向こうの方で倉橋と矢田が何か話している。特に矢田は座り込んでいた。一体どうしたんだ?

 

「…どうしたの?」

「桃花ちゃんがね。突然座り込んじゃって…」

 

渚が倉橋に一体どうしたのかと聞くと、倉橋が答えてくれた。どうやら矢田が倒れてしまったらしい。

 

「大丈夫か?矢田…」

 

座り込んでいる矢田に視線を合わせる為に地面に膝をついて尋ねる。一瞬そっぽ向いたけど、矢田は話してくれた。

 

「心配…してたの。霧宮くんに斬られるんじゃないかって…それで、大丈夫だったと分かると、その…気が抜けちゃって…」

 

ああ、そっか…俺を心配していたようだ。まぁ…霧宮に斬られそうになった時は俺もヒヤリとしたしな。周りのみんなは…特に矢田は気が気では無かったんだろう。

とりあえずは安心させないといけない。とは言ったものの、なんと言えば良いんだろうか…

 

「ありがとな。でも大丈夫だ。明日からいつも通りに暮らせるから」

 

これぐらいしか思いつかなかった。こういう時、パッと思いつくような人が羨ましい。

 

「うん…」

 

何とか納得してもらった。良かったよ。あんな台詞に納得してくれて。ホント、矢田の優しさには頭が上がらない。あまりにベタすぎるセリフを聞いて、少し赤くなってもそう返してきてくれて本当に助かる。

 

 

 

 

 

「…鈍いな、アイツ」

「間違いも甚だしいね…」

「青春ですねぇ…」

 

 

 

 

…外野の言っていることの意図が全く分からないけど…どう言うことだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よく頑張りましたね。学真くん」

 

治療を終えて家を出た時、殺せんせーが俺を労った。まぁ…霧宮相手にルール上勝つことができただけでも上出来と言えるだろう。

 

「まぁ…ギリギリだったけどな」

「ええ。でも、君のおかげで霧宮くんを説得することが出来ました。凄く感謝してますよ。それに…」

 

殺せんせーが何か続けようとしている。何を言おうとしているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「君は、1番最初に霧宮くんの為に動いてくれました。その事がとても嬉しいのです。

自分からやりたい事を見定めて動き出す事…それは、言葉で言うよりも難しい事です。今回のことを通じて、生徒たちは自分のしたい事の為に動く事の大切さを知り、同時に仲間のために動く事の必要さを実感するきっかけになりました。

そのきっかけになってくれた学真くんには、感謝してもしきれないほどです」

 

 

 

 

 

 

 

 

…なるほどな。どうして俺が霧宮の為に動こうと提案したことを知っているのかは知らないけど、殺せんせーにとってはそこが一番嬉しかったことのようだ。

 

 

 

「…まぁ、霧宮は仲間だしな」

「ええ、とても友達思いで、嬉しいです」

 

 

 

 

 

 

 

友達思いか…まぁ、そう思ってくれて光栄だ。何しろ、1年の頃の俺は他人に関心を持つような男じゃ無かったからな。

 

ふと、上の方を見る。周りに家がそんなに建っていないから、一面の青空が広がっているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

なぁ、日沢…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、少しはマシな奴になったかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と言うわけでオリジナルストーリー、『霧宮編』が終了しました。ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございます。

と、まぁ最終回では無いんですが…

この小説を作る時から、霧宮くんは出しておきたかったので、この話を書きました。ストーリー上、彼はかなり重要なポジションになります。素人が作った話ではありますが、読んでくれていただいただけでも嬉しい限りです。

と、言うわけで、次回から原作ルートの話を書きます。次回はいよいよ、期末テストです。

次回『目標の時間』





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