もう直ぐ全校集会が始まる。何しろ、もう1学期は終わるし。俺らE組はとうの昔に体育館に集まり、いつでも並ぶ支度は済んでいる。
周りの生徒が俺らの方をチラチラ見ながらボソボソ話している。まぁそうせずには居られないだろう。A組とE組の勝負の事も、その勝敗の話も全員聞いている筈だし。
「おーおー、やっと来たぜ、生徒会長さまがよ」
寺坂の声を聞いて入り口の方を見ると、兄貴や他の五英傑らが来ているのが見えた。表情が険しいのは見る前から分かっていたことだし、驚くことでもない。
「何か用かな。式典の準備でE組に構っている余裕なんて無いんだけど」
「おっと待て。何か忘れてんじゃねぇのか?」
寺坂を避けて通ろうとする兄貴の肩を、寺坂が掴む。まぁ、その話はシッカリとしておかないといけないわな。
「学秀、賭けてたよな。勝ったほうが一つ要求できるって。さっきメールで送ったけど、あれで構わないよな」
「勝負を吹っかけたのはテメーらだ。まさか冗談とは言わねぇよな」
磯貝が、兄貴に話しかける。俺とややこしくならないように、下の名前で呼んでいた。
磯貝が要求するのをメールで送ったみたいだ。ここまで話が広がった以上断ることは出来ないだろう。兄貴や他の奴らは苦虫を噛み潰しているような顔をしていた。
「何ならよ。5教科の中に家庭科とか入れてもいいぜ。それでも勝つけどな」
…ウゼェ
とは言っても、家庭科で100点取ったのは逆にすげぇよな…重要度が低い教科だけに、教科担当の好みで作られる傾向にある。だから本校舎で授業を受けていない俺らにはかなり不利だった。相当研究したんだろうな…
「…フン」
兄貴はそのまま歩いていく。プライドが高い兄貴の事だし、今回の事は相当傷ついているんだろうな。
「兄貴…」
「やすやすと話しかけないでくれるかな。次はこうは行かない。E組もお前も、完全に倒す」
声をかけると、バッサリと言い捨てられて離れていく。まぁ…そう言われるのは分かっていたけども。
◇
「えー、夏休みと言っても怠けずに…E組のようにならないように……」
いつものE組いじりも受けが悪い。そりゃA組の勝負に勝ってしまったとなると、いじる要素が全く無いだろう。
最初の頃に比べれば、状況が変わりつつある。みんなの様子を見ると、全員が真っ直ぐ前を向いているのが分かる。劣等感も感じず、自信に満ち溢れている。
俺も少し変わったかもしれない。A組にいた時よりも、充実していると思う。
このE組の為に、もっと頑張ろうと思った。夏休み明けには、A組を軽く超す成績を出して、みんなが喜べるようになろう。
それが、俺の任務だから。
◇
終業式が終わり、これからE組の校舎に戻ろうとしている。これ以上ここにいる意味なんて無いし。
「見事だったな。この学校を見事ひっくり返したと言えるだろう」
「…黒崎」
そんな帰っている途中の俺に、黒崎が声をかけた。
「総合3位とは、なかなかな成績を取ったものだ。E組の中でもトップなのではないか?」
「まぁな」
黒崎が言った通り、俺は今回、総合3位だった。中間に比べれば順位が2つ上がっている。考えてみれば、今回よくこの点数を出したものだよ。
1位はやっぱり兄貴で、2位は窠山だった。窠山の奴は、教科で1位は取ってないけど、全教科で上位には入っているから、総合点が高くなっている。本当に、俺たちとの勝負に勝ちにきたわけじゃないんだろうな。
黒崎は…7位だった。中間の時2位だったから、順位はかなり落ちている。けど落ち込んではいないだろう。球技大会の時のように、自分の足りないところを見直してくるんだろうな
「…それで、アイツはどうだった?」
「あー、霧宮は…」
黒崎が霧宮の事を聞いてきた。黒崎も霧宮の学力の低さを知っている筈だし、あの場で一緒に勉強していたから、気になるだろうな。
「E組の中では最下位だったよ。あれでも前よりは出来た方だ」
霧宮は今回、120位だった。E組の生徒の中では一番下の成績だ。まぁ…この学級は182人いるから、下の方じゃないといえばそうなんだけど。総合点では295点、平均して59点だ。あれでも点数は上がった方だ。
そいや関係ないけど、霧宮の次に最下位だったのは、菅谷だった。あのにせ律の隣だったせいもあって、集中が出来なかったらしい。それでも95位だから、全校で見たときはそんなに悪い成績じゃない。
「…そうか」
俺の話を聞いてどう捉えたかは分からないけど、とりあえずは納得したらしい。最下位じゃないだけでもマシ、ということか?
「それで今回の勝負の結果、どうなるんだ?」
次に出た質問は…恐らく勝負後の報酬の話だろうな。勝った方が1つだけ要求できるという話だったし。
「ああ。それはな…」
◇第三者視点
とある国で、携帯電話が鳴っている。その持ち主は、イリーナの師匠であるロヴロだ。彼はいま仕事で外国に行っているのだが、その任務はほとんど終わっていた。
「…ああ、君か」
ロヴロと話している男は、彼の知っている人物だ。殺せんせーの暗殺において重要な任務を任されており、ロヴロが殺さなかった人物だ。その男の力を、ロヴロはかなり評価している。下手な殺し屋よりも高い成果を出す男だと、彼は認識していた。
「なるほど。それは良いことを聞いた。二度もない大チャンスと言っても過言では無いだろう」
その男からの話を聞いて、口元が笑っていた。その情報はかなり有益なものだった。殺せんせーの暗殺において、それ以上の良い情報は他に無いだろう。
「ああ。そういう事だったら、喜んで協力しよう」
電話の向こうの男から、とある任務を言い渡される。それを拒む理由は無かった。寧ろ殺せんせーの暗殺が成功するためにはその任務を受けなければならないだろう。
電話を切り、その電話を懐に入れる。特に理由がない時は手ぶらで動くのが殆どだ。手に何か持っていると状況によっては仕事がしづらくなるだろう。
(そういえば…霧宮は暗殺に失敗したようだな)
ふと、彼は霧宮の事を思い出した。仕事の関係で知り合った男の息子であり、道端で死にそうな目をしながら座り込んでいるのを見て、英雄になるかどうかを尋ねた。
彼には暗殺の素質がある。それを知ったロヴロは、彼に暗殺技術を教え、あの教室に行かせることにした。望んだ結果は得られなかったものの、ターゲットを一泡吹かせる事は出来たという。もう少し育てれば、ターゲットを殺す事は可能になるだろう。
「久しぶりに会うか。暗殺に失敗してから、奴がどう変わったのかを見るとしよう」
◇
理事長室で、椚ヶ丘中学校の理事長である浅野 學峯は、終業式の様子を一部始終見ていた。A組とE組の勝負の結果、E組は前を向くようになり、それ以外の生徒は屈辱という表情をしていた。
今回の件を通して、本校舎の生徒は大きな屈辱感と危機感を持つようになった。そしてE組に対する敵意は増幅している。
それは、學峯の教育理念通りだった。彼にとって最も重視しているのは生徒の強さを育てる事であり、その為ならどのような手段であっても躊躇わない。例え怪物が担任をしようとも、E組との勝負に負けようとも、強さを育てる事が出来るならば何の問題もない。
(だが、それはあくまでエンドがエンドであってこそ)
その教育において唯一障害となるのは、弱者が強者よりも強くある事だ。強者は常に弱者に勝っておかなければならず、弱者であるE組に負け続けるのが定着してしまうのは宜しくない。
今すぐに手を打たなければならない。學峯は直ぐに手を打つ準備を始めた。
「失礼します。理事長に会いたいという人がおられるのですが…」
すると理事長室に校長先生が入ってきた。話を聞いていると、理事長に話があるという男がいるようだ。
「…分かりました。部屋に入れてください」
理事長が校長先生の話を聞き、その男を部屋に入れるように言った。校長先生がその男を部屋に入れると、理事長の表情が一瞬変わった。
「よう。久しぶりだな、學峯」
◇
退屈な終業式を終え、窠山は家に帰った。A組では五英傑や他の生徒が、E組との勝負の件について言い合いをしていたが、彼にとってはどうでも良かった。納得行かない結果であろうとも出てしまった以上はその結果を覆す事は出来ない。今さら文句や強がりを言っても後の祭りである。
もともと彼は勝負に参加するつもりは無かった。A組としての義務も、強者であるプライドも、彼にはどうでも良かった。自分がやりたい事をやれば良いというのが彼の考えである。
「お帰りなさい、若。飯は準備できてますよ」
「ありがと。でもご飯は少し後にする。先にしたい事があるし」
「ヘイ!」
家の中で、1人の男が窠山に食事の話をする。別に食事を取っても構わないが、今はしたい事が別にあった。
家の中を歩き続け、1つの部屋の中に入る。その部屋は窠山の個室であり、パソコンやテレビが置かれていた。
彼はパソコンを開き、電源を入れる。いつもは時間潰しのネットゲームをやるが、今回は別の用事があった。
ファイルを開き、その中にある一枚の写真を見る。その写真を見て、彼は笑った。良い出来に仕上がっていると思ったのだろう。
「後はコレを使えば、アイツに断る権利はなくなるね」
パソコンを操作し、とある処理をした。彼はその写真を使い、あの男に揺さぶりをかけることにしたのだ。
「思い出させてあげるよ、学真くん。本当の強者の感覚を」
◇学真視点
「1人一冊です」
教室に帰ると、殺せんせーから約1メートルの厚さの本を貰った。殺せんせー曰く、夏休みのしおりだそうだ。けど1メートルの厚さの本って邪魔でしかない。鞄に収まりそうにないし、修学旅行の時よりも手に余る。
「出たよ恒例過剰しおり」
「アコーディオンみてーだな」
「これでも足りないくらいです」
アコーディオンってのはなかなか的を得ている。ここまで分厚いとページを捲ることが出来ない。もはや開くというよりは、曲げるに近いな…
「さて、これより夏休みに入る訳ですが、皆さんにはメインイベントがありますね」
「あー、賭けで奪ったコレの事ね」
殺せんせーのいう通り、この夏休みには大きなイベントがある。A組との勝負でこちらが要求したのはまさにそれだ。
その名も『夏休み 椚ヶ丘中学校夏期講習 沖縄リゾート2泊3日』だ。簡単に言えば沖縄旅行の権利だ。
本当はそれは成績優秀クラス…つまりA組だけに与えられる特典だったんだが、今回の期末で高い成績を出しているし、今回の勝負の件もあるから、もらう権利は充分ある。
それに、これの権利を持っているA組がコレを使う事はない。夏休みの間必死こいて勉強しているか、もっと別の旅行に行ってるかのどちらかだ。だからアッサリ認められた。
「君たちの希望では、触手を破壊する権利は、この合宿中に使うという話でしたね」
そう、今回のテストで得られたもう1つの報酬である殺せんせーの触手破壊権利は、この合宿中に使おうということになった。
合宿先は、沖縄のしかも小さな島だ。当然周りは海という名の水に囲まれている。殺せんせーは水が弱点だったし、殺せんせーの動きを制限することが出来る。
「触手8本の大ハンデでも満足せず、四方を先生の苦手な水で囲まれたこの島を使い、万全に貪欲に命を狙う。
正直に認めましょう。君たちは侮れない生徒になった」
頭をかきながら(かいてるのか?)殺せんせーは侮れないと言った。暗殺対象からの素直な感想は一番励みになる。暗殺対象にここまで言わせることが出来たというのが、暗殺者にとって何よりの自信だ。
「親御さんに見せる通知表は渡しました。これは、先生から皆さんへの通信簿です!」
何枚かの紙にマッハで何かを書き、教室に放った。
紙に書いてあったのは、殺せんせーの顔が描かれている二重丸だ。教室に溢れる沢山の二重丸が、教室を華やかに明るく見せている。
「夏休みもたくさん学び、たくさん殺しましょう。暗殺教室、基礎の1学期、これにて終了!」
次回からいよいよ夏休みです。
これからあの島のイベント…ではなく、次回からまたオリジナルストーリーを書きます。
次回 『ゲームの時間』