浅野 学真の暗殺教室   作:黒尾の狼牙

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お待たせしました…かなり時間をかけてしまいました。


第61話 試合場の時間

窠山に会った日から、数日経った。やっぱりと言うか、思った通り窠山と衝突した。会う前から、何となくそんな予感はしていた。

あんな嫌らしい態度を見せる奴だけど、アイツはアイツなりに考えている。

それこそ、強者であるべきという価値観も、アイツの中でシッカリと作り上げているものだ。そこが、他の本校舎の生徒との大きな違いだ。自分で作り上げた価値観ではなく、優越感だけで色々と言うだけの生徒とは、どうしても格が違うように見えてしまう。

そういう奴だからこそ、あんな感じにぶつかったとも言える。価値観の衝突は、弱々しい考え方を持つ者で生じたりはしないしな。

 

窠山は正しい。それは認めている。社会の中で上手く生きていくために、効率的な方法を考えて動くというのは、ある意味強さだ。窠山が怒るのも無理はない。

 

けど、だからと言って譲る気もない。

 

誰に何と言われようとも、俺は自分の歩んできた道が間違っていたとは認めない。あの2人に会ったからこそ、E組のみんなに会ったからこそ、今の俺があるんだ。それが、俺にとっての正しさだ。

 

と言うわけで、譲れない考えを持つ者同士の衝突となり、窠山が持ち出してきた勝負を受ける事にした。

何しろ、証明する方法はそれでしかない。ここで俺がその勝負を受けなかったら、俺の中で納得がいかなくなる。

 

勝負は窠山が言った通りの日、つまりゲームセンターに会った日から3日後、とある武道館で格闘技で勝負する事になった。

そして今日はその前日だ。今日が終われば、いよいよ窠山と戦う事になる。そんな日に緊張せずにはいられない。

ビビっているわけじゃないが、プレッシャーは感じている。考えてみれば、こんな事滅多になかったな。小さい頃、兄貴とかに負け続けていたから、負けるのが当たり前になっていて、プレッシャーを感じなかった日々が続いていたな。

その感覚を再び思い出したということも、ある意味貴重な経験なのかもしれない。もしそれ無しで生きていたら、あまり得しなかったかもしれない。

 

そしていま現在、俺はそろそろ寝ようかなと考え始めている。時刻はもうすぐ21時。いつもだったらまだ起きていたかもしれないが、明日に備えて早めに寝たほうが良いだろう。

 

だけど、なんとなくいま寝れそうにない。

 

なんとなく気分がハッキリしているというか、少なくとも寝れるほどの状態ではない。布団に入っても眠らずにいる事になる気がする。

 

さてどうしようか。そんな事を暫く考え…

 

「…散歩するか」

 

散歩する事に決めた。何しろ眠れないほど脳が動いているのなら、外の空気を吸って落ち着かせたほうが良いかもしれない。

そういうわけで、出る準備を整えて、玄関の扉を開ける。金属で出来たその扉を押した時…

 

「あ…」

 

その扉の先にひとりの女性がいたのが見えた。しかも見ず知らずの女性では無い。それこそ、毎日のように会っている人だ。

 

「…矢田?」

 

なんで矢田が俺の部屋の前にいるんだ?こんな時間に来るのはかなり異常だし…

とはいえ、矢田は少し焦っているようだし、尋ねるのも駄目な気がする。絶対に慌てる奴だ。

 

「…上がるか?」

 

とりあえずは部屋に上がる事にした。夏とは言ってもこんな時間だし、外は寒いだろう。部屋の方が少し暖かいはずだ。

俺の言葉に従う事にしたのか、矢田は少しだけ間を置いてうなづいた。

 

 

「…ごめんね。迷惑をかけちゃって」

「気にするな。どうせ寝れなくて困ってたし」

 

矢田を部屋に上げて、居間に座らせる。何も出さないのは変だろうと思い、倉庫に入れていた紅茶の材料を取り出す。決して良いものとは言えないけど、無いよりはマシだろ。

台所で紅茶の準備を整える。紅茶は結構デリケートだし、温度や時間を間違ってしまうと味が落ちる。かなり気をつけないといけない。

作り終えた紅茶(ミルクティー)をティーカップに入れる。それをお盆に入れて、一緒に菓子を添えてテーブルの上に置いた。

 

「…大したものじゃねぇけど、どうぞ」

「あ…うん、ありがとう」

 

少し間があったのは、用意してくれた事に悪く思ってるのだろうか。まぁ俺が勝手にやってる事だから気にしなくても良いんだけど。

とりあえず俺の分に入れていた紅茶を口に含む。我ながら、結構良い出来だった。

考えてみれば紅茶には苦労した。あの親父に言われ続けて練習していたのが、今となってはここまでのレベルになった。続けてきたことって本当に力になるんだな。

 

「…!おいしい。これって…良い紅茶じゃないの?」

「そうか?まぁ悪くはないと思うけど」

 

矢田の話を聞きながら、再び紅茶を啜る。一口目と味が変わっているわけじゃないが、何となく弱くなっている気がする。俗に言う、あれだな。一口目は二度と味わえないってやつ。

 

「それでどうしたんだ?部屋の前で待っていたみたいだが」

 

とりあえず一息ついたと見て、本来聞こうと思っていた質問を投げる。少し緊張してたみたいだったし、とりあえずは落ち着かせてからということにした。

 

「…その、明日だったよね。窠山くんに言われた日って」

 

俺の質問を聞いた矢田は、少し間を開けて話し始める。やっぱり明日の話だった。っということは…

 

「…居てもたっても居られなくて、部屋の前に来たはいいものの、どうやって部屋に入れば良いのか分かんなくて困ってたとか?」

「うん…全部正解」

 

俺の予測は当たったみたいだった。しかも見事満点らしい。少し引いているように見えるのは気のせいだと信じたい。

まぁ、分からなくもない。クラスメイトが勝負すると言うと気にするなという方が難しいだろう。色々と心配してくれてるんだろうな。

 

じゃあなんて言えば良いんだろうか。大丈夫だから心配するな、と言うのは違うだろう。

かと言ってこのまま何も言わないのも悪い気がするし…

 

「学真くんは…窠山くんをどう思っているの?」

 

一人で色々と悩んでいると、矢田が話しかけて来た。なんとなく戸惑っていると言うか…少し不安になっているような声だった。

 

「どう思ってるって?」

「…窠山くんは2回しか会ったことが無いけど、私は、凄く怖いと思ったの。あの写真を脅しに使って、勝負をすることを強制させているのが、嫌だとしか思えなかった」

 

…まぁ、たしかにそうだな。俺もアイツがあんな脅迫をしてくるとは思っていなかった。しかも勝っても負けても何の得にもならないみたいだし、いつもの窠山がやるとは到底思えない行動だ。なんか裏があるんじゃ無いかって思ってしまう。

 

「わたしは窠山くんが怖い。学真くんが窠山くんと勝負することが、不安でしょうがない」

 

だいたい分かった。矢田は窠山に対して苦手意識を持っているようだった。まぁアイツは相手をバカにしているような言い方をするから無理もない。

バカにしているといえばカルマもそうなんだけど、窠山はそれとも違う。カルマは挑発しているという感じだけど、窠山は蹴落としているという感じだ。プライドが傷つくというものではなく、傷に塩を塗られているように感じる。劣等感を感じているE組のみんなには結構ダメージがあったのかもしれない。

 

と言うことは、一番最初に言っていた質問はひょっとするとその嫌悪感から来たものなのかもしれない。そしてその嫌悪感を抱くこと自体に不安を感じているのかもしれない。人によっては嫌いになるという感情を持つことを醜いように見えてしまう人もいる。嫌いという感情をあまり持ったことないだろうし、感じの良いものでもないように見えるから、それを抱いている自分に対して不信感を持っているかもしれない。

それで、窠山の敵意を向けられている俺はどう思っているのだろうと考えているのかもしれない。

 

じゃあどう答えるべきか。こういう時は相手に同情するように答えた方が良いと言うのは何となくわかる。だけど現状、大きな嘘をつく場合じゃ無いと言うのも分かる。ここまでシリアスな状態でペラペラな空論の事を言うと、自身の考えとか価値観とかがブレて、スッキリしなくなる。少なくとも俺はそういう男だ。

だから、俺の考えていることをそのまま伝える事にした。

 

「…本音を言うと、俺もアイツは好きじゃない。いちいち癪に触る言い方だし、聞いてて腹が立つ。

けどアイツの言っていることが正しいのも事実だ。筋は通っているし、実際A組の生徒になっている。

恐らくアイツは、この後もああいう生き方をするだろう。弱者に決して加担しないで、自分が得する行動を常に選択し続けるように。ああいう奴は上手な生き方をするって殺せんせーも言ってたし、俺みたいに破綻する事もないだろうし。

 

だからこそ、アイツの勝負を受けた。アイツの考えが間違っていると言うより、俺の生き方が間違ってないと証明したかったから

 

みんなに救ってくれたあの日の事を、絶対に否定したくない」

 

俺の中では、とっくに決心していた。あの時みんなが支えてくれた時から。たとえ脅されなくても、その勝負を受ける事を決めていた。

 

同時に、俺は勝ちたいと思っている。

 

窠山が喧嘩に強いことは知っているし、何より格闘技はアイツの得意分野だ。勝てる確率はかなり低い。

それでも勝ちたい。何が何でも。ここで負けると、E組のみんなに救ってもらった日のことを、間違っていると証明されてしまうようで嫌だった。

 

「…そう、なんだ……」

 

矢田は若干安心しているようだ。まぁ運が良かったと言うことだろう。最初に『窠山のことがあまり好きでは無い』と、なるべく矢田の考えを否定しないようなことが言えて少し良かった。

 

 

 

 

「いつも思うよ。E組に来れて良かったって」

 

 

 

俺が話し始めた時、矢田は驚いたような様子を見せた。まぁ突然そんな話をされても反応に困るだろう。

 

「日沢が死んだ時、自分に対しての怒りと憎しみしか無かった。もっと前なんか、その感情すらも持っていなかった。自分に誇れるものも無かったし、貫きたいものなんて無かった。そんな俺が、貫きたいものを持つようになった。

自分でも、成長しているのが分かる。そのきっかけをくれたみんなには感謝してもしきれない。

 

だからさ。みんなと一緒に入れて良かったって、堂々と思いたいんだ」

 

まぁ、あの勝負でその後の気持ちが変わるというのは変だけど、そこは気にしないで欲しいというか。

 

「…学真くんは、E組に来れて良かったって、心から思ってるんだね」

「ん?ああ。これは本心だ」

「うん。やっぱり、学真くんは凄い」

 

なんか矢田は感心しているようにうなづいている。今の会話のどこに凄いと思うような言葉があったのか。

 

「学真くんは、自分の気持ちに真っ直ぐで、それに背くような事は言わないし動こうとしない。私には、凄く難しいな…」

「…いや、俺にも難しかったぞ。何しろ、日沢や如月に会うまで、その事の大切さすら知らなかったからな」

 

誰でも出来る事ではない、と言うのはその通りなんだよな。自分の意思に従って行動すると言うのはかなり難しい。

 

 

「…あ、こんな時間…ごめん、帰るね」

 

矢田に言われて気づいた。矢田が来てから随分時間が経っている。矢田は急いで帰ろうとしていた。

 

「…一緒に行こうか?そんなに遠くないって言っていたけど、近くもないんだろ」

「え、良いよそんな…」

「けどこんな時間に1人でいると危ないだろ。ついて行くよ」

 

何しろ、もう真夜中だ。こんな時に女子を1人にさせると危ない。一生懸命断ろうとしている矢田を説得して、家まで一緒に行くことになった。

 

そして、家にたどり着く。思った通り、歩いてもそんなに時間はかからなかった。遠く離れているわけでもないし。

 

矢田は自分の家の扉に手をかけようとしていた。だが、その手を途中で止めた。

なんで止める必要があったのか。そんなことを思ったのと同時に、矢田が振り向いて俺の方を見た。

 

「…学真くん」

 

名前を言われて、返事をする事すら出来なかった。少し動揺していて、それを思いつくほどの余裕が無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「頑張ってね。応援してる」

 

 

 

 

 

 

 

その二言を矢田が言ってから、それを認識するのに、数秒の誤差があった。意識を取り戻した時には、矢田は扉を既に開けており、もう家の中に入ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

家の外に取り残されてしまった俺は、気を取り戻して自分の家の方に向かって歩き始める。これなら、そんなに遅くならないうちに家にたどり着く事が出来そうだ。

 

帰りながら、俺の頭のなかである事を思い出していた。

 

さっき矢田は、『頑張って』と言った。まぁ…応援してくれた、と言うことだろ。

応援と言えば…いままで応援される事は、あまり無かった。このE組に来てから、あのウルサいタコに言われたり、烏間先生に言われたりした。

けど、それ以前は1回も無かった。親父からとかは特に応援することも無かったし、出来たからと言って賞賛するわけでもない。むしろできなかったら貶されるぐらいだった。

まして同級生にそう言われた事は無かった。兄貴とか、A組の奴らからは出来て当然みたいな感じだったし、日沢や如月からも言われた事はない。まぁ、学校が違うんだししょうがないんだけど…

だから、同級生で褒めてくれたのは、矢田が始めてになる。

考えてみれば、矢田は色々としてくれたな。俺が落ち込んでいた時に動いてくれたりとか、慰めてくれたりとか。弟を看病していたから、精神的に追い詰められた人に声をかける事を自然にやれるという事なのかもしれない。

 

 

ふと気がつくと、俺の住んでいるマンションがもう見えた。後は扉を開けて入るだけだった。

 

そこに行こうとしていた時、俺はもう一度頭の中で、あの時に言われた言葉を思い出していた。

 

 

 

『頑張ってね。応援してる』

 

 

 

 

 

 

 

「………ッ」

 

 

 

心臓が、跳ねた音がした。それの連鎖のように、顔に力が入り、唾を飲み込む音が響く。

 

自分の体が異常事態であることに気づいた俺は、急いで自分の部屋の扉を開け、その部屋に入って扉の鍵を閉める。

そしてその扉にもたれかかり、再び思考を開始する。

いま、俺は何を考えていたのか。それはもちろん、矢田に言われた言葉だった。

けどそれだけではない。それ以外の事も考えていた。それが一体何なのかと言うのは、口で言うのはかなり難しい。

 

そして思わず、呆気に取られた。

 

何しろ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、抑えることが出来るものだと思っていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………マジかよ」

 

 

 

 

誰もいない部屋の中で、その言葉を零してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇翌日

 

先日慌ててはいたものの、睡眠にはあまり支障が無かった。寧ろ布団の中に入る事が出来たら直ぐに寝ることができた。その事事態がなんか恐ろしく感じている自分もいる。

そんなわけで、いま俺がいるのは、昨日窠山に言われた武道館の前だった。いま、俺以外には誰もいない。

 

 

 

 

 

 

「お、来てくれたね。学真くん」

 

声をかけられる。いま俺にそう話しかける男は1人しかいない。俺はその声の主に体の向きを変える。

 

「窠山、かなり大きな場所をとったな。この武道館は、大きな大会に使われる場所じゃないのか」

 

さて、俺らの前にある武道館の説明をしておくと。

まず、デカイ。どう見たって三階はあるだろう高さに、駐車場まで設置されてある敷地の広さ。俺らの勝負に使うにはあまりにも大きすぎる場所で、たかが中学生の喧嘩に貸し切ってくれるようなものには到底見えない。

 

「まぁ、デカイ方がやりがいがあるでしょ。じゃあ、中の見学に入るとしようか」

 

俺の質問に笑って答えながら、窠山はその武道館の中に入る。それに続く形で俺も中に入った。

中に入ると、いわゆるロビーと言うところに出た。受付や、販売機などがあり、ほかにも色々な場所に繋がっているような場所だった。そして、入ってすぐに見える、『試合場』と書かれてある扉に入る。

 

その先には、剣道の試合場が30面ほどありそうな敷地に出た。そして、武道館には客席というものが二階、三階にあり、そこで試合を見物できるようになっている。

 

そしてその客席には。

 

 

 

 

「来たぞ、若が!派手に歓迎しろ!」

「派手にぶっ殺してやってくだせぇ!」

「なんだあの細いシャバ憎は、こりゃ一方試合じゃねぇのか!?」

 

 

 

ガラの悪い連中が席に座っていた。

 

そう、分かっていた。窠山と対戦と言うからには、そう言うやつらが集まるんだと言うのが普通なのだ。

 

「ゴメンね。来なくても良いと言ったんだけど、言うこと聞かない奴らばかりでね」

 

何しろ…

 

 

 

 

窠山は、ヤクザの息子なのだから。

 

 

 

 

 

 




さて、今回のオリストで最も書きたかった部分に入ります。

次回 『試合開始の時間』
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