えーと…学校に行ったら殺せんせーが分身して待ち構えてるんだが…
「「「「「さて、始めましょうか」」」」」
何を!!?
「中間テストが迫って来ました」
「そうそう」
「そんな訳でこれからは」
「高速強化テスト勉強をおこないます」
いや1人何役してるんだよ。
すると、各生徒の前に分身が1人ずつ現れた。
「先生の分身が1人ずつマンツーマンで」
「それぞれの苦手科目を徹底して復習します」
だから1人…えーと27役やるんじゃねぇよ!
「下らね…ご丁寧に教科別にハチマキとか…ってなんで俺だけナル◯なんだよ!」
「寺坂くんは特別コースです。苦手科目が複数ありますからねぇ」
生徒の苦手科目に合わせてハチマキを変えている徹底ぶり。妙な所に拘るな…
そんな訳で国語6人、数学9人、社会3人、理科4人、英語4人、◯ルト1人、計27人の殺せんせーの分身が強化授業をしてる。
「足して6、掛けて8になる整数の組み合わせを探して見ましょう。掛けて8になる組み合わせは2通り。その内足して6になるのは2と4です。だから、この二重根号は…」
因みに俺は数学だ。理由は単純、苦手だからだ。
「それに数学オタクには、数学くらいしか詳しいこと書けないしね」
「…不破さん?」
しかし…分身しながら、てことは…大体一文字ぐらい話したら次の生徒に移動する感じだろ?かなりハードだなそれ。ちょいとミスすれば全部崩れそうだが…
《グニャン!》
「うわ!」
殺せんせーの顔が突然曲がった。
「急に暗殺しないで下さいカルマ君!それ避けると残像が全部乱れるんです!」
「意外と繊細なんだこの分身‼︎」
…言わんこっちゃない。
「でも先生 こんなに分身して体力持つの?」
「ご心配なく、一体外で休憩させてますから」
「それむしろ疲れない!?」
殺せんせーの言うこと、て…答えになってない事が多いよな
◇
「今日から放課後の補講は休講にする。腕を磨いて欲しいのは本音だが、君たちの本業に支障をきたす訳には行かない」
体育の終わりに烏間先生から休講のお知らせが出た。まぁ、テストを蔑ろにする必要も無いしな。
「それでは、今日はここまで、解散!」
『ありがとうございました』
体育の授業が終わり、みんなは教室に帰っていく。それはいいが…俺は烏間先生に一つだけ聞きたいことがあった。
「烏間先生、1ついいですか?」
「?どうした」
後片付けに取り掛かる烏間先生に声をかける。
「俺たち…E組以外で、暗殺の事を知る機会がある生徒、ていますか?」
「…いや、奴の存在すら知ってる者は居ないはずだ。国として、厳重に管理しているからな」
そうだよな…どんなに頑張っても、マッハ20のタコが知れ渡ったら大パニックになる。知るはずもないし、口コミでなら疑うのが当たり前だ。
なのに、アイツは『知って』いた。
…じゃあアイツは如何やって知ったんだ?
◇
授業が終わり、俺は帰ろうとしていた。
「この六面体の色を揃えたい。素早くたくさんしかも誰にでも出来るやり方で…あなた方なら如何しますか?先生方」
職員室の前で聞き覚えのある声を聞いて、俺は足を止めた。まさか…
「先生!また明日‼︎」
「ヌルフフフ、明日は殺せると良いですねぇ」
後ろからまたまた聞き覚えのある笑い声が聞こえる。
「あれ?学真くん、どうしたの?」
片方は渚だったようだな。
「職員室見てみろ」
職員室には、烏間先生、ビッチ先生、今入った殺せんせー
そして…
「答えは簡単、分解して並べ直す 合理的です。初めまして、殺せんせー」
俺の親父で、この学校の理事長、浅野 學峯がいた。
「にゅや…?」
「この学校の理事長サマですってよ」
「俺たちの教師としての雇い主だ」
「にゅやッこれはこれは山の上まで!それはそうと、私の給料、もうちょいプラスになりませんかねぇ」
「「…………」」
殺せんせーの弱点⑥ 上司には下手に出る
「こちらこそすみません いずれ挨拶に行こうと思っていたのですが…あなたの説明は防衛省やこの烏間さんから聞いてますよ。まぁ私には…全て理解できるほどの学は無いのですが
なんとも悲しいお方ですね。世界の救世主となるつもりが世界を滅ぼす巨悪と成り果ててしまうとは」
救世主…?滅ぼす…?なんか親父は俺の知らない殺せんせーを知ってるようだった。
「いや、ここでそれをどうこう言うつもりはありません。私ごときがどうあがこうが地球の危機は救えませんし、よほどの事がない限り私は暗殺にはノータッチです。……」
一瞬烏間先生に何か言っていたようだが内容はわからなかった。
「しかしだ。この学園の長である私が考えなくてはならないのは、地球が来年以降も生き残る場合、つまり、仮にだれかがあなたを殺せた場合の学園の未来です」
親父は窓を開けたことで出来た空間に腰掛けながら言った。その先は、何を言いたいのか、俺や渚にはすぐ分かった。
「率直に言えば、ここE組はこのままでなくては困ります」
「…このままと言うと、成績も待遇も最底辺という今の状態を?」
「はい」
それは、この椚ヶ丘中学校がここまで成長する基盤となったシステム。理事長たる親父なら、それを崩されるのは望ましくないだろう。
「働き蟻の法則を知ってますか?どんな集団でも20%は怠け、20%は働き、残り60%は平均的になる法則。
私が目指すのは5%の怠け者と95%の働き者がいる集団です。
『E組のようになりたくない』、『E組にだけには行きたくない』、95%の生徒がそう強く思うことで…この理想的な比率は達成できる」
「……成る程、合理的です。それで5%のE組は弱く惨めでなくては困ると
それは、あなたの息子であろうともですか?」
殺せんせーの言ってるのは、絶対俺のことだろうな。まぁ、親父の解答は最初から分かってるが…
「…人は甘える動物です。情があれば漬け込み、情けがあれば誤魔化そうとする。一瞬の隙を見せれば、生徒たちは私の情けを貰おうとする。
だからこそ、私を同じ人間として見るのではなく、非道な支配者と恐れて貰った方が私の理想に近づける。
そこに、肉親は関係ありません。此処では只の先生と生徒。その感覚を忘れさせるほど、私は甘い教育はしていない」
そう…親父は目的の為に合理的に動く人だ。才知溢れ、『より良い結果』を常に計らうことが出来る。そこに…情という考えは無かった。
そう……例え、どんなに苦しんでても
「今日D組の担任から苦情が来まして…
『うちの生徒がE組の生徒からすごい目で睨まれた』
殺すぞと脅されたとも」
……
………
…………
俺は隣にいる男に目を向けると、そいつは顔を背けた。まぁ、今の話、若干改竄されていたけどな…
「暗殺をしているのだからそんな目つきも身につくでしょう。それはそれで結構…問題は、成績底辺の生徒が一般生徒に逆らうこと。それは私の方針では許されない。以後厳しく慎むよう伝えて下さい」
伝達事項を伝えた後、親父は殺せんせーに何か投げ渡した。あれは…知恵の輪?
「一秒以内に解いてください」
「え!そんないきなり…」
慌てて殺せんせーは知恵の輪を解こうとした。
一秒後、結局解けることは出来ず、知恵の輪どころか本体まで絡まった。なんてザマだ…
殺せんせーの弱点⑦ 知恵の輪でテンパる
「噂通りスピードはすごいですね。確かにこれなら、どんな暗殺だってかわせそうだ。でもね殺せんせー、この世の中には…スピードで解決出来ない問題もあるんですよ。…では私はこの辺で」
親父が職員室を出た時に、俺たちと目があった。暫くの沈黙…俺も渚も、一言も発する事は出来なかった。発したのは、親父だった。
「やぁ!中間テスト期待してるよ!頑張りなさい!」
一瞬笑顔でそう言って、言い終わったと同時に無表情に変わり、その場を立ち去った。
親父の乾いた賞賛は…ガキの頃から散々と聞かされた。その時いつも俺を恐怖に陥れる。流石に耐性は出来たものの、悔しさは消せなかった。少なくとも…渚はすでに、『落とされた』。
◇翌日
「さらに頑張って増えてみました。さぁ、授業開始です」
……
増えすぎだろ!教室がタコづくめになってるじゃねーか!軽くホラーになってんだろ‼︎マンツーマンならまだしも四人から囲まれて教えられるなんてプレッシャー半端ねぇ!残像も雑になってるし、別キャラいるじゃねーか!
「…どうしたの殺せんせー?なんか気合入りすぎじゃない?」
「んん?そんな事無いですよ?」
……いや、あるだろ。昨日の親父の件が原因だろ。
◇
「ぜー…ぜー…」
流石にばてたらしく、椅子に座り込んで団扇を仰いでいた。二枚使って
「…流石に相当疲れたみたいだな」
「今なら殺れるかな」
「なんでここまで一生懸命に先生をすんのかね〜」
「ヌルフフフ、全ては君たちのテストの点を上げるためです。そうすれば…
『殺せんせ〜!!おかげでいい点取れたよ‼︎もう殺せんせーの授業無しじゃいられない‼︎殺すなんて出来ないよ‼︎』
『先生‼︎私達にも勉強を教えて❤︎』
となって殺される危険も無くなり先生には良い事づくめ」
…ゲス教師が。しかも前者のセリフで『生徒』、後者のセリフで『評判を聞いた近所の巨乳大学生』という看板をつけていた。相変わらず妙な気配りだ。
だが、そのセリフを聞いた時、クラスメイト全員が暗い顔をしていた。
「…いや、勉強の方はそれなりでいいよな」
「うん、なんたって暗殺すれば賞金100億だし」
「100億あれば成績悪くてもその後の人生バラ色だしさ」
「にゅや!そういう考えをしてきますか‼︎」
「俺たちエンドのE組だぜ、殺せんせー」
「テストなんかより…暗殺の方がよほど身近なチャンスなんだよ」
「……」
成る程、これがE組か…
劣等感は最初から感じてはいたが、まさか自分の将来に見切りをつけるまで追い込められてるとはな……
「成る程、よく分かりました。今の君たちには、暗殺者の資格がありませんねぇ」
顔にバツじるしをつけて、殺せんせーは扉を開けた。
「全員校庭に出なさい。烏間先生とイリーナ先生も呼んでください」
招集をかけられ、俺らは直ぐに校庭に出た。
◇
校庭に出ると、殺せんせーはサッカーのゴールを退けた。何をするつもりか…
「イリーナ先生、プロの殺し屋として伺いますが、あなたはいつも仕事をする時、用意するプランは一つですか?」
「…?いいえ、本命のプランなんて思った通り行くことの方が少ないわ。不測の事態に備えて予備のプランをより綿密に作っておくのが暗殺の基本よ。ま、あんたの場合規格外すぎて予備プランが全部狂ったけど、見てらっしゃい、次こそ必ず…」
「無理ですねぇ。では次に烏間先生、ナイフ術を生徒に教える時、重要なのは第一撃だけですか?」
「……第一撃はもちろん最重要だが、次の動きも大切だ。強敵相手では第一撃は高確率でかわされる。その後の第二撃第三撃を、いかに高精度で繰り出すかが勝敗を分ける」
そこまでいって、殺せんせーの意図が大体分かった。イリーナ先生も、烏間先生も、言いたいことの基本は一緒だ。
それは、今のE組に最も欠けてるものだ。
「先生方の仰るように、自信を持てる次の手があるから自信に満ちた暗殺者になれる。対して君たちはどうでしょう。『俺らには暗殺があるからそれでいいや』と考えて勉強の目標を低くしている。
それは、劣等感の原因から目を背けてるだけです。もし先生がこの教室から逃げ去ったら?もし他の殺し屋が先に先生を殺したら?暗殺という拠り所を失った君たちには、E組の劣等感しか残らない。
そんな危うい君たちに……先生からのアドバイスです。
第2の刃を持たざるものは、暗殺者を名乗る資格なし‼︎」
説明しながら、殺せんせーはクルクルと回る。その速度はどんどんと増していき、最終的には巨大竜巻を起こす並みの大きさになった。
殺せんせーが回転を止めた時、学校の校庭は、綺麗さっぱり平らになっていた。
「校庭に雑草や凸凹が多かったのでね。少し手入れをしておきました。先生は地球を消せる超生物、この一帯を平らにするなど容易いことです。
もしも君たちが自信を持てる第2の刃を示さなければ、相手に価する暗殺者はこの教室にはいないと見なし、校舎ごと平らにして先生は去ります」
殺せんせーの逃亡宣言。それは、俺たちにとっても政府にとっても望まれるものではなかった。
「第2の刃…いつまでに?」
「決まっています、明日です。明日の中間テスト、クラス全員50位以内を取りなさい。君たちの第2の刃は先生が既に育てています。本校舎の教師たちに劣るほど…先生はトロい教え方をしていません。自信を持ってその刃を振るって来なさい。ミッションを成功させ恥じる事なく笑顔で胸を張れるのです。自分たちがアサシンであり、E組であることに‼︎」
殺せんせーの言ってる事は何一つ間違ってはいない。第2の刃の重要性も、教え方が本校舎の教師に劣らないことも、何一つ間違ってはいない。
だが……
そう簡単に上位を取らせるほど
親父は甘くはないと思うが…
次回はいよいよテストに入ります。結果は果たしてどうなるのでしょうか?
次回、『テストの時間』