浅野 学真の暗殺教室   作:黒尾の狼牙

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少し時間がかかりました。


第75話 女子の時間

「うぷ…まだ気持ち悪い…」

「落ち着きなよ学真、もう終わった事なんだし」

「元凶が言うな、悪魔め」

 

 

階段を上がっている途中ではあるが、物凄く気持ち悪い。理由はさっきの一件だ。だってわさびとかからしが鼻の穴にねじ込まれるんだぜ。辛いなんてものじゃねぇ。もはや激痛だわ。あのおじさん無事なら良いんだけど…

 

 

 

『皆さん、ここからがvipエリアです』

 

 

 

律の言葉を聞いて意識が現実に戻る。危なかった。もう少しあの気持ち悪さに浸っていたら今日の夕食をリバースするところだったよ。

 

 

 

「…問題のエリアね」

 

 

 

速水の言う通り、そこが1番問題の場所だ。

 

 

 

乗り込む前に烏間先生が言った通り、ここにはヤバい連中が取引をする場所に用いる所だ。そして同時に、危険な遊びをする場所でもあるそうだ。ホテルの客として芸能人や有名人の子どもとかがいるみたいで、ホテルの中じゃ法律とかが影響する事がないから、それこそ違法な事をしているみたいだ。

 

 

 

そしてそれが最も顕著に表れているのが、このvipエリアだ。ここでは特定の人のみが入れて、酒とかゲームとかが設置されている。雰囲気的には、危ない奴が入っていてもおかしくは無い。

 

 

 

そしてその利用客は、さっきまでの情報から考えると危険な連中だろう。芸能人の子どもとかもいるだろうけど、恐らくヤクザみたいな奴もいるはずだ。

 

 

 

『階段へ繋がる扉は鍵が掛かって開ける事が出来ません。鍵を外すためには一度部屋を通過して、内側から鍵を開ける必要があります』

 

 

 

 

部屋を通過しないといけないとは…とんでもない試練が出てきたな。vipエリアにはホテルの見張りがいるだろうし、何より部屋の中にはヤバい奴らが沢山いる。違法地帯に潜り込むようなものだ。

 

 

 

「だったら女子に任せて。女子だけなら、監視の目もくぐり抜けられるから」

 

 

 

…なるほど。片岡の提案は一理ある。女子なら検査が緩くなる可能性が高い。女子だけで行った方が突破出来るだろう。

 

 

 

「待て、女子だけで行くのは危険すぎる」

 

 

 

だが烏間先生の言う通り、女子だけと言うのもリスクがある。トラブルが起こらないとも限らないし、そうなった時女子だけでは危険だ。

 

けど男子がいると監視の目をすり抜ける事が難しくなるだろうし…どうしたものか…

 

 

 

 

 

「だったらさ、女と思われる男を連れて行った方がいいんじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

カルマのセリフを聞いて、俺を含めた生徒全員が1人の男性を見た。女子と見間違えられる男性、それは1人しかいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…僕……?」

 

 

 

 

 

うん。

 

 

 

 

 

君だよ、渚くん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと待って!なんで僕が…」

「だって渚くん以外に出来る男子いないし」

「たしかに…渚なら行けるかもな」

「ちょ、カルマくんに菅谷くん!」

 

 

渚の抗議の声もアッサリ切り捨てられる。カルマの言う通り、渚以外には無理だ。女子と殺せんせー、何より烏間先生でさえも納得しているし、渚の意見が通るはずが無いだろう。

 

 

え、あっ…渚が俺の方を向いた。なに?助けを求められてるの…?そう期待されても…

 

 

 

 

 

 

「…えーと…その…なんつーか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

がんばれ

 

 

「ひねり出した答えがそれ!!?」

 

 

渚の肩を叩いて励ましの言葉をかける。渚には気の毒だが、ここは渚に行ってもらうしかない。是非とも折れていただかないと…

 

 

 

 

「渚くん。入り口近くのプールに脱ぎ捨てられた女性の服があるからこれを着て!」

「なんでそんな準備が良くなるの!!?」

 

 

うおお…不破の奴準備が良いな。こう言う時の展開を知ってるのか?それこそ漫画でも読んで。

 

 

 

哀れ渚くん。後で何か奢ってやるから。

 

 

 

 

 

 

「うう…どうして僕が…」

 

 

カーテンの向こうで女性の服に着替えている渚。カーテン越しでも泣いているのが分かる。『シクシク』という擬音はこの時に合うんだろうなと思ってしまった。

 

 

 

「ねぇ、学真くん…」

 

 

突然矢田に声をかけられて少し驚いた。ちょっと焦ったが直ぐに調子を取り戻して矢田に向かう。声をかけられただけでビビったなんて知られたら恥ずかしすぎて死にそうになる。

 

「…どうした?矢田…」

 

いつも通りを装いながら話しかける。動揺しているのがバレバレな話し方をしているみたいだし、できればバレないで欲しい。

 

 

 

 

 

 

「ホテルの時から調子悪そうだけど…どうしたの?」

 

 

 

 

…え……

 

 

 

 

「…どうして、そう思う?」

「だって…いつもの学真くんらしくない。

殺し屋の人と対面した時、学真くんは真っ先に立ち向かうと思っていた。金宮先輩の時も、鷹岡先生の時も、霧宮くんの時も、学真くんは真っ先に飛び出して行ったから。

けど毒使いの人の時も、握力の人の時も、学真くんは動こうとすらしなかった。それって…何かあったんじゃないかと思って…」

 

 

 

あー…なるほど…

 

 

俺が動く気配すら見せなかったところを見てそう思ったのか…

 

 

 

言われてみれば、カルマが掴まれていた時も助けようと動かなかったのは、いつもの俺だったらしない行動だ。

 

 

 

 

そりゃ何かあったんじゃないかって思うよな…

 

 

 

 

 

 

 

「…大丈夫だ。少しいつもより危険な状態だから、知らないうちに慎重になっているのかもしれないけど」

 

 

 

 

 

こんな嘘をつく自分がホント情けない。慎重になっているというだけの理由でここまでいつもと違う行動をする訳ないのに。やっとひねり出した答えがあまりにも幼稚すぎて嫌になる。

 

 

 

 

「…そう、か……そうなんだね……」

 

 

 

 

 

嘘をついた事がバレたんだろう。矢田は複雑な表情になっていた。嘘をつかれて嫌になったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

やっぱりこうなるよな…

 

 

 

 

 

如月の事を心配していた日沢の時とおんなじだ。心配している人を落ち込ませてしまう。こうして不幸にさせてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり俺には、コイツを幸せにする事なんて出来ないだろうな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「矢田さん。そろそろ行くよ」

 

「あ、メグ…うん」

 

 

 

 

 

渚の着替えが終わったみたいで、矢田は片岡の方に向かって行った。一瞬コッチをチラッと見たのは、何か気になる事があったからなのか。

 

 

女子たちはもう部屋の中に入って行った。ここからは彼女たちに任せるしかない。

 

 

 

男子たちはその場で待機という事になるから、渚以外の男子は扉の前にいる。殆どの生徒が、未だに開いていない扉を見ているが、カルマは渚たちが行った方を面白そうに見ていた。何を面白そうに見てるんだよ…

 

 

 

そういえば…俺は伝えないといけない事があるんだった。1人は言葉にいないけど、もう1人はちょうど扉から少し離れたところにいる。

 

 

 

話しかけるために、俺はソイツに近づいた。

 

 

 

 

 

 

 

「…千葉」

 

「…?どうした、学真…」

 

 

 

 

 

千葉はコッチに気づいて、振り向いた。改めて見ると本当に目が見えないな。目が隠れている髪とか凄く邪魔そうだ。

 

 

 

 

 

 

「悪い。殺せんせーの暗殺の時…俺、ミスったんだ」

 

 

 

 

 

俺が話しかけた理由は、殺せんせー暗殺の時の話だ。少し意味が分からない様子(だよな…)だったから説明を始めた。

 

 

 

 

「殺せんせーに弾幕の結界で逃げ場を無くしている時だ。本当は殺せんせーに当てないで意識を分散させるのが目的だったのに、俺の弾が殺せんせーの服に掠ったんだ。殺せんせーの意識はその掠った弾の正体を探す目に…つまり、弾幕の外に向いてしまった。そのせいで、お前らに気づいてしまったんだと思う」

 

 

 

 

 

千葉は「あぁ…」と言って納得した様子だ。あの状態じゃ生徒は俺の弾が殺せんせーに当たった事は分からないだろうし、それが千葉と速水の存在に気づく原因になったと言うのも分からないだろう。

 

だから千葉と速水には言っておいた方が良いような気がしたんだ。

 

 

 

 

「いや…俺もダメだった。殺せんせーを殺せる瞬間にプレッシャーに呑まれていた。いつも通りの調子だったら間違いなく殺れていたのに…」

 

 

 

悔しそうに千葉が話している。

 

殺せんせー暗殺の失敗に責任を感じているんだろう。それこそ、俺と同じように…

 

 

 

みんなと一緒にいると、こういうことが起こるんだな…

 

 

チームで動いているからこそ、1人の失敗が全体の損になる事がある。その時に感じる責任感は、1人で失敗している時とは比べものにならない。

 

 

A組とかとそういう関係になった人がいなかったし、それまでもそんな経験が無かったから、いま感じている悔しさは相当なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇第三者視点

 

 

VIPエリア。違法な遊びが許されているホテルの中で、1番盛り上がっている部屋である。子どもや大人まで、危ない遊びをしている者が沢山いた。

 

 

その部屋の中を、E組の女子生徒たちは進んでいる。男子全員が上の階に上がれるための扉を開けるために。

 

 

 

「よう、嬢ちゃんたち、俺らと遊ばない?」

 

 

 

だがすんなりと行けない。このようにして声をかけられるのだ。彼女たちは見た目的には上位の方であり、ナンパの標的にされてしまう。

 

 

実を言うと渚はとある男に連れ去られてしまった。渚を気に入ってしまった男が話しかけて、その男の相手をする事になってしまった。その時に彼が心の底で泣いていたことは言うまでも無いだろう。

 

 

だがこうして次から次に話しかけられてはキリがない。扉に辿り着くまでにかなり時間がかかってしまう。時間がないので急がなくてはならないのだが、話しかけられると急ぐことも出来ない。

 

 

一喝しようとしている片岡を押さえたのは、矢田だった。矢田は片岡を落ち着かせて、話しかけている男性の前に出る。

 

 

「お兄さんたちカッコ良いけど、あいにくパパたちと同席なの。ウチのパパ怖いし、やめとこ?」

「ひゃひゃ、親が怖くてナンパなんか出来るか…」

 

 

笑っている男性の前でポケットからある物を取り出す。それはバッジのような、金色の小さくて丸い物だった。

 

 

 

 

 

「じゃあ、パパに挨拶する?」

 

 

 

 

 

男性たちはビクビクしている。それもそのはずだ。矢田が持っているのはただのバッジではない。そのバッジにはとある印が刻まれている。

 

それは、ヤクザのエンブレムだ。しかもそのヤクザは関東の方では有名な組である。

 

 

もしヤクザが呼び出されたら、とんでもない事態になるかもしれない。

 

 

 

 

「し、失礼しました…」

 

 

そそくさと女子たちから離れていく。ここで一悶着を起こしたくないと思うばかりビクビクしているのが見て分かる。彼らはもう話しかけたりする事はないだろう。

 

 

 

「意気地なし。借り物に決まっているのにね」

 

 

 

勿論矢田はそのヤクザと何の関係もない。そのバッジはビッチ先生から貰った物なのだ。矢田はそれを使って脅しただけである。その効果は絶大だったのだが…

 

 

 

「凄いね矢田さん」

 

 

矢田の様子を見て、女子たちは彼女に感服している。まさかナンパしてくる柄の悪い連中を追い返すなんて事、普通は出来ないだろう。

 

 

「矢田さん、アレってビッチ先生から貰った物よね」

「うん。世界中から色々なバッジを集めていて、仕事に使えると言っていたの」

 

 

仕事のために使えると大量に持っているバッジから一つだけ借りていた。何かあった時に使えるかもしれないと思ったためである。

 

 

「そういえば矢田さん、ビッチ先生の話を1番興味深く聞いているもんね」

 

「うん。色仕掛けとかがしたいんじゃないんだけど。前に殺せんせーが言っていたじゃない。『第二の刃を大事にしなさい』って。接待術とか交渉術とか、社会に出た時かなり役に立つじゃない」

 

 

『第二の刃を持て』

殺せんせーから教わった大事な教訓の一つだ。優れた殺し屋は常に予備の作戦、もしくは武器を備えている。

 

矢田はその言葉を真摯に受け止めた。そして矢田はビッチ先生の話を聞いて接待術や交渉術を身につけることを決意した。人との関わりを持つ事が多いこの現代社会の中、その力は確実に役に立つものだと言えるだろう。

 

 

「おおー、矢田さんはカッコ良い大人になるね」

「うむ…巨乳なのに惚れざるを得ない」

「巨乳嫌いの茅野っちが心を開いた!?」

 

 

そんな彼女の姿勢に周りを感心した。巨乳を毛嫌いする茅野が心を開いてしまうほどに。もともと嫌われるような性格では無いのだが、真摯なその態度は女性でありながらたくましくも見える。

 

 

 

 

(それに…)

 

 

 

しかし矢田がその方向に力を入れたのはもう一つの理由がある。それは彼女自身の経験が物語っていた。

 

 

 

たった1学期の間で、彼女は普通では体験できない修羅場を目の当たりにした。不良に絡まれたり、金宮に襲われたり、鷹岡に殴られそうになったり。

 

その時には必ずと言っていいほど学真が怪我を負うのだ。特に鷹岡と戦っている時が悲惨だった。体中がボロボロになって、血がかなり流れている。その光景はグロテスクのように見え、暴力を嫌う彼女は怪我をしていなくても恐怖を覚えてしまった。

 

その時点で彼女はナイフや銃を持って暗殺を仕掛ける自信が無くなってしまった。いざという時に怯んでしまうかもしれない。そうなったら周りの人に迷惑をかけるかもしれない。

 

しかし、何もしないという選択はできるはずがなかった。誰かが必死になって戦っているのに、時には自分のために戦っている人がいるのに、その状況で何もしないでいる事は耐えられるはずがない。

 

 

 

だから彼女は別の方に力を入れた。暴力や力で挑むのではなく、それを使わないで戦うやり方を求めた。

 

凄く臆病な戦い方かもしれない。けど少しでも誰かの…()の役に立ちたいと思っていた。

 

 

 

 

「みんな、目的の扉よ。扉の前に見張りがいる。男手が必要になるかもしれない。渚くんを呼んできて」

 

 

 

目的の扉の前に立っている見張りは、そこから動く気配がない。下手な動きすれば怪しまれるかもしれない。本格的に男の力を使わなければ突破は難しそうだ。

 

 

茅野が渚を連れてきた。特に何もされていなかったようであり、渚に大きな変化はなかった。

 

 

 

 

女子の指揮をとる片岡がこれから行う作戦を立てようとする。目的は扉の前にいる見張りをどかせること。他の客に気づかれないように見張りだけを拘束する事が出来れば良いのだが、周りにいる人の多さではその事は難しそうであり、何よりそれが出来るほどの力が渚には無いとその場の全員が思っていた。

 

 

(…なんか不憫な扱いを受けた気がする)

 

 

女子たちの思考をなんとなく読み取ったが、それを問い詰める度胸は渚には無い。言ったとしても無視されるのがオチである。

 

渚の困惑を他所に片岡が思いついた作戦は、誰かが囮になって見張りの人を扉から引き剥がすというものだった。これなら力はなくても問題はない。

 

ではどうやって見張りを引き剥がすか。その方法を頭の中で模索する。

 

 

 

「ちょ、ちょっと待てよ!!」

 

 

 

すると彼女たちの前に1人の男が出てきた。その男は渚が相手をする事になった人だった。茅野が渚を連れてきている時からその後ろを着けてきたということだろう。

 

 

「サービスだ。俺のダンスを見せてやるよ」

 

 

突然踊り始めた。別に頼んだわけでもないのにステップを踏みながら軽快に踊っている。

 

女子全員、および渚は1人残らずこう思った。『邪魔』であると。これからの作戦を立てている段階だと言うのに、彼はそれを妨害しているだけである。

 

 

 

先ほども言った通り、VIPエリアにはヤバい客が沢山いる。因縁つけられた時点で人生が終わるといっても過言ではない。そんな人物が沢山いる中で派手な動きを始めるとどういう事態になるか、この男は冷静に考えなくてはならなかった。

 

 

《ガッシャアアアアアン!!》

 

 

勢いよく振る右手が、たまたま通りかかっていたヤクザのコップに当たる。コップに入っていた飲み物は勢いよくヤクザの服にかかった。

 

 

「あ…」

 

 

今さら慌ててももう遅い。溢れた酒も濡れた服も戻す事は出来ない。しかも柄の悪い服装や顔つきから、話し合いが通じる相手でないのも明らかだ。

 

 

「オイゴラァ!!どうしてくれるんじゃワシのコート!!」

「ひ…ひぃ!よ、余所見して…勘弁して…!」

 

 

なんとも哀れな男である。前に出て踊り始めて、ヤクザに絡まれる。E組の女子たちには男が自滅しただけに見える。その男に付き合う必要もないし、ぶっちゃけ放っておいても問題は無いだろう。

 

 

(…!でもこれって…)

 

 

矢田は閃いた。これはむしろ好機であると。

 

女子の中で身体能力が最も高い岡野に耳打ちをする。うなづいて岡野は脅迫しているヤクザに近づいた。

 

 

 

グルン、と1回転。

 

 

 

体を回転しながら足をヤクザの顎に当たる。

 

蹴りが完璧に顎に入り、ヤクザの意識は失った。

 

 

 

 

ポカン、としている男性。

彼をそのまま放置して、矢田は扉の前で待機していた見張りの男を呼んだ。突然倒れた男を見てやってくれと。倒れた男を担いで見張りはどこかに移動していった。

 

見張りが居なくなって、扉を開けることが出来るようになった。勿論扉を開ける。未だに男は座り込んだままだ。

 

 

扉を開けて、待機していた男性が一斉に階段を駆け上がる。勿論女子も上がっていった。

 

 

「女子の方がカッコいいことをこなしても、男は意地でも強いところを見せないといけないから、辛いよね。男子って。またカッコつけてよ。今度は薬物以外でね」

 

 

座っている男に声をかけて、渚も扉を上がる。E組の生徒全員が、このVIPエリアを抜けた。

 

 

 

 

 

◇学真視点

 

 

 

「あれ、渚もう着替えたの?」

 

 

VIPエリアを抜けてから、渚の服装はいつも通りのものになっていた。女装が相当恥ずかしかったんだろうな。渚の中でもはやトラウマになっているのかもしれない。

 

 

 

「そのままでも良かったんじゃ無いか。暗殺者が女装するケースはよくあるぞ」

「い、磯貝くんまで…」

「渚くん。取るなら早い方が良いらしいよ」

「取らないよ!大事にするよ!!」

 

 

なんとまあ可愛そうに。変な話物凄く似合っていた。凄い受けていたし。才能って本人の望みとは関係なく与えられるもんなんだな。

 

 

「僕の女装を見てなに悟ってるの?」

「……すまん」

 

 

泣きそうな顔で見るな。ショックなのはわかったから。

 

 

 

 

 

 

 

「その話は後にしてくれるか」

「…二度としません」

 

 

烏間先生は曲がり角の先を見ている。その視線の先には2人の見張りが居た。道を塞いでいるみたいだし、通らせてはくれないようだ。

 

 

「黒幕が依頼した人なのかな。それとも無関係の人?」

「どっちにしたって倒さないと先に進めないだろうが」

 

 

寺坂の言う通り、あの見張りは倒さないといけないな。けど簡単な話ではない。遠くから見ても相当強いことが分かるし、まして見張りのいるところまで一本道だから奇襲もできないな…

 

 

「良いやり方がありますよ。寺坂くん、君のバッグの中にあるものを使えばね」

 

 

殺せんせーは何か知っている口調だ。寺坂は舌打ちをしながらバッグの中を探る。

 

 

「おい木村。アイツらをこっちまで引き付けろ」

「俺が?どうやって…」

「知るか。なんか怒らせれば良いだろ」

 

 

足の速い木村を餌にすると言うことか。まあ木村なら逃げることが出来るだろう。問題は相手をどうやって怒らせるかだが…

 

「じゃあ木村、こう言ってみ…」

 

 

…クラス一のドS悪魔が動き始めた。木村におそらく挑発の言葉を教えているんだろう。相手を苛立たせることが大得意のカルマの挑発と言うだけでもう嫌な予感しかしない。何を言わせるつもりなんだ…

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

「なんだ、ボウズ?」

 

カルマから助言を聞いた木村が見張りの男たちの前に出る。当然見張りは木村を警戒している。

 

 

 

 

 

「あっれェェ〜〜〜??脳みそくんが居ないなぁ。コイツらは頭の中まで筋肉だしぃ〜。

 

 

人の身体してんじゃねぇよ、豚肉ども」

 

 

 

 

……………

 

 

 

 

「おい!」

「待てゴラ!!」

 

 

そりゃ怒るわな。見張りの男が発している殺気が半端ない。捕まったらフルボッコ待った無しだ。

 

しかし流石俊足の木村、追手との距離が縮まることなく走っている。

 

 

そして木村が俺たちのいる曲がり角を通過した。

 

 

「よし、いまだ吉田!」

「おう!!」

 

 

曲がり角から寺坂と吉田が飛び出る。見張りの男を倒した。そして手に持っているものを男の首に当てる。

 

 

 

《ビリビリビリ!!》

「ぐああああ!!」

 

 

電気が流れる音と悲鳴が響き、男たちは気絶した。

 

 

「スタンガンか…」

「タコに電気試そうと買っていたんだよ。こんなところでお披露目するとは思わなかったがな」

 

 

とんでもない武器を手に入れたな。スタンガンはかなり高いはずだけど、聞いたら何か臨時収入があったらしい。それで買えたのか…

 

 

「良い武器です寺坂くん。でもその人たちの胸元を探ってみてください。もっと良い武器が見つかる筈ですよ」

 

 

殺せんせーに言われて寺坂は気絶している男の胸元を探る。そしてポケットに入っていた物を取り出した。

 

 

それは、本物の銃だった。

 

 

 

 

「本物の…銃…!?」

 

 

 

…ここで本物の銃が出たか。確かにスタンガンよりも良い武器だ。けどとんでもないものだ。完全に『殺す』武器だし。

 

 

「これは千葉くん、速水さん。君たちが持ってください。烏間先生はまだ回復していません。いま銃を持つべき人物の中で最も最適なのが君たち2人です。

ただし殺すことだけは許しません。君たちなら敵を殺さないでその銃を使いこなすことができます」

 

 

…殺せんせーはほんとうに、体育だけは厳しいな。他の勉強は俺たちにレベルを合わせるけど、体育とか身体を動かす系統になるとハードルが一気に高くなる。さっき外したばかりの2人に銃を使わせるとか鬼すぎるだろう…

 

 

「さぁ行きましょう。残る暗殺者はせいぜい1人か2人です」

 

 

 

鬼教師に従い、俺たちは先に進むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ステージ、か…」

 

 

 

大きな扉を開けた先の部屋は、いわゆるステージというものだった。観客用の椅子もありステージの上には色々な機械が置いてある。ライブとかに使うためのステージだろう。

 

 

 

 

《コツ…》

 

 

 

足音が聞こえた。俺以外の人も聞こえたみたいで、全員が一斉に椅子の後ろに屈んで隠れた。

 

 

 

「はぁ〜〜銃うめぇ〜〜」

 

 

 

…なんだ?

 

 

ステージに現れたのは、さっきの握力のおじさんよりはちょっと小さい男だった。着ているのはスーツで、髪が全部縦に真っ直ぐ立っている。

 

いや、そんな事よりも気になるところがある。

 

 

口に咥えている銃だ。銃口を口の中に入れ、しゃぶっているようにも見える。あのまま発砲すると口の中が大惨事になるよな…

 

 

 

 

「………」

 

 

雰囲気が、変わった。

 

 

ステージをキョロキョロと見渡しながら、銃を回し始める。

 

 

「15…、いや16か。殆どが10代半ばで呼吸が若い。驚いたな。動ける全員で乗り込んできたのか」

 

 

 

まさか、バレたのか…さっきの握力のおじさんのときもこうやって気づかれたんだっけか。暗殺者は何か気配を感じる術でも持っているのか。

 

 

《バァン!!》

 

 

 

室内に響く銃声、音を響かせる構造になっているこのステージの中ではその音が爆音にも聞こえる。あの男がステージの後ろの壁を撃ったみたいだ。

 

 

 

「言っておくが、この部屋の中は完全防音だ。つまりお前らが死ぬまで誰も助けに来ねぇ。お前ら殺す準備もしてきてないだろ!大人しく降参してボスに頭下げとけや!」

 

 

 

降伏警告か…

 

多分コイツ、そうとうな銃の使い手だ。銃を回している手つきは慣れていないと出来ないものだ。銃をしゃぶる理由は分からないが…

 

 

《バァン!!》

 

 

発砲2回目。けど今の発砲はその男ではない。銃の音が聞こえた方を考えると、おそらく速水だな。何も変化が無いみたいだし…外したのか。

 

 

「ほう…部下の銃か。見張りの奴から奪い取ったのか」

 

 

 

…ヤバい事になった。降伏警告を無視して放った今の発砲は戦線宣告の意味になった。今更降伏は出来ない。

 

 

 

「良いねぇ…」

 

 

 

リモコンを取り出して、そのボタンを押す。

 

 

 

 

ステージの照明が光り始める。眩しいほどの光を発して、ステージを見ることが出来ない。自分の方を向かせない作戦か。

 

 

 

 

 

「意外と、上手ェ仕事じゃねぇか!!」

 




次回はガストロ戦になります。

次回『チャンスの時間』
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