「今日も元気だ。銃がうめェ!!」
照明が眩しく光を発しているステージから、1発だけ銃を撃った。その銃弾は客席の隙間を通り抜けた。俺の記憶によるとそこは速水がいた場所だ。さっきの速水の発砲から位置を特定して、正確に狙い撃ったのか。狙いも感覚も、常人とは比べものにならないほどの実力の持ち主ということか。
「一度発砲した場所は忘れねぇ。俺は軍人上がりだ。幾多の戦場をくぐり抜けて、血や火薬の匂いから位置を特定したり、銃の調子を味で確かめるスキルを身につけた。さぁて、お前らが奪った銃はあと一丁あるはずだが…」
速水の位置を特定され、銃を持っているもう1人の人間を探そうとしている。つまり千葉を特定しようとしているわけだ。こういう状態は慣れているんだろうな。
さてどうするか。何もしないままでいるとやられるのを待つばかりだ。かと言って前に出たらどうぞ撃ってくださいと言っているようなものだ。
迂闊には近づけない。どうやって近づいたらいいんだろうか…
「速水さんはそのまま待機!いま撃たなかったのは賢明です。千葉くん、君はまだ位置を知られていない。先生が敵を見ながら指示を出すのでそれに従ってください」
…殺せんせーの声?
そういえば殺せんせーもこの部屋の中にいるはずだ。烏間先生が持っていた筈なんだが、どこから声を出しているんだ…?
「なに…?どこから喋って………ん?」
暗殺者が何かに気づいたみたいだ。照明の光でよく見えないけど、正面の客席の方を見ているような気がする。
「…テメーなにかぶり付きで見てやがるんだ!!」
6発ほど連続して発砲、割と前の方の客席を狙っている。あそこにいるのか、殺せんせー。金属に当たったような鈍い音がしているのは、完全防御形態で銃の攻撃を防いでいるからか。
「ヌルフフフ、中学生が熟練の銃使いに挑むんです。これくらいの視覚ハンデは良いでしょう」
「チ…だがどうやってその状態で指示するつもりだ」
確かにあの位置からなら暗殺者の動きは読み取れる。けど殺せんせーは完全防御形態で動けない。まして今の状態でどのように戦うつもりなんだろうか。
「では木村くん!5列右へダッシュ!!」
「なに…!?」
俺の少し後ろの方で誰かが移動しているのが分かった。
…なるほど、そういうことね。
「寺坂くんと吉田くんはそれぞれ左右へ3列移動。死角が出来た。この隙に茅野さんは2列全身。不破さんとカルマくんは同時に右8、磯貝くん左に5!」
殺せんせーに言われた通りに移動を繰り返す。殺せんせーがやっているのはシャッフルだ。銃を持っている生徒、つまり千葉がどこにいるかを分からなくさせるために、俺たちに移動を繰り返させているんだ。指示するときに名前を言うと覚えられるんじゃないかと思っていたが、殺せんせーは更なる撹乱作戦に出た。
「出席番号12番!右に一で準備しつつ4番と6番は椅子の間からステージを撮影。律さんを通じて千葉くんに回します。ポニーテールは右斜め前へ。バイク好きも2列詰めます」
今度は俺たちにしか分からない情報で指示を出す。流石に混乱はするだろう。一気に色々な情報が増えたし。
「最近竹林くんイチオシのメイド喫茶に興味本位でついて行ったらちょっとハマりそうで怖かった人、かく乱のために大きな音を立てる!」
「うるせー!なんで行ったの知ってんだテメー!」
「珍しく服屋に買い物したときに店員の口車に乗せられて大量に買いすぎて後で死ぬほど後悔した人も手伝います!」
「なんで知ってるしなんでバラすんだよ!!」
あの野郎覚えておけよ!!買う必要のなかったものまで買ってしまって、後になって後悔したのは事実だけども。
寺坂と一緒に椅子を思いっきり叩いて大きな音を出す。暗殺者の思考を妨害するためだ。決して腹いせにその椅子を壊そうとしているわけではない。ないったらない。
「さていよいよです千葉くん。先生の次の合図で、君のタイミングで発砲してください。速水さんはその後で彼のフォローに回ります」
どうやら次の指示で千葉が狙撃するようだ。暗殺者が混乱している今が好機、攻めるしかそれしかないだろう。
けど懸念しないといけない事がある。千葉と速水は殺せんせーの暗殺が失敗していた事に責任を感じている。結果だけで語るあの2人の性格上、人一倍責任を感じてしまう。
まして2人がいま持っているのは本物の銃であり、いまいる場所は殺し合いの場所だ。外したら千葉の位置が特定される事に繋がるし、それは俺たちの敗北…もっと言えば死に繋がる可能性もある。
2人はいまプレッシャーを物凄く感じているだろう。その状態での狙撃は尚更危ない。野球のピッチャーの投球にも言える話だが、心の乱れはコントロールよブレに繋がる可能性がある。
「ですが、人一倍責任感の強い2人に先生からアドバイスです」
殺せんせーが指示を出すのかと思いきや、殺せんせーは語り始める。その相手は、千葉と速水だ。
「君たちはいまプレッシャーを感じていますね。先生の狙撃が外れた事に責任を感じている君たちは、もう外してはいけないと思いがちになっている。
君たちは普段からそのように動いていたでしょう。普段から弱音を吐かない君たちは、『アイツなら大丈夫だろう』と勝手な期待をされる事もあったかもしれない。君たちが困っている時も誰も助けてくれなかったのかもしれません」
殺せんせーの言ったことは、多分当たっている。思っている事をあまり出さないで過ごしている2人を見ると、特に問題なさそうだと思ってしまう。
俺も思い当たるところがある。
暗殺の時がそうだ。この2人なら大丈夫だと思ってそれっきりにしていたところは俺にもある。期待される側になった事が無かったから、2人の苦難を考えた事すらも無かった。
全く期待されないというのも辛いけど、ただ期待されるだけというのも辛いものなんだと…下の階で千葉の愚痴を聞いていた時に分かった。
「でも大丈夫です。君たちは自分だけでプレッシャーを感じる必要はない。万が一君たちが外したら、銃ごとシャッフルして誰が撃つのかすら分からなくする作戦に切り替えます。君たちの隣で同じように苦労してきた仲間がいるからこそできる作戦です。安心して引き金を引いてください」
銃ごとシャッフル、つまりクラス全員に銃を持つ可能性があるという事だ。
もちろん千葉や速水ほど正確に狙える生徒はいない。もしかするとソイツも失敗するかもしれない。
でも、出来ないわけじゃない。銃を持ったら迷わずに挑む。
だから殺せんせーは言った。たとえ失敗したとしても大丈夫だと。
そしてその言葉は千葉を落ち着かせるためのものになると…そんな気がした。
「………」
ステージの上の暗殺者は、さっきよりも落ち着いている様子だ。ひょっとするといま殺せんせーが話している間に目星をつけたのか。
「さて、行きますよ…」
緊張感が体中に伝わる。次の指示とは無関係である俺も呼吸が苦しくなり始めた。動く必要はないのに、動こうとしている体を必死に押さえつけているような感覚だ。
そして、殺せんせーの指示が出た。
「出席番号12番、立って狙撃!」
…!?12…ッ?!
《ガタン!!》
「ビンゴォ!!」
《ドキュゥゥゥ…ン…!》
客席の中から人の姿が現れている。暗殺者は現れてきたそれを撃った。銃の弾は正確にその額を捉えていた。さっきの椅子の間を正確に狙う技術もそうだが…この男、狙いは絶対に外さないみたいだ。
「なっ…にん、ぎょう……!?」
しばらくして、暗殺者は驚きの声を出した。恐らくさっきまで、いま客席から立ち上がったのが千葉だと思ったんだろう。
けどそんなはずはない。
何しろ出席番号12番は千葉ではなく、俺の隣にいる菅谷を指しているからだ。
「ふぃ〜…音も出さずに作るんだから疲れたぜ…」
コイツマジか…いま凄いレベルの高い事をしでかしたぞ。
いま菅谷はモップとカーテンで作った人形を持っている。さっき殺せんせーの指示で現れたのはその人形であり、暗殺者の弾が当たったのはその人形の額だった。
驚くべき事なのは、それをいまの短時間で作ったところだ。しかも本人が言った通り、音を立てないために慎重に、かつなるべく早く作ったみたいだ。俺がここで音を出すように指示したのは、菅谷の物音をかき消すためだったみたいだし…
《バキュゥゥゥゥン!!!》
割と前の方に千葉が現れて、暗殺者の方に銃口を向けて発砲した。銃声がなってからしばらくの間、なんの変化もない。
「…へ、へへへ……外したな。これで2人目も場所が…」
暗殺者は千葉が外したと思ったらしく、銃口を千葉に向けている。
だから暗殺者は気づかなかった。千葉が本当に狙っていたものを…
《グワッシャアアアアアアン!!》
「がっ!!?!?」
上から大きな釣り照明が落下して、見事暗殺者にぶつかる。背中を思いっきり打ったみたいだし、変な話銃よりも威力があったんじゃないかって思う。
さっき千葉が撃ったのは、その釣り照明の金具だ。銃弾が当たって金具が欠けてしまい、釣り照明がそのまま落下したというわけだ。
銃を使うにしてはあまりにも意外すぎる使い方だ。俺も律による情報共有が無かったら仰天していたかもしれない。
当然それを知る由もない暗殺者は、無警戒な背後からの強い打撃を受けてかなり死にそうな顔になっている。
「く…そが…ッ!」
プロとしての意地なのか、暗殺者は朦朧としながら銃口を千葉に向け直す。そんな状態になってもその余裕があるとは驚きを隠せない。
《ガキィィィン!!》
だがその銃は勢いよく飛んで行った。客席に待機していた速水がその銃に向かって発砲し、見事当たったみたいだ。
武器を失った暗殺者は、そのまま倒れる。どうやら切り抜けたみたいだ。
「よっしゃ!ソッコー簀巻きだ!」
寺坂についていって、気絶した暗殺者をガムテープで縛り付ける。これでこの男が動き始める事はなさそうだ。
それにしても、恐ろしい経験をした。まさかプロの狙撃手と戦う事になるなんて、そんな経験が出来るはずがない。凄い肝を冷やしていたし、終わったこの瞬間物凄く安心している。他の生徒もそうだったみたいで、ステージの上で千葉とか速水と話している。
どうやらこれでひと段落のようだ。
『あ〜らら。まさかガストロを倒すなんてね。これは流石に驚いた』
…!!?
「誰だ…どこから話している…!?」
周りをキョロキョロと見ながら、烏間先生がその声の主に尋ねる。もちろん俺たちもどこにいるのかを探しているけど、人影すら見当たらない。
『強いて言えば、部屋の外かな』
「…嘘をつくな。この部屋は完全防音だと聞いている。部屋の外からの声が聞こえるはずがない」
『いや、声を伝える手段はあるよ』
この男、一体何を言って…待てよ。この響きからすると…
「…マイクを使ってるのか?」
『その通り』
…なるほど、それなら納得だ。考えてみればここはステージだ。ならマイクの声を響かせるためのスピーカーがあってもおかしくない。そしてそのマイクはこの部屋の中でしか使えないとも限らない。物によっては部屋の外にいても大丈夫なものも存在する。
「…何のつもりだ」
どこから話しているのか全く分からない相手に尋ねた。別に答えを期待していたわけではない。掴み所がない相手にイラついてきて、少し噛み付いたような感じだった。
『まぁ特に何のつもりでもないよ。ぶっちゃけ、俺は動かないつもりだった。けど、ガストロがやられた以上、俺が出るしか無いと思ってね』
だからまさか答えが返ってくるとは思っていなかった。てっきり、そんな事教えるつもりはないと思っていたんだけど…
《ガチャリ…》
扉が開く音が聞こえた。それは俺たちがこの部屋に入る時に使った扉だった。ステージの上から、俺たちは一斉にその扉の方を見た。
『さて、自己紹介から行こうか』
扉から現れたのは、黒い髪の髭を生やした、30半ばほどの男が現れた。手にはさっきまで使っていたであろうマイクが握られている。
『コードネームは【アクロ】だ。若者たちよ、どうぞよろしく』
はい、新キャラ登場です。
暗殺者アクロ、次は彼との勝負になります。
まぁ実を言うと彼は一回出たんですが…