アクロは僕が暗殺教室を読みながら僕の想定出来る限り『最も優れた暗殺者』という設定を骨格に色々と作っていきました。
だから今回の話を書く事を凄く楽しみにしていました。僕なりに考えた強い暗殺者の活躍をぜひ楽しんでください。
まぁアクロは敵ですけど…
ステージにいる全員が、マイクで堂々と自己紹介していた男を注目している。見ない生徒がいるはずもない。ガストロ…つまりあの殺し屋の仲間と言う事は、俺たちの敵でもあるからだ。
「アクロと言ったな…貴様、暗殺者か?」
『ご名答。まぁ3人も倒したわけだし、殺し屋の判別もつきやすくなっているのかな?』
烏間先生の質問に答えている様子はからかっているようにも見える。烏間先生の思った通り、その男は暗殺者だった。
アクロもまた一般人とは違う雰囲気が出ている。服装はどこにでもありそうな青いスーツで、外見的には特に目立った特徴はない。強いて言えばあのサングラスぐらいだ。それにも関わらず普通の人間ではないと感じる。今までの3人の暗殺者もそうだったけど、立っている姿にどことなく凄みがある。人を殺した経験を日常のようにするとあそこまで凄みが出てくるもんなのか。
『俺としては戦いたくなかったけどね。こんなに沢山の若者たちを殺さなきゃいけないってとても嫌な仕事だよ。しかも地球の破壊を止めようとしている名誉ある…
おや?』
アクロは何かに気づいて、話と動きが止まる。その視線はある一点で止まっていた。
その先には…俺がいた。
「あんた…殺し屋だったのか」
周りのみんなが動揺している声が聞こえた。烏間先生も殺せんせーも意外そうに俺を見ているのが分かる。俺がこの暗殺者の事を知ってるとは思っていなかっただろう。
『へぇ、あの時の若者とこんなところで会うとはね』
アクロは俺を知っていた。まさか覚えているとは思ってなかったが、俺は一度アクロに会った事がある。
船上パーティーの時だ。
外に出た時に見知らない男に話しかけられた事がある。その時無視しようとしていたら、船から落ちそうになっていた子どもを船から飛び降りて助け出したのを見て呆気に取られていた事を覚えている。そのオジサンと、目の前にいるアクロは完璧に同一人物だ。
その時一緒にいた矢田も覚えていて、アクロを見ながら少し驚いている。逆にアクロは、どちらかと言うと俺を覚えているからなのか矢田には特に話しかけたりする様子はない。
「学真…知ってるのか?」
磯貝が俺に尋ねてきた。他のみんなもそれが気になっているような表情で俺を見ている。
「…ちょっとな。一回会った事がある程度だけど」
磯貝の質問にそれだけ答えた。あの船上パーティーの下りを話そうとするとかなり長くなるし、別に話す必要も無いだろう。
それに、敵が目の前で呑気に喋るのは危険だ。油断しないで敵を警戒するべきだ。
それ以上話そうと思ってない事を読み取ったのか、磯貝を含めた他のみんなは何も聞こうとしなかった。
そして、一斉にアクロの方を向く。アクロはとっくに準備を『懐かしいな〜』整えて…
……は?
『仕事の休みという事で参加した船上パーティーに行ったはいいものの、やる事が特に無くてヒマだな〜と外に出ていたら君に会ったんだよね』
……………
『何か悩みを抱えているよう若者にオジサンは優しく声をかけた。悩みがあるんだったらオジサンが相談に乗って上げるよと。若者は恥ずかしさ故に相談する事は無かった。だがしかし、オジサンは彼の前で勇姿を示した。若者はその姿に憧れ、彼の新たなスタートのキッカケになった。そしてオジサンは若者に尊敬の眼差しで…』
「思い出に浸るな!話を勝手に変えるな!敵の目の前で喋ってんじゃねぇぇぇぇ!!」
思わず大きな声で3回も連続してツッコミを入れた。流石にキツかったせいで体力を持っていかれたような感じがする。
まさかあの時の思い出を語るとは思わなかった。しかも凄く脚色されていたし。俺は決してあのオジサンに憧れたりはしていない。これは絶対にしてないと言える。
さっき敵の前で呑気に話すのは危険だと思っていたのに、このオッサンがベラベラと話すとは思わなかった。俺の立場はどうなると思ってんだよ。
『あ、ゴメンゴメン。懐かしくてつい』
「つい、じゃねぇよ!!よくこの状況で話そうと思ったな!しかも話し方が演技臭かったし!
そしていい加減マイクを離せよ!なんで未だにマイクで話そうとしているんだ!!」
思い出話をする時もそして今もマイクを使って喋っているせいで、さっきからずっと声が部屋中に響いている。正直耳がキンキンして痛い。
アクロの動きが止まった。漸く切り替えてくれたみたいだ。真剣な表情で俺たちの方を見る。
俺も、そしてみんなも戦闘態勢に入る。烏間先生はまだ全快仕切って無いのかまだフラフラとしている。まだ烏間先生の助けは期待できそうに無い。
殺せんせーはアクロの様子をただ見ている。アイツのスタイルを観察しようとしているのだろうか。
俺もそれが気になっている。多分みんなもそれが気になるだろう。毒ガス使い、握力、狙撃手…これ以外にあるとすればナイフ術だろうか。けどどこにもナイフらしきものは無い。隠してるのか、それともナイフは関係ないのか。
やがてアクロが動き始めた。
『オジサンってなんでマイクで喋ってたんだろ?』
「知らねぇよ!!!」
…『なんで未だにマイクで話そうとしているか』の答えを考えていたらしい。さっきの真剣な表情はそれを悩んでいた表情かよ。しかも俺に聞いてどうするんだ。
そもそも答えが返ってくる事なんて期待していない。せいぜい『カッコよさそうだったから』ぐらいじゃねぇのか。
「…コイツ、本当に殺し屋か?アイツらと同じ…」
吉田の言うことにその通りと思ってしまった。なんかさっきまでの3人とかなり違う。なんというか、緊張感がないと言うか…威厳がないと言うのだろうか。暗殺者とはとても思えない。ただふざけているオッサンにしか見えなくなっている。
「そんな事言うなよ。これでも目標10人だぜ」
「しらねぇよ!殺人回数を予告されても!」
「いや、友達の数が」
「もっとしらねぇよ!何暗殺稼業のやつが友達作りしてるんだ!」
なんだろう。話してるのが辛くなってきた。必要以上に直射日光に当たり続けていたみたいに、体の中からエネルギーが漏れていき、意識も朦朧としてきている。
コイツ本当に何しに来たんだと、心の底から思ってしまった。
「避けなさい、学真くん!!」
耳の中からその声が頭の中に入り込んだ。その声は、散乱していた俺の意識を一瞬で引き戻し、警戒心を取り戻させた。
その時、目の前には既にアクロがいて、ナイフが迫って来ているのが見えた。
《ヒュン!!》
九死に一生を得るとはこの事を言うのだろうと思ってしまった。ギリギリでナイフを躱した俺は態勢を崩して腰から地面につく。ウッカリしていたらバッタリと横になっていたかもしれない。
「あらら。避けられちゃったか。バレない自信はあったんだけどな」
ナイフで斬りかかろうとしていた暗殺者はさっきと同じく気の抜けた喋り方をしている。そして視線が動きステージの外へ。そこには俺に向かって叫んだ殺せんせーがいた。
「まさか全部見越していたのかい?ターゲット」
「恐ろしい話術、そして体術ですね…生徒たちの警戒心を一瞬で解いてしまうとは…」
殺せんせーは分かっていたみたいだった。俺たち全員が警戒しなかったこの状態で、殺せんせーはアクロの動きを警戒し続けていた。そして、俺を斬りかかろうとしているのが見えて注意を促したと言うわけか。
ここまで来て漸く分かった。さっきまでのボケたような喋り方はワザとやっていたんだと。あまりにも変だったから、殺し屋として見ていなかった。
まんまと敵の策略にハマってしまった。もし殺せんせーが声をかけていなければ、アッサリと殺されていたに違いない。
注意しないと行けない。気を緩めては行けない。そうでなければ殺されてしまう。ここはそういう場所だと、来る時から分かっていたハズなのに…
「オジサンは仕事をサッサと済ませたい主義だし、そのための準備は怠らない人間なんだ。
オジサンみたいに歳を取るとね。体が思う通りに動かないんだ。動きは遅いし、すぐに体勢を崩してしまうし、体力も持たない。
だから手こずらせないでくれよ」
漸く理解した。この男は、紛れも無い暗殺のプロだと。俺たちの警戒心を一瞬で解いたあの話術も、離れた場所から一気に標的を殺せる距離まで来れる移動術も、俺たち生徒には出来ない領域だ。
だからここからは決して隙を見せない。もう二度と、殺されかねないミスは起こしたりしない。
「……お?」
立ち上がった俺を、アクロは面白そうに見ている。俺をあまり警戒してはいないみたいだし、多分面白がっているんだろう。
「良いね。その覚悟が篭った目。若者のその目はオジサンには眩しすぎるよ。
けど、それだけじゃダメだな」
右手に持っている小さな刀を水平に持ち、アクロは近づいて来ている。思った通り小さな刀を隠し持っていた。あれほど小さかったら、ボディチェックでもされない限り見つかる事はない。
「オジサンが特別にレクチャーしてあげよう。こういう殺陣での立ち振る舞いを!」
そのまま俺に斬りかかる…事は無かった。俺に何もせずに横を通り過ぎた。完全に攻撃をして来るものだと構えていた俺たちは走り去っていくアクロを止める事は出来なかった。
俺たちの後ろを通り抜けたアクロはステージの端に近づいている。そこには器物が置かれているだけで特に何も無い。
沢山置かれているものの中に、長い梯子があった。恐らくライトとか天井に何かするためのものだろう。壁に傾けて置いてあるだけで特に意味は無い。
その梯子をアクロは登り始めた。それも足だけで。傾いているとは言っても手を使わないで登りきる事なんてそんな簡単に出来ることでは無いのに、アッサリとやりこなしている。
「何をしているんだ…?」
「あれ、登っても何もないだろ…」
寺坂の言う通り、登っていても何も無いはずだ。壁に寄りかかっているだけで梯子登った先に何か武器があるとか、それどころか道すら無いはずだ。登りきったらそこで行き止まりになる。
そう思っているうちにアクロは登りきってしまった。とても高く、見上げないと頂上が見えない。頂上まであと少しだと言うのにアクロはそのスピードを緩めず、そのまま壁に激突しそうに見えた。
けど壁に衝突はしなかった。
アクロは梯子を登り続けていた足をそのまま壁につけ、そのまま飛び出す。高い地点からのハイジャンプ、それは真っ直ぐ俺に近づいていった。
「な……ッ」
意外すぎる展開に反応が遅れた。急いで避けなければと思った時にはアクロは目の前だ。
攻撃を避けなければならないと必死になりながら、その場から飛び跳ねるように避ける。空振りしたアクロはそのまま地面を転がっているのが見えた。
その時俺はミスをした。あまりにも必死すぎたせいで周りの状況をよく見ていなかった。
もしステージの範囲で避けていたなら大丈夫だった。壁に当たったら大惨事だったがその方向では無い。
俺が飛び込んだのはステージの外…つまり、客席の方だ。
「しまっ…」
後悔していてももう遅い。飛んでしまった体を元に戻る事は出来ない。いますべき事を考えなければならない。
飛び込んでいるいすの背もたれを思いっきり叩いて、飛んで行こうとする俺の体を止める。その結果、叩いた背もたれの上に体が乗った。腹を思いっきり打ったせいか結構痛い。
吐きそうな痛みを堪えて背もたれの上に立つと、三列ぐらい隣の椅子の背もたれの上にアクロが立っている。あそこからここまで飛んで移動したと言うことかよ…
「…どういう戦い方をしているんだ。お前」
「見ての通り、敵を動揺させるように動いているだけだよ。人間って自分の常識が覆ると動揺しまくるらしい。そんな事が出来るはずがない。そんなの有り得ない。そういう先入観が覆ったら大抵の人は呆気に取られる。
オジサンはその瞬間を狙う。自分からチャンスを作り、実行する。そうやってオジサンは、幾多の任務を難なくこなして来た」
チャンスを作る、ときたか。俺には到底出来ないやり方だ。俺はそのチャンスを待つ事しかできない。自分から動く事が出来ないから、いつまで経っても決着がつかない。それがいけないと、分かっている筈なのに、その一歩が踏み出せないんだよな…
「コードネームは確か『アクロ』でしたね。恐らく『アクロバット』の略。さっきのズバ抜けた身体能力もあなたの武器の一つですか」
「良く見抜くね、殺せんせー。俺が言うのも何だけど、殺し屋の中でも俺ほど動ける人は居ないと思っている。
この身体能力はとても便利だ。標的に見つかる可能性も低くなるし、いざとなったら簡単に退却することも出来る。さっきみたいに動揺させるための使い方もあるけど、そんなに使った事は無いかな」
ますます脅威になって来た。あの身体能力もコイツの武器か。
コイツ、ひょっとするとスキルを何個も持っているんじゃ無いか?話術と言い身体能力と言い…そして戦術も。
優れた殺し屋は万に通ずと、烏間先生がビッチ先生をそう評した。優れた殺し屋であるほど、使える技はいくつもあると。
この殺し屋は、まさにその言葉通りの殺し屋だ。どういう状態であっても確実に任務を遂行できる男なんだろう。
「さて、椅子の背もたれの上でバランスを取りながら、オジサンの攻撃を躱してみなさい。じゃないと、怪我するぜ」
アクロが直ぐに仕掛けて来た。今度は正面からナイフが近づいていく。何とか躱しはしたものの直ぐに次の攻撃が出てきた。
更に次、更に次とアクロの攻撃が出てくる。下の階でカルマが暗殺者の攻撃を躱して来た時みたいだ。あの時と違うのは、敵がナイフを持っていることと足場がとても狭いところだ。
「おー、なかなか躱すね。普通なら精々3回が限界だよ」
褒めてくれているみたいだが、あまり嬉しくない。敵に褒められてもコッチが困る。
とは言え普通だったらとても出来ない、と言うのはその通りだとは思う。攻撃を避けただけでも奇跡と言えるだろう。
何回も躱せているのは、烏間先生の特訓のおかげだ。丸太の上でバランスを取りながらナイフを振り続ける練習をして来たお陰で、バランスを崩すと言うことはしなくなっていた。
攻撃の躱し方は、完全に気合いだ。八幡さんのせいで最近気合いしか話してない気がするけど。
そのまま攻撃を避け続けている。さっき言った通り俺はチャンスを待つタイプだ。出来る限り自分から攻撃を仕掛けずにいる。八幡さんにはもっと攻めろと言われるけど、俺にはこれが限界だ。
そうしているうちに、チャンスが来た。アクロの攻撃の勢いが一瞬止まった。体力とかが原因で攻撃をずっと続ける事は出来ない。
その隙に1発拳をぶつける。顔面に入れて怯ませたかったけど、腕で塞がれてしまった。恐らくだけど防御術も心得ているんだろう。最小限のダメージで防がれた。
けど拳と腕が当たった時に分かった。コイツそんなにパワーがない。さっきも攻撃を流すようにしていたし、正面から受ける事は出来ないんだろう。
それならこの距離だし、力押しで有利にする事が出来るかもしれない。俺もパワーがあるわけじゃないけどそれなりに鍛えてはいるし、アクロには力で勝つ事が出来る。
力で勝負するなら、1番良いのは押し技だ。この狭い足場なら一気に体勢を崩させる事が出来る。
体勢を崩したら後は押さえつけて拘束すれば良い。今の俺たちの目的はアクロを倒す事ではなく、ウィルスにかかっているみんなを助けるためのワクチンを奪い取る事だ。
アクロを突っ張ろうと構える。手を真っ直ぐ伸ばせば腹に当てて突き飛ばせた。だから俺は手を伸ばすだけで良かった。
そう、伸ばすだけ…伸ばせば…
……………ッ!
「いま、隙を見せたね?若者よ」
額に痛みが走った。
とても鋭く、頭が割れるような感じがした。それが何によるものかは分からなかった。もしかして頭痛かと思ったのだが、それは違うとこの後直ぐに分かった。
何かが垂れていくのを感じる。頭からゆっくりと垂れていき瞼にたどり着いた。反射的に眼をつぶる。その後瞼を通過して更に下の方へ落ちていく。
顔の表面を辿りながら、ゆっくりとそれは落ちていく。水にしてはドロドロしていた。それが唇に触れた瞬間に嫌な味がした。
直接触った訳でもないし、ましては見る事は出来ない。けどその正体はハッキリと分かった。
これは間違いなく血だ。
どうやら俺は斬られたらしい。
顔に着いている血の感触と力が踏ん張れない体からそれを悟った俺は
そのまま、バタンと倒れた。
暗殺者アクロに斬られてしまった学真。この後一体どうなるのか?