浅野 学真の暗殺教室   作:黒尾の狼牙

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予定とは常にそうならないものである。これは僕の人生で思った事です。予定を立てたとしても必ずそうならないものだなーと感じています。例えばテスト勉強とか、夏休みの宿題とか、家事とか(←ダメな男)



何が言いたいかと言うと…展開が長引きました。


アクロとの戦闘は2話で終わるかなーと思っていたんですが甘かった…書いている内に『あれ?これ終わらなくない?』と思ってしまい、案の定終わらなかったんですね。削ると言うのも1つの手だったんですけどそれはしたくなかったので思い切って長引かせました。





第78話 枷の時間

俺は救われた。

 

 

こんなどうしようもない俺を、救いようがないバカな俺を助けてくれた仲間がいた。

 

 

 

 

 

『ここまでクラス想いなお前がどんな欠点を抱えたとしても、今さら嫌いになったりしねぇよ』

 

 

 

『良かったら学真くんが背負ってきたものを、私たちにも背負わせて』

 

 

 

 

『皆さんも君の助けになろうとしているんですよ』

 

 

 

 

 

 

みんなは、喜んで俺の助けになると言ってくれた。愚かな事をした事も責める人は居なかった。

 

こんな出会いは今までに無かった。仲良くしてくれる人は居たけど、俺の欠点まで背負ってくれる仲間はいなかった。家族でさえも俺に手を差し伸べる事は無かった。

 

 

 

 

俺はみんなに救われた。返しても返したりないぐらいの恩がある。だからみんなと一緒に頑張ろうって思ったんだ。

 

 

 

 

今度は本当の仲間として

 

 

 

 

 

 

 

このE組の一員として

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頑張るんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決して邪魔をしないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇第三者視点

 

 

 

あっという間の展開だった。いや、それどころかあまりにも速すぎる展開だ。

 

 

客席の上で戦うというあまりにも異質な戦いがあった。もしそうなったとしたらバランスを保てずに落ちてしまってもおかしくない。

 

 

そんな状態で学真はアクロと対等に戦っていた。

 

 

 

もちろん烏間による体育の訓練でバランスを取りながらナイフを振る練習はしてきたが、実際に足場の悪いところで戦う事が出来る生徒はそんなに居ない。

 

それ故に彼の立ち振る舞いはスキルの高さを示していた。

 

 

 

生徒たちは茫然と見ていた。プロの暗殺者と戦う事は大きなリスクがあると言うのは承知していたが、どこか大丈夫だと思っているところがあった。学真ならあの暗殺者を倒せるのではないかと。

 

 

 

 

 

学真がアクロに攻撃を仕掛けた。アクロも反応してその攻撃を防いでいたが、力に差があるのか学真が押し切った。

 

腕を弾き飛ばされているアクロ、その瞬間は攻撃するチャンスだ。そして学真ならその隙を攻撃してくると思っていた。そしてその通りに学真がアクロを突き飛ばそうと構えていた。

 

 

だが突然、学真の動きが止まった。

 

 

 

手を伸ばして突き飛ばせばいい筈なのに、そうしなかった。それを不思議に思う生徒も中にはいた。

 

 

 

 

「いま、隙を見せたね?若者よ」

 

 

 

 

そして攻撃しなかった事で生じた学真の隙をアクロが見逃すはずが無かった。

 

突き飛ばされた腕を元に戻してナイフを構える。そして距離を詰めて学真に斬りかかった。

 

 

 

その斬撃は、学真の顔面をシッカリと捉えた。

 

 

 

 

致命傷に至るほどの大きな傷とは言えないが、小さなダメージでもない。顔面に刻まれた傷跡からは血が吹き出ていた。そんなに近くにいない生徒たちにもその血が見えるほどの量が出ている。

 

 

 

「えっ…………」

 

 

 

誰かがその声を出した。その声を出した人だけではなく、他の生徒も理解が追いついていなかった。

 

だがそんな事はお構いなしという風に、学真は体勢を崩す。元々足場が悪すぎる椅子の背もたれの上で体勢を崩せばどうなるかは分かるだろう。誰もが予測できる通りに学真はその椅子から転げ落ちた。

 

 

 

 

 

 

「………ッ!!!」

「なっ……!?」

「…そんな………ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「学真(くん)!!」」」

 

 

 

 

椅子から倒れたクラスメイトの名前を叫ぶE組の生徒たち、いま自分たちが見たことを信じられないでいる。もちろんいま起こった事は夢とかではない。学真は間違いなくアクロに斬られて倒れたのだ。何度確かめてもそれが間違いない事が証明されてしまう。

 

その中に、嫌な考えを持った生徒もいた。もしかしたら殺されたのではないか、と。敵は殺し屋であり、殺されても不思議ではない。

 

潜入を始める時から今まで、その可能性から敢えて目をそらしていた生徒もいた。学真が倒れた事でその考えを強く心に浮かべてしまい、焦っている表情になっている。

 

 

 

 

「…見事なものだね。反射的に躱されたよ。転げ落ちたものの致命傷はならなかったみたいだね」

 

 

 

だが学真と戦っているアクロの言葉を聞いて、その通りに事態は進まなかった事を知ってホッとする。

 

 

 

アクロの狙いは顔ではなく体だった。胴体にナイフで斬りかかれば学真はその傷で起き上がる事はまず出来ないだろうと思ったからである。

 

そしてアクロが攻撃してくる瞬間、学真が反射的に後ろに傾いた。そのためナイフは胴体ではなく顔を捉えた。それも表面に切り傷がついたぐらいでダメージはそれほど入ってないだろう。もちろん血が出ている状態でもう一度挑んでくるかどうかも不明ではあるが。

 

 

 

 

 

 

「…くそ、が…ッ!」

 

 

 

 

 

 

客席の中から学真が立ち上がって姿を現した。特に致命傷になって立ち上がれなくなる様子はない。

 

そして顔面には鼻の上から額に斬られた跡がついており、そこから血が流れている。

 

斬られた事は一度あったが、ここまで血が出てくる事は無かった。生徒たちも学真がその傷を負ったところを見たことがない。かなり痛々しい学真の顔を不安そうに見ている。

 

 

 

「無茶する事はあまり良くないよ。斬られたのは確かだし、椅子の上から転げ落ちて頭を打った筈だよ。決して軽い傷ではない。これ以上の挑戦は君を苦しめるだけだ」

 

 

 

アクロの言う通りである。生徒たちもそう思った。斬られて椅子から落ちた学真は決して無事とは言えない。むしろ体の状態が危ないといってもおかしくない。これ以上戦う事を続けるのは彼にとってデメリットしかない。

 

 

 

 

「ここで退いたら、みんなはどうなるんだ?」

 

 

 

 

今にも倒れそうなフラフラな体を必死で踏ん張りながら学真が口を開いた。学真の言っている『みんな』とは、いまここにいる生徒だけではない。

 

 

 

「いま必死でウィルスと戦っている仲間がいるんだ。そいつらは今の俺なんかよりずっと辛い思いをしている。それにもかかわらず落ち着いて話してくれる奴もいたんだ。

 

仲間が必死で戦っている時に、こんな傷でくたばっている場合じゃねぇんだよ…!」

 

 

E組の目的は、ウィルスで苦しんでいる仲間の救出だ。学真はその作戦に参加し、ここまでついてきた。絶対にワクチンを奪うと決めていた。それを、傷を負ったぐらいで止めたくないと学真は思っている。

 

 

「…素晴らしい仲間愛だ。感動するね。けど無茶は無茶だ。これ以上暴れるならオジサンも力づくで止める事にするよ」

 

 

 

アクロは学真の気持ちが分からない訳ではない。寧ろ彼のその想いは尊敬に値する。若者を高く評価しているアクロは学真のその想いに感服している。

 

だがそれが賢いとは思っていない。学真のやっているのは無茶だ。若さ故にそのような過ちをしてしまっているようにも見える。

 

そうなってしまった若者を止めるには、口で何と言っても無駄であると判断した。止めるために1番有効な手段は力づくでしかない。アクロは学真を力で無理やり止めようとしていた。

 

 

 

 

その時、アクロはかなり速い速度の蹴りを受けた。

 

 

 

 

「うおッ…!?」

 

 

 

 

紙一重で防いだものの、受け止める事は出来なかった。受けた衝撃のままアクロは後ろに吹き飛ぶ。そして椅子の上からステージの上に戻っていった。

 

 

ステージに見事に着地をしたアクロ、そのまま彼を蹴り飛ばした人物を見る。するとそれが意外だったようで、アクロは少し動揺していた。

 

 

 

「…スモッグの毒はまだ完全に治ったとは思えないけど?」

「確かに完全には治ってない。蹴りを1発出すだけで精一杯だ」

 

 

 

アクロを蹴り飛ばしたのは烏間だった。離れた場所から一気に近づき、アクロを蹴り飛ばした。

未だにスモッグの毒の影響が残っており、表情はまだ疲れている時のそれだ。その状態でアクロと戦うと言うのはかなり無謀にしか見えない。

 

 

だがそれは烏間が止まる理由にならない。

 

 

「これ以上好きにさせるわけには行かない。ここからは俺が相手だ」

 

 

ステージに上がり、アクロの前に立ちはだかる。相手が変わった事に対して特に不満はない。アクロは烏間の挑発に乗る事にした。

 

 

 

「…烏間、先生……」

 

 

 

烏間がアクロと戦おうとしているのが見えた学真は、直ぐにステージに近づこうとする。

 

しかし歩こうとした時に少しよろけた。倒れかけたところを椅子に捕まってギリギリのところで耐える。

 

斬られた額から流れた血は、片方の目にも垂れている。目に入るのを防ぐように片目を塞いでいるため、いつもよりも見えづらい。更に殺せんせーと同じく動揺しやすい性格である学真はもう既に平常心ではなくかなり焦っている。その結果学真の動きはかなりぎこちない。

 

その状態でアクロと戦えば、間違いなく負けるだろう。そして殺し屋との戦いにおける敗北は死という事だ。このまま学真を放っておいたら学真が死んでしまう。そう思ったE組の生徒たちは彼を止めようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「止まりなさい。学真くん」

 

 

 

 

その生徒たちよりも先に彼を止めたのは、殺せんせーだった。未だに完全防御形態であり、椅子の上から動く事は出来ない。しかし殺せんせーの台詞は彼が動く事を許さなかった。

 

 

 

「…なんだよ、殺せんせー。邪魔だから動くな、て言いてぇのか?」

 

 

 

殺せんせーを睨みながら言葉を出した。いつもの彼ならあまりしない行動だ。他人を威嚇したりする事はあまりしたことがない。ましてE組の生徒や殺せんせーに対してやる事は無かった。

 

それだけ、今の彼は余裕が無くなっていた。自分がアクロの攻撃を食らってしまった事でクラスメイトが動揺している。その状況を打破するために行動しないといけないと思っている彼は落ち着いていられるはずも無かった。

 

 

 

「ほとんど正解です。今の君は行ったところであのアクロという男に殺されます。あの暗殺者は強い。半端な力では返り討ちにされてしまうのがオチです」

 

「ちょっ…殺せんせー!」

 

 

 

かなり厳しい事を言う殺せんせー。思わず渚が殺せんせーを止めようとした。

 

 

 

学真はかなり悔しそうにしている。殺せんせーの言っている事は薄々分かっていた。今の現状を見れば嫌でも理解できる。しかし頭では理解していても、気持ちはそうとは行かなかった。何とかしたいと思っている彼に、何も役に立たないという結果を言われるのはかなり悔しい事である。

 

 

 

 

 

 

 

「だから()()()()動かないでください。先生は君に一つだけ言わないといけないことがあるのです」

 

 

 

そんな彼に向けられた殺せんせーの言葉は、さっきとは変わってとても優しいものだった。いつもどおり、生徒思いの殺せんせーが学真に話しかけていた。

 

それを聞いて少し落ち着いた学真は、殺せんせーに言われた通り耳を傾ける。

 

 

 

 

 

 

「君はいま責任を感じていますね。先生の暗殺の失敗を。千葉くんや速水さんと同じように」

 

 

E組の生徒たちは殺せんせーの言っている事の意味が分からなかった。暗殺の要だった千葉と速水が責任を感じるのは分かる。しかしサポートの学真が責任を感じるところはあったようには見えない。特に問題もなかった筈だと。

 

しかし学真はあの暗殺に責任を感じているところがあった。

 

それは殺せんせーに向けて千葉と速水が発砲する瞬間だった。もうすぐで暗殺出来ると思った時に、一瞬だけ迷った学真は狙いがブレて殺せんせーの服に弾が掠ってしまった。それがキッカケとなり殺せんせーは千葉と速水の位置に気づいた。

 

みんなの暗殺を邪魔してしまったと思っている学真は、ホテルの中にいる間、責任を感じたままでいた。

 

 

 

 

「確かに君が失敗したところはあったかもしれない。その失敗によって先生が回避したとも言えます。そして君はその失敗に責任を感じているでしょう。

 

そしてその責任は千葉くんや速水さんとは違う形で影響してしまった。

 

 

 

 

 

みんなの邪魔にならないようにと無意識に思ってしまい、いつものように動けなくなるという形で」

 

 

 

 

 

矢田が何かに気づいたような顔をしている。ホテルの時に薄々感じていた違和感の正体に気づいたのだ。

 

 

 

 

E組の生徒は、彼の唯一の仲間である。多川やマイクのように仲良くしている友人はいるものの、彼の欠点を受け入れたのはE組の生徒たちだけだった。彼は心から仲間ができたと思っていた。

 

それ故に彼は仲間に迷惑をかけたくないと思うようになった。そして殺せんせーの暗殺失敗を経てその気持ちが強くなった。

 

迷惑をかけたくないと言う気持ちは決して悪いと言うわけではない。寧ろ仲間想いである事の象徴とも言えるだろう。

 

 

 

しかし失う事の怖さを知っており、彼にとって唯一の仲間を失う事を避ける事に意識するあまり、彼はいつもの通りに動く事が出来なくなってしまった。

 

暗殺者が現れた時も、それを恐れているせいか足を前に出す事が出来なくなってしまった。自分が出る事で邪魔になるんじゃないかと考えてしまうからである。

 

先ほどアクロに斬られる前の時も、いつもだったら迷わずに攻撃していた筈だ。しかし彼はアクロの後ろにE組の生徒がいるのを見てその攻撃を躊躇った。

決して被害を受ける場所に立っていたわけではない。彼らが戦っていた場所からは距離が大分あるし、もしアクロが吹き飛ばされたとしてもそれを避けるほどの余裕はありそうなものだった。

しかし邪魔しないという彼の思考は、必要以上に警戒してしまう。彼の不安は、彼の行動を制限してしまった。

 

 

 

 

「けど大丈夫です。例え迷惑をかけられたとしても彼らにとっては何の問題もない。少し前に矢田さんが言ったでしょう。君が背負っているものを自分達にも背負わせてと。

 

君がどんな迷惑をかけたとしてもそれで崩れてしまうほど皆さんとの絆は脆くない。何も気にせずに自分の全てをぶつけて来なさい」

 

 

 

全てをぶつけろ。殺せんせーの言われた事を心に刻んでいる。少し前から彼はそれを避けていた。それでみんなの迷惑をかけたくないからと。

迷惑をかけたぐらいで崩れてしまうほどみんなとの絆は脆くない。殺せんせーはそう言うものの不安になってしまうものは不安になる。

 

 

 

けど、同時に殺せんせーを信頼している気持ちもあった。

 

 

 

いままで色々な事を教えてもらった。勉強の事だけではなく、生き方についても教えてもらった。その殺せんせーの教えを、彼が1番信じていた。

 

 

だったら自分の全てを出しても良いんじゃないか。

 

 

最近彼は身につけた技術がある。訓練して身につけたは良いものの、実際に使おうとはしなかった。彼にとってそれはどうしようもない時に使うもの、つまり奥の手というものだった。

 

その奥の手はいま使うべきである。学真はそう判断した。アクロほど強い相手ならその手を使わなければならない。

 

 

 

 

少し止まっていた足を再び進める学真。しかし先ほどと違い焦っている様子もなく、しっかりとやるべき事をやろうとしている表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

アクロの攻撃を防ぎ続けている烏間。かなり変わった攻撃をしてくるもののそれを防ぐことは何の問題もない。E組の生徒はもちろん訓練兵の攻撃を防ぎ続けた彼には造作もない事だ。

 

もし体の調子が良好なら、アクロを倒す事が出来たかもしれない。ナイフの使い方に優れているものの、戦闘に慣れている様子はない。戦闘に持ち込めば直ぐに倒せただろう。

 

しかし未だにスモッグの毒の効果が残っているため、無茶な動きは出来ない。攻撃を防ぐ体力がなくなる事を避けるために彼は防御に徹していた。

 

 

「なかなかやるね。政府から派遣された体育教員さん。その体で防ぎきっている事に敵ながら敬意を表するよ」

 

 

アクロの言葉に、烏間は何の返事もしない。あくまで攻撃を防ぎ続けているだけだった。

 

だが気になっている事はある。なぜこの男は自分が体育教員であると知っているのかと。

教員であるという事は知っていてもおかしくない。生徒を引率していれば先生と判断されてもおかしくないだろう。しかし教科まで知っているとなると流石に怪しい。少し前に椚ヶ丘中学校について調べたのか、それとも彼の依頼人が関係しているのか。そんな事を考えていた。

 

 

 

「けど僕はアナタを殺すつもりは無いんですよ」

 

「なに…?」

 

 

 

攻撃を止めたアクロの言葉に疑問を感じる。自分達の前に現れた殺し屋が『殺すつもりはない』と言うとおかしいと思うし、動揺させる罠かもしれないと警戒してしまう。

 

 

 

「無意味な殺人は好きじゃないんですよ。仕事として人を殺さないと行けないと言うなら話は別だけど、僕が依頼人から言われたのはここの防衛だけ。貴方がたを殺せとは言われてないし、僕も殺したくは無い。とっとと降参してくれた方が僕としてはありがたいんですけどね」

 

 

 

アクロが言ったのは降伏勧告だ。ある意味脅しと言える。殺しはしないから降参してくれと言うことなのだろう。

 

現状ではそれが有効なようにも見える。今のところアクロに勝つ見込みはない。未だに毒が残っている烏間先生はアクロを倒す事は出来ない。ましていま怪我人がいる。大人しく降伏した方が良いのかもしれない。

 

 

 

 

「それはしたくないから、俺らはここにいるんだよ」

 

 

 

ステージの上に1人の男が上がった。それは先ほどまで客席にいた学真だ。殺せんせーとの話が終わり、いま彼が戦前に戻ったのだ。

 

 

「大丈夫か?学真くん…」

 

「はい。時間稼ぎ、ありがとうございます」

 

 

烏間は殺せんせーから依頼された。それは時間稼ぎである。学真と話をする間アクロを止めておいてくれと頼んでいた。

 

 

 

「…決して無茶はするな。危なくなったらすぐに手助けする」

 

「はい。けど大丈夫です。奥の手を2つ残しているので」

 

 

未だに心配している烏間。彼の性格上心配しないと言う方が無茶であろう。まだ中学生である彼がプロの殺し屋の前に立つ事を未だに良しと思ってない。

 

 

「…奥の手?そんなものを隠しているのかい」

 

「まぁな。1つは成功した試しがないからやったことないし、もう1つは危険だからやった事はない。けど…アンタ相手ならそれを使わないと勝てないと言うのが分かった」

 

 

 

奥の手、というワードにアクロは引っかかった。ここに来てまだ武器があるのかと。それも2つ。

 

 

「興味深いね。若者の発想ってオジサンには想像もつかないような事も起こり得るから。じゃあ見せてみなよ」

 

 

 

ナイフを持ってアクロが学真に迫る。先ほどと同じく素早い。ボーッとしていたら斬られるだろう。

 

しかし、タイミングはわかった。もともとタイミングを合わせる事は得意だった学真はその瞬間を狙った。

 

 

充分な間合いに近づき、学真に向かってナイフが近づいていく。狙いは顔面。先ほどと同じ場所に攻撃が来るとなると体が無意識かつ過剰に反応するだろう。

 

 

しかし学真は焦っている様子はない。いつも通り冷静だった。

 

 

 

そして近づいているナイフを、学真は弾き飛ばした。

 

 

 

《ガキィィィン!!》

 

 

 

金属と金属が激しくぶつかった時の音が鳴る。ステージの構造上その音は強く響いた。

 

生徒たちは疑問に思う。金属同士がぶつかった音が聞こえたという事は、金属は少なくとも2つ有ると言うこと。

 

1つはアクロがさっきから持っているナイフ。そしてもう1つは、学真が持っているナイフだった。

 

 

「嘘…学真くん、それって本物のナイフ…?」

 

 

クラス全員が思った事を茅野が代表して口に出した。対先生用ナイフではなく本物のナイフ、学真がそれを持っている事にビックリしていた。

 

 

「…霧宮のところから貰ったんだよ。ひょっとしたら使うかもしれないと思ってな」

 

 

霧宮のところとは、霧宮が住んでいる家の事である。確かにそこならナイフはありそうだ。

 

鷹岡と戦っている時に学真は思った。もしかしたらこの先もっと恐ろしい敵に命を狙われるかもしれないと。暗殺対象の1番近くにいる自分たちが殺されることも充分にあり得ると。

 

だから学真は身につけることにした。敵から戦う為の技術を。自分の命や仲間を助ける力を。

 

 

 

「使うのはナイフだが、俺はこれを攻撃に使わない。敵を斬るために使おうとしたら俺は自分を保てなくなりそうだと思った。これはあくまで防御、ナイフで攻撃を防ぐ技術だ」

 

 

それは誰かに教えてもらったわけではない。それの土台になっているのは彼の経験だ。いままでの彼の経験の集大成であり、彼が持っている奥の手の…危険な方である。

 

 

この戦いを経て彼は更に進化する。素人がプロに対抗する技術を、彼は完全に習得する。

 

 

 

 




アクロとの戦闘第二幕。学真は勝つことが出来るのか。
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