浅野 学真の暗殺教室   作:黒尾の狼牙

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久しぶりの原作シーンです。結構詰め込んでいるから読むの大変かもしれない。


第80話 黒幕の時間

さっきのステージを出て先に進んでいる。ステージの袖の方に進めば先に進めるみたいだ。最初に聞いた通りこのホテルはかなり複雑な構造をしている。

 

そしてその道の途中には今までと同じように見張りがいる。俺たちの方を向いていないとはいえかなり動きづらい。見た目的にもそれなりに強い相手だし、簡単には通れなさそうだ。

 

 

その相手に気配を感じさせずに近づいて首を絞めている烏間先生がいなければの話だけど。

 

 

「…フン、漸く体が思う通りに動くようになったな」

 

 

相手を気絶させて烏間先生は先に進んでいる。首を絞められた奴は顔が何かおかしくなっている。骨格が変わっているみたいだ。絞められている時も首が恐ろしい曲がり方をしていたし、敵ではあるものの流石に心配してしまった。

 

 

烏間先生の後を辿って、俺たちは先に進んでいく。体がだいぶ回復してきたらしい烏間先生の後ろはかなり安心感がある。何だかんだ言ってもさっきまで不安だったし。

 

本当の事を言うと俺は烏間先生のすぐ後に行きたかった。何かあった時に対応できるために。

 

「…っ!つぅ…」

 

 

けど今の俺にはそれが出来なかった。

 

 

「大丈夫か?あまり無茶するなよ」

「…すまねぇな、磯貝…」

 

 

何しろ磯貝に支えてもらわないとあまり歩けない状態だし。

 

烏間先生には応急処置はしてもらった。とりあえず顔の一部を包帯で巻いて血を無理やり止めている。けど打撲によるダメージはどうする事も出来ない。それこそ医者に診てもらう必要があるみたいだ。

 

もう大丈夫だと思って歩こうとしたところバランスを崩して派手に倒れてしまったのはいい思い出だ。なんで余計な怪我を増やしてしまうのか…我ながらマヌケすぎる。

 

というわけで磯貝に支えてもらって歩いている状態の俺は前に出ることが出来ない。こうなるともう無事を祈るしかなさそうだ。

 

 

 

『みなさん、目の前の階段を登れば最上階です』

 

 

律の言う通り、目の前には大きな階段がある。これを登れば最上階…つまり、今回の黒幕がいる場所にたどり着く。

 

 

「…今回の黒幕について分かったことがあります」

 

 

緊張しているところで殺せんせーが話しかけてきた。今回の黒幕のことについて、か…聞いておいた方がいいかもしれない。

 

「彼は暗殺者の使い方を間違えている。見張りや防衛など、それは殺し屋の仕事ではない。彼らの実力は現場でこそ発揮されます」

 

 

…確かに。

 

 

銃を使っていた暗殺者は、実際に現場に立ったら沢山の敵を撃ち殺せるほどの手練れだった。

 

握力が武器の暗殺者も、警戒される前に殺すことができた。何しろ武器は持ってないんだしあの握力なら一瞬だ。

 

毒使いの男に至っては毒を盛れば良い。上手に毒を服用させる技術も持っているみたいだし。

 

アクロは標的に警戒されないで殺す技術を持っていた。あのトーク術も身のこなしもそのための技術だと思われる。

 

 

誰を見ても現場で仕事が難なく熟せるタイプだ。現場で居合わせたら殺されたかもしれない。

 

なのに黒幕は暗殺者たちを防衛に回した。殺せんせーが動けなくなり殺し屋たちを派遣する意味が無くなったからなんだろうけど、それは殺し屋たちの力を存分に発揮出来ない事に繋がった。

 

それが分かってないと言うことは…

 

 

「暗殺者とかそれに詳しい人間ではないと言うことか?」

 

「ええ。手練れと言われている暗殺者を集めただけでしょう」

 

 

なるほど…黒幕が暗殺者である可能性は無いと言うわけか。

 

けどそれじゃあ正体は一体なんなんだ?殺せんせーの事を知っているから、ただの民間人ではない事は確定だけど。

 

まして詳しくないと言っても殺し屋に依頼できる人物だ。そんな人物は限られてくる気がする。

 

 

「…時間がない。取り敢えず先に進むぞ」

 

 

烏間先生に従って先に進む。見張りはほとんどいない。この先にいるのはその黒幕だけなんだろう。

 

 

 

 

階段を登ると暗い部屋に出た。それもあまり広くない。パソコンとかが置かれているぐらいだ。

 

 

そして奥の方に机がある。そこにはウィルスのワクチンが入っているだろうケースと、黒幕の姿が見えた。

 

後ろ姿でその顔は分からないが、黒幕はパソコンを見ながら笑っている。恐らく…いや、確実にウィルスに苦しんでいるみんなの様子を笑いながら見てるんだろう。

 

 

「いよいよ行くぞ。黒幕の後ろに近づき、一気に奇襲を仕掛けてワクチンを奪い取る。もし万が一にも気づかれた場合は、爆発のスイッチを押す手を俺の責任で狙撃する。目的はあくまでワクチンの回収だ。回収後は俺が足止めをする」

 

 

ここからが今回の作戦の本番だ。ウィルスで苦しんでいるみんなを助けるために奇襲を仕掛けてワクチンを奪い取る。ここで失敗すれば今までの努力が水の泡だ。

 

だからできる限り不安要素は低い方が良い。

 

 

「…磯貝。俺はここで降ろしてくれ。俺はここで待っている」

 

 

いま動けない俺は作戦の邪魔になる。俺を支えている磯貝が動かなくなるのも問題だ。俺は磯貝にここで降ろしてもらうように頼んだ。

 

いまこの状態ではその方が良いと思ったのか、磯貝は俺を降ろした。俺は階段の横に座っている。殺せんせーを手に持ったまま俺はみんなの様子を見ることにした。

 

 

 

 

 

「ーーー行くぞ」

 

 

 

 

 

生徒全員が黒幕に向かって歩いていく。それも普通に歩くわけじゃない。ナンバと言われる歩き方だ。同じ方の手と足を同時に出す事で空気の動きを最小限にしてできる限り気配を小さくする、体育の時間で烏間先生に教えてもらった歩き方だ。

 

 

 

 

一歩ずつ黒幕に近づいている。その時みんなが思っていたことはウィルスで苦しんでいる生徒のことであると分かった。俺もその思いでここまで来たのだから。

 

 

 

 

黒幕の後ろにまで近づいている。後数歩進めば奇襲が可能な距離になる。遠くで見ている俺も緊張が高まって来た。心臓の音が止まらない。あそこにいるみんなもそんな思いをしているのだろうか。

 

 

 

 

とうとう殺し屋の後ろにたどり着いた。気づかれている様子はない。このまま奇襲すれば成功しそうだ。銃を持っている生徒は銃口を、スタンガンを持っている生徒はスタンガンを、それ以外の生徒は何か武器になる物を持って黒幕に向かっていった。

 

 

 

 

そして一斉に黒幕に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………かゆい」

 

 

 

 

 

 

 

 

遠くの方から声が聞こえた。方向的には間違いなくその黒幕だ。そこそこの大人の男の声だ。

 

 

俺たちはその声を聞いたことがある。

 

 

 

 

 

「思い出すたびに痒くなる。でもそのせいかな。いつも傷口が空気に触れるから、感覚に敏感になっているんだ」

 

 

 

 

黒幕の男は突然何かを取り出してばら撒いた。それは大量のスイッチだった。恐らくワクチンが入っている箱についている爆弾を起動させるものだろう。

 

 

 

 

「言っただろう。元々マッハ20の怪物を殺すつもりで来ているんだ。リモコンだって奪われないよう予備を作っている。うっかり倒れ込んでも押せるくらいにな」

 

 

 

 

 

 

 

……そうか。そう言うことか。

 

 

 

殺せんせーが黒幕に関する話をしていた時、俺はその正体について考えていた。誰がこの事態を引き起こしたのかを。

 

その黒幕に関する情報は意外と多くあった。暗殺者やその関係者ではないこと。殺せんせーの存在について知っていること。暗殺者に依頼をする事が出来ること。

 

 

そしてもう一つ。今日の暗殺計画を知っていること。殺せんせーや俺たちが今日ここに来る事を知っていないと今回の事件は起こしようがない。

 

 

その全てに当てはまり、かつ今回のような非道が出来るような人物。それは、俺たちが出会った中ではたった1人しか当てはまらない。

 

 

 

 

 

「…どう言うつもりだ、鷹岡ァ!!」

 

 

 

 

椅子を回してその姿を見せて来た。その顔は、少し前に椚ヶ丘中学校に来て、体育の時間で俺たちに酷い事をした人物…鷹岡だった。

 

 

「悪い子たちだ。恩師に会うのに裏口から来る。父ちゃんはそんな風に育てた覚えは無いぞ。仕方ない。夏休みの補習をしてやろう」

 

 

前よりも禍々しい雰囲気を感じる。服装が違うのも理由の一つだけど、1番の原因は顔だ。髪はかなり乱れていて、頰には引っ掻いた跡がある。さっきの鷹岡の話によると、それで感覚に敏感になったとか。

 

鷹岡だったら、さっきまでの疑問に対して答えが出る。国家機密の殺せんせーの事を知りながら、殺し屋やそれと関係が近いわけではない。そして今回の暗殺計画のことを知っており、今回のような事態を引き起こしそうな人物だ。

 

 

「屋上に行くとしよう。愛する生徒に歓迎の用意をしてある。後ろの怪我人もだ。お前らのクラスメイトは俺の慈悲で生かされているんだから、ついて来てくれるよな…」

 

 

どうやら俺がいる事がバレたみたいだ。隠れる意味がなくなり、俺は歩いているみんなの後ろについていく。途中で磯貝が再び支えてくれたけど、あの磯貝が嫌悪の表情になっている。

 

 

それも当然だ。いまここにいる生徒は、鷹岡に対して嫌悪感しか持っていない。

 

 

 

 

「気でも狂ったか!防衛省から盗んだ金で殺し屋を雇い、ウィルスで生徒を人質に取るこの凶行!!」

 

 

 

 

烏間先生が鷹岡に向かって叫んでいる。一応同じ役職である烏間先生からすると鷹岡の非行には許し難い物を感じるんだろう。

 

 

それに対して鷹岡は笑いながら答えた。

 

 

 

「おいおい。俺は地球を救うためにやってるんだぜ?計画では…茅野だったか?ソイツに用があった。ソイツに賞金首を抱かせて、対先生弾がたっぷり入ったバスタブに入れて生き埋めにする。生徒想いの殺せんせーなら爆発なんてせずにそのまま溶けてくれるんだろう?」

 

 

 

……酷い作戦だ。茅野を生き埋めにして殺せんせーを殺す…そんな作戦、まともな人間なら思いつくことも、まして実行しようとも思わない。

 

コイツは、まさに人の皮を被った化け物だ。俺たちの命をなんとも思ってない。他人の死を笑いながら土台にするような奴だ。

 

 

「そんな非道な事が、許されるとでも思ってんのか?」

 

 

 

鷹岡を睨みながら話す。本当は今すぐコイツをぶん殴りたい。思う通りに動けない体にここまで苛立ったのは始めてだ。

 

 

 

「これでも人情的なものさ。お前らが俺にやった非人道的な仕打ちに比べればな。

 

軽蔑、敵意、悪名…あらゆる目線が俺に向けられる日々が続いた。俺が追い出された事で俺の人生は破綻した。

 

俺はこの日を待っていた。俺をここまで追い詰めた奴らに復讐する日を。俺をここまで落ち込ませた奴らを、俺は絶対に許せない。

 

 

特に潮田渚…俺の未来を潰したお前は…」

 

 

 

…それが、コイツの動機と言うやつか。事情はよく知らないが、E組校舎から追い出された日からコイツは未来を失った。だから俺たちに強い憎しみを抱いているわけか。

 

 

正真正銘の、個人的な妬みだ。鷹岡を追い出したのは確かだが、その原因は鷹岡の暴挙だ。それに嫌気がさして俺たちはコイツを追い出したんだ。それに対してコイツが恨むのは筋違いだ。

 

 

 

「ケッ、勝手なことを言いやがって。言っとくがな。あの時テメーが勝っても負けても、オメーの事は大っ嫌いだからよ!」

 

 

 

クラス全員が思ったことを寺坂が代表して言った。鷹岡が勝っていようと負けていようと、鷹岡のことを快く思わない事は変わらない。

 

 

 

「ジャリの意見なんか聞いてねぇ!俺の指先でジャリが半分減るってことを忘れんな!

 

チビ!!お前1人で上のヘリポートまで登ってこい!お前1人に殺戮ショーを体感させてやる!!」

 

 

 

鷹岡が大声で叫び、治療薬とスイッチを持ってヘリポートに上がって行く。あの梯子を登れるのは渚のみ。それ以外があの梯子を登ろうとしたら治療薬を爆発させるつもりだろう。

 

そして渚はその梯子に近づいていった。あのヘリポートには逃げ道がない。あそこに行けばどうなるか分かったものじゃない。酷い事をされるに決まっている。

 

 

「ダメ!渚…行ったら」

 

 

そう思ったからだろう。今まで渚のとなりにいた茅野が渚を止めようとした。けどそれは意味がなかった。

 

 

 

「行きたくないけど、行くよ。上手く話を合わせて治療薬を渡してもらうから」

 

 

 

そう行って渚は梯子を登ってヘリポートに上がった。すると鷹岡が梯子を落とす。恐らく俺たちが来れないようにするためだ。

 

そして地面には本物のナイフが置かれている。鷹岡も懐からナイフをもう一本取り出した。この時点で鷹岡のやろうとしている事が分かった。

 

 

「足元のナイフで分かるな。この前のリターンマッチだ」

 

 

やっぱりあの時の勝負の再戦だ。あの時と同じ状況で、今度は渚を殺そうと言うのか…

 

 

「待ってください鷹岡先生。僕、戦うために来たわけじゃ…」

 

 

「そうだろうな。この前みたいな卑怯な手は通じねぇ。一瞬で俺が勝つのは目に見えている。けどそれじゃ俺の気がすまねぇ。だから…」

 

 

 

鷹岡が指下に伸ばした。渚に何かを要求しようとしている。

 

 

「謝罪しろ。土下座だ」

 

 

鷹岡は好き勝手な事を言っている。悪いのは誰が見ても鷹岡の方なのに、渚に謝る事を要求するのは自分勝手すぎる。もし俺だったら意地でもしない。恐らく渚もしたくないはずだ。あの一件の事を謝る事を要求される謂れはない。

 

けどそうしなければ治療薬を渡してはくれない。治療薬を得るためにするべき事を、渚はためらわなかった。

 

 

「僕は…」

 

「そんなものが土下座かァ!!?頭下げて謝るんだよバカガキがァ!!!」

 

 

鷹岡に怒鳴り始めた。自分の好きなようにモノを言っている鷹岡の姿はもはや独裁者だ。こんな独裁者まがいの奴に謝る必要はない。けど渚は躊躇わずに頭を下げた。

 

 

「僕は…実力が無いから卑怯な手を使いました。ごめんなさい」

 

「おうそうだな。その後でデカい口も叩いていたよな。『出て行け』とか。ガキの分際で大人に向かって!生徒が先生に対してだぞ!?」

 

「………ガキのくせに、生徒のくせに、先生に生意気な口を聞いてすみませんでした」

 

 

…怒りが積もっていく。怒鳴られて、頭を踏みつけられて、それでも土下座をして謝っている渚を見て嫌になっていく。

 

本当の気持ちを言えばあの野郎をぶん殴りたかった。けどそれは出来ない。その場に行くための道が無いのも理由の一つだけど、鷹岡はあの治療薬を持っている。鷹岡が気に入らないと感じさせたら全てが終わるから俺たちは必死で堪えないと行けない。何よりそのために自分を犠牲にしている渚の気持ちを無駄にはしてはいけない。

 

 

 

「よーし、やっと本音を言ったな。褒美に良いことを教えてやろう」

 

 

渚の謝罪に満足したのか、鷹岡は叫ぶのをやめて話し始めた。俺は嫌な予感しかしなかった。その内容が恐ろしいものであるような気がしたから。

 

 

「あのウィルスで死んだ奴がどうなるか…スモッグの奴に見せて貰った。全身デキモノだらけ。顔面がブドウみたいに腫れ上がっていてな」

 

 

鷹岡が話しているのは、みんながかかっているウィルスについてだった。ウィルスにかかって死んだ奴の過程を見ることを…コイツは楽しんでいるのか。

 

 

鷹岡が治療薬が入っているケースを手に取った。それが俺たちの目的だ。それを手に入れるために俺たちはここまで来たんだし…それを手に入れるために渚はあそこで1人で耐えているんだ。

 

 

 

 

「見たいだろ?渚くん…」

 

 

 

笑みを浮かべながら鷹岡はそのケースを投げ飛ばした。それを見て鷹岡がやろうとしていることが頭の中で思い浮かんだ。あの野郎…

 

 

 

 

 

 

「やめろぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

さっきまで土下座をしながら鷹岡の言いなりになっていた渚が、大声で鷹岡の行動を制止しようとしている。

 

けど遅かった。もう既に止めることは出来なかった。

 

 

 

 

鷹岡はもう既に、爆弾を起動するスイッチを押したのだから。

 

 

 

 

 

《ドッゴォォォォン!!!》

 

 

 

空中に投げ飛ばされた、治療薬の入ったケースが、爆音と共に破裂した。かなり丈夫そうに見えたあのケースは粉々になってしまった。その中に入っていた治療薬も恐らく…ケースの爆発と共に消し飛んだ可能性がある。

 

やりやがった。あの野郎…俺たちがここまで来た理由を…俺たちの目的を…みんなの救うための希望を…

 

 

 

容赦なく消しとばしやがった。

 

 

 

 

「あっははははははははは!!そう!その顔が見たかった!絶望に染まる間抜けなツラが!!

 

夏休みの観察日記にでもしたらどうだ!?友達の顔がブドウのように膨れ上がりましたってよぉ!!ひゃはは!あっはっはっはっは!!!」

 

 

 

鷹岡はひどく愉快に笑っていた。俺たちを絶望させた事が愉快でしょうがないということか。

 

 

大笑いしている鷹岡が、黒い悪魔のようにしか見えなかった。ひどく歪んでいて、恐ろしく狂っていて…とても異常な化け物。その姿が、俺に強い殺意を抱かせる。

 

 

 

「…っ!!つぅ…ッ!」

 

「が、学真!!」

 

 

 

 

顔に力が無意識に入っていたせいか、顔についていた傷口が開いたんだろう。視界がボヤけて体制が崩れた。顔についている傷口はあくまで応急処置をしただけであり、塞いだ訳では無い。だから無茶をするなと烏間先生に言われたことを思い出す。

 

 

ヘリポートの上で鷹岡が渚に話し始めた。

 

「安心しな。お前に毒は持っていない。なぜならお前はこれから…」

 

 

 

 

 

 

 

「殺す…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘリポートの上で、異常が起きていることに気づいた。それは渚の様子だ。いつもの穏やかな様子とは打って変わり…今の渚は殺意がモロに出ていた。

 

 

 

「殺してやる…!よくも、みんなを……!」

 

 

「はっはは!その意気だ!殺しに来なさい渚くん!!」

 

 

 

 

アイツ、キレている。顔がよく見えないほどの遠くから見ても分かるぐらいに怒っていた。やっぱり…本当に殺そうとしているみたいだ。

 

 

 

渚の気持ちは痛いほど分かる。つい数秒前の俺も似たような気持ちになったからだ。アクロに付けられた傷で頭が冷えたけど…

 

とにかくどうにかしないと行けない。あのまま本当に鷹岡を殺したら、渚が殺人の罪を背負う事になる。そうなる前に冷静になってもらわないと…

 

 

《ガン!!》

 

 

「…っ!?スタンガン…?」

 

 

渚の頭に向かって何かが飛んできた。それはさっきまで寺坂が持っていたスタンガンだ。それを投げたのは…もちろん俺らの横にいる寺坂だった。

 

いや待て…なんかコイツ様子がおかしく無いか?酷く疲れているというか…熱にかかったみたいに…

 

 

熱みたいに…!?もしかして…ッ!

 

 

 

「チョーシこいてんじゃねぇぞ!!薬が投げ飛ばされた時、テメェ俺を哀れむような目で俺を見ていただろ!一丁前に他人の心配なんざしてんじゃねぇぞモヤシ野郎!ウィルスなんか寝てりゃ余裕で治せるんだよ!!」

 

 

「寺坂…お前っ!まさかウィルスに…っ!?」

 

 

 

…そうだったのか。コイツ、ウィルスにかかっていながらここまで来たということか…

 

 

「そんなクズでも息の根止めりゃ殺人罪だ!!テメェは怒りに任せて100億のチャンス手放すのか!?」

 

「寺坂くんの言う通りです。その男を殺してもなんの価値もないし逆上しても不利になるだけ。治療薬のことは下の毒使いの男に聞きましょう。こんな男は気絶程度で充分です」

 

 

寺坂が叫んで、殺せんせーが説得している。2人とも渚を落ち着かせようとしているみたいだ。

 

 

「おいおい余計なことを言うんじゃねぇ。本気で殺しに来てくれなきゃ意味がねぇんだ」

 

 

鷹岡が言葉を放つ。恐らくその上で返り討ちにしないと復讐にならないと言うことなんだろう。

 

 

「渚くん。スタンガンを取りなさい。その男の言葉とクラスのみんなの言葉、どちらが君にとって大事かを冷静に考えるのです」

 

 

 

『どちらが大事か』か…

 

寺坂や殺せんせーは渚の事を心配して言っている。鷹岡は自分の欲求を満たすことだけを考えて言っている。どちらが正しいかなんて、一目瞭然だ。いつもの渚だったらそんな事を間違えたりはしない。

 

けど今の渚は冷静さを失っている。鷹岡に対する憎悪が思考を鈍らせているんだ。

 

 

それじゃダメなんだ。

 

 

 

 

 

 

「おい渚!!」

 

 

 

大声で渚に向かって声を出した。突然の大声で周りのみんなは驚いているようだ。

 

 

「憎しみだけで動くんじゃねぇぞ。それはテメェの目の前にいるバカと同じだ。もし鷹岡を殺したらどうなるのかぐらい、寺坂とかに言われなくても分かるはずだ。

 

少なくともお前は!それが分からない程度の男じゃないだろ!!」

 

 

俺が言っているのは、渚に対しての叱咤だ。

 

少し前に殺せんせーは言った。本当の仲間と言う奴は、迷惑をかけあったり文句を言い合ったりする仲であると。そして、互いに怒ったりする関係でもあるはずだ。互いに間違っているところは間違っていると言って止めようとする。そんな事をしないで互いに干渉しない関係は、仲間と言えるものではない。

 

 

「サッサと気絶させて戻ってこい!そっからの事は後で考える。それが俺たちがこれから本当にするべき事だ!」

 

 

 

渚が動いている様子はない。それは俺たちの言葉を聞いているのか、それとも別の動けない理由があるのか…それは分からない。

 

 

バタリ、と言う音が聞こえた。それは誰かが倒れた音だった。どうやら寺坂が立たなくなって倒れたみたいだ。

 

 

「寺坂!お前、熱ヤベェぞ!!」

 

「こんな状態で来ていたのかよ!!」

 

 

 

「うるせぇ…見るならアッチだ」

 

 

 

寺坂が指差しているのはヘリポートの上…渚たちがいるところだ。俺たちはその戦いを見ておかないと行けない。

 

 

 

 

 

 

「……やれ渚。死なねぇ範囲でぶっ殺せ」

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の寺坂の言葉を聞いて渚が動き始めた。恐らく最後の戦い。俺たちの未来は渚に託された。

 

 

 

 

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