目を開けたら、天井だった。目が覚めたら1番最初に天井が見えるし当然といえば当然だけど。
その天井は見覚えがないものだった。木造建築の家らしく天井も木だ。俺はそんな家をあまり見たことがないから新鮮に感じているかもしれないけど。
そこで思い出した。俺たちはリゾート島に来ていたと。そして数人の生徒がウィルスに感染されて、その治療薬を貰うために山頂のホテルまで殴り込みに行って、鷹岡と戦ってから…
「…なんで俺、こんなところで寝ているんだ?」
おかしい事に気付いた。いや我ながら気づくのが遅いとは思うけど。
そういえばあのホテルから帰った時、宿の近くでは異常事態が起こっていた。霧宮が謎の集団と戦っていたのを見て驚いていた。
あの後どうしたのか、記憶が曖昧になっている。とりあえず落ち着いてから一つ一つ思い出す事にしてみた。
確か最初はあの集団が居なくなって……
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霧宮の周りに集まって、色々と尋ねようとしたけど霧宮から答えは返ってこない。ただでさえウィルスに苦しんでいたのに加えてこの戦闘…結構疲れが溜まっているみたいだ。
「……!片岡さん、他のみんなの様子を見て来てくれ!」
「あ…はい!」
「吉田くんは俺と一緒に霧宮くんを運ぶのを手伝ってくれ。後のみんなはなるべく動かないで待機だ」
烏間先生が指示を出しながら霧宮を吉田と一緒に運んでいく。治療しやすい場所に移動させるつもりだろう。
片岡が宿で治療を受けているみんなのところに行く。とりあえず現状をみんなに伝えないといけないだろう。
「どうしたんだ…?」
「みんなは大丈夫なの…?」
千葉や岡野の言っていることは俺も思っていることだ。おそらくこの場のみんなもそう思っているだろう。何がどうなっているのか…
ーーーグラリ
回転し始めた。目の前が1回転している。
分かっている。回っているというのは俺だ。というより多分倒れようとしているんだ。
「…っ!おい、学真……」
「しっかりして、学真くん………」
誰かが叫んでいるのは分かったけど正しく聞き取れなかった。
体力がここで限界を迎えたらしい。いまかなりヤバい状況だと言うのに……
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……ああ、そうか。思い出した。あの後俺も倒れたんだ。
考えてみればそれが当然だ。鷹岡に会う前からダメージが異常だった。逆にあそこまで耐えた方が奇跡みたいなものか。
自分の体を確認すると、まず1番最初に顔に巻かれてある包帯に気がついた。顔を巻きつける時に目も一緒に覆っているから気づきやすかった。というか逆に今の今まで気づかなかった自分自身が変なんだなと思う。
体も治療が施されている。包帯でぐるぐる巻きにされている。傷はないものの高いところから飛び降りたんだし、打撲になってるかもしれない。
要するところ、俺は治療されたみたいだ。俺が寝てる間に終わらせてくれたんだろう。…せめてお礼は言いたかったな。
「それにしても…アイツらは一体何だったんだ?」
寝る前に抱いていた疑問を思い出した。そういえば、アイツらが一体何者なのかがまだ分かってないんだ。
去る時に確か『あの生物を諦めない』と言っていた。状況的に殺せんせーの事を言っているんだろう。ということは、鷹岡と同じように賞金目当てだったと考えられる。
けどそれと霧宮と戦う理由が見えてこない。何で霧宮と戦う事になったのか。これはあそこで何があったのかを直接聞かないと分かりそうにないな…
ーーードゴォォォォン!!!
うおおおおお!!?
「なな…何だ何だ!!?」
爆音に驚いてから窓の外を見ると、砂浜に人が集まっているのが見えた。あの服は…椚ヶ丘中学校のジャージだ。ってことはみんなあそこに集まっているのか。
「あそこに行った方が良さそうだな」
多分ウィルスにかかって苦しんでいたみんなも俺が大怪我をしている事は伝えられた筈だ。この部屋に誰も来ていないのは、俺の身を案じて近づこうとしていない証拠だ。だったら俺が元気になった事を伝えるためにもあそこに行くべきだ。
みんなと同じようにジャージに着替える。手こずって大分時間が経ってしまったが気にしない。
そして俺は部屋の扉を開けて外に出た。
◇
「よう、みんな揃って何やってるんだ?」
「が、学真!お前動いて大丈夫なのか!!?」
「全然平気だよ。寧ろ絶好調だ」
みんなが集まっているところに来てから声をかけると杉野が心配して話しかけている。この様子を見ると本当に無事みたいだな。杉野も確かあのウィルスに感染された奴だったし。
他のみんなも心配しているみたいだ。特に矢田は焦っているようにも見える。まぁ…目の前でぶっ倒れた男が歩いているのを見ると怖くなるよな。
「…あれはなんなんだ?」
海にある置物を指して言う。ここに来た時にはあんな立派な箱なんて無かった筈だ。しかも粉々になっている。ひょっとするとさっきの爆音ってアレが爆発した時の音だったのか。
「ええとな…殺せんせーがあのボールみたいになっていただろ。それを処分するために烏間先生が中心となってアレを作ったんだ」
「なるほどね」
磯貝から大体の話は聞いた。要するところアレの中に殺せんせーと大量の対先生弾を詰め込んで密閉する。それで完全防御形態が解けた瞬間に対先生弾で押しつぶす作戦か。
というか…ひょっとすると烏間先生は寝ていないのか。昨日あれだけの事が起こってかなり大変だったのに、休む暇もなくそんな指示を出していたのか。…マジでバケモノだよな。
「…そして殺せんせーがここにいると言うことは、失敗したのか」
「はい。建物もろとも爆散させてあげましたよ」
触手でピースサインを作りながら楽しそうにしているみたいだ。不眠で一生懸命取り組んだ計画をこんな風にアッサリと看破されるのは結構屈辱だろうな。たとえ失敗すると分かっていても。
「…それで、霧宮は?」
ここで1番気になった事を聞く。何しろ霧宮だけがここにいないんだ。あれだけ怪我をしていたからなんとなく想像はつくが…
「霧宮くんには一足先に帰ってもらった。彼の怪我を治療するためには、大きな病院で診てもらう必要があった」
砂浜からコッチに歩いている烏間先生が答えてくれた。やっぱり帰ったみたいだな。見ただけですごい怪我だと分かっていたし、そうなるだろうけど。
「さて、揃ったところで話を聞きましょう。奥田さん、竹林くん…あの時何が起こったのかを教えてください」
殺せんせーが話を切り出した。殺せんせーもあの時何があったのかが気になっていたみたいだ。多分他のみんなも同じだろう。
そしてその話をするのは、昨日この宿で普通に動く事が出来た2人、竹林と奥田だ。治療をしている間この2人は何か見ていたのかもしれない。
「……はい」
「…分かりました」
2人は話し始めた。昨日の夜、俺たちがホテルに行っている間に何があったのかを。
◆第三者視点
「奥田さん、新しい氷を持って来てくれ。船の中の冷凍パックにまだ残っている筈だ」
「はい、分かりました」
宿の中で治療をしている。次から次に新しい氷をデコの上に乗せるだけだが、治療法が分からない今はそれ以外に方法がない。
竹林に言われた通り、氷を持って来るために宿の外に出る。宿から船の中までそんなに距離はない。急げば1分で持って来る事が出来るだろう。
宿を出て船を見る。海岸の隅の方にポツンと置かれている。他の観光客の邪魔にならないように配置してある。
奥田は船の方に向かって歩こうとする。
「止まれ」
だが、彼女は止められた。いま外には彼女しかいないため、奥田はそれが自分に向けられた言葉であると分かった。
声の聞こえた方向、つまり船とは全く逆の方を向く。そこには全身が黒い格好をした人物が何人かいた。顔も隠されているためその姿も見る事が出来ない。
「な…何ですか。いま急いでるんですが…」
奥田はそう言って乗り切ろうとした。実際いま彼女は急いでいる。あまり余計な事に時間を使いたくないのだ。
「急ぐ必要はない。お前らがやっている事は何の意味もないからだ」
だがその集団は奥田を船に行かせようとはしなかった。何の意味もないという言葉に少し怒りを感じたが、奥田は怒りのままに動こうとはしなかった。
「我らは【グラトラ】。この腐れきった世界を正す者である」
話を聞いていく内に奥田はますます不可解に感じた。集団の名前を言われたところで、奥田には何の関係もない筈だ。世界を変えるものにしても破壊するものにしても、普通の中学生である彼女に用があるとは思えない。
「それで…なんで私を呼び止めるんですか」
奥田は尋ねた。一体何の用であるかと。相手の目的が不明なままではなんとも言えないからだ。
「簡単な話だ。お前は我らについて来てもらう。つまり、身柄を拘束するという事だ」
絶句した。
つまりこの人たちは奥田を誘拐するというのだ。
何のために彼女を拘束するのかは分からない。だがそれに従うと危ないと言うことは分かった。
「………っ!!」
それが分かっているなら、彼女が取れる行動は1つ。目の前の人たちから逃げなければならない。
しかし彼女にはそれが出来なかった。
理由は2つある。
1つはウィルスに感染されている生徒だ。自分が居なくなったところで竹林がいるわけだから気にしなくても良いと言えばそうなのだが、彼女はそう簡単に行動出来なかった。
もう1つは、単純に恐怖である。まだ中学生である彼女は恐怖に対しての耐性はあまりない。彼女はいま怯えているのだ。その怯えによって彼女は足が動かさなくなっていた。
怯えている場合ではない。いま動かなければ取り返しのつかない事になる。逃げる事が難しいなら助けを呼べば良い。もしくは竹林のところに行って作戦を考えると言うのもある。
でも足は動かない。恐怖に怯えている足を動かすには、彼女の気力は足りない。
動かない。動け。動かない。動け。動かない。
「何をしているんですか。こんなところで」
声が聞こえた。奥田でもその前にいる集団でもない男の声だ。
宿の扉に1人の男がいる。竹林だった。物音が聞こえた彼は外の様子を見に来たのである。
「…生徒2人目、か。教師が出てこないということは、情報通りこの中にはいないということで間違いなさそうだな」
竹林を見て男が喋る。その内容を聞いて竹林は警戒を強めた。
確かにここには教員はいない。殺せんせーや烏間先生、イリーナ先生でさえもあのホテルの中にいる。
だがそれをなぜこの人物が知っているのか。情報と言っていたが、それは一体どこで手に入れたのかが気になってしまう。
「警告しておく。無駄な抵抗はするな。お前らは俺らについて来てもらう」
「……断ったらどうするんですか?」
「フン…力尽くでも構わんと言われたのでな」
一斉に武器を取り出した黒い服の集団。ナイフや銃など完全に殺すための武器だ。抵抗すれば攻撃してくる。
焦り始める。竹林はこういう相手と戦う技術を身につけていない。奥田も同様だ。たった2人でこの状況を乗り切れる自信はない。
しかし敵の言いなりになるのも危険だ。相手の本当の目的が分からないいま、身柄を拘束されたらそれこそ殺される可能性もある。
どうすればいいのかが全く分からない。こういう時、殺せんせーがいたら何と言ってくれるだろうか。
「決まっている。助けを呼べば良い」
黒服の男たちのうち1人が呻き声をあげる。そのままバタリと倒れる男の側には、ウィルスに感染されていた霧宮がいた。
「霧宮…!」
「どうして…まだ完治してないですよ!!」
竹林と奥田は焦りの色を隠せない。奥田の言う通り霧宮はまだ完治していない。現にいま顔色は相変わらず悪いし、息を聞いているだけでも苦しそうだ。その状態で外に出るのは色々な意味で危なすぎる。
「嫌な空気を察したからここにいる。体調は万全だ。何もおかしなところはない」
明らかに嘘をついている。本当に万全ならそんなにフラフラしない。
かなり調子が悪い体を引きずりながら彼はここに来たのだ。そして奥田や竹林を攫おうとする集団がいたので彼は動いた。
その手に、かつて殺せんせーからもらった武器を取って。
「それ…対先生ナイフですか。結構大きいような気がするんですけれど」
「…殺せんせーが作ってくれた。短いナイフでは扱いづらいだろうからと。戦うなら本物の刀が良かったのだが、いま持っているのはこれしかない」
刀のように細く長い対先生ナイフ。何も知らない人から見るとオモチャの剣にしか見えないそれを持っていた。真っ二つにすることは出来ないが、気絶させるにはなんの問題もない。
「部屋に戻っていろ。あの中ならここ以外に入る手段はない」
「それじゃ霧宮くんが…」
「この程度の修羅場で凹むほど未熟ではない。ホテルから全員が帰るまで耐えるだけだ。その間にお前らが捕まれば台無しになる。それを避けるためにも部屋の中にいろ」
霧宮は厳しい言葉を言った。言い換えれば『邪魔だから部屋の中にいろ』と言うことなのだ。
「フン、1人で防ぎきるつもりか。舐められたものだな。後で後悔するぞ」
敵が痺れを切らしている。これ以上待たせたら襲いかかってくるかもしれない。
「…行け!!!」
霧宮は大声で叫んだ。奥田や竹林に、早く中に入れと。
「……奥田さん。中に入ろう。僕たちはここにいても、何の役にも立たないみたいだ」
「は…はい……」
霧宮に従い、竹林と奥田は宿の中に入る。彼らはそのまま中に居続けた。
◇学真視点
「それで、俺たちが来たと言うわけか」
「はい。一応物陰から見ていたんですけれど、加勢する事が出来なくて」
…そう言うことね。
宿に襲いかかろうとした集団を追い返したと言うことなのか。俺たちがいない間、コッチはとんでもない修羅場だったんだな。
「グラトラ…確かにそう言ったんだな」
「は、はい……間違いありません」
奥田さんに質問をしたのは烏間先生だった。グラトラって…その集団の名前だったな。何か気になることでもあるみたいだ。
「烏間先生、ご存知ですか?」
「……仕方ない。話しておこう」
殺せんせーの質問に、烏間先生は観念したように話し始める。出来る限り言いたくは無かった。そう言うことなのだろうか。
「いま政府が抱えている大きな問題は大きく3つある。1つはみんなも知っての通り『コイツ』だ。将来地球を爆発しようとする危険生物を速く処分しようと動いている。優先度は今のところ他の2つよりも高い」
まぁ殺せんせーの事は聞くまでもない。結構前から言われていたし。ていうかなにドヤ顔をしているんだよあのタコ。
「もう1つは、巨大犯罪組織『
そしてあと1つが『グラトラ』いわばテロ組織だ。政府の人間を暗殺しようとしているためかなり注視されている。今回奥田さんたちを襲ったのは、それだ」
犯罪組織…テロ組織…あまり聞いたことがないな。まぁ公にすると混乱してしまうから報道されてないのかもしれないけど。
それにしても妙だな。
「よりによってなんでテロ組織が誘拐しようとしたんだ?E組の生徒を誘拐して何になるんだ」
テロと言うのはつまり…敵は国家の筈だ。なんで俺たちをターゲットにしたんだろ。しかも『あの生物を諦めない』って言っていたけど…殺せんせーは寧ろ地球を破壊しようとする生物だ。それと敵対する理由は全くない筈だ。
マジで何が目的なんだ。頭で一生懸命考えるけど全く分からない。
「烏間先生、お困りのようでしたら先生が解決してあげますよ」
…………
何を言いだすんだこのタコは。
「先生の実力はその身で実感しているでしょう?国でさえ先生には手も足も出なかったんですから、犯罪組織もテロ組織も即座に処分できますよ」
う、うぜぇ…『あなた方では私を倒せなかったでしょう?』みたいな意図を感じる。確かにその通りかもしれないけどターゲットにバカにされるように言われたら屈辱だ。
「ふざけるな。キサマの手は借りん。これは俺たちの問題だ。国を守る責任を持っているのは我々だ。だから俺たちが必ず対処する」
まぁ、そりゃそうだよな。国を守るのは政府の役目でもある。世界一の危険生物に救われたとなると顔に泥を塗られるどころか身体にぶっかけられるようなものだ。殺せんせーの手を借りようとはしないだろう。
「と言う事ですよ皆さん。この問題は烏間先生が対処するようです。先生や君たちが気にする必要は無さそうですよ」
殺せんせーが振り向いて喋りだす。なんかアッサリとしているな…いつもなら『冷たくないですか烏間先生!折角心配しているのに、キー!』とか言いそうなのに。
「だからいま皆さんが深刻に考える必要はないと言う事です。もちろん放っておけない状態になったら意地でも問いたださないといけないかもしれない。けど今はその時ではない。君たちはいつも通りに生活していっても大丈夫と言う事です」
……あ、そう言うことか。
要するに、俺たちにあまり考え込まないように敢えてそう言っているのか。さっきまで俺が深刻に考えていたし、それを止めさせたと言うことか。
まぁ気にしないでいるのは多分無理だ。変な話だけど多分気にし続けるような気がする。
けど俺たちがどうこうする問題ではないのも事実だ。
何もせずにいつも通りに暮らせば良いというわけか。
「と言うわけで、遊びましょう!完全防御形態になっていましたから遊べなくて退屈していたんですよ!!!」
…………
この先生の欲張りな所は見習った方が良いんだろうか。
「…けど明日にはもう帰るだろ?今さら何するって言うんだよ」
明日の朝にはもう帰る。いま夕方、眠ったらもう帰るスケジュールだ。杉野の言う通り、今から遊べることなんてなさそうだ。
「フッフッフッ…こういう時間だからこそ出来ることもあるんですよ」
心配するなと言いたげににやけている。半年間過ごしてきたせいでこの先生がニヤケているか否かがハッキリと分かるようになった。なんともまぁ無駄な力を身につけてしまったものだ。
殺せんせーはどこからか看板を取り出している。マッハで取りに来たんだろうし、その看板にも何か書いたんだろうな。準備していたことを証明するように服装が黒い服から白装束を着て頭には白い三角巾を…
「え…………」
白装束に…白い三角巾?
まさか…殺せんせーがやりたい事って。
「夏といえば肝試し。これからE組の生徒限定の肝試し大会…通称『暗殺肝試し大会』を開催します!!」
嘘だろ………
肝、試し……?
次回肝試し。
そして学真のこの反応の意味は…?