因みに暗殺教室は8月はまだ夏休みという設定です。なので二学期が始まるのは9月となります。一応念のために…
そんなわけで夏休みがあと1日で終わる暗殺教室のお話です。
何もかもに対してやる気を失っていた。何かしようとしてもダメだと実感したから。そんな時よくこの公園に来ていた。人気も騒がしい音もないこの場所で頭の中を空っぽにする事が好きだったから。
何も考えたくなかった。何も感じたくなかった。これ以上苦しみたくなかった。だから俺はここに来た。こうすれば劣等感で苦しむ事は無いと思ったから。
けど、そうは行かなかった。
あらゆるものを拒んでいた俺の目の前に、アイツが突然現れたからだ。
「わたし、日沢 榛名っていうの。ねぇ、私と友達になろう」
突然俺の目の前に現れたソイツは、とても鬱陶しくて目障りで眩しくて…
まさに青空にある太陽のような存在だった。
………ん?
ちょっと待てよ。これって2年前の風景じゃねぇか。なんでこんなのが見えているんだ?
もしかしてコレ夢か。
あの日を再現している。これはあれか。いわゆる昔の思い出というやつ。
そういえば昔の出来事を再現した夢を見る事がよくあったな。
けど今回はいつものとは違うみたいだ。いつも見る夢は日沢の遺書のメッセージが出てくる夢で、いま再現されているのは俺が日沢と出会った頃の出来事だ。
なんでこうなるのかは分からない。というか見る夢に理由を探す方が無理だ。今回はたまたまこの夢だったと思うしかない。
「ねぇ見て。今日の数学の小テスト3点取れたんだよ」
「聞いてねぇよ!そんな自慢できる話でもねぇだろうが!」
日沢が話しかけているところに俺は文句を言いつづけていた。あの頃の俺は曲がりまくっていたから、日沢の気遣いも素直に受け入れようとしなかった。
それでも日沢は俺に接しようとしてくれた。日沢は懲りずに、文句ばかり言っている俺に話しかけてきた。
だから俺は1人にならずに済んだ。学校に居場所がなかった俺にとって、日沢だけが俺の友達だった。
いつしか俺は日沢の隣にいる事を望んでいた。この心地よい暖かさがいつまでも俺の隣に在り続けるように。
「困ってる人を助けれる。それって、リーダーにとって1番大切な事だと思うから」
それは俺が不良に絡まれていた子どもを助けた時に、日沢に言われた言葉だった。考えてみればこの言葉が俺にとっての一番の励みになったんだ。落ち込んでいた俺にとって、俺の気にしていなかった長所を言ってくれた事がとても嬉しかったから。だから俺は自分に自信を持つようになった。
「この3人で探してみようよ。僕たちだけの、友達の作り方を」
そして如月とも出会った。アイツも俺と会ってから仲良くしてくれた。
俺たちの関係はここから始まった。俺らはこの日を境に一緒に頑張る事を決意した。俺も少し生まれ変わろうかなと思った。
『さよなら、学真くん』
けどそれは最悪の形で終わってしまった。如月も日沢も幸せになる事はなかった。
何しろ俺が2人を不幸にしてしまったから。俺が2人の人生を壊してしまった。
もし俺がこの誘いを断っていたら、この2人は幸せだったんじゃないか。そうすればあんな事にはならなかったんだと思う。
過去の事を今更言ったところで何にもならない。この光景はあくまであの日を再現しているだけだ。ここで俺が日沢たちの誘いを断ったとしても何の意味もない。
「ダメだ」
けど…
「俺なんかと一緒にいたらダメだ」
このままジッと見ているだけの事は出来なかった。
「俺と一緒にいたら、お前らは不幸になってしまう」
日沢の肩を掴んで強く言った。側で見ている如月も戸惑っているようだった。
いまこの2人には、俺が少しおかしい奴に見えるだろう。けどそれで良かったのかもしれない。
あんな目に遭うくらいなら、俺が変な目で見られるだけの方が…
「そうやって迷わないで人の心配をするところが、学真くんの良いところだよね」
………え?
「分かっていたんだ。
それって…あの時日沢に怒られた時のこと…?
って事は……
「日沢……?」
その瞬間、周囲に若干の変化が起こった。まず日沢の身体が変化していく。少し体が大きくなっていて、顔も少し変わっている。
そしてさっきまで一緒にいた如月の姿が無くなる。あの戸惑っていた表情がどこにもない。ここにいるのは俺と日沢だけだった。
これって、もしかして……
「久しぶりだね、学真くん」
……嘘だろ。そんな事があるのか?
死んだ日沢が俺の前に現れるなんて…
「ちょっと痛いよ」
「あ、悪い……」
肩を掴んでいた手に力が無意識に入っていたらしい。慌てて手を引っ込める。
手を引っ込めたあと再び日沢を見た。最後に日沢と会った時と同じ…いや、少し大きくなっているけど、その顔は間違いなく日沢だ。
確信と一緒に信じられない気持ちになる。まさかその姿をもう一度見ることが出来るなんて…
「…日沢なのか…?本当に…?」
「本当にも何も、私は私だよ」
この気楽な喋り方は、間違いなく日沢の喋り方だ。他の同じ顔をした誰かではない。
これはあくまで夢だ。目の前の日沢は幻なのかもしれない。その可能性の方が高いだろう。
けどいま感じている暖かさは、日沢と一緒にいた時のものだ。
「はは…」
気が抜けたんだろうか、思わず笑ってしまった。まさかこんな形でその姿を見る事が出来るとは思っていなかった。
もう二度と会うことは無いと分かっていたけど、もう一度だけ会いたいという想いはあった。
だから目の前に日沢が現れたとき、感情が溢れ出ている気がする。さっきの笑いもそれが理由だった。
「元気そうだね学真くん。少したくましくなった?」
俺の様子を見て日沢が語り始める。唐突すぎる話しかけも相変わらずみたいだ。
「日沢…俺は……」
「言わないで」
俺が喋ろうとしているところをなぜか遮られた。なんで止めたのかに戸惑っている俺に、日沢は笑顔で語り始めた。
「学真くんは私のことを心配していただけだったから。学真くんが謝る必要はないよ」
謝ろうとしていたのを察知されたみたいだ。確かにその気持ちがあった。日沢が死ぬことになったあの事件について。
日沢は謝る必要はないと言った。俺はあくまで日沢を心配していただけだからだと。
けどそんなことは無い。俺は日沢を助けられなかったんだ。困っている時に一緒にいられなかった、それが俺の罪だ。だから…
「それに学真くんには感謝しているんだ」
……は?
「感謝って…特に何もした記憶は無いんだけど……」
日沢の言っている事が理解できなかった。感謝と言われても、俺は日沢に何もしていない。感謝されるような事は無かったはずだ。
「だって…私は1人じゃなかったんだから」
「…けど、俺が居なくなってから……」
「ううん。それは私のせいなの。私が学真くんを怒ったから」
それは違う。お前は如月の悪口を言われて怒っただけだ。決して日沢のせいなんかじゃ…
「そしていま学真くんは今でも私のことを心配してくれている。それがとても嬉しかったの」
「心配って…俺はせめてもの罪滅ぼしというつもりだったんだが…」
「それでも良かったんだ。こんな私のことを思ってくれている人が居たって事が。もう死んでしまったけど、私は幸せだよ」
幸せ…?
いま日沢は…
幸せだと…?
「嘘…つくなよ……」
心が崩れてしまいそうだ。触れたら一瞬で粉々になるヒビの入ったガラスのような。
日沢の事だから嘘はついていない。それは分かっているけど、本当とも思えない。だって日沢は俺のせいで…
「幸せなもんかよ…お前は死んだんだぞ!俺が守れなかったから。助けられなかったから…」
俺の言葉が途切れ途切れになっている。言いたい言葉がまとまらない。
「ほら。そうやって自分で決めつける。それが学真くんのいけないところだよ」
「…っ!?なに……を…」
言い返そうとしたけど、言葉を詰まらせてしまった。俺を見ている日沢の目は真剣で、俺が反論することを許さなかった。
「わたしが死んだのは学真くんのせいじゃない。わたしが死を選んだのは私の選択だから。私は後悔していないし、学真くんが責任を感じる必要はない」
「けど…!」
「じゃあ私は学真くんの思い通りにしか動いちゃいけないってこと?」
「……っ!」
…言い返せない。それを言われたら何も言えない。確かに日沢の人生は日沢が決める事だ。俺がどうこうしていいものじゃない。
「…ごめん。熱くなりすぎた」
「……いや、俺も言いすぎた」
落ち着きを取り戻した。少し熱くなりすぎたみたいだ。少し気持ちを抑える。
俺が落ち着くまで待っていた日沢は、途切れていた会話を再び始める。
「…いつもこうなんだ。私こうやって人と喧嘩ばかりしていたから、友だちができなかったの」
その話は知っている。一緒にいた時に日沢がよくその話をしていた。それが原因で学校ではいつも浮いていたとも言っていた。だからあの公園で、俺や如月と会っていたんだっけ。
そういえば、むかしは独りである事を望んでいた。誰かといたらバカにされる事しか無かったから。
けど日沢は違う。日沢は独りである事を望まなかった。寧ろ仲間が欲しいと望んだ。だから公園に独りでいた俺にも話しかけてきた。
あの時は理解しようとしていなかった。日沢の感じていた淋しさを。
もっと仲間と触れ合う喜びを知っていれば、少しは違ったんだろうか。
「私のことを邪魔にしか思っていない人だけだった。学校に行くのも怖かったよ。如月くんの事を先生に言った時も先生には怒られて…クラスではもっとバカにされるようになった」
そう。俺や如月もいなくなった日沢は本当に孤独になった。周りの人からひたすら責められるだけ。そんな辛い生活が続いて、日沢は死を選んでしまった。
この時本当は俺が側にいるべきだった。なのに俺は……
「でも、私は一人じゃない。私がこの状態になっていても、学真くんは私のことを思ってくれていた。学真くんだけは私のことを忘れようとしていない」
「……っ!」
…おれ、
「わたし、学真くんに会えて良かった」
満面の笑みで日沢は言った。その表情に嘘は全くない。本心でそう思っている顔だ。
今度は反論する事は出来なかった。どんな言葉も日沢のそれに対抗できない。
「俺を責める事はしないのか…?俺を怒ったりしないのか…?」
「うん」
「こんな、弱い俺でも…お前は良いのか」
「当たり前じゃん」
当たり前とはどういうことだと尋ねる前に、日沢はその理由を答えてくれた。
「だって、今のあなたが私の好きな学真くんだから」
今の俺が好きであると…俺が全く予想していなかった答えだった。
俺には今の俺にそんな魅力があるとは思えない。こんな弱くて頼りない俺が、好かれるところなんて無いはずだと。まして日沢はその被害者だ。そんな事を言えるはずがない。
でも日沢は嘘をついていない。もともと嘘はつかない性格だ。だから本気でそう思っているんだろう。
強くならないといけない。
その気持ちでいっぱいだった。兄貴みたいな優秀にならなくて良い。ただ誰かを守れるようになりたいと。
あの時思ったんだ。誰かを守るためにはもっと強い人じゃないとダメなんだって。
今よりもっと頼れる男になるために、努力を積み重ねてきた。今まで以上に勉強に取り掛かり、戦う訓練も怠らなかった。
それでもまだ充分じゃない。まだ誰かを守れる器じゃない。今の俺はまだ未熟だ。そう思っていた。
「……はっ」
やっぱり日沢の言葉は理解できそうにない。理由もめちゃくちゃだし、説得力もなければ根拠もない。意味不明というやつだ。
けど、なんでかな。
それがとてもおかしくてしょうがない。
「……勝手に話は進めるし、コッチの都合なんて考えもしない。やっぱりお前はおかしな奴だよ」
「ちょ、なんで急にディスるの!?」
やっぱり日沢は日沢だ。自分勝手だし自由奔放だ。勝手に他人の視界に入り込んで輝かせてくれる。
やっぱりお前は俺にとって太陽の存在だ。
「…それじゃそろそろ時間だね」
日沢の体が浮き始める。どうやらお別れの時間みたいだな。
「そうか。行くんだな」
「うん」
日沢が上へ上がっているのをただ見ている。俺が日沢を見ているように、日沢も俺の方を見ていた。
「頑張ってね学真くん。応援しているから」
「…ま、応援には応えないと行けないよな」
はるか上の方に上っていった日沢の姿はもう見えなくなっている。けど遠くからでも明るく見えた。
「またな」
◇
見慣れた天井が見える。夢から覚めたみたいだ。俺は布団に潜ったままだ。
体を起こして暫くぼうっとしている。
「……え?」
…ちょっと待て。なんで襖にいるんだ殺せんせー。
「…不法侵入で訴えてやろうか」
「にゃや!なんでバレたんですか!?」
「逆になんでバレないと思ったんだよ」
バレないと思ったらしいけど、黒い体は逆に分かりやすい。なんで保護色にならなかったんだ。
「ちょっと驚かせようと思ったんですが、仕方ありませんね」
おいこらなんで俺を驚かせようと思っていたんだよ。俺がホラー苦手であると分かったからそれでおちょくってんのか。
「ところで学真くん。今日の夜夏祭りに参加しませんか?」
「…?夏祭り…?」
「はい。今日の夜にあるんです。これから皆さんに声をかけるつもりなんですよ」
…それ来る人いるのか?突然言われたところで行ける人の方が少ないと思うんだが…
それにしても夏祭りか。今日そんなイベントがあったんだっけ。いつも行った事がないから気にしてなかった。
そうだな。せっかくだし…
「行くよ。どうせ今日やる事ないし」
「そうですか。それでは今日の夜たのしみにしていますからね」
殺せんせーは家の窓から外に飛び出して行った。周りの人に見られていなきゃ良いんだけど…
さて、準備するとしようか。
いい加減に答えを出さないといけないし。
いよいよクライマックスに近づいてきました。夏休み編の最後の難関になります。