浅野 学真の暗殺教室   作:黒尾の狼牙

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前回の話では、書いているうちに米津玄師さんの『lemon』が頭に浮かびました。学真くんの状況と歌詞がマッチしていたので。やっぱり歌というものは良いものですね。表現に困った時の参考になるんですから。




第88話 気持ちの時間

「ああ。俺のところにも来たよ。俺も行くつもりだ」

 

 

俺はいま外に出て電話をしている。電話先は渚だ。アイツも殺せんせーに夏祭りに誘われたらしい。聞けば回転寿司の店で言われたとか。コッソリ食ってなきゃいいけど。

 

そして渚も参加するみたいだ。突然の誘いに来れるかどうかが怪しかったけど、渚は来れる方だったみたいだな。

 

 

「杉野とカルマはどうなんだ?」

 

『カルマくんはまだ分からないけど、杉野は無理だって。野球があるみたいだから』

 

 

杉野はダメだったみたいだ。それは仕方ないか。地方の野球クラブに入っているし、夏休みはそこで野球をしまくっていただろうな。

 

 

『折角だし一緒に行かない?茅野も来るみたいだし』

 

「そうだな…とりあえず一旦家に帰って準備してから合流するよ」

 

 

時間的にはもうすぐ夕方だ。今から店の準備も始まっている頃だろうし、俺たちも準備をし始めても良いだろう。

 

 

『あれ?いま学真くん家にいないの?』

 

「いやアレだよ。目のやつ」

 

『あぁ、そういえば今日だったね』

 

 

俺はさっきまで病院に行っていた。忘れているかもしれないけど、俺はずっとガーゼを目につけていた。今日病院に行ったら問題なしと判断されてガーゼが取り外された。

 

久しぶりに両目で周りの景色を見ることが出来て少し歓喜しまくっていたけど…

 

 

「じゃあとりあえず暫くしたらまた電話するから」

 

『分かった』

 

 

そうして電話を切った。携帯をポケットにしまって再び家に向かって歩き始める。

 

その時、何かが迫ってくるのを感じた。超特急で、空からこっちに向かって…落ちてきている?

 

 

「って呑気に様子見ている場合じゃ…!」

 

 

慌てて避けようとしたけど、その前に俺に向かって落ちてこようとする物体のスピードが落ちた。そしてそのまま着地しようとしている。地面につく瞬間にその正体は判明した。

 

 

「ここにいましたか。家にいないから探しましたよ」

 

「……家に入ったのかよ」

 

 

俺の前に現れたのは、不法侵入常習犯(殺せんせー)だ。良い加減に部屋を開けるのをやめてほしい。ていうか俺鍵をかけたよな。まさかとは思うけど無理やり開けたのか?触手で変形して『必殺の触手合鍵!』みたいな事をしたんじゃないだろうな。

 

 

「何の用だ?今から夏祭りに行く準備をしたいんだけど…」

 

「あっちょっと待ってください!それどころじゃないんです」

 

 

それどころじゃない?夏祭りに誘ったのは殺せんせーのはずなのに…一体何があったんだ?

 

 

「学真くん。矢田さんと何かあったんですか?」

 

 

………

 

 

え…っ?

 

 

 

「…矢田がどうかしたのか?」

 

「さっき矢田さんを誘った時に学真くんが来る旨を伝えたら…行きたくないと言っていました。何か喧嘩でもしたんですか?」

 

 

嘘だろ…?

 

行きたくないって言ったのか…?

 

原因は、多分公園で矢田を怒らせてしまったことだ。それで会いたくない気持ちになったとかいうかもしれない。

 

ウッカリしていた。あの話はまだ解決していない。本当は直ぐに話を済ませれば良かったんだが、あの時解決しようとせずにそのままにしていた。

 

 

その結果こうなってしまったのか。

 

 

俺のバカ野郎…!

 

 

「どこにいるんだ?」

 

「……話をしてくるんですか?」

 

「ああ。どっちにしても話はしないといけない」

 

 

矢田が行きたくないと言ってしまった原因はなんと言っても俺だ。だから俺が責任を取らないといけない。少なくともあの話には決着をつけないと…

 

 

「…分かりました。それなら先生が連れて行きましょう」

 

「え、いや俺が直接行けば…」

 

「そんな事言っていたら夏祭りが始まってしまうでしょう!最速で話をつけて、矢田さんを連れてきてください!」

 

 

どんだけ来てほしいんだ?ひょっとして思っている以上に来れる人がいなくてショックを受けているのか?

 

そうこう言っているうちに触手に捕まってしまい、一気に連れて行かれる。懐かしいなと呑気に思っているうちに、あっという間に目的地に着いた。

 

 

 

 

我ながらバカだとは思う。殺せんせーが夏祭りに誘ってきた時、断ってしまった。理由は、学真くんだった。それもわたしが原因だ。

 

公園に来てくれと言われた時、そんなはずはないと分かっていた。ここで告白されるはずがないと。

 

なのに期待してしまった。ほんの少しだけ、ものすごく淡い期待を。

 

思った通り、そんなはずはなかった。前に学真くんが問題を起こしたデパートの店長が謝りに来たという事だった。

 

最初から期待しないようにしていたつもりだったのに、ショックを受けてしまった。

 

物凄く情けないと思う。自分で勝手に期待して、自分で勝手にショックを受けて…情けない自分がわたしの中にあった。

 

そしてこんなひどいわたしを、学真くんに見せたくないと感じた。

 

 

ここにいてられないと思い、私はその場を立ち去ろうとした。けど、学真くんが私を引き止めた。ショックを隠しきれていない事がバレてしまったみたいで、学真くんは私のことを心配してくれていた。

 

 

なんでもないから、と言って引きさがろうとしたけど、学真くんはさらに詰め寄ってきた。

 

 

 

もうダメ。これ以上近づかれたら、気づかれてしまう……

 

 

 

『なんで気づいてくれないの!!』

 

 

 

 

…言ってしまった。いま、取り返しのつかないことをしてしまった。

 

 

 

呆然としている学真くんの腕を払って、わたしはその場を後にする。学真くんは追ってこなかった。家に帰ってから、なにもかもにやる気が出ない。

 

 

 

やっぱりダメだ。リゾート島から帰った時から調子が悪い。日に日におかしくなっているのが分かる。

 

 

 

こんな事になるんなら、最初から好きにならなければ…

 

 

 

《ギュオン!!》

 

 

 

「…へ?なに……?」

 

 

突風が吹いたような音がしたかと思うと、目の前に殺せんせーが現れていた。突風が吹くほどの速度で来るのは大抵限られて来るけど…

 

 

「矢田さん。少々時間よろしいでしょうか?」

 

「えっ…良いけど…」

 

 

どうしたのかな?夏祭りの話だったらさっき終わったはずなんだけど…

 

 

「少し彼と話をしてくれませんか?」

 

 

彼…?そういえば殺せんせーの肩に誰かいる…

 

 

「えっ…!」

 

「…よう、矢田……」

 

 

 

ここしばらくの間の記憶がない。気がついたら着いていたみたいな感じだ。殺せんせーの事だから俺に負担がかからないようにしているとは思うけど。

 

さて…とりあえずは矢田の前に来たんだ。ここに来たならやるべき事は決まっている。

 

 

「殺せんせーから聞いたけど、夏祭りに行きたくないと言っていたらしいが、本当か?」

 

 

矢田は俯いて黙っている。困っている様子だし、多分その通りなんだろうな。

 

 

「それって、この前公園で俺と一悶着あったことと関係あるのか?」

 

 

再び黙っている。これも当たりみたいだ。

 

恐らく、公園で俺に向かって大声を出して怒ってしまったから、顔を会わせたくないというところだろう。ここに来た時も一瞬動揺していたのが見えたし。

 

という事は、原因はやっぱり俺だ。

 

だから矢田は夏祭りに参加したくないと言ったんだ。夏祭りに行けば、俺に会う事になるから。

 

だったら俺がどうにかしないと行けない。そんな理由で夏祭りに参加しないというのは…いくらなんでも悲しすぎる。

 

 

 

「今さらこう言うのもなんだけど…すまなかった。あの時、矢田の気持ちを考えずに色々言ってしまった」

 

 

頭を下げる。とりあえずはあの出来事を振り切ってほしい。せめて、俺の顔を見たくないために参加しないという事態を解決したかった。

 

 

「…何がなの?」

 

 

言葉が返ってきた。顔を上げてみると、表情はかなり真剣だった。半端な答えは許さないという感じだ。

 

 

「学真くんは何を謝っているの?わたしが怒ったのが謝る理由なら謝る必要は無いよ」

 

「矢田…?」

 

 

…もしかして、地雷を踏んだ?

 

何故かは分からないけど、謝ったのが裏目に出たらしい。

 

謝り方が問題だったのか?それとも、謝られた事が癪だったとか?

 

 

「わたしは個人的な理由で行きたくないだけだから、学真くんは何も関係ないよ」

 

 

ダメだ。全く分からない。どうしてこうなったのかも。これからどうすれば良いのかも。

 

俺は関係ないと言っているけど、明らかに嘘だ。俺が来るのを聞いてから行きたくないと言ったのを殺せんせーから聞いているし、ときどき目線をそらしているのが嘘をついている証拠だ。

 

けど、それを問い詰めるのはダメだ。あの日と同じ展開になってしまう。ひょっとすると夏祭りどころか、二学期も顔を会わせなくなくなるんじゃないか。

 

これはもう、無理やり来させようとするのは無謀じゃないか?話はある程度したんだし、この状態で来させる方が矢田にとっては嫌なのかもしれない。矢田の言う通りに、これ以上話をしないで終わらせてもいいんじゃないか。あるいは俺が行かなければ、矢田は夏祭りに行くんじゃ…

 

 

『それってさ。逃げって言うんじゃないの?』

 

『そうやって最もらしい理由を出して、自分の感情から目を逸らして満足なの?』

 

 

いや。何を言ってるんだ、俺。

 

ここに来て、なに引きさがろうとしているんだ。俺は矢田を来させるためにここに来たんじゃないか。話をこのまま終わらせたり、俺が来るのを止めたりしても何の解決にもなりはしない。

 

 

「…どうすれば良いんだ?どうしたら、お前は夏祭りに行く気になる?」

 

 

…違う。

 

 

「どうしたらって…夏祭りには行きたくないって…」

 

「だったら、なにがあったらお前は夏祭りに行きたくなる?」

 

 

違う…違う……

 

 

「なにがあっても変わらないよ。わたしは…」

 

「変わらなくはないだろ。何か欲しいものが…」

 

違う違う違う違う違う違う…!

 

 

「やめてよ…!学真くんはなにがしたいの…?」

 

「俺は……」

 

 

俺が言いたいのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前に来てほしいんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がここに来た理由は最初からそれだった。矢田がどう思っているかとか、矢田にとってどうだとかは関係ない。矢田に来て欲しいから…説得に来たんだ。

 

なのに俺はさっきから気を使ってばっかりで、俺の気持ちを言っていなかった。それじゃ何を言ってもダメだ。

 

たった一言、言うだけで良いんだ。そうじゃなきゃ、どんな言葉も空虚だ。しっかり伝えて、その上でしっかり話し合えば良いんだ。

 

 

「……ッ」

 

 

矢田は唖然としていた。まさかそんな事を俺が言うとは思っていなかったんだろう。

 

 

考えてみれば、俺がこういう風に自分の気持ちを言った事なんて無かったし。

 

 

「だから、もし何か欲しいものがあるんなら、時間はないけど準備する。それでお前が行きたくなるんだったら、大した手間じゃない。

 

それでも行きたくないんだったら、俺は諦める」

 

 

…俺の言いたい事は全部言えた。後は矢田の気持ち次第だ。行くのも行かないのも。

 

 

 

 

「…そんなの……」

 

 

 

…へ?

 

 

 

「そんな風に言われたら、嫌って言えないよ…」

 

 

 

うえっ…!?な、泣いて…ッ!

 

 

「うわわ…ご、ごめん!嫌だったか…!」

 

 

急いで謝ったけど、矢田は泣き止まずにいる。…この状態だと答えはしばらく出せないかも…

 

 

「と…とりあえず、俺向こうの方にいるから、気持ちが落ち着いたら、さっきの話の続きをしような」

 

 

とりあえずいまは矢田の気持ちを落ち着かせる方が先決だ。俺がいたんじゃ落ち着かなくなるだろう。俺は後ろの方の曲がり角に行くことにした。

 

 

「…行く」

 

「へっ…?」

 

 

後ろを振り向いた瞬間に矢田の声が聞こえた。そのまま回転して矢田に正面を向く。つまり1回転したというわけだが…

 

 

「わたし、行くから。学真くんが…来てくれって…言うんだったら…」

 

 

…行く、て…?矢田は、そう言ったのか…?

 

 

「い、良いのか…?それが、お前の気持ちなんだな…?」

 

 

コクン、とうなづいた。今度は嘘じゃないみたいだ。

 

 

「…そうか」

 

 

…なんとかうまくいったみたいだ。説得は成功したと言うところか。

 

張り詰めていた緊張感が一気に解けたみたいだ。急すぎて少し混乱はしているけど…

 

 

「じゃあ、また夏祭りの時に…」

 

 

とりあえずやりたい事は終わったんだ。矢田も準備があるはずだろうし、ここで俺も準備しに行った方が…

 

《ガシ》

 

…ん?

 

向こうに行こうとしたら、服を掴まれた。正確には、その袖を…

 

 

「あ、えっと……」

 

 

…どうしたんだ?俺の服を掴んで何がしたいん…

 

 

「一緒に、行こう…?」

 

 

うっ……!

 

 

 

 

涙目で上目遣いは反則だろ…!

 

 

「お、おう…分かった……」

 

 

いつのまにか頭が真っ白になってしまい、単調な返事しか出来なかった。

 

 

 

「『熱烈に誘う男子中学生、涙目の上目遣いにキュン死!』これは良い小説になりそうです!」

 

「死ねタコ!!」

 

「にゅや!?何気に1番鋭い!!」

 

 

考えるよりも先に手が動いてしまった。ひょっとすると体育や訓練の時よりも良い攻撃だった気がする。なるほど、これがゾーンですね。

 

※違います

 

 

 




学真くんが漸く自分の気持ちを言いました。

これが、夏休み編の最後の目標でした。他の誰でもない自分の気持ちを伝えることの大切さというものを学真くんに実感してもらいたかったんです。そのために色々な話を作りました。

さて、次回は夏休み編の最後の話です。次回はいよいよ……


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