浅野 学真の暗殺教室   作:黒尾の狼牙

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さて、いよいよ二学期編になります。1番最初はある生徒の物語です。原作でこの話が始まるまでは影が薄いキャラと思っていたんですが、この話を通して印象がガラリと変わった記憶があります。



2学期
第90話 呪いの時間


椚ヶ丘で行われた夏祭り。3年E組の生徒の一部はその夏祭りを堪能していた。

 

暗殺という普通では縁のない体験をしてきたせいか、その成果が思わぬところで活かされる。生徒たちは存分に楽しみ、その分店を出していた人は涙を流すハメになった。

 

楽しんだのは店だけではない。一部の生徒は恋人同士となったものもいる。中学生なら興味を大いに持つ恋愛を、その生徒は経験した。

 

一部の生徒はカメラを没収され、悲哀の感情を抱いたが、それでも殆どの生徒は楽しい思い出となった。

 

 

そんななか、ひとりの生徒はある事に追い詰められていた。

 

 

「…おや、君ですか」

 

 

3年E組の担任をしている超生物の殺せんせーの元に、ひとりの生徒が寄り添ってきた。殺せんせーはそれに気づき、その生徒に声をかける。

 

 

「充分に楽しめましたか?明日からは学校です。今日は思いっきり羽を伸ばして……」

 

 

楽しくなかったわけではない。賑やかな人通りの中で店に寄りながら、食事をしたりゲームをしたり、何一つとして不満なところはない。

 

だが彼はそれを楽しめる気にはなれなかった。

 

 

「ーーーー…」

 

「えっ……?」

 

 

彼の口から放たれる言葉を聞いて、殺せんせーは動揺を見せた。

 

何しろ、彼の口から放たれたのは……

 

 

 

 

 

「E組を…辞める……?」

 

 

 

 

今まで一緒に暮らしてきた教室から離れるという報告だった。

 

 

 

 

 

 

 

◇学真視点

 

 

色々な出来事があった夏休みが終わって、今日は久しぶりの学校だ。夏休みがいつまでも続くわけじゃないし、しばらくすれば学校が始まる。今日までの経験上それは分かっていた事だ。

 

だから今日は気を引き締めて学校に行かないといけない。休みボケから早く脱却するために気持ちを入れ替えるべきだ。これがいわゆるメリハリをつけると言う奴だろう。

 

だから俺はとっとと学校に行かないといけない…

 

 

 

 

「あぁぁぁ…行きたくねぇぇ……」

 

 

時刻は6時10分。俺はもう起きている。夏休みの間も6時に起きていたし、俺の体はそれが習慣となっていた。

 

そんな俺は未だに布団の中でうつ伏せになったまま動かないでいる。

 

 

何で行きたくないのか。学校に行けばロクな事にならないからだ。

 

 

この間、俺は矢田…桃花に告白して、見事成功して俺らは晴れて恋人同士となれた。

 

 

その翌日だぞ。学校に行けば弄られるに決まっている。

 

 

しかも何人かは俺が告白したところもしっかりと見ている。ひょっとしたら俺が告白した時の様子が全員に伝わっているのかもしれない。

 

告白するならせめて場所を選ぶべきだった。あんな人通りの真ん中で告白すれば通行人の目には入るし、近くには渚たちがいた。いや渚はゲスな奴じゃないけど、カルマも近くにいたし、それで全員に連絡が伝わってしまっただろう。

 

あの時の俺、変な事を言ってないだろうな。恥ずかしいようなセリフとか言ってしまったとか…もしそうだったとしてそれで弄られたらもはや学校である意味居場所がなくなる。

 

 

そういうわけで俺は学校に行くのを躊躇っている。このまま布団の中で過ごしたい気分だ。

 

 

「……まぁそうは言ってられないよな…」

 

 

仕方ないと割り切るしかない。ここで何時間もいるわけには行かないし。

 

諦めて布団から起き上がり、軽く身支度を済ませる。朝食の準備をしながら学校で貰ったプリントを見る。

 

 

「…E組は最初に体育館に集まる事になるのか。ってことは来て早々に弄られるとかはなさそうだな」

 

 

トーストが焼きあがった音が鳴る。それにジャムを塗って頬張る。個人的には硬めなのが好きだ。

 

最近こういういつもの日課が楽しいと思うようになった。中学生の時から1人で生活をして来た訳だけど、気持ちが落ち着いてからなんとなくそう思えるようになった。

 

こういう風に幸せを噛みしめるのは今までしたことなかったしな。いずれは桃花と……

 

 

 

 

「いやなに言ってんだバカ野郎ォォォ!!!」

 

 

 

机をバンと叩いて叫んでしまった。周りの人を驚かせたかも……ごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事があり、色々あっていま学校についた。とは言っても本校舎の方なんだけど。

 

ここ良い思い出ないんだよなぁ…A組にいた時なんかこれっぽっちも楽しいと思った事ないし。戻るチャンスがあったとしても戻りたくはない。

 

 

「おっ学真!おはよう」

 

 

校門を潜ろうとしたところで杉野に声をかけられた。なんか久しぶりだな、お前に会うの。

 

 

「お前聞いたぞ。告白したらしいな」

 

 

……やっぱり聞いているのかよ。淡い期待は無意味だったか。ていうかニヤニヤすんな気色悪い。

 

 

「…したよ」

 

「いや良かったな。俺も見たかったよその様子を」

 

 

喜ぶんじゃねぇよ。覗き見された事は決して嬉しく無いんだ。どいつもこいつも他人をオモチャにしやがって。

 

 

そんな事を言っている間に、俺たちは体育館の前についた。そのまま中に入ればE組の生徒が並んでいた。

 

 

「おっ!来たぞ彼氏の方が」

 

「おっはよ〜。隅に置けないねぇ」

 

 

そんで案の定始まったよ。もうやだ早く帰りたい。

 

他の組の生徒たちはまだ来ていない。まぁそうじゃないとE組が1番最後に来たという事で雑用させられるから困るんだけど。

 

そしてE組の中に桃花の姿を見つけた。とりあえず挨拶をしよう。平常心…平常心……

 

 

「……よう……桃花」

 

 

 

…くそぅ、なんで詰まるんだ。毎度毎度動揺がバレバレになるのどうにかしたい。

 

挨拶した後桃花が俺の方に振り向いた。

 

 

 

「……おはよう

 

 

…うん。そうなるよな。ていうかお前も俺と同じ目に遭ったよな。多分俺が来るまでの間コイツらに弄られていたよな。

 

だからか知らないけど矢田の顔がめっちゃ赤い。目を合わせようとしているのは分かったけど声がかなり小さかった。

 

 

なんていうか、未だに慣れないんだよな。

 

 

恋人同士になったばかりで、お互いに恋人というのが分かっていないからどう接していいか分からない。いつもとは違う関係になるんだと意識してしまうから余計に恥ずかしくなる。

 

こんなんで大丈夫か…?

 

 

 

「おい…これは何の罰ゲームだよ」

 

 

すまんな吉田。4月以降の転入生は1番後ろに並ぶことになるから、俺と矢田でお前を挟む形になるんだけど、許してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで始業式が始まった。

 

長ったらしい校長先生の話が終わり、放送部の荒木がマイクの前に立った。アイツが喋るという事は、伝達事項なんだろう。

 

 

『さて、みなさん。今日からA組に1人仲間が加わります。彼はこの間までE組にいました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いまアイツはなんて言った?E組の生徒が…A組に加わるだと?

 

つまり、本校舎の復帰制度を使ったということか。期末テストで50位以内の成績を取れば本校舎に戻ることが出来る。そしてこの前の期末テストでは50位以内の成績を取ったE組の生徒は何人かいた。だからそれが可能な生徒はいる。

 

けど、このタイミングでA組に編入だと?南の島の暗殺が失敗に終わり、その後色々な事件に巻き込まれて、その結果もっと気を引き締めようと思ったばかりだ。

 

 

 

『それでは彼に喜びの声を聞いてみましょう。竹林孝太郎くんです!』

 

 

……!

 

 

「竹林…?」

 

「竹林が…E組を抜ける……?」

 

「なんで……?」

 

 

荒木の指示に従って、舞台の袖から竹林が現れた。このE組で俺たちと一緒に過ごして来た竹林で間違いなかった。本当に竹林がE組を抜ける、ということか……?

 

動揺している気持ちが収まらない中、竹林はステージのマイクの前に立った。そして一礼して紙を読み始めた。

 

 

『ーー僕は4ヶ月余りをE組で過ごしました。その環境を一言で言うなら、まさに地獄でした。その惨状から怠けた自分を悔い、本校舎に戻りたいと必死に勉強しました』

 

 

……アイツ…

 

 

『こうして戻ってこられた事を嬉しく思い、二度とE組に堕ちる事のないよう頑張ります。…以上です』

 

 

言うべきことが終わったのか、竹林は紙を懐にしまって礼をする。そしてステージの脇から1人の男が現れた。…兄貴だ。兄貴が竹林に何か言っているのが見える。その後体育館にいる本校舎の生徒からの拍手喝采だ。

 

 

「よくやった竹林!」

 

「お前は違うと思ったぞ!」

 

 

完全に歓迎モードだ。本校舎に戻ることになった竹林を讃える声があちこちから聞こえる。

 

 

本校舎に戻るための努力をした竹林を賞賛することで…

 

 

未だにE組にいるみんなを陥れる戦法か…?

 

 

 

 

 

 

「なんだよアイツ!」

 

 

E組校舎の中では、怒りの声が響く。それはもちろん竹林に対するものだった。

 

 

「100億のチャンスを捨ててまで抜けるとか信じらんねぇ!」

 

「しかもここのこと地獄とかほざきやがった!」

 

 

怒り心頭、と言うやつか。E組を抜けられたことだけじゃなく、そのE組の事を悪く言われた事が許せないみたいだ。俺もここが地獄だとは思えないし、みんなが怒るのも当然だと思う。

 

けど、なんて言えばいいんだろうな。何かありそうな気がする。

 

ステージの上で語っている時のアイツは、何故か1番苦しそうだった。

 

スピーチみたいな人の前で話すって業務は、殆どが自分の感情と切り離すものだ。俺も何度かそういうものを聞いてきたし、俺自身もやったこともある。

 

だからかは知らないけど、本心じゃない事を話している時はかなり分かりやすい。切り放そうと意識するあまり逆に不自然に見えるというやつだろう。

 

さっきも地獄と言おうとした時に一瞬動揺していたのが分かった。本当はそう思っていないんだろう。それでも言ったってことは、何かあるって事だ。

 

 

「とりあえず、あの言い分は気に入らねぇ!放課後アイツのところに行くぞ!」

 

 

前原の言葉にクラスのみんなが一致団結して教室を出る。結構怒っているし、竹林のところに行って文句を言うつもりだろう。本校舎には入れないから、帰宅している時に呼び止める事になりそうだ。

 

本当は止めた方が良いのかもしれない。全員で1人の男を問い詰めるなんて、冷静に見ればイジメみたいなものだ。

 

 

けどこのままにしておいたら、竹林がなぜあんな行動を取ったのかが分からなくなるのも事実だ。

 

だからここはみんなに着いて行くとしよう。そして話の中でその答えを探した方が良い。万が一ヤバい事になったら止めた方が良いだろう。

 

教室から出て行こうとするみんなに従い、俺も机から立ち上がって移動した。

 

 

 

 

 

 

そして、本校舎に来た。中に入れるわけじゃないから、校門付近で待ち伏せしているみたいにはなっているけどな。

 

やがて校門から、本校舎の生徒と別れた竹林が出てくる。その姿を見るや前原が竹林に声をかけた。声をかけられた竹林はこちらに気づき、足を進める。

 

 

「説明してもらおうか。なんで一言の相談も無いんだ?」

 

 

代表して前原が口を開く。そう思うのも最もだ。理由は何であれE組を抜けるのなら俺たちに言うべきだ。しかも昨日は夏祭りだ。言おうと思えば誰にでも言えるはずだった。

 

 

「賞金100億…殺りようによっちゃもっと上乗せされるみたいだよ。分け前いらないんだ竹林。無欲だね」

 

 

いつのまにか俺たちと一緒にいるカルマが口を開く。まるで竹林を挑発しているみたいだ。まぁ喧嘩売ろうとしているわけじゃなくて、この喋り方がカルマの素なんだろうけど。

 

 

「…せいぜい10億」

 

 

やがて竹林が口を開いた。口から出されたのは、100億に比べて一桁少ない数字だった。

 

 

「僕単独で100億ゲットは無理だ。上手いこと集団で殺す手助けをしたところで、僕の力じゃ10億が良いところだね」

 

 

竹林は、自分が分け前として貰える金額が10億だと認識している。自虐と言うよりも、自分の実力を冷静に分析した上でその金額だと予測したみたいだ。

 

 

 

「僕の家は代々病院を経営している。10億って金はうちの家庭では働いて稼げる家庭なんだ。出来て当たり前の家。出来ない僕は家族として扱われない。そんな僕が10億を持って帰ったところで、鼻で笑われて終わりさ」

 

 

……病院の経営者の息子だったのか。南の島でクラスのみんなの応急手当てが出来たのはそれが理由か。

 

そういえば竹林の家のことは全く聞いていなかった。というか元々、竹林はあまり自分のことを話そうとしない。趣味の話はするけど、身近な話はしようとしなかった。

 

 

「昨日親に成績の話をして、A組に戻れる事を報告をしたら…褒められたよ。『頑張ったじゃないか。首の皮一枚繋がったな』って。その一言のためだけに、どれだけ死ぬほど勉強し続けてきたか…!」

 

 

語っている竹林の目には、苦痛の感情がこもっていた。壇上に上がってきていた時よりも強く。

家族に認めてもらえない事の苦痛と、認めてもらうために積んできた苦行に、竹林はずっと苦しみ続けてきたんだ。

 

家族、か……

 

 

「僕にとっては地球の終わりよりも、賞金よりも、親に認められる方が大事なんだ。

 

恩知らずも裏切りも分かっている。君たちの暗殺が上手く行くことを願っているよ」

 

 

竹林はそのまま振り向いて歩き始める。渚が竹林を止めようとしたが、神崎がそれを止めた。

 

気まずい雰囲気が漂う。竹林の抱えてきた闇を知って、全員が暗い気持ちになっているんだろう。親に認めて貰えない事の虚しさは、そんな簡単に分かるものじゃない。

 

 

 

「ねぇ、学真くん…」

 

 

 

声をかけられる。俺の後ろにいた桃花が呼びかけたみたいだ。俺は振り向いて桃花の話を聞く。

 

 

「…学真くんは、この後どうするの?」

 

 

それは、一種の期待なのかもしれない。竹林の話を聞いてどうしたらいいのか分からなくなって、俺に聞いたんだろう。

 

俺を頼る理由は、大きく2つあるだろう。1つは、こういう時は俺が1番最初に動き出す事が多いから。前原の時も霧宮の時も、俺が最初に動き始めたし、今回もそうするかもしれないと思ったのかもしれない。

 

もう1つは、竹林の境遇が俺と少し似ているからだろう。親に認めて貰えずに苦しんでいた、と言うのは俺も経験している。親父や兄貴に比べて何もかも劣っていた俺は、家の中では蔑まれるのが当然だった。話を聞いている限り、竹林もそういう家庭だったんだろう。そういうわけで俺と竹林は環境的には似ている。

 

 

 

 

だから俺に尋ねたんだ。

 

 

 

 

 

「俺は竹林の気持ちを尊重するよ」

 

 

 

 

 

最初に言っておくが、A組に戻る方が良いと言うわけじゃない。E組を離れてA組に行くぐらいなら、E組に残って見下される方がマシだ。

 

けどそれはあくまで俺の話だ。似たような悲しみはあるかもしれないが、同じ苦しみはない。竹林にとって、強者になって親に認めて貰える事の方が重要だと言うんなら、アイツの選択は間違ってはいない。その気持ちを俺の価値観で否定するのはそれこそ竹林を追い詰めることになる。

 

 

 

 

 

気づけばみんなは俺の方を見ていた。俺の解答を聞いて何を思ったのかは分からないけど、少なくとも嫌な気持ちである事は間違いない。

 

夏休みが終わった後に迎えた二学期は、嫌な雰囲気の開幕になった。

 

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