浅野 学真の暗殺教室   作:黒尾の狼牙

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本作には出していませんが、原作で神崎さんのセリフがあります。『親の鎖は凄く痛いところに巻きついている』と。まさにその通りだと思いました。親というのはあくまで数多くの出会う人の中の1人なのですが、子どもにとって影響が強い存在であります。だからこそ、親に認められたいという竹林くんの気持ちは間違っていないなとは思っているんです。

こうしてみると暗殺教室って色々な事を考えさせてくれる作品ですよね。ハーメルンで取り扱っているわけですが、投稿するたびにしみじみと考えさせてくれるような気がします。原作もアニメも終わりましたが、今も志向の作品であると思っております。

だからこそ暗殺教室の魅力を伝えたい。暗殺教室信者が描く二次創作、ぜひ楽しみながら読んで頂きたいと思います。


第91話 強者の時間

心残りが無いわけじゃない。あのクラスから離れる事になったのは寧ろ嫌な方だ。あのクラスのみんなは僕のことを憎んでいるだろう。

 

 

けど、僕にはこうするしかないんだ。親に認めて貰えるためには……

 

 

 

「よう竹林。今日がA組で始めての授業だよな。色々と大変だろうけど、お互いに頑張ろうぜ」

 

 

始業式が終わってから翌日。A組に入ってから始めての授業を受ける。そんな時に、これからクラスメイトになる人たちからそう言われた。少し前まではE組にいたけど、今では快く迎え入れてくれている。E組にいた事を甚振ろうとする人はいないみたいで、少し安心した。

 

そして授業が始まる。名門校と言うだけあって、とても分かりやすい授業だと期待していた。

 

 

 

 

 

 

 

けど、そんな事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「加法定理を使うとこうなるから、ここを計算するとこうなって、するとこれが…」

 

 

 

1限目は数学の授業だ。数学の先生が黒板の前に立ったと思ったら、高速で板書を始める。説明は口頭で軽く言うだけで、次から次に数式が書かれていく。

 

今習っている範囲は三角関数。1学期の間にE組でとっくに終わった範囲だ。

 

授業速度が遅いと言うわけじゃない。寧ろ早すぎる。コッチに理解させる余裕すら与えないほどに。

 

E組に比べて内容が大幅に遅れている原因は、教える内容だ。

 

E組では、まず最初に公式を覚えて、そこから内容を体系的に組み立てて、その上で問題の対策をしていく。

 

けどこの授業は、公式を教えてはひたすら問題を解いていくだけだ。板書をひたすら写して、頭ではなく体に叩き込ませる。

 

かなり過酷な授業だ。ついてこられなかったらずっと置いていかれてしまう。場合によっては勉強する意識すらも失ってしまうかもしれない。

 

それでもみんなが必死についていこうとする理由は、プレッシャーだと考えられる。学力において学年1位とされているこのクラスは、成績に関する期待は当然のように高い。

 

高得点を出さないといけないと言うプレッシャーから、生徒は必死でノートを取るようになっている仕組みということか。

 

 

 

 

 

 

展開が速く、過酷な授業が全て終わった。正直な話ノートはほとんど取れていない。E組である程度習った範囲だからなんとかなりそうだけど、新しい内容に入ったとしたらついていくのもかなり厳しくなる。今のうちから予習しておかないと難しい気がする。

 

けどここまで過酷な授業を受けた後だから、少し息抜きをしたい気分だ。

 

 

 

「この後どうだい?僕の一押しの喫茶店があるんだけど」

 

 

 

前に座っている生徒を誘う。もちろん行く予定にしているのはメイド喫茶店だ。E組に入ってから行き始めたけど結構住み心地が良い。あの寺坂も楽しそうにしていたし、折角だからここのクラスの人とも一緒に行きたい気がする。

 

 

 

「あ、悪い。また今度な」

 

「気遣いありがとう。けど気にする必要はないからな」

 

 

 

その誘いは、断られた。凄く忙しそうにしていて、今すぐに教室から飛び出したいみたいだ。

 

 

 

「…うん。また今度ね」

 

 

 

そう言うと、その2人は一気に教室の外に出た。多分予備校に行ったんだろう。

 

授業が終わった後でもこんな調子だ。A組の生徒たちはこうやって、いつも必死に勉強している。休む暇なんて全くない。本当に余裕があるのは、五英傑みたいなほんの数人だけだ。

 

 

 

「メイド喫茶に行っているんだって?竹林くん」

 

 

 

そんな五英傑とは違う席のところに1人の男がいる。確か…

 

 

「窠山、で良かったよね」

 

「当たり。まぁ、E組にいたんなら僕の名前くらいは聞いたことがあるでしょ」

 

 

 

知らないはずが無い。夏休みに学真と戦った人物だ。ヤクザの息子でありながら、この学校では学力二位に属している。この教室で頂点と言ったら浅野 学秀くんをさすけど、彼はその次ぐらいの地位だ。僕からしたらかなり上の存在だ。

 

 

「興味あるかい?なんだったら一緒に…」

 

「やめておくよ。別に興味ないし」

 

 

…分かってはいたけど、断られてしまった。メイド喫茶と言われるとこういう風に渋られてしまう。あまり良いイメージを持たないんだろうか。行き続ければ寺坂みたいにハマると思うのに…

 

 

 

「…ていうか、君も行くのを辞めた方が良いよ。今の君には邪魔になる」

 

 

…え?

 

 

「それはどういう……」

 

「竹林くん、勉強と遊びを両立できないタイプでしょう?不器用と言うのかな。自分1人じゃ効率よくこなせない。E組にいた時は凄腕の先生が手助けしてくれただろうけど、今後はそう行かないよ。自分一人でA組でついて行こうとしたら、メイド喫茶なんて楽しんでいる暇がないでしょ」

 

 

…っ!?

 

 

「…分かるのかい?」

 

「今日の様子を見ていたら分かるよ」

 

 

 

窠山の言っていた事は全部当たっている。自分で言うのもなんだけど、僕は効率が悪い。

 

E組に入る前から勉強は死ぬほどやってきた。予備校だって何個も掛け持ちしていたし、良い点数が取れるための努力は怠らなかった。それでも勉強にはついていけなくて、E組に落とされてしまった。

 

E組に来て、殺せんせーに勉強を見てもらった結果テストの成績は上がった。その理由として考えられるのは、先生の教え方が良かったのもある。だけど、1番は勉強の工夫だった。僕の好きなアニソンに合わせて公式を覚えるやり方はとても良かった。

 

そこで初めて、自分が不器用である事を知ったんだ。今までは自分の努力不足だと思っていたし、殺せんせーと一緒に勉強しなければそれに気づかなかったのかもしれない。

 

 

「竹林くんさ。強者を甘く見過ぎじゃない?」

 

 

なんて言うんだろう。皮肉のようだけど、言っている事は的を得ているような感じだ。学真からある程度は聞いていたけど、身をもって知ってみると、心を見透かされているみたいで気持ちが悪い。

 

 

「強者になれれば楽できる、てバカな奴らはそう思いがちだけどそんな事は断じてない。寧ろ強者でなければならないと言うプレッシャーを背負い続ける事になる。それって意外としんどいものだよ。1番楽できるのは、強者でも弱者でもない中間の位置さ」

 

 

強者になれれば楽になれる、と思っていたわけじゃない。寧ろ苦労する事はあるだろうとは思っていた。

 

そして今日A組を見て分かった。本校舎にいる生徒の中で、ここにいる生徒が1番苦労している。期待値が高いとここまでキツいものなのか。

 

 

「君はもうA組だ。ならそれらしく振る舞わないといけない。メイド喫茶に行って鼻の下を伸ばす暇なんて、君には無いよ」

 

 

……メイド喫茶に行くことは止めろ、と言っているんだろう。

 

これは窠山からの助言…もしかすると忠告かもしれない。これからA組の生徒として過ごすのなら、遊ぶ時間を無くすべきだと。

 

……その方が妥当かもしれない。もう殺せんせーの手は借りれないんだ。ここで頑張って行くためには、必死に勉強していくしか……

 

 

 

「竹林、いるか?」

 

 

 

扉を開けられ、浅野学秀が入ってきた。どうやら僕を呼んでいるみたいだ。

 

 

「僕に一体何の用だい?」

 

「ついて来い。理事長が呼んでいる」

 

 

理事長…?何か僕に言うことでもあるんだろうか。

 

ここで色々と考えてもしょうがない。とりあえずはついていくとしよう。

 

 

僕は学秀に従って理事長室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どうだったかい?A組の生活は」

 

「……色々と苦労しそうです」

 

「フフ…まぁそこは慣れてもらわないといけない」

 

 

理事長室と向かい合って話をしている。何気にこの理事長室に来るのは初めてだ。体育館ほどとは言わないが、それの次ぐらいには広い部屋で、その中にポツンと置かれてある机に座っている。賞状やらトロフィーやら、理事長の実績を示すものが沢山置いてある。昔この一部を壊した生徒が即E組行きになったって聞いたから、少し落ち着かない。

 

 

「さて、来てもらった理由だけどね。君にはある頼みごとをしたいんだ」

 

「…?僕にですか…?」

 

「ああ。君にしか頼めない」

 

 

…僕にしか…?先日E組から来たばかりの僕に何が出来ると言うんだろう。

 

 

「明日はこの学校が設立する前に建てられていた私塾が設立された日でね。全校生徒が本校舎に集まってもらうようになっているんだ。

 

そこで君にはみんなの前でスピーチをしてもらいたい」

 

 

…どう言うことなんだろう。何でそんな日に僕が話さないと行けないのだろうか。始業式ならともかく、私塾の設立記念日に僕が話す必要は無いと思うけど。

 

 

「なに、簡単なスピーチさ。学秀くん。出来ているかい」

 

「はい。こちらに」

 

「……まぁ、こんなものか」

 

 

学秀から貰った紙を見てから、その紙を僕に渡して来た。その紙を読めということ、か……?

 

 

 

「…これ、は…ッ!」

 

 

 

=======

 

 

僕はE組で過ごしている間、数々の問題を目の当たりにしました。

 

不純異性行為、不健康な食生活、コミュニケーションに問題のある行動

 

そんな彼らの行動を見て、元同級生として危機感を感じています。もし彼らがこのまま社会に出たとしたら、行き場をなくしてしまうのは必須です。

 

そこで皆さんにお願いしたい。彼らE組の将来のためにも、彼らを教育するシステム、E組調教委員会を設置してください。

 

 

=======

 

 

E組…調教委員会……?こんなのを作れと言うのか…?

 

原稿に書かれてあるのはほぼ嘘八百の内容だ。こんなものを全校生徒の前で話せば、E組のみんなは身に覚えのない罪を被せられ、更にもっと過ごしにくくなってしまう。

 

こんなの……

 

 

「これは君が強者になるための儀式だよ」

 

 

……ッ!強者…?

 

 

「クラスごと更生させたとしたら、それは大きな成果として讃えられる。高校では首位となること間違い無いし、一流大学に入れるのも夢じゃない」

 

 

…一流大学…家族が当然のように行ける大学に…行けるようになると言うのか…?

 

 

「やってくれるね?」

 

 

理事長の言っている事は、提案という事にはなっている。けど半分は脅迫だ。僕にとって望んでいる事を目の前に垂らして、自分の思い通りにさせようとしている魂胆は分かる。

 

…けど、もし親に認められるような人間になるためには、この人の言う通りにしないといけない。強さと言うものを誰よりも分かっているこの人だからこそ、強者になるための方法を知っている。

 

だから僕に出来るのは…

 

 

「……やります」

 

「いい返事だ。期待しているよ」

 

 

理事長は満足げに笑っている。E組の勢いが弱まることも狙えるから、願ったりかなったりなんだろう。それだけE組の事を…特に殺せんせーの事を警戒しているということだと思う。

 

 

「……学秀くん、これが君たちの見てきた世界なんだね」

 

「…まぁね」

 

 

ここに来る前に窠山から言われた言葉を思い出す。強者の事を甘く見過ぎている…それをいま実感したような気分だ。強者になるためには、自分に甘えてはいけない。そうしないと強者のままでいられる事はないから。

 

理事長室の前で学秀くんと別れる。彼も父親に対しては苦い思いをしているみたいだ。彼は文句なしの秀才であるはずなのに。

 

 

強くなるってことは…こんなにもキツいものか。

 

 

 

 

 

夜遅くに、自分の家に向かって歩いていく。右手には理事長から貰った原稿がある。

 

…未だに切り替えが出来ていない。こんな遅い時間になるまで悩む事になるなんて思ってもいなかった。

 

思い詰める事は何回かある。いくら努力しても結果が出ない自分に対して苛立ちと焦りが募り、こういう風に暗い気持ちで家に帰ることは何回かある。

 

けどいま抱えている気持ちは、そんな悩みとは別の苦しみがある。それも、こんな罪悪感を持ってしまうような事を…

 

 

「……ん?」

 

 

…何か気配を感じる。暗くてよく見えないが、歩いている先に誰かいるのは確かだ。しかも通りすがりではなく、明らかに誰かを待っている。それもあの姿、見たことがあるような……

 

 

「よう、竹林」

 

「……!学真…?」

 

 

近づいてその姿が漸く見えた。それは間違いなく学真だった。しかも、僕を待っていたみたいだ。

 

 

「…急にどうしたんだい。もうE組とは縁のない僕を…」

 

 

そのまま家に帰ろうとする。学真には悪いけど構っているヒマはない。もう明日には気持ちを切り替えておかないと……

 

 

「E組を厚生する委員会を設置するスピーチを話せとでも言われたんじゃないかと思ってよ」

 

 

…え?

 

 

「…なんで分かったんだ?」

 

「分かるよ。これでもアイツの息子だ。今のE組の状況と、明日設立記念日があることが分かれば、何をしようとするかぐらい分かりそうなものだ」

 

 

…そう、か。学真は一応あの人の息子なんだ。父親のやりそうな事はある程度予測が立つのか。

 

 

 

そういえば学真は、親のことを良く思わないところがある。律が親に開発されてしまったときもかなり怒っていたし、それは間違い無いと思う。

 

…理由としては、間違いなく理事長が関連しているんだろう。考えてみれば彼も僕と同じ、父親に認めてもらえていない人物だ。学秀でさえ父親に認めてもらえていない家庭だし、彼も家では見苦しい生活だっただろう。

 

 

「…学真は、父親に認めてもらいたいとか思う事はあるのかい?」

 

 

興味本位で聞いてみる。普段はあまり父親の事を聞こうとはしないけど、追い詰められているから聴きたくなったのかもしれない。彼も僕と同じように、あの父親に認めてもらいたいと思うのかどうかを…

 

 

「…昔は思っていたんだけどな。今はそう思わない。親父に認めてもらうって事は、つまり強者になるって事だ。そんな奴になるぐらいなら、見下された方がまだマシだ」

 

 

答えとして、そうは思わないということか。強者になって認めて貰えるよりも、あのみんなと楽しく過ごす方が大事だということか。…そういう生き方もあるのかもしれない。無理するよりかは自分の好きなようにした方が良いと思うのも1つの考え方だ。

 

結局僕は何がしたいんだろう。親に認めてもらいたいと言いながら、強者になるための一歩を踏み出せずにいる。こんな僕が本当に情けない。

 

 

 

 

 

 

「けどな。見返してやりたいと思ってはいるよ」

 

 

 

 

 

 

 

「え…?」

 

 

思わず顔を上げる。学真の顔は、いつも教室で見せていたような優しい表情だった。

 

 

「人としての価値は、強さだけじゃない。俺は今も、その気持ちは間違っていないと思っている。強者になって認めてもらうんじゃない。俺は自分の考えを変えないまま親父や兄貴を倒したいんだ。それが俺の望みだ」

 

 

学真の言っていることは、とんでもなく難しい。見返すということは、理事長に勝つという事でもある。あの理事長を屈服させるなんて、あの人の前に立てばそんなこと出来るはずがないと思ってしまう。

 

けど学真は、僕たち以上に理事長の強さを分かっている。理解している上でそれを超えるつもりなんだ。あの怪物を…

 

 

「地球の危機や100億よりも、親に認めてもらえる事の方が大事と言っていたな。それは間違っていないと思う。親に見てもらいたいという気持ちは決して間違いなんかじゃない。

 

けど、周りから求められているやり方にこだわる必要は無い。やりかたなんてものはいくらでもある。もちろん楽な方法は無いだろうけどな。大事なのは、自分が納得するか否かだ」

 

 

そういうと学真はカバンの中から何かを取り出した。教科書みたいな長方形のものみたいで、包装紙で包まれている。

 

 

「ここにもう一つ原稿がある。親父から貰った原稿と同様、それを読めば取り返しのつかないことになる」

 

 

学真が持っているものをもらうと、紙よりはやや重い。そこそこ硬いし、金属で出来たものなんだろうか。さっき原稿と言っていたけど、これは明らかに原稿じゃない。それどころか紙ですらない。

 

一体何が入っているんだろうと思い、包装紙の一部を開ける。

 

 

「…!これは……」

 

 

その中身を見て、目を疑わずにいられなかった。何しろそれを持っていること自体とんでもないことだから。

 

 

「例えお前が親父に言われた原稿を読んだとしても、俺たちの事は気にしなくて良い。またこっちで対策を練れば良いだけの話だ。

 

だから竹林。他人を気にせず、自分で選択しろ。親父と俺の渡した原稿…どちらを読むのかを。()()()()()()()()()()()

 

 

そう言って学真は振り返って離れていく。あのまま家に帰るつもりなんだろう。

 

もしかするとこれを渡すために僕を待っていたのかもしれない。理事長からスピーチ用の原稿を渡されるのを知っていたからこそ、このタイミングでコレを渡しに来たんだろう。

 

 

 

 

 

 

翌日、理事長が言っていた通り全校生徒が体育館に集合している。あくまで創立記念日だから、別に大切な話があるわけじゃない。校長先生からの簡単な話と、いつも通りのE組弄りがあって、いよいよ僕に出番が回ってくる。

 

進行者に名前を呼ばれ、ステージの前に立つ。その時点で生徒たちがヒソヒソと話をしているのが聞こえる。始業式が終わったばかりのこの時期に僕が話をするなんて思ってもいなかっただろう。E組のみんなも同様だ。

 

机の上に、理事長から貰った原稿を置く。ステージの脇にいる学秀が笑いながら僕を見ていた。この原稿のことを知っているからこそ笑っているんだろう。ひょっとしたら理事長もいま似たような表情になっているのかもしれない。

 

 

「少しだけ話をさせてください」

 

 

マイクに向かって話しかける。ザワザワしていた空気が一瞬でシン、と静まっていく。全員が僕の話を聞こうとしている。

 

 

「僕は1ヶ月間、E組で過ごして来ました。本校舎とはかけ離れた隔離校舎で、決して普通とは言えない環境で、破天荒な生活を過ごして来ました。

 

 

 

そんなE組は、メイド喫茶の次に過ごしやすいところです」

 

 

 

動揺の声が聞こえる。それもそのはず。ついこの間までE組の事を地獄だと言っていた男が、急に過ごしやすかったと言い始めたのだから。E組の生徒も、本校舎の生徒も、驚きの色が隠せないでいる。

 

何より、本来話すべきだった原稿を読んでいなかった事に対して、ステージの脇にいる学秀が呆気に取られていた。

 

 

「僕はただ焦っていました。親に認められたいと思うあまり、もっと大切な事を見落としてました。本当の気持ちに嘘をついて、これが自分のしたい事だと錯覚してました。

 

人は強くならないといけないという理事長先生の意見は正しいと思うし、それに従って強くなろうとしている皆さんも立派だと思います。しかし、僕はまだ弱者のままでいようと思います」

 

 

本当は、E組のみんなと楽しく過ごしたかった。親に認めてもらいたいから、僕はその気持ちに嘘をつけていた。

 

僕と同じ境遇にある学真は、父親に認めてもらうんじゃなくて、見返してやると言っていた。

 

学真にそう言われて始めて気づいた。まだ他に方法はあった。焦るあまり、それに気づこうとしなかったんだ。

 

僕はまだ強者にならなくて良い。もっとゆっくり、自分の人生について考えていこうと思う。

 

だから僕は…理事長に言われた方法は切り捨てる事にした。

 

 

「……!今すぐ撤回して謝罪しろ!さもないと…」

 

 

ステージの脇から学秀が現れる。僕の話を無理やり変えようとしているんだろう。

 

僕は原稿の下に隠していた物を取り出した。昨日学真から渡されたものだ。

 

 

「なっ…それは…!?」

 

 

学秀がそれを見て驚愕の色に染まる。僕がそれを持って来ているとは思ってもいなかったんだろう。

 

 

「理事長室からくすねて来ました。私立学校のベスト経営者を表彰する盾のようです」

 

 

椚ヶ丘では恐らくナンバーワンの教育者である理事長だ。これ以外にも色々と景品はあるだろう。理事長こそまさに、僕が憧れていた強者という存在だ。

 

懐からナイフを取り出す。本物ではなく、丈夫さだけが売りのナイフだ。僕はそのナイフを上に伸ばす。

 

 

「理事長先生は本当に強い人です。全ての行動が合理的だ」

 

 

 

 

 

 

 

常に僕の心臓を縛り付けているものがあった。それは、親に認めてもらいたいという欲だった。その呪いのような欲に、僕は縛り付けられていた。

 

知らない間に、僕は本当の気持ちを殺そうとしていた。自分の気持ちに嘘をついて無理しようとしていた。

 

けどそんな必要はないと学真は言った。

 

だから僕は、僕の本当の気持ちに向き合うために、その呪いを断ち切らないといけない。

 

 

ベスト経営者の盾を持ち上げる。そして上に伸ばしていたナイフを…盾に向かって真っ直ぐに下ろしていった。

 

 

 

 

《バリィィィィン!!》

 

 

 

盾が割れた事を証明するように、大きく音が鳴り響く。ナイフによって割れた一方は、そのまま地面に落ちて粉々に砕け散った。

 

 

「昔同じような事をして、E組に落とされた生徒がいるそうです。前例から合理的に考えれば…

 

 

E組行きですね。僕も」

 

 

 

体育館の中が、静寂な雰囲気に包まれる。この数秒間で起こった出来事に対して理解が追いついていないんだろう。先日のように声を出す人は誰一人としていなかった。

 

地面に落ちなかったもう一つの片割れを台の上に置いて、ステージから離れる。このまま何事もなくE組に行くつもりだ。

 

 

「……救えない奴だな。折角強者になるチャンスを与えてやったと言うのに」

 

 

横を通りすがったところで、学秀から声をかけられる。心底呆れている、という感じだろう。彼からすれば折角のチャンスを手放したようにしか見えなかったから。

 

 

「…強者?怖がっているだけのようにしか見えなかったけどね。君もみんなも」

 

「……ッ!!」

 

 

学秀をそのままにしておいて離れていく。別に彼に共感して欲しいわけじゃない。彼は彼なりの考えがあるし…僕の考えなんて理解できないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

◇三人称視点

 

 

「なに考えてやがるんだよ、竹林のやつ…」

 

 

ステージを見ながらA組の生徒たちが怒りの声を上げる。E組とは一度行ったら地獄のような苦しみでしかない場所なのだ。そこに自らいこうとする竹林の事が理解できないでいる。

 

 

「所詮はその程度だったって事でしょ」

 

 

その生徒の後ろで、いつも通りの表情のまま喋っている生徒がいた。

 

 

「窠山…」

 

「強者になるということは、それなりの苦労がある。例えどんなに嫌なことであったとしても、目的のためにはそれを実行しないといけない。今の竹林はそこまでの強さは無かったということでしょ」

 

 

窠山は予測していた。近いうちに竹林はE組に戻るだろうと。最初に会った時から、そう思っていた。

 

 

「…竹林孝太郎は強者にはなれない。それが全てだよ」

 

 

窠山の主張はそれが全てだった。本当の強者になれる人物はほんの一握りであり、それになるためには相当な努力と苦労が必要である。彼にとって本当に強者と言えるのは、浅野家の人物しかいないのだ。

 

 

 

 

 

 

「二学期からは暗殺に新しい要素を加えようと思う。それは火薬だ」

 

 

E組校舎では、体育が行われていた。訓練は始まっておらず、火薬という新しい武器を取り入れようとしていた。

 

 

「その破壊力は理想的ではあるが、それと同時に危険性も潜む。寺坂くんたちみたいな使用は絶対に危険だ」

 

 

一部の生徒の表情が固まる。殺せんせーが来たばかりの頃に、寺坂が渚にさせた作戦だ。オモチャの手榴弾に火薬と対先生弾を入れて自爆させた暗殺だ。それによって殺せんせーの怒りを買うハメになったのだが。

 

 

「というわけで、俺の監督のもとで1人の生徒に火薬の使い方を学んでもらう。さぁ、誰か覚えてくれるものはいるか?」

 

 

生徒の顔は、結構微妙なものだ。国家資格レベルの勉強をしようとする生徒はなかなかいないだろう。

 

 

「勉強には必要のない知識ですが…まぁこれも何かの形で役に立つでしょう」

 

 

そんななか、1人の生徒が立ち上がった。その生徒は烏間が持っていた火薬に関する書類を手にする。

 

 

「出来るか?竹林くん」

 

「ええ、二期OPの替え歌にしてやりますよ」

 

 




今回はオリジナル要素が強かったかもしれないです。この話はそれこそ学真くんにとっては大事だと思ったので絡ませました。

さて、次回はスイーツ暗殺の時間です。
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