サイタマは重い足取りで洞窟に帰ってきた。
収穫が無かったためだ。途中で大きな蜘蛛に襲われ一撃で倒したが、蜘蛛を食べるゲテモノ趣味はないため本日の食料探しは空振りに終わった。
まだ保存食はあったがいつまでも有るわけではない。
サイタマは今後の食料事情に頭を悩ましながら帰宅に着いていた。
そして洞窟に入り保存食を食べて就寝に着いた。
謎の気配がしてサイタマは目が覚めた。そこには件の魔獣が目の前にいた。その体は大きく全体を見ることは叶わなかった。
灰金色の瞳がサイタマの瞳をじっと見ていた。
かなりの威圧感が有るはずだがサイタマはなかなかいい体毛だなと考えていた。
そして魔獣はフンと鼻息を鳴らしサイタマの側を通った。
洞窟はそんなに広くはないため、サイタマに魔獣の体が押し付けられた。
なんともいい毛並みであり、サイタマはその感触を楽しんだ。
そして気がつけば洞窟内が広がっているのに気がついた。
これは魔法の力なのかとサイタマは感じた。
サイタマは魔法が使えないため、少し羨ましそうに魔獣を見た。
そして奇妙な同棲生活が始まった。
この洞窟には二つの部屋がある。
一つはサイタマが岩を破壊し掘り進めたものでトイレや風呂があった。
魔法は使えないが、キャンプでやるように木と木を摩擦させ火を起こした。洞窟外で岩を焼き熱々の岩を風呂に入れることにより、暖かい風呂に入れることに成功していた。
そしてもう一つは件の魔獣が作った穴である。
時々なにかを搬入しているがサイタマはあまり気にしなかった。
―みっ、みーみぃーっ
聞きなれない鳴き声にサイタマは声のする方を向いた。
サイタマの真反対に巨体で優雅に寝そべっているのはあの魔獣であったが、その顔の前で尻尾にじゃれついて鳴く子猫がいた。
尻尾がやはり異様に長いことからこの魔獣の子どもであろうことはすぐにでもわかった。
子連れの猛獣に近づくのが自殺行為であるというのはおそらく常識であろう。
サイタマはそんなことは知らないが親と子の遊びを邪魔する気は無かった。
なかなか面白いものを見れた。サイタマはそんなことを考えながら眠りにつく。
シュルシュルとふわふわした何かが巻きついた。
「おっ」とサイタマは声をあげた。
そのふわふわした何かはサイタマの戸惑いなど無視してひょいと持ち上げ、ふかふかに埋められた。
どうやら、魔獣の仕業のようだ。
もしかしたらマルカジリかっとサイタマは首だけ動かして魔獣を見ると、暗闇に双眸が一瞬だけ光ったようにも見えたが、すぐにそれもみえなくなった。
尻尾はサイタマの四肢に巻きついたままだったが、それでいて窮屈なわけでもない。
そのせいだろうか、誘われるような眠気に抗いもせず、目を瞑った。
サイタマは久しぶりに柔らかく温かな寝床で眠りについた。
―みーみーみーみーっ
―みーみーみーみーっ
しつこいくらいの鳴き声で最強は目を覚ます。
いつのまにか地べたに横になって眠っていたサイタマの顔に仔魔獣が顔をこすりつけてきた。
サイタマが目を覚ましたことに気付いた子猫はなんとも頼りない足つきで部屋を出ようと歩き出した。
魔獣のお腹で寝ていたはずがと首を傾げるサイタマに仔魔獣が振り返り怒ったように「みーみー」と鳴いた。
一緒に来いということか。
親魔獣がいないがの気になるが、サイタマは立ち上がると仔魔獣の腹に手を添えてひょいと抱き上げ、洞窟の外に向かう。
通路の中ほどから外の様子はすぐにわかった。
親魔獣が洞窟を背にして座っていた。
暁の朝靄の中で、尻尾が大きくたゆたう。
濃い朝靄に大きな雪豹は消え入りそうであった。
それがサイタマには老いた背中に見えた。
親魔獣はこちらに顔を向けた。
それは仔魔獣に向けた優しい顔であった。
そして親魔獣はグオンと声をあげ、滑走していった。
その姿はまさに死地へ向かう老兵のように。