洞窟の出口には親魔獣が作ったであろう土壁が出来ていた。
まるでこの洞窟を隠すように。
俺の強さを知っていれば要らないだろそんなことをサイタマは考えていた。
「ミーッ」
ひときは強く鳴いた仔魔獣が腕から抜け出して土壁の上に座った。
「グォオンッッ」
鼓膜を通り抜けて心臓まで圧迫するような咆哮。
そして千年樹のような太さの火柱が立ち上った。
まさに開戦の狼煙が上がった。
サイタマは火柱をつくりだした相手を見た。
そこには扇状に12人の人間がいた。様々の武器を持ち、親魔獣を見上げていた。
親魔獣と人間の戦いはサイタマにこの世界が前の世界とは違うことを感じさせた。
親魔獣は体に雪を纏わせ雪豹ように早く、鋭い爪にて攻撃する。
対して人間達は盾を構え、火の魔法を使い親魔獣を仕留めようとする。だが親魔獣は魔法を雪を纏った尻尾で吹き飛ばし、術者に襲いかかった。鋭い爪の攻撃に盾ごと吹き飛ばされた術者は尻餅をついた。
それを見逃す親魔獣ではない、もう片方の爪が術者を襲う。
「イルニークよ、足らんぞつ」
獰猛な笑みを浮かべた大男が親魔獣の横腹を片手鎚で殴り付けた。纏った雪を砕いたその攻撃は衰えることなく親魔獣を襲った。
サイタマはどうやら親魔獣の分が悪いと思い、加勢に入ろうと土壁を登ろうとした。
「グォオオオオオンッッ」
親魔獣は最大級の咆哮をあげ、サイタマを睨んだ。戦いの邪魔をするなと言いたいのだろう。鈍感なサイタマもなんとなく言いたいことが分かり、その戦いを見続けた。いや見届けた。
戦いはすぐに終わった。強大な雷が親魔獣を襲い、親魔獣は最後の咆哮をあげ崩れ落ちた。
ギリギリの攻防であり、運が良かったと片手鎚を持った男は思った。こちらは四人やられ自分以外疲労困憊で立つのもやっとの状態であった。だが負けんがなと大男はニヤリと笑った。
そして親魔獣は人間達により運ばれて行った。
山間に短い咆哮響いた。
仔魔獣はこちらを見つめる親魔獣が倒れ伏した後も、その身体が氷に覆われどこかに投げ飛ばされた後も、決して目を離さなかった。余計な鳴き声一つせずに短い耳をピンと立てていた。
一体何を見つめているのか。
現場に飛び込もうともせず、ただただ親の姿を見つめ続けた。
仔魔獣がコテン、と後ろに倒れる。
サイタマは反射的に手を差し出すと、ふにゃりとした重さが手にすっぽりと収まった。
仔魔獣は疲れて眠っているようで、胸が小さく膨らんではしぼんだ。
どうやらこの仔魔獣の面倒は俺が見ることになりそうだなとサイタマは思いながら洞窟の奥に入る。
サイタマは親魔獣が望んだとはいえ助けるべきだったかと考えていた。ヒーローとして、手助けすればあの親魔獣を死なせることは無かった。仔魔獣も親を失う事もなかった。
だがサイタマは動かなかった。親魔獣の意思を尊重した。
その結果、仔魔獣は一匹になってしまった。
サイタマはどうやら親魔獣から仔魔獣を託されたのだろうと思い至った。その為のあの咆哮、その為のあの土壁。
小さくとも確かに感じる命を感じながら。