「わー」「キャー」
すれ違う通行人が悲鳴をあげながら逃げていく。
そんな中、逃げる訳でもなく死んだ目をした男がいた。
そんな男の前に悲鳴の現況のカニのような上半身をしたもっこりブリーフの変質者が居た。
「あれれれ~?キミは逃げなくてもいいのかな~。プクプクプク。(笑)」
死んだ目をした男は「はぁ‥‥」とため息をついた。
そんな男の態度を見たカニランテは
「プクプク。会社疲れの新人サラリーマンってところか。カニを食いすぎて突然変態を起こしたこの俺カニランテ様を前にして逃げないとは・・・・プクプク。」
「死にたいんだね。そうだろう。」
と声をかけた。
目が死んだ男はこう答えた。
「一つ・・・・・・違うな。」
「俺はサラリーマンじゃなく無職。そして今 就職活動中だ。今日も面接だったが見事におとされたよ。」
「なんか全部どーでもよくなってカニランテ様が出現したところで逃げる気分じゃねーや。」
「で、逃げなきゃどうなんだ?」
カニランテはそんな男に何か自分と同じものを感じた。
「プクプクプク。(笑)キミは俺様と同じく目が死んでいる。死んだ目のよしみだ特別に見逃してあげましょう。」
カニランテは死んだ目をした男を通り過ぎた。
「それに今は別の獲物を探してていてね。アゴの割れたガキを探しているのだよ。見つけたら八つ裂きの刑だ。プーックックック。(笑)」
カニランテはそんなことを最後に言い残し歩いていった。
死んだ目をした男はその言葉が気になりながらその場を後にした。
死んだ目をした男は帰宅途中に公園で遊んでいる子供を見た。
アゴの割れたガキだった。
死んだ目をした男はそのガキに問いかけた。
「お前、カニの怪人に何かしなかったか?」
アゴの割れたガキは
「えっ?公園で寝てたからマジックで落書きしたよ。」
コイツだ。カニランテが探しているガキは。
死んだ目をした男は迷った。
コイツをそのままにすればカニランテに八つ裂きにされる今なら逃がすか隠せば・・・だが俺には関係ない事だ。
このまま放置すればいい。
そう死んだ目をした男は考えている中、アゴの割れたガキの後ろに影が・・・
ドゴッ
地面がひび割れる音が発生した。
その音の元凶であるカニランテが空を切ったアゴの割れたガキがいた場所を見つめていた。
「きみ~何のつもり~その子供を庇うつもり?」
そうアゴの割れたガキに降り下ろされた腕が当たる前に、死んだ目をした男がガキを助けたのだった。
「カニランテ様よーたかが子供のイタズラで子供を殺すことは無いんじゃないか?」
死んだ目をした男はカニランテに言った。
「プク。(笑)もう何人も殺してきたよ。この姿を笑った奴を。それにそのガキは許さん。この俺様のボディにマジックで乳首を書きやがった。しかも油性だ。こんな手じゃタオルで強く擦ることもできん。」
カニランテはその激怒を表すように怒鳴り声をあげた。
「許すまじ。じゃまをするならきみも一生、就職活動ができない体にしてやる。」
死んだ目をした男は絶望な状況だった。だか何故か悲壮的な事は頭に浮かばなかった。
それどころか
「あーはっはっはっはっ。なんか思い出した。お前 昔見ていたアニメの悪役にそっくりだ。」
そんなことをのたまった。
パキッ
カニランテの返答は容赦ない一撃だった。邪魔者は先程の攻撃で吹き飛ばした。さあアゴの割れたガキを八つ裂きにするか。
カニランテはアゴの割れたガキの方へ体の向きを変えた。
次は自分の番と気づいたのか。アゴの割れたガキは悲鳴をあげた。
そんなガキにカニランテは無慈悲に
「死ね。」
ゴッ
カニランテの顔に石がぶつかった。
「待てコラ。こんな少子化のご時世にガキを殺すなんて見逃せない。」
死んだ目をした男がボロボロであったが立ち上がった。
「また思い出した。俺 小さい頃にヒーローになりたかったんだよ。」
「サラリーマンじゃなくて、お前みたいなあからさまな悪役を一撃でぶっ飛ばすヒーローに。」
もうその男の目は死んでいない。それどころか燃えていた。まるで目に火を灯した様に
「就職活動は辞めだ。かかってこい。コラ。」
バキッ ドゴッ ガスッ
だが怪人との力の差は歴然だった。男は何度もカニランテに吹き飛ばされた。
「プククク。(笑)なぁにがヒーローだ。きみに勝機はないね。」
カニランテはいたぶるように男を吹き飛ばし、笑った。
もう立てまい、今度こそとカニランテはガキの方を向いた。
シュル
そんな音と共にカニランテの目にネクタイが巻き付けられた。
ドシュウウウウッ
男がカニランテの目を引き抜いた。目、処か体の内蔵まで飛び出しカニランテは絶命した。
洞窟内にてサイタマは目を覚ました。
「なんか、懐かしい夢を見たな。」
その独り言で仔魔獣は起きたのか、不機嫌そうな目をこちらに向けた。そんな仔魔獣の機嫌を取るようにサイタマは仔魔獣の頭を撫でた。
あの頃から考えるととんでもない状況に居るな。そうサイタマは感じた。あの時の出来事からヒーローになるため、ハードなトレーニングを続けてきたが、全然ヒーローらしい事をしていないような。
結局、就職活動は辞めだ。とカッコつけたが金がなく家を追い出されそうになり、結果として契約の用務員の仕事にありつけた。なんともヒーローらしくない。
この仔魔獣の親も助けられなかった。
だがそんなものだとも感じた。
結果、だだ自己満足なのだと。ヒーローの夢は生きる気力の無かった俺に興奮と快感を与えてくれた。
今は親魔獣に託されたこの仔魔獣を助けてやろう。
サイタマの隣で寝る仔魔獣を見ながらサイタマは、再び眠りについた。