第五話「恋が多いのってどうなの?えっ?好きな人がコロコロ変わる人はモテない?えぇーん!そんなこと言わないでよぉう!!」
ここは、街中にあるちょっと小さめの本屋。僕は今、毎週日曜日午前九時半頃に、ここによく来る女の子に惚れている。
自分でも思うけど、僕って結構惚れやすいみたいなんだ。失恋してもまたすぐ好きな子ができるっていうね…、トホホ…。
泣き虫で弱虫で惚れやすくて、小学校の時まで泣き虫雅夫とか、泣き虫オニギリとか、よく言われてたなぁ。
中学校では呼ばれないことを祈る…。
それはそうと、ボーちゃんどこ行ったんだろう…。店の前までは一緒だったのに…。
そーえばさっき、しんちゃんによく似た人に呼び止められたけど、まさかね……。
僕はあの子を探した。でも、時間は過ぎてるのに、一向に見当たらない。
どうしたんだろう…、風邪でも引いたのかな。
四、五分待ってはみたが、あの子は現れない。諦めて帰ろう、そう考えたその時、
「よっす」
聞き覚えのある声に呼び止められた。焦って後ろを振り向くと、
「雅夫くん、見つかった?」
「ほぅほぅ、どれが雅夫君の七人目の恋人ですかな?」
そこにはさっきまでいなかったボーちゃんと、ニヤニヤしているしんちゃんがいた。
しんちゃんの隣にはとても可愛い女の子が、…、えっ?女の子?この女の子、どこかで……。
僕の考えてることが顔に出たのか、はたまたこの女の子が僕の考えを読心でもしたのか。
「久しぶりですわね雅夫。ごきげんよう」
「もしかして…やっぱし…」
目の前に立つ、気品が漂うその女の子は、幼いころ、正確には幼稚園の頃に自分の心をハートの矢で射ぬいた女の子。
「なに?その情けない顔は。相変わらずですわね」
「は、ハハハ……あいちゃんもね…」
そう、酢乙女あい。ちゃん。だった…。
「へ~、そーゆうことだったんだぁ。何か、偶然だね!」
そう言って、彼は苦笑の混じった明るい顔をした。
「なーにが、偶然だね!だぞ。あいちゃん見て引きつった顔したと思ったら、顔を赤くしちゃってさ」
「だって僕、今でもあいちゃんのこと「あいちゃんのことがなんだってぇ~?誰だったけなーまぁた新しい恋をしてこの本屋さんまで来てるのは」
雅夫の話を無理やり遮って、しん様は彼のお腹をつんつんしながらSっ気たっぷりに質問をした。
「え、なんでそれを知ってるの!?それは僕とボーちゃんしか…ってボーちゃん!!」
「え、なに」
「え、なに、ってぇ!教えたでしょ!僕たちだけの秘密!」
「店内ではお静かに…。てか、そんなこと聞いてないし」
「ひどいよボーちゃーん…」
「おいおいこっちの質問の答えはどうした~?」
「あぁ~だからぁ~……」
今にも泣き出しそうな顔をしていた彼は、やがて頭を抱えて呻きだした。
こうなるとさすがに可哀そうだと思ってしまった。(笑)
ひとまず本屋を出た私たち。
「そんで?さっきの話の続きだけんども?」
「えぇー、まだ続くのぉ~…」
「まだもなにも、まだなーんにも話して無いでしょう油」
「雅夫くん、観念した方が、いい」
「ボーちゃんが教えたからこんなことになったんでしょ!」
「それで?雅夫はわたくしのこと、どんなふうに思ってたのかしら?」
私は敢えて自分から聞いてみた。案の定彼は顔を赤らめ俯いた。
「えっだから…それは…」
「あーここは告白するとこじゃないぞーマーサオくん」
「ところで雅夫くん。あの子探さなくていいの?」
ボーちゃんの問いに雅夫はハッとして口をあんぐり開けたまま、しん様の肩をつかんで揺さぶり始めた。
「どうしてくれるのさ!見つけられたかもしれないのに!」
「いやまぁ落ち着いて落ち着いて~。ほら深呼吸深呼吸」
「なんだよもー…」
「そんなムツけるなって~。大体、見たところでどうすんの?友達になろうって言うの?それとも告白するの?しないでしょどーせ」
「いやしないけどさぁ~…」
それを聞いてしん様はニカッとはにかむ。
「でしょー?てことはつまり、そんな恋したって無駄なわけですよぉ。だーいたい、今まで知らない女の子に一目惚れしてさ、ろくな恋に終わらなかったでしょうがー」
「そうだけどさぁ~…」
しん様が喋るにつれて雅夫の顔から明るさが消えていくのが分かった。
「だったらさー、中学校に入って中学校で恋しようよ!ね?」
「う…うん…!」
「そかそか!わかってくれたか!いやー君ならわかると思っていたよハッハッハ」
しん様は雅夫の肩をポンポンと軽く叩いた。
雅夫が笑顔になる。しん様もボーちゃんも。そして、私も。
やっぱし、相変わらず貴方はみんなの太陽みたいな方なのですね。
みんなを笑顔にし、みんなを楽しませ、幸せにする。
幼稚園の頃からそうでしたもの。
「ところで雅夫くん。その子ってどんな子?」
「えぇとねー、あ、あったあった。こんな子!」
「写真持ってんの……。もうそれストーカーじゃん…」
「僕も、初めて知った……」
「えへへへ。可愛いでしょ」
「んー、まぁ」
「まぁ、可愛いと思う」
「二人とも何さ!まぁって!」
「いやーだってねぇ…?ボーちゃん?」
「うんうんしんちゃん」
ちらっ
え、なんでお二人とも、こっちを見てるのかしら?
「あいちゃんを目の前にしたらどんな女の子もまぁまぁとしか……ねぇ?」
「ぼー。その通り」
「なっ!?しん様っ!?それにボーちゃんも…」
今の私は絶対に顔が赤いですわね。あー暑い暑い。春だというのに。
「あ、そーいえば」
「どうしたの?しんちゃん」
「いやさあ、その写真の女の子、オラんちの近くに住んでる子だったんだけどさぁ。思えばその子、どこだか遠くに引っ越したんじゃなかったっけなあ、三日目」
「えっ!?そうなんだ!だから今日はいなかったんだね!なるほど!」
「では、雅夫はその子を諦めて良かったってことですわね」
「そーゆうことになるね」
「もう遠くにいるなら、毎週本屋で探してても意味ないもんね!」
「それでさぁ、なんか引っ越し祝い的な?まぁちょっとしたプチパーティしてさ。ちょっとその子と話したんだけどね?」
しん様はちょっと言い難そうな顔しながらも、続けて話した。
「その子が言ってたんだよ。毎週日曜日九時半ごろにピエロが本屋にいるからそれ目的で行くと、自分と同じぐらいの子どもにずっと見られてるって。ちょっと前にはカメラで写真を撮られた気がしたって。めっちゃキモがってたぞ。それに、めっちゃ怒ってた」
「「「………」」」
話し終わったしん様はアハハと苦笑を浮かべて自分の頬を人差し指で掻いた。
「それ…ホント……?」
当の本人は顎をがくがくさせて、嘘だ嘘だと呟いている…。
「どんまい、雅夫くん」
ボーちゃんが慰めるように肩を抱いて言った。
「さ、さすがキモおにぎり…。相変わらずキモがられてるのね、女の子から。しかも、知らない女の子からだなんて…。ここまでくると、ホントみじめで可哀そうですわね…」
言い終わり、言ってはいけない事を言ってしまったことにハッと気が付く私。
「あ、あいちゃん…、それを言っちゃあいけなかったんじゃぁ……」
午前十時十五分、一人の泣き虫が大声で泣き喚いた。
そして私たち三人は、一緒にいることが恥ずかしいがために、スタコラとその場から離れた。
もちろん、彼はそんなことも知らずに、その場に立ちつくし泣き喚いていたのであった。
「シクシク…グズッ…、みんなどこ行ったんだよぉ~!!」
今回はあいちゃん視点での雅夫くんギャグ話にしました。
でも、やっぱしなんか濃くないんだよなぁ……。
次回は今日の帰り道でのあいちゃんとしんちゃんとのお話です。(たぶん)