もしも、コサック博士がフォルテを脱走させることに成功していたら? そんなIFストーリー

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執筆のリハビリがてら、マンガを読んで思い付いた小ネタを一つ。


第0話 完全自律型ナビ脱走事件

事件ファイル No.XXX 完全自律型ナビ脱走事件

 

 このファイルは、完全自律型ナビ『フォルテ』の度重なる暴走行為及び暴力行為の処分として、新たに開発した腕輪型リミッターを装着させ、バリア内に幽閉していたところを、何者かの手により(・・・・・・・・)拘束を解除され、フォルテが脱走した事件について簡潔にまとめたものである。

 後に、科学省の職員たちの証言により、フォルテの開発者であり、フォルテ自身に装着されていたリミッターの製作者でもある『コサック博士』の姿を確認できなかったことが判明しており、脱走の手引きをした可能性が非常に高い。

 また、フォルテが消えた直後に『プロトの反乱』事件が発生したため、この事件との関連性が疑われ、逃走のために攪乱をしたと推測する科学者もいたが、後にオフィシャルのメンバーによって行われた捜査の結果、無関係である事が判明した。

 コサック博士の罪状については、フォルテはコサック博士自身が所有するナビとして科学省に登録されていたため、窃盗罪に当たることは無いと考察されているが、公務執行妨害であると主張する科学者たちもいるなど、前例がない事件のため、実際に裁判が行われるまで有罪か無罪であるか判断することが難しい状況にある。

 この科学者とナビをオフィシャル・ネットバトラーは事件発生後から十数年に渡って捜索し続けているが、いまだに発見の報告は挙がっていない――

 

 

 

――2XXX年、現代よりも遥かにコンピューターネットワークが発達し、あらゆる電子機器にネットワークが利用される社会。

 人々は携帯端末『PErsonal Terminal』……通称『PET』を持ち、PET内にインストールされた疑似人格プログラム『ネットナビ』のおかげで、専門的な知識を持たない人にも、発達したネットワークの恩恵が受けられるようになっていた。

 

 ここはデンサンシティに属するのどかな住宅街、秋原町の外れ。そこには常に閑古鳥が鳴く『PET・プログラムショップ』とシンプルに書かれた他には特に装飾も無い看板を掲げた二階建ての店がある。外装も大変殺風景で、まるでコンクリートを剥きだしにしたかのような灰色一色に染まっていた。

 左側のショーウィンドーに飾られているのは多種多様のウィルス・バスティング用のチップ。そして右側には最新型から廉価版まで揃えられたPET本体に、有用なPET用周辺機器まで揃えられており、まさに痒い所に手が届くような品揃えだと文句なしにいえるだろう。

 しかし、その建物の見た目から地元の人たちには完全に事業者向けの店舗だと勘違いされており、別の店舗に客が流れてしまっているのが現状だった。

 

「……いい加減に起きて下さいっ! コサック博士!」

「……ハッ!?」

 

 細々とした機械のパーツが置かれた作業台兼用のカウンターで、一人の男が目を覚ました。彼のくすんだ色の金髪は乱雑に切り揃えられ、髪と同色の豊かに蓄えられた髭も伸びるままに任せてしまっているように見える。ただ、鼻に掛けられた眼鏡の奥には知的な輝きを放つ青い瞳が隠れていた。

 

「いつも言っているでしょう! ベッドで寝ないとカゼをひくって!」

「ハハハ……スマンな。昨夜は作業に没頭してしまって……」

「言い訳は、必要ありません!」

 

 コサックと呼ばれた男をたしなめたナビは黒を基調としていて、流線型の羽根のような形状をしたヘッドバイザー、そしてその胸には『f』を斜めに傾けたような傷のない(・・・・)、綺麗なままのナビマークが付けられている。

 

「……だが、その甲斐もあって前々から開発していた『オーラシステム』が完成したぞ!」

 

 非常に苦しい話題転換である。しかし、何時もの事であるかのように、そのナビは「しょうがないなあ」という風に微笑むと

 

「ほら、シャワーでも浴びて来てください。オーラシステムは自分で組み込んでおきますから」

 

 そう促し、ナビは彼のカラーリングを基にしてデザインされたPETから姿を消した。そして、PETと接続されたコサック愛用のPCに移動したのだろう。その姿をモニターに映し、コサック博士が徹夜で作成したオーラシステム……水色に光る球状の物体に触れる。瞬間、ナビの手のひらに球が吸い込まれるようにして消えてしまった。

 

『ゲット・アビリティ・プログラム』

 

 このナビのみが所有するこの特殊プログラムは、プログラムの内に秘められた能力、そしてその手で倒したナビが有する能力でさえ奪い取り、己の力としてしまうことが出来る。『より強くなるように』との願いを込めて、博士がナビに名付けた名前に相応しいプログラムだといえるだろう。

 

 コサック博士はナビがプログラムを取り込んだ様子を確認した後、すぐには異常が出なかったことに安堵した。

 

「……オーラシステムに問題は無さそうだな」

「システムの検証はやっておきますから、博士は早くシャワーを浴びてきてください!」

 

 痺れを切らしたナビに遂には叱られてしまい、コサックはすごすごと階段を上り居住スペースである二階へと向かう。親愛なる息子のような存在であるパートナーに叱責されたというのに、その足取りはどこか軽いように見えた。

 

 階段を上りきり、 ほとんど使っていないためまるで新築のように綺麗なキッチンと寝る時にしか使っていない部屋を横目に、浴室への扉を開ける。一日中着ていたからか埃っぽくなってしまった濃緑色のスーツと下着を脱ぎ捨て、全自動洗濯機に放り込んだ。昔はシャワーからお湯を出そうとしても暫く水を垂れ流しにしなければいけなかったそうだが、今では温度を設定し、ボタンを押すだけで適温のお湯が出てきてしまう。コサックは便利になった世の中に心の中で感謝しながら、彼のナビがいない場所でしか話すことのできない独り言を、思わず呟いてしまった。

 

「……本当に、科学省を出て良かったのだろうか……?」

 

 科学省とは、国中から優秀な科学者が集い、世界最先端の研究を行える場所だ。現在の形式のネットワークも、人々の生活に必要不可欠の物となったPETも、ネットナビも全ては科学省から生まれたのである。

 

 科学省で開発されはしたが、まだまだ未成熟でエラー、そして不備の多かったネットワークシステムのミスを若干(・・)手荒な方法ではあるが、積極的に発見してくれていた。こんな場末のプログラム屋の雑用など、ナビの高すぎる性能に見合う仕事だとはとても言えない。科学の進歩をシャワーという身近にある存在で思わず実感してしまったからか、例え博士は科学省に二度と戻れなくても、博士が連れ出したナビならばうまく弁明すれば科学省に戻れるかもしれない。そんな考えが、熱すぎるシャワーを浴びるコサックの胸中をよぎった。

 

「……熱っ!?」

 

……はて、彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 かの高名な企業経営者は常に同じ服装で行動していたと言われている。その理由とは、服装という重要視していない項目を自動化し、『選択』という労力を払わないためだ。恐らく、それと同様の理由なのだろう。浴室から出たコサック博士が着用したものは、洗濯機に入れた服と寸分違わず同じものだった。

 店舗用のスペースである一階に下りたコサック博士を出迎えたのはモニターに映るナビの姿。何故か、コサックの事をジトッと睨むような表情ではあったが。

 

「どうした、フォルテ(・・・・)。……もしかして、何処か具合でも悪いのか? それはマズイっ! 急いで検査を――」

「――これは、独り言なのですが。」

 

 ここでオーラシステムの不具合を疑うのではなく、フォルテ自身の体調を過保護気味に心配していることから、コサック博士がフォルテに対して科学者としてではなく父親のような感情で接していることを窺い知ることが出来る。

 しかし、フォルテはそれを知ってか知らずかどこか棘のある声色で遮り、少し照れたような表情で再び口を開いた。

 

「あのまま閉じ込められていたら……オレは遅かれ早かれ処刑(デリート)されていたはずです。だから、博士が科学省から出してくれたことには、本当に感謝しています。」

 

――だから、博士が後悔することなんてない。

 

 そう言って、フォルテはコサック博士から顔を背けてしまった。まるで、照れた顔を隠すかのように。

 

「……聞いていたのか、フォルテ。」

 

 彼はPETから抜け出して風呂の電脳にまでこっそりついてきたのだろう。そして、独り言を聞いてしまった。つまり、急にシャワーの温度が熱くなったのは、フォルテなりの抗議だったのだ。

 フォルテは人間の社会については疎い。しかし、コサック博士が科学省での地位を捨ててまで助けてくれたことの意味は理解していた。バリアに囲まれ、科学省所属のナビ、科学者に嘲笑の視線を向けられる中、たった一人フォルテを慈しみ、境遇を悲しむ者がいたことを分かっていた。

 

 その優しかった人のために雑用といえど働くことが、役に立つことが嫌なわけがない。フォルテは振り返り、コサック博士と目を合わせた。そして、両者がどちらからともなく微笑み、二人の胸中に同じ願いを思い浮かべる。

 

――この平和な日常が長く続いてほしい、と。

 

 デジタルで表示されていたCLOSEDの文字がOPENへと変わる。

 

「さあ、エックス(・・・・)。開店の時間だ!」

「分かっていますよ、ブトー博士(・・・・・)。……最近は売り上げが落ちていますからね。貯蓄も減り続ける一方なんですから、もっと頑張ってください」

 

 いまだに慣れない偽名(・・)で呼び合いつつ、何時もの日常が始まる――はずであった。

 

『……次のニュースです。現在、秋原町で電子レンジ、オーブンレンジなどの調理用家電が突如発火する事件が多発しています。オフィシャルによると、ネット犯罪組織『WWW』との関連があると見て調査を続けているとのことです――』

 

 




 子供の頃読んでいた鷹岬版『ロックマンエグゼ」の単行本に収録されていたフォルテの過去話を読んで、思わず書いてしまいました。

 フォルテのイメージは孤高で、クールなネットナビという印象だったので、フォルテが「ごめんなさい」と言ったシーンに大変な衝撃を受け、気が付いたらこんな話を投稿していたのです。許してください。

 これとは別の作品の続きをそろそろ書かねばならぬと考えていますので、多分続かない。

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