7話突入。
ちょいと葉山の性格を、いじってみた。さて、これが吉と出るか凶と出るか・・。コワイデス。
それではご覧ください。
GWも過ぎて、じわりじわりと暑くなる今日このごろ。昼休みともなると生徒のざわめきも大きくなり、余計に熱く感じる。
元来、クールでハードボイルドな俺は暑さにめっぽう弱い。なので、少しでも涼しさを求めるため、立ち入り禁止の屋上へと足を運んだ。ドアには南京錠が施錠されていた跡がある。おそらく屋上で騒ぐために外したんだろう。
今日はここで飯を食っていた。普段のベストプレイスへ行こうとしたが、風音が珍しく一緒に食おうと誘ってくれたので、2人で屋上で弁当を食した。今日も絶品だったな・・。
八幡「なぁ、職場見学っていくとことか決まったのか?」
風音「う~ん、グループは決まったけど行先はまだかな~」
八幡「・・・そうか」
俺は風音に職場見学希望調査票と書かれた一枚のプリントを見せて気になってることを聞いた。総武高では2年生になると、職場見学という行事が行われる。
各人の希望を募りそれをもとに見学する職業を決定し、実際にその職場へ行く。社会に出るということを実感させるゆとり教育的なプログラムだ。
それにこの職場見学は3人1組で行うらしい。風音は友達いるから心配はいらないが、俺は孤高の狼であるが故交友関係を持たない。
おそらく、一人足りないグループという名のダイソンの掃除機で俺は吸い取られるだろう。それでいいのだ。あまり人に接触せずに何事も無く終わらせたい。そういう一心だ・・。
その時、突然風が吹いた。
その突風は俺達に直撃し、持っていたプリントを空へと攫っていった。
八幡「ッ!やべっ・・」ドロドロ
俺は4メートルぐらいの高さでジャンプしプリントを掴んだ。と同時に一人の女子と目が合った・・。
そいつは給水塔に寄りかかり、目を見開いて驚愕の表情をしていた。うん、そうだよね、大ジャンプしてる男子高校生が目に入ったら誰だって驚くよね。
一瞬俺の濁った瞳に映ったのは、長身に泣きぼくろくらいしか印象がなかった。白黒じゃ色もわからんし・・。
風音「ホッ・・危なかったね」
八幡「ああ、なくして平塚先生にお咎めをもらうのは勘弁だからな。・・そろそろ戻ろうぜ」
風音「そうだね♪」
≪部室≫
ガラララ
八幡「うーっす」
風音「こんにちは~」
雪乃「こんにちは・・・・あら?由比ヶ浜さんとは一緒ではないの?」
八幡「は?知らねぇけど」
風音「結衣ちゃん、まだ来てないの?」
雪乃「由比ヶ浜さんならあなた達を」
結衣「あーー!!やっと見つけたーー!」
大声をだして、こちらに走ってくるのは由比ヶ浜結衣だった。
八幡「どした?」
雪乃「あなた達がいつまでたっても来ないから探していたのよ」
風音「そうだったんだ。ごめんね結衣ちゃん、ちょっと寄り道してたの」
結衣「そっか、もう探すの大変だったんだからね!誰に聞いても『比企谷?誰?』って言われるし」
八幡「フッ・・まぁな」
俺のステルスは今日も平常運転だ。
雪乃「得意げに胸を張ることじゃないでしょう」
結衣「だから携帯教えて。いちいち探すのもめんどくさいし」
八幡「・・・わかった。ホラよ、お前が打ってくれ」ポイッ
結衣「うわっとと、よく人に自分の携帯渡せるね」
八幡「別にみられて困るようなものもないからな」
由比ヶ浜は、自分の携帯を取り出す。異様にキラキラとアクセサリーが施された携帯を。
八幡「うっわ・・。なにその携帯。お前カラスなの?気持ち悪」
俺の正直な感想に、由比ヶ浜は顔を赤くして怒った。
結衣「はぁ!キモイ言うなし!この可愛さがわからないとか目腐ってんじゃないの!?」
確かに俺にはその可愛さは一生わからない。わかりたくもないな。
八幡「最高の褒め言葉だな・・。目が腐ってない俺なんて俺じゃない」
結衣「はぁ・・ていうかヒッキーの電話帳、かざねんと小町?って人ぐらいじゃん。・・・ん?かざねんと同じ名字の人がいる」
八幡「おい、そこまで詮索すんなよ。小町は俺の妹で、それは風音の両親だ」
俺が携帯買った時、風音の両親に交換しようとお願いされたんだよな。まぁ俺も初めて親族以外との交換だったから嬉しかったんだけど。
結衣「へぇ・・・はい、打ち終わったよ」
携帯を返却されて電話帳を確認すると、☆★ゆい★☆と書かれていて、思わず顔を引きつらせた。スパムメールと疑われても文句言えないレベルだぞ。
雪乃「終わったかしら?それでは比企谷君、一昨日のテニスでの出来事、聞かせてもらえるかしら?」
八幡「ん?ああそっか。教えるのはいいが、あまり他人には話すなよ。いや、絶対にだ。」
俺がそう念を押すと2人は真剣な顔になって言った。
雪乃「わかったわ」
結衣「うん。わかった」
八幡「説明する前にまず俺の目を見てくれ」ドロドロ
【ロットアイ】を発動させた俺の目を見た2人は目を開いて驚愕していた。
八幡「どうだ?普段より濁ってるだろ?これが【ロットアイ】っていう俺の能力だ。色彩感覚を無くす代わりにパワーアップする、全てにおいてな。実際今俺の目に映ってるのは色のない、モノクロ世界だ」
雪乃「なるほど。それで急に人が変わったように強くなったのね」
結衣「ああ、それでさいちゃんの言ってたボールを見ないで打ち返すことができたんだね」
八幡「そういうことだ。あとは特に話すことはないし、この話はこれでおしまいだ」
ついでだから、【ロットアイ】について簡単に説明しよう。
――――――――――――――――――
走力・・・40ヤード走4秒の速さまで出せる。
ジャンプ力・・・7メートルの高さまで飛べる。
握力・・・金属バットを砕くことができる。
身体の頑丈さ・・・ナイフが1センチ刺さる程度。
腕力(パンチ等)・・・電柱を折ることができる。
蹴力・・・コ〇ン君のシューズの3倍の威力。
瞬発力・・・通常の3倍上がる。
思考力・・・通常の3倍上がる。
情報処理能力・・・通常の3倍上がる。
聴覚・・・半径80メートルの範囲まで聴こえる。
視覚・・・白黒だが半径90メートル先まで見える。
視野・・・草食動物並み。
動体視力・・・通常より3倍高くなる。
反射神経・・・通常の3倍上がる。
使用時間に制限はないが、ずっと使ってるとぶっ壊れるため、乱用は好まない。
使用時間が長ければ長いほど、疲労は激しくなる。
また、激しく動くと、短い時間で疲労が襲ってくる。
――――――――――――――――――
こんな感じだな。化け物かよ俺・・・。しかもどんな仕組みになってるのか俺もまだわかっちゃいない。
雪乃「そう、わかったわ」
結衣「うん、教えてくれてありがとう」
説明し終わった俺は、風音とともに勉強道具を取り出し、勉学に励む。なにしろ、もうすぐ中間テストだ。テストでも俺達は競い合っているが、毎回2人で教え合って勉強している。
その様子をみた由比ヶ浜は驚きの表情で俺らに問いてきた。
結衣「なんで二人とも勉強してるの?」
・・・・・・・・・はぁ!?あまりの変な発言に一瞬思考停止したわ!なんで勉強するの?って俺ら高校生、もうすぐテスト。
風音「なんでってもうすぐテストだよ。勉強始めてる人多いと思うけど・・」
結衣「勉強なんて意味なくない?社会に出たら使わないし」
うわ出たバカの常套句。雪ノ下も呆れたのか額に手を当て溜息をした。
雪乃「由比ヶ浜さん。あなた、勉強に意味がないって言ったけどそんなことはないわ。むしろ、自分で意味を見出すのが勉強というものよ。それこそ人それぞれ勉強する理由はは違うでしょうけれど、だからといってそれが勉強すべてを否定することにはならないわ」
正論である。大人の綺麗事といっていい。風音は感心したように『へぇ~』と言った。
結衣「でも、あたし馬鹿だし。3人は頭いいの?」
八幡「まぁな、俺は学年1位と2位しかとったことないくらいだ」
風音「うん、私と八くんでどっちが1位とれるか勝負してるからね。私も1位と2位しかとったことないよ」
由比ヶ浜にとっては衝撃の事実だったらしくオーバーリアクションをした。
結衣「うそ・・・。ていうか勝負内容がどっちが1位取れるかって・・・人間?」
風音「いくらなんでも失礼すぎるよ!」
雪乃「何故私がいつも3位なのかはっきりわかったわ」
雪ノ下は心底悔しそうな顔でこちらを見た。
雪乃「あなた、まさかテストでその【ロットアイ】とやらを使用してないでしょうね?」
八幡「【ロットアイ】は記憶力まで上げられない。思考力は上がるが、ちゃんと覚えてないと効果はないし。それに、テニスの試合後の疲れた姿を見たろ。乱用すると一気に疲労する。だから不可能だ」
俺が無実を証明すると俯いて、そう、とつぶやいた。お前負けず嫌いすぎるだろ。
結衣「というわけで、勉強会をしよう」
八幡「おい待て、なぜそうなる。なんにもつながりがないぞ」
この子いっつも突拍子もない発言するよね。もうちょっと後先考えなさいよ。
結衣「テスト一週間前は部活ないし、午後暇だよね。ああ、今週でも火曜日は市教研で部活内からそこがいいかも」
俺らを一切無視し、凄まじい速さで段取りを決めている。しかし、市教研という単語は久々に聞いたな、中学以来だ。
別に由比ヶ浜の意見を否定するわけではない。ここに学年1位2位3位を占領してる連中がいるんだから、俺らが教えれば成績も上がらなくはないだろう。
だが俺はその案を否定するつもりだ。何故なら・・・
以前、小町が俺と風音に教えてほしいと言って3人で勉強したことがある。最初は小町もやる気を出して取り組んでいたが、わずか1時間にして集中力は途切れ、おしゃべりが始まった。俺達が教えても『そんなことより』と言って俺と風音の学校生活について質問攻めしたんだ・・。それには俺と風音も珍しくうんざりした。お前そんなんでほんとに総武高受かんのか?お兄ちゃんとお義姉ちゃん、心配になってきたよ。
八幡「リア充の言う勉強会って、そういう体でお喋りしてるだけじゃねぇか。あんなのは勉強とは言わねぇよ。嫌々勉強してる人が集まったって続くわけがねぇ」
風音「確かにそうだね。それでシビレを切らした人が原因で雑談が始まっちゃうんだよ」
雪乃「へぇ、そういうものなのね。ならあまり大勢でやることは望ましくないわ」
俺らの否定と反論に由比ヶ浜は、うっと顔を歪めた。その顔と言い返せない感じは心当たりがあるんだろう・・。
結衣「だ、大丈夫だよ!ゆきのんがいるし・・とにかくサイゼに行くよ!?」
もうやけくそだった。仕方ない、俺も諦めて付き合いますか・・・。
≪サイゼリヤ≫
千葉の高校生ってみんなサイゼ好きだよね。千葉発祥のファミレスだからって贔屓しすぎじゃないの?
結衣「それじゃあ始めようか」
由比ヶ浜の合図で俺達の勉強会が始まった。雪ノ下はヘッドフォン、俺と風音はイヤホンを片方ずつ使って勉強を始めた。
結衣「え?ちょっと、なんで音楽聞くの!?」
八幡「は?勉強の時は音楽聞くだろ」
風音「周りとかの雑音を消すためにね」
雪乃「そうね、その音楽が聴こえなくなると集中しているいい証拠になってモチベーションが高まるし」
結衣「違うから!勉強会ってこういうのじゃないから!?」
由比ヶ浜は机をバンバン叩いて講義をした。他の人に迷惑だから、声を上げるな机をたたくな。
八幡「じゃあお前の言う勉強会とやらを教えてもらおうじゃねぇか」
俺がそう言うと俺を含めた3人は由比ヶ浜に視線を移す。
結衣「えっ?だ、だからわかんないところを教え合って・・・・・・ちょっと雑談?」
俺達は、無言で音楽再生機器に手をかけ、再び雑音のない世界に入り込む。
結衣「わかった!まじめにやるから、静かにするから!わかんないとこ教えてくれるだけでいいから!」
と雪ノ下に抱き着きながら懇願した。すっげぇゆるゆりしてる・・・。雪ノ下はうんざりした様子でヘッドフォンを外した。俺も溜息をつきながらイヤホンを外す。
―――――2時間後
気付けば夜は深まり、俺達奉仕部の勉強会は終わった。
由比ヶ浜がうるさかった。いや、静かにはやってたよ、ただう~とか、ハァとか、ん~って唸り続けるのはやめてほしかった。
風音「八くん、もう夜遅いし送ってってあげたら?」
八幡「それもそうだな。んじゃ行こうぜ」
結衣「え?いいよ。私バスだし」
雪乃「あら?別にいいのよ?」
八幡「いや、世の中物騒だからな。そのまま帰したらずっと気になっちまうだろうし。・・それとも俺じゃ不服か?」
雪乃「いいえ。逆に本気のあなたならシークレットサービスよりも頼もしいわ」
お、おおふ。すごい褒め方だな、動揺しちまったわ。まさか大統領のボディーガードと比べられるとは・・。
結衣「しーくれっとさーびす?」
どうやら理解していない人が一名・・・ほっとこう。
八幡「買いかぶりすぎだ。ほら、行こうぜ」
由比ヶ浜はバス停まで、雪ノ下は住んでるマンションまで送っていった。
俺達も自宅に向かう。
風音「雪乃ちゃんのマンション、大きかったね」
八幡「そうだな。しかも一人暮らしって知った時はビックリしたわ」
風音「あれぐらい大きな場所に住んでみたいね」
八幡「あんまり広すぎるのも問題だけど、確かに住んでみたいな」
風音「うん♪八くんと2人で暮らすなら広い方がいいかな」
八幡「ッ!・・そ、そうだな。2人で一緒にな・・」
風音「あはは、八くん照れてる♪」
八幡「う、うるせーな」
《翌日》
≪教室≫
授業の間の休み時間。辺りはやはりグループ分けの話で持ち切りだ。
彩加「比企谷君」
ぼーっと休み時間が終わるのを待っていた俺に話しかけてきた勇敢な戦士の正体は戸塚彩加だった。
八幡「ん?どうした?」
彩加「比企谷君はグループ決まったのかなって・・・」
八幡「いや、まだだ。ていうか俺からは誘うつもりないし、適当にどっかに吸い取られる予定だ」
彩加「あ、そうなんだ。だったら僕と一緒に行かない?」
八幡「・・・は?」
予想外の誘いに、若干上擦いた声を出してしまった。
八幡「俺なんかと一緒でいいのか?」
こんな濁った目のお兄さんと一緒に行ったっていいことないよ?逆にあることないこと言われて迷惑になっちゃうよ?
彩加「もう!『俺なんか』って言わないの!僕が比企谷君と行きたいんだよ。・・いい?」
やめろ!そんな潤んだ瞳で見ないでくれ。男子なのに罪悪感が半端ないんだよ!
最初は疑心暗鬼だったが、戸塚の顔を見て、純粋な気持ちで俺を誘ってくれているのだと判断した。
八幡「お、おう、いいぞ。誘ってくれてありがとな」
と、俺に手を差し伸べた戸塚に対し、誠心誠意感謝の言葉を言った。
ここで実験。ファーストネームで呼び合うことで人間関係は変化するか。
八幡「なぁ、彩加」
戸塚はポカーンとした顔でこっちを見た。口はポケッと開いている。・・・ああ、やっぱりいきなりは不快だったかな?人間関係変化したかも・・・悪い方向に。
彩加「・・嬉しい、な。初めて名前で呼んでくれたね」
戸塚はニッコリと微笑んだ。ええー、マジですか・・。嫌じゃないんだ・・。
それじゃあ、と戸塚が前置きをして、上目遣いで俺を見る。
彩加「僕も八幡って呼んでいい?」
八幡「え?お、おういいぞ、戸塚」
俺がそう返事をしたら、戸塚はプクッと頬を膨らませた。・・・どした?
彩加「八幡呼び方!彩加って言ってよ!」
八幡「あ、ああ。悪かったな。・・・彩加」
彩加「うん!それじゃあ職場体験よろしくね。八幡♪」
戸塚は笑顔で去っていった。正直助かったな、知り合いがいてくれれば多少は気が楽になる。
≪部室≫
今日も今日とて軽く勉強しながら部活に勤しむかと思っていたら、由比ヶ浜が何かを取り出した。
結衣「そういえば、かざねんとヒッキーって昔からいろいろなことで勝負してきたんでしょ?」
風音「うん、そうだよ」
結衣「ならコレやったことある?」
俺らに見せてきたのは折り紙だった。なんでそんなもん持ってんだ?
八幡「そういや、そんなもんやってなかったな・・・」
結衣「じゃあ、ここの4人で折り紙勝負しない?」
雪乃「え?私も?」
結衣「うん、なんかヒッキーたちの話聞いてたら勝負とかそういうのしてみたくなって・・・だから折り紙持ってきたの。さぁ勝負だよ!」
由比ヶ浜はそう言い放って俺達に折り紙を配った。
雪乃「そう、手加減はしないわよ?」
八幡「折り紙で勝負か?そういうのは思いつかなかったな」
風音「そうだね、年相応のゲームとかで今までやってきたからこういうのはいいかも」
結衣「よーし、それじゃあ始めっ!」
こうして俺達の折り紙勝負の火ぶたが切られた。
―――――15分後
結衣「みんなできた?それじゃあ私から。私のはこれだ!」
由比ヶ浜は掌に乗せて自分の作品をみんなに見せた。由比ヶ浜が折ったのは鶴だ、ちょっとヨレヨレになってるな。
雪乃「折り鶴、まぁ定番ではあるわね。私のはこれよ」
雪ノ下が折った作品は、猫だった。折り目もキッチリしていてきれいな仕上がりである。
八幡「へぇ、お前器用だな」
雪乃「そう?折り紙って折り目がしっかりしてないと崩れやすいから気を付けてるだけよ?」
本人らしい理由だな・・・。
風音「私のはこれだよ」
風音はクワガタを作ったらしい。・・いたなー、小学生の男子で作れる奴。2体作って合体させたり。
結衣「すごいねかざねん!クワガタって小学生のとき男子が作ってて憧れてたのを思い出したよ・・・」
風音「ありがとう、それじゃあ八くんのは?」
よし!俺の出番だな・・・みんな驚くぞ~、渾身の作品だからな。
八幡「・・・俺のは・・・これだ!」
雪乃&結衣&風音「「「・・・・・・・・・」」」
あれ?予想外の反応だな。もっと『おおー!』とか『すごい!』とかないの?みんな驚きというより絶句してるぞ。
八幡「ハァ・・ハァ・・どうだ?俺の渾身の・・・作品・・ハァ」
何故こんなに息を切らしているかというと、俺は【ロットアイ】を発動して、折り紙を折った。いま結構疲れてる、精神的に。
なにしろ俺が作ったのは『ドラゴン』だからな。名づけるなら、『天を舞う龍』だ、赤い折り紙で作ったから『赤〇帝』でもよかったんだけど・・。
結衣「ヒッキー、本気出しすぎ・・」
由比ヶ浜は若干どころじゃなくドン引きしている・・。
風音「すごいね八くん!折り紙でドラゴンなんて人類じゃ不可能だよ!」
風音・・・その言い分だと俺は人類から外されているんだが・・。無自覚って怖いなぁ。
雪乃「そこまでしてする勝負でもないでしょう?」
八幡「い、いいだろ?本気になるぐらい・・」
結衣「それじゃあ作ったやつ飾ろうか♪」
由比ヶ浜はそう言って机に折り鶴、折り猫、折りクワガタ、折りドラゴンを並ばせた。俺のドラゴンめちゃくちゃ目立つな・・・。
――――コンコン
折り紙作品を眺めていたら、ドアの叩かれた音がした。こんな時間に依頼か?もう夕方だぞ・・。
雪乃「どうぞ」
隼人「こんな時間にごめん。ちょっと失礼するよ」
入ってきたのは、あの外面イケメン王子の・・・誰だっけ?テニスの練習を邪魔してきた奴だったのは覚えているんだが・・・。
隼人「結衣も、新島さんもごめんな」
風音は軽く頷き、由比ヶ浜は返事をする。
結衣「ううん、まだ時間あるしいいよ」
隼人「ヒキタニ君も少しいいかな?」
申し訳なさげな笑顔で俺に聞いてきた。あとここにヒキタニ君はいない。読んでますよ?ヒキタニさん。
八幡「・・・別に」
俺は沢〇エリカを発動して素っ気なく答えた。これ便利だよね・・。
雪乃「それで、何の用かしら?葉山隼人君」
へぇ、こいつ葉山って言うんだ・・。何故か知らんがこいつとは今後も何か関わってくると思うから名前覚えておこう。
隼人「ああ、実は相談したいことがあって。・・これを見てくれないか?」
葉山は、俺達の前に携帯の画面を見せてきた。そこには
『戸部は稲毛のカラーギャングの仲間でゲーセンで西高狩りをしていた』
『大和は三股かけている最低のクズ野郎』
『大岡は練習試合で相手校のエースを潰すためにラフプレーをした』
と書かれたメールだ。なるほど、所謂チェーンメールというやつだな。
結衣「あー、それ、私のところにもきた」
八幡「それで、これがどうしたんだ?」
隼人「実はここに書かれている3人は俺の友達なんだ。こういうこと書かれるとなんか腹立つし。何とかできないかと思って・・・。でも犯人捜しをしたいわけじゃない、俺は穏便に解決したいと思っている」
雪乃「なるほど、つまり事態の収拾図ればいいのね」
隼人「ああ、そうだな」
雪乃「では犯人を捜すしかないわね」
隼人「・・・え?なんでそうなるの?」
前後を完全に無視された葉山が一瞬驚いた顔をしたが、次に瞬間には取り繕った微笑みで穏やかに雪ノ下の意図を問う。
すると、葉山とは対照的に、凍てついた表情の雪ノ下がゆっくりと、それはまるで言葉を選ぶかのように話し始めた。
雪乃「チェーンメール・・・。あれは人の尊厳を踏みにじる最低の行為よ。自分の名前も顔も出さず、ただ傷つけるためだけに誹謗中傷の限りを尽くす。悪意を拡散させるのが悪意とは限らないのがまた性質が悪いのよ。好奇心や時には善意で、悪意を周囲に拡大し続ける・・・。止めるならその大本を根絶やしにしないと効果がないわ。ソースは私」
風音「実体験なんだね・・・」
雪ノ下の意見は正しい。何事も元凶を潰さなきゃ、解決にはならないだろうし。これ以上被害が拡大しないためにも、犯人を捜すしかない。
八幡「葉山、お前は何故犯人を見逃すような甘ったるい事を言ってんだ?」
隼人「いや、甘ったるいって、俺はただ大事にしたくなくて」
八幡「だからそれが甘いと言ってるんだ、友達が悪く言われてるのに、何故犯人を庇うようなことを薦める?」
隼人「それは・・・・」
風音「八くん、言ってることは正しいと思うけど、責めるのはだめだよ。一応依頼主の意見でもあるんだから」
八幡「・・・わかった。んじゃ、犯人捜しと穏便に済ます方法、両方考えることでいいか?」
隼人「・・ああ、それでもかまわない」
葉山は諦め半分の苦々しい顔で了承した。
雪乃「それじゃあお互い別々で調査を進めていきましょう。・・まずは、メールはいつごろに送られたのかした?」
隼人「先週末からだよ。・・・なぁ、結衣」
葉山が答えると、由比ヶ浜も頷く。
雪乃「先週末から突然始まったわけね。先週末に、その3人が関係する出来事は何かあったの?」
隼人「いや、特になかったけど」
風音「雪乃ちゃん、先週末って確か職場見学のグループ分けをするって話があったよ」
風音がそう言うと、由比ヶ浜は、ハッと何か気付いたように口をはさんだ。
結衣「それだよ、きっとグループ分けのせいだ」
隼人「え?そんなことで?」
結衣「うん。こういうことあんま言いたくないけど、職場見学のグループって3人までじゃん。でも隼人君の男子グループって4人いるし、ハブられるのが怖くて、メール送ったんじゃないかと思って」
・・俺はこの時、少し感心をした。アホの由比ヶ浜がそこに辿りついたことに・・・。今まで空気読んできたこいつなら少し敏感に察知するのだろうか・・。
雪乃「成程、それでは容疑者はあの3人が最有力候補で決まりね」
雪ノ下が結論を出すと、葉山が声を荒げて異議を申し立てた。
隼人「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺はあいつらの中に犯人がいるなんて思いたくない。それに、3人それぞれ悪く言うメールなんだぜ?あいつらは違うんじゃないのか?」
八幡「はっ、馬鹿だなお前、どんだけおめでたい頭してんだよ。他人を過信しすぎだ気持ちわりぃ。そんなの自分が疑われないようにするためだろ?」
風音「八くんの言う通りだね。それに、その3人の誰かをハブらせるメリットなんてその3人にしかないよね?他の人がやったってメリットなんてないし」
俺と風音の反論に葉山は悔しそうに唇を噛んだ。こんなこと想像していなかったんだろう。自分のそばに憎悪があることを・・・。すごいな~、ここまで頭がcongratulationな奴俺は初めて見たよ。違う意味で興味がわいちゃうかも。
雪乃「それではまず、その3人の特徴を教えてくれないかしら?」
雪ノ下が情報の提示を求める。
すると葉山は意を決したように顔を上げた。その瞳には信念が宿っている。おそらくは友の疑いを晴らそうという崇高なる信念が。
隼人「戸部は、俺と同じサッカー部だ。金髪で見た目は悪そうに見えるけど、一番ノリのいいムードメーカーだな。文化祭とか体育祭とかでも積極的に働いてくれる、いい奴だよ」
雪乃「騒ぐだけしか能がないお調子者、ということね」
隼人「・・・・・・」
雪ノ下の一言に葉山は絶句していた。当然俺らもだ。俺でもそんな偏った捉え方しないぞ・・。
雪乃「・・どうしたの?続けて」
隼人「あ、ああ。大和はラグビー部。冷静で人の話をよく聞いてくれる。ゆったりしたマイペースさとその静かさが人を安心させるっていうのかな。寡黙で慎重な性格なんだ。いい奴だよ」
雪乃「反応が鈍いうえに優柔不断・・・と」
隼人「・・・・・・」
葉山はもう諦めたかのような顔で、ため息をつきながら続ける。
隼人「大岡は野球部だ。人懐っこくていつも誰かの見方をしてくれる気のいい性格だ。上下関係にも気を配って礼儀正しいし、いい奴だよ。」
雪乃「人の顔色窺う風見鶏、ね」
隼人「・・・・・・」
・・・雪ノ下さん、マジパネェッす。よく人をそこまで悪しざまに解釈できるな。見ろ葉山を、もう諦めたかのように曇り顔で沈黙してるぞ。実際俺らも終始ポカーンとしてたからな。
雪乃「どの人が犯人でもおかしくないわね」
八幡「むしろお前が一番犯人っぽいぞ」
雪乃「私がそんなことするわけないでしょう。私なら正面から叩き潰すわ」
風音「叩き潰すことには変わりないんだ・・アハハ・・」
結衣「ゆきのんに仲良くするって選択肢はないんだね・・」
2人とも呆れて、乾いた笑いをこぼす。
隼人「じゃあ悪いけどよろしく頼む。・・ところで一つ気になってたんだが・・」
葉山は机の上に飾られている俺の折ドラゴンを指さした。
隼人「これは誰が折ったんだい?」
え?何こいつ、興味あるの?折り紙に?
八幡「・・俺だけど」
隼人「君が?すごいな、折り紙で龍なんて初めて見たよ!」
葉山は興奮気味で折ドラゴンを手に取り、観察している。めっちゃ目輝かせてるし、笑顔だ。突然童心に帰ったのか・・・。
でもまぁ分からなくはないな。ドラゴンなんて憧れの象徴であり、男の一種のロマンだ。大人になってもそれは続くもんなんだよな。
八幡「そ、そうか。なんならそれやるぞ」
隼人「え?いいのかい?それじゃありがたくもらうよ」
すいません。こいつ誰ですか?さっきの薄っぺらい外面笑顔とは裏腹に子供のような笑顔をしているんですが・・。
隼人「じゃあチェーンメールの件。よろしく頼むな」
雪乃「え、ええ・・」
葉山は上機嫌で部室を出て行った。何だったんだ、今の変わりようは。さっきまでの甘ちゃんとは大違いだ。
結衣「い、意外な一面・・・」
雪乃「あんな彼、初めて見たわ・・・」
風音「突然別人みたいに変わったね・・」
俺もみんなも驚きを隠せていない。そりゃそうだ。カースト最上位のイケメンが折り紙で興奮していたのだから。しかも目を輝かせて。
八幡「なぁ、話を戻そうぜ。チェーンメールについてだが・・」
雪乃「ええ、そうね。目の前の光景が衝撃的だったから頭から離れていたわ」
風音「とりあえず、犯人を捜すのと穏便に事態を収拾させる方向に決まったよね」
雪乃「そうね。・・あの3人と同じクラスの由比ヶ浜さんと比企谷君に調査をしてもらいたいのだけれど。いいかしら?」
八幡「まぁ風音と雪ノ下は俺らとクラス離れてるしな。出来る限りのことはやる」
結衣「うん、任せて!」
風音「私たちもこっちで何か考えるから、八くんも頑張ってね!」
八幡「おう」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
気付いたら1万文字超えてました。
また次回。