いつの間にかめちゃ長くなりました。二つに分けても良かったなと思いますがもういいや
今回はスレインとアセイラムの話
「はむっ、んっ、もぐもぐ……ゴクッ」
アセイラムは持ってきた”食糧”を両手に持ち、いつものように、どこか少し哀しそうにほおばる。
あれから数日、どこか人気のないところで睡眠をとりつつ、20区から遠ざかるように逃亡をしていた。
このために用意したマスクをつけて、度々喰種に情報をもらった。
ここら辺はリーダー格が仕切っているのか、喰い場はどのあたりにあるか、人通りはどのくらいか、白鳩の連中はどのくらいいるか、どのくらいの頻度で来るか、など。
今いる場所はどういったところか、大体を把握しておかないと危険だ、とスレインは思ったからだ。
また、さりげなく”逃亡者2名”の捜索命令が来てないか、というのも気になっていた。むしろ、これが一番知りたい。
伝わっているならすぐさま離れなければいけないが、幸いそのようなのは来ていないらしい。
来ていたとしても、すぐには自分らがその”お尋ね者”だとはわかるはずはない。
スレインは頭全部を覆い隠すような、深緑色のマスクで、アセイラムは白を基調とした顔の表面を隠すマスクだ。それに、自身のアルドノア、”変身”と言っておこうか、でそもそも外見は違う。
普段の金色で、腰以上の長さのあるサラッとした髪とは全く違い、茶色でセミロング、カチューシャをつけている。
そんなこんなで、今現在は14区に来ていて、そこのとある廃墟ビルの一室にいる。窓ガラスは所々割れて無くなっている。ドアも無理矢理取ったかのように、無造作に落ちていた。
だが、人気はなく、ここなら安全と思い休んでいる。
「アセイラム姫……。やはり、まだ慣れません、か?」
スレインはアセイラムの顔を覗きつつ話しかける。
「……ええ。やはり、どうしようもないと思っても、無実の人間を一方的に殺したと思うと……」
アセイラムは以前からこうだった。彼女に、というかあの場所の食糧は主にクルーテオの手下が取ってくる。
勿論、人間だ。1人や、数人程度で夜道を歩いている時なんかは、彼らにとって絶好のチャンスだ。
だが、アセイラムは
”自分たちが生きるために、簡単にヒトの命を奪っていいものなのか”と。
だが、食べなければ自分がいつかは死ぬ。こんな矛盾には普通の喰種はブチ当たらないのだが。
今までずっと白鳩の攻撃で仲間を殺される場面を見たことがないので、人間に対する憎しみ、憎悪の感情が出てこないのだろう。
むしろ、日々自分の力の実験を強制的に続けてきているので、喰種に対する疑念が生まれてきている始末。
人間と話し合い、少しでも理解し合えれば……なんて叶うはずもないことを彼女は思う。
だが、スレインもわからなくもなかった。
彼も、人生の途中までは人間だったのだから。
「ねぇ、スレイン」
突然アセイラムがスレインに話しかける。
いつの間にか、アセイラムは食事を終えていた。
「どうされたんですか、アセイラム姫」
するとアセイラムは先ほどとは違い、にこやかになって、
「あの……お互いの呼び方、変えてみませんか?」
――――?
「……急にどうなされたんですか?」
「え、ほら、私たちは一応逃亡者です。なので、本名で呼び合うのは良くないかなぁと。偽名を使えばさらにバレる心配がなくなると思ったのですが」
「あぁ、なるほど!」
どういう意図なんだろうとスレインは少し驚いたが、名案だった。
「では、どうしますか?お互い相手の名前を考える、という感じでいきますか?」
「はい、そうしましょう!」
2人は早速考え始めた。
そうはいっても、だ。簡単にポンと出てくるはずもなく、2人ともいいのが思い浮かばないでいた。
偽名なのだから、凝る必要もない。呼びやすければいいのだ。そう思い、スレインは改めて考える。
――――アセイラムだから………。
「僕はできましたが、アセイラム姫はどうですか?」
「はい、私もできていますよ」
アセイラムも偽名作りを終えていた。
「じゃあ僕から。えー、”セラム”というのはどうでしょうか。アセイラム姫の名前から”セ”と”ラム”を取ってくっつけただけですが」
「セラム……。はい、とても良いです!気に入りました!」
アセイラムは笑顔で返す。喜んでもらえてスレインは少しホッとする。
次は私の番です、と言ってコホンと咳払いをする。
「私はですね、”アレン”というのが思いつきました。昔、スレインが読んでくれた物語に出てきた主人公の名前なんです。……覚えてますか?」
「……あぁ、はい。覚えていますよ」
いつだろうか。数ヶ月前か数年前か、定かではないがアセイラム姫がスレインの本棚から一冊の本を持ってきた。それを読んでくれとねだられたので、スレインは読み聞かせたのをうっすら思い出した。
なぜ自分と一緒に読もうとしたのか、そしてその物語の内容は何だったか、などは上手く思い出せなかった。
「たしか、今私たちのように誰かから逃げていたというような話だった気がします。1人の男の子と、1人の女の子」
「はは。まさに僕たちですね」
なるほど、それは逃亡劇だったのか。でもやはり全貌を思い出せない。なんだかあとちょっとで思い出せそうな、もどかしい感じ。
「でも、その題名は忘れてしまって。スレインは……思い出せませんよね」
「すいません、思い出せません」
アセイラムも思い出せないようだ。偽名とはいえ、一応そこは知りたかったがスレインは諦めた。
「あ、あとですね」
アセイラムが何か思い出したようで、再びこちらに顔を向ける。
「こういう風に敬語で話すのも止めませんか?2人揃ってこういうのだと、怪しまれる気がして」
「……!なっ、なるほど」
――――敬語をやめる………と、いうことは。……まさか!
「ええと……その、なんでしたっけ……あ!」
敬語を使わない。ならばそれは!と心の中であのワードが浮かび上がる。アセイラムもそれを思い出したようだ。
未だかつてそんな関係とならなかったこの2人!
ついに解禁する時が来たのだ!
そう、それはタメg……。
「ガマ口……でしたでしょうか。そんな感じで会話した方がいいかと思うのですが」
――――がまぐち?……財布?………ゲコ?
「が、がま口、ですか?」
「え?あ、れれ?違いましたっけ……。あ、そうです!蛇口!」
「じゃ、蛇口!?す、水道ですか?」
「ええぇ!?んーと、んーと……あ、入り口!」
「どこかに入るんですか!?」
「ふぇぇ……!~口、~口だった気がするのですか……。あ、山口!」
「他県ですか!?」
「じゃあ出口!」
「今度は出るんですか!?」
「樋口!」
「五千円札ですか!?」
「非常口!」
「いやもう狙ってませんか!?」
「悪口!」
「もうヤケになってしまってますよ!」
「関口!」
「いや誰ですか!」
「じゃあこういうのなんて言うのスレイン!」
「それはタメ口だよ……だ……だ、と思います」
段々とヒートアップしていたが、いつの間にかお互いタメ口が出ていた。
それに気づき、スレインは顔が少々赤くなっていたが、2人とも笑い出した。
「そうです、タメ口でした。フフ、私だいぶトンチンカンなこと言ってましたね」
「全くです。急にどうしてしまわれたのかと驚きました」
とりあえず笑いは収まった。
少し間があいたが、改めてスレインが、
「で、では。改めて、よ、よろしく。セラム」
アセイラムは、いや、セラムはそれに対して、
「うん!よろしくね、アレン!」
彼がちゃんと彼女に対して、敬語を使わずに話す。このこともそうだが、偽名を使うのは、なんだかもどかしい、くすぐったいように感じられた。
だが、うれしくも感じられた。今までとは違う、さっきまでの自分とは違う。一歩、小さな一歩だが、彼女に近づけたようだった。
そして自分に対して向けられたコトバ。新鮮な、少し、でもかなりあるような距離が縮まったような感覚。気のせいかもしれないけれど、あちらからも一歩、寄ってきたような。
そしてコトバと共に向けられた笑顔。いつも見てきたものとは、違う気がした。ピンクの唇はニッと笑い、太陽の光で髪がキラキラと輝く。その光は瞳にも届き、輝きは宝石のよう。
なんとも表しがたいこの気持ち。胸の奥がドキドキする。これもいつだったか、本で読んだことがある。これはいわゆる………。
ガタッ。
「「!!」」
不意に聞こえた音。誰かの足音で現実に引き戻される。
割れてなくなっている窓がある壁に2人とも寄っ掛かってたが、音に反応してマスクをつけて警戒態勢に入る。
ここは廃墟ビルの3階。何か目的がない限りフラッと立ち入るよなところではない。
ならば、目的は彼らか。もうクルーテオの手下が来たのか。それとも……。
ついに、その
「ったく、今日もあいつらいやがったぜ……って、うわ!!」
ぽっちゃりが2人を見て驚く。
「おまえら何者や」
中肉中背の目が黒く染まる。
「ちょ、ま、待ってください!僕らは……その、怪しい者ではなくて、……あ、逃げてきたんです!他区から!」
「え?」
アレンは必死に今自分たちの状況を説明する。ヴァースのこと、セラムの力についてなどは伏せて。
そうすると、彼らは二人を理解してくれた。
「そうなんだ、大変だったなぁ。あ、俺はコウ。コイツはリクだ」
「よろしゅう」
「にしても、帰ったら突然いたんだもん、ビックリしたわ」
「ははは、すいません。ここが住処だなんて知らなかったので」
「まぁ、いいさ。ってかアレン、俺らはもう仲間なんだからさ、タメでいこうぜ。堅っ苦しいのはナシ」
――タメ。タメ口……。
「う、うん。そうだね」
――そうだ。仲間なんだ。
仲間。そのコトバを聞くだけで、言うだけで、なんだか心が安らぐ。
アレンは喰種になってから、”仲間”という存在を忘れていた。
周りにいたのは仲間とはいえない。
同類であって、同類ではない。ずっと嫌われ、傷つけられ、憚れてきた。
自分を引き取った主もまた、いやそれ以上に彼を嫌った。
セラムは違った。仲間というより、どんなことがあっても守りたいと、大切な存在だと、そう思っていた。
今は違う。
自分を仲間と言ってくれる。数は少ないものの、それでも十分だった。セラムとも、よりいっそう近づけた。
この瞬間は彼に、喜びを、もしかしたら忘れていた”人間”としての感情を、思い出させてくれた。
それから数日、彼らと過ごした。あっという間に時が過ぎていった。その間に、色々と楽しんだ。また新たに仲間も増えた。
将棋やチェスなどのボードゲームで遊んでみたりもした。最初は苦戦したが、セラムは段々とルールを覚えていった。
その楽しんで遊ぶ姿はアレンをよりうれしくした。
この区を案内してくれたり、夜に星も見たりした。
とっても楽しい時間。
充実した時間。
ずっと続いてほしい、そう思った。
けれど、そう思うほど、儚く、脆く、崩れてしまう。
今日は、
「なぁ、今度はさ、15区方面にいるヤツらのところに行こうぜ」
コウが突然、他の仲間に会いに行こうと提案する。
「まだ仲間がいるんだね」
アレンはコウの人脈の広さに驚く。
「いいけどさ、大丈夫なのか?15区は最近荒れてるし、それが今行くあたりにも流れてきてるって聞いたけど」
リクが少し不安げに言う。そういう風にはアレンも聞いてはいた。
「大丈夫だよ。アイツらのいるところ、案外平和なところだしさ」
そう言い、あまり乗り気ではないリクも一緒に、結局その場所へ行くことになった。
「まだか?」
出てからもう30分以上は経っている。コウはもうそろそろ着くと言っていたが、一向に仲間と会わない。
それどころか、喰種と誰一人会わない。アレンはいやな予感を感じていた。
それをリクも同じなようで、
「おい、変じゃないか?この時間帯なら誰かしらと会ってるやろ。もしかしたら……」
「な、なわけないだろ!今日はたまたま外出てないかも……。あ、ここにいるんだよきっと!」
コウはリクの言葉を否定しつつ、見覚えのあるという廃墟ビルの中に入っていく。
そこにあったものは………。
「何だ、これ」
アレンたちも入る。そこには、一面赤色に染まったビルの柱、地面。そして、所々に何か、それも赤に染まった物体が無造作に何個も散らばっていた。
最初は状況が飲み込めなかったが、段々頭がクリアになる。そうすれば、誰にだってわかる。
死体。人間か、喰種かはアレンにはわからなかったがあ、コウが「アキラ!バン!」と慌てて駆け寄るのを見て、喰種と判断した。
「どう……してッ!」
「……この傷、綺麗に裂かれている。赫子じゃこんなには切れない。なら……」
その時、自分らに殺気を放っているのをアレンは感じた。
「……!離れろ!!」
二人を強引に引き寄せる。
途端、二人がいた場所にトゲのような物体が刺さる。
――――これは、クインケ……!!
「逃げるぞ!!」
アレンに続くように、全員はビルから出る。が、時既に遅し。周りには5人ほどの喰種捜査官たちが囲むように立っていた。
「まったく、見回りしただけでこんなに喰種が現れるとは。愉快愉快!」
「!!」
先ほど羽赫クインケを放ってきた捜査官がケラケラと笑いながら歩いてくる。
「お前ら……!何故こんなことを!!」
涙まじりにコウはその男に向かって叫ぶ。
「何故?何故、か……。そりゃ、喰種だからさ」
男は、こんなの当たり前だと呆れる様に返答する。
「何でだよ!!俺らが、アキラたちが何をしたって言うんだ!!」
男の返答に、コウは余計に怒りが増したようだ。
「いや、だからさ?何をしたとかしてないとか問題じゃないの」
男は人差し指をコウに向け、次にこう言い放った。
「喰種は生きているだけで、ダメなんだよ。害なんだよ!邪魔なんだよ!!」
「「!!!」」
その言葉に、セラムとアレンは衝撃を受けた。電流が一気に体全体に走ったような感覚。
「もういい、コウ。こんなヤツらと喋ってるだけ無駄や」
リクはもう既に目は怒りのごとく黒く染まり、彼の赫子、尾赫を出していた。
「ハッ、テメエらゴミと会話してあげてた俺らに感謝の一つもねぇのかよ!!」
そう言うと男はクインケを勢いよく発射させた。
それをリクは尾赫でなぎ払う。だが、羽赫クインケは他にもいたようで、一発がリクの右肩をかすめる。
「チッ。めんどくせぇ!」
苛立ちを隠せないリクに今度は剣型クインケが襲いかかる。三対一の状態。圧倒的にリクが不利だ。
「リク!」
コウが参戦しようとするが、捜査官によって防がれる。コウの鱗赫と捜査官のこん棒型クインケがぶつかり合う。
「おい!お、俺らは戦いたくねぇ!なぁ、話し合わねぇか?」
「ハハッ、誰がお前らなんかと話し合うんだよォ!」
力比べは捜査官が勝った。そのままコウは飛ばされ、ビルの壁にぶつかる。
「リク、コウ!!」
アレンは2人を助けてあげたかったが、それどころではない。
今はセラムを守りつつ捜査官たちの攻撃を防ぐしかできなかった。
セラムは、赫子が出せない。
アレンは、まだ割り切れていなかった。まだ、人間と喰種を。
まだどこかにあった。自分が、まだ自分は、”人間だと”。
故にか、人間を殺す、これに踏み切れていなかった。
――――このままでは、みんなやられる。そうならないためにも……、でも、僕には!出来ない……。
「クソッ!コウ!ちゃんと戦えぇ!!」
リクは尾赫を思いっきり振り回す。それに少し怯んだ羽赫クインケの捜査官を、見逃さなかった。
隙を突き、尾赫でそのまま一突き。肉片と化したそれから尾赫を抜くと、おびただしい血が噴き出す。
素早く、今度はこん棒野郎に突っ込んでいく。
敵の攻撃を尾赫で防ぐも、押し負けて引き裂かれる。
「ガッッ!!」
「脆いな!」
捜査官は再びクインケを振り上げる。それをリクはかわし、そのまま掴みかかる。
「!!」
平凡な体つきとはいえ、リクは喰種だ。腕に力を入れ、捜査官を投げ飛ばす。
その先にはコウと戦っていた捜査官がいた。ふたりは重なるように倒れ込む。
「リク!」
「あとはテメェだ!」
先手を打ってきた男に向かって走り出す。
相手は羽赫。相性は良くないが、避けつつ攻撃すれば勝てる。
そう油断していた。
相手も移動し始めたあ時、肩掛けのバッグをしていたのが見えた。それがなんなのかを知らずに。
ふと男はそのバッグに手をかける。出ていた突起物を引っ張ると、刃がノコギリのようなクインケが現れた。
「なっ!」
リクは再び尾赫を出すが、男のクインケが蛇のように伸び、容易くリクの尾赫を切断した。
「グッ、あ、そんな……」
「ヒヒヒヒ」
不敵な笑いと共に、リクの体を切り裂く。丁度、上の部分が宙を舞い、コウとアレンのいる場所の間あたりに落ちた。
「リ、リク……!」
アレンの胸のあたりが切り裂かれたような痛みが走る。物理的ではない。心、と呼ぶべきところが。
「ああぁあ!あああ!!あああああああああああああああ!!!!!」
コウは狂ったかのように叫び始める。
「よくも!!よくもリクを!!!!!!」
先ほどとはまるで別人。殺気を放ち、男の方へ駆け出す。
「ま、待てコウ!迂闊に近づくな!!」
アレンはコウを呼び止めようとするが、聞こえていない。
「おおう、また一体、来たか!」
「お前はぁぁぁぁあ!絶対ゆるさねぇぇぇぇぇええ!」
2本の鋭く尖った鱗赫が、ヤツのクインケにより、簡単に防がれる。それどころか、素早く動き鱗赫の1本を切る。
「!!」
なんとか抗おうとするも、左手に持っていた羽赫クインケがコウを襲う。
鱗赫1本では防ぎきれない。何発も縦断を浴び、再び
コウの右手を吹っ飛ばした。接続口から噴水のごとく、赤々とした血が出る。
「おおおおああああ!!!!」
痛みに耐えながらもなんとか歩き出すが、力の差は歴然だった。
「さて、解体ショーだ!」
そう、ふぬけた声でそう言うと、今度はコウの左腕を切り離した。
そこからも血の噴水が。それを愉快に、楽しそうに笑っている男。今度は両足。ダルマ落としのようにコウの体は地面に落ちた。いつの間にか起き上がっていた2人の捜査官も笑っていた。片方は自信の刀クインケをコウの腹に刺す。何回も刺す。そのたび、体はびくびくと震え、今にもかき消えそうな悲痛の声。そのうち内蔵が出てきた。それをもう片方がこん棒で潰す。それはまるで何処かのクッキングの手順の一つのよう。すりつぶすように。そして飽きたのか、はたまたこれで終わりなのか、男はクインケでコウの首を吹っ飛ばす。簡単に。あっけなく。ちょっと前まで喰種の一部だったそれは飛び、リクの死体のところに転がっていった。それを見てて油断したか、今まで戦っていた捜査官の1人の攻撃を受けてしまった。セラムと共に倒れ込む。捜査官全員が近寄ってくる。みんな笑っている。ニコニコと。愉快に。何か面白いテレビでも見ているかのように。何が面白いのだろうか。僕にも教えてほしい。何が、どんな風に。彼らは人間。人間の僕ならわかるだろう、きっと。でもわからない。なんで?なんで?僕はもう喰種だから?人間じゃないから?それだけでわからなくなるの?ねぇ教えてよ。なにが、そう君たちを笑わせるの?愉快にするの?ねぇ………。
どこで間違えた?どこから選択を間違えた?わからない、そんなのわからないよ。
体はここにあるけれど、自分はそこにいない感じ。魂だけ出てきてしまった様な、体が変に浮いているような、そんな感じ。
目の前が徐々に色を失う。背景が、白鳩たちの顔の色が、服装が。でも、どんよりとした曇り空は色を失ってもそのまんま。白か黒かグレー。
いいよな、変わらなくて。そのまんまでいれて。そう、皮肉にも、自傷にも聞こえるそれを、ボソッと言った。
『おい、スレイン』
なんだよ、僕はアレンだ。
『それは偽名。本当の名はスレインだろ』
まぁ、そうだけど。
『まぁよい。そんなことは。それより、死んだのか、お前の仲間は』
そうだ、目の前で。
『助けたのか?』
ダメだった。助けられなかった……。僕には、どうすることも……!
『今更後悔か?情けない。そもそも、お前が弱いからこうなるんだ』
僕が……弱い……。
『そうだ。お前の弱さが仲間の死を生み出した。全部お前が悪い』
でも、僕は……!
『黙れ。全てはお前のせいなんだ。お前が強ければ、仲間は死なずに済んだのだ』
………ッ!
『だから後悔するなよ。今はお前さえ殺されそうになってるんだ。さっさと殺せ。お前なら出来るだろ?』
でも……。僕は弱いって……。
『確かに
……?
『あったま悪いなぁ。いるだろ、お前の横に』
僕の……横……!
『わかったな?さぁ殺せ。どんなことがあっても、何でも利用して生き延びろ』
何でも……。
『そうさ。時には必要なんだよ、誰かを守るために、その人を利用するときが』
僕が生き延びるために、セラム……アセイラム姫を守るために、アセイラム姫を利用する。
突然浮遊感が消える。それと共に、ある感情が体全体からわき上がるのがわかった。
殺意。
ガブッッ!!
「あっっ!」
スレインはアセイラムの肩にかぶりつく。そして、アルドノアを吸い出す。こうすれば出来る、なんて知るはずもないが、こうやるんだとそう思った。
あの時ぐらいを持ち出し、異常なまでの力を感じる。そのまま羽赫を出す。黒く不気味に輝くダイヤモンドのよう。
「本気を出したか!だがこの人数では無理だ!さぁお前ら、かかれ!」
男の指示が飛ぶ。が、数秒後、先ほどスレインと戦っていた捜査官2人は死体と化していた。
「!!?」
刹那、今度はこん棒を持つ捜査官へ。甲赫クインケだが、硬化したスレインの羽赫はそれを2撃で切り裂く。その勢いで彼の頭も吹っ飛ばす。
コウの腹を割いた捜査官も、あっという間に蜂の巣と化す。急展開のせいで、男は思考回路がショート寸前だ。
「クソッ!なんだコイツ!」
蛇のようなクインケを飛ばしてくるが、容易くいなし、トゲ状の攻撃を繰り出して蛇を地面に貼り付けて動かなくした。
「クッッッッッッッソォォォォォ!!!」
残った羽赫のクインケを放つが、当たる前に避けられる。スレインは右羽赫全体を硬化してナイフのように形状変化させた。
「くたばれ」
男の体を真っ二つに斬る。それはリクのよう。その後コウと同じようにバラバラに解体したが、思いの外つまらなかった。
次はリクの上半身とコウの頭がある場所に行き、
「ごめんごめんなさいすいません助けられませんでしたぁ!でも、僕の体の中でずーーーッと生きてくだされぇ!」
もはや普段とは逸脱した口調でスレインはそれらを食べ始める。野生のライオンが仕留めたエモノを喰うように。
「ハハハハハハうめぇぇぇ!喰種も案外いけるじゃ」
「スレイン!!!!!!」
気づいたら、アセイラムはスレインを強く、今の行為を止めさせるように、抱きしめていた。
彼女の頰から大粒の涙がこぼれ落ちる。
――――なんで泣いてるの?お腹空いてるの?……いや、違うのか。………あぁ、そうか、僕……は。あぁぁ……。
徐々に頭がクリアになっていく。そして、何故アセイラムが泣いているのか、今はどんな状況なのか、やっと理解出来た。
「スレイン……!もう……うっ、止めて!こんなの、スレインじゃ……ないよ……!」
スレインの瞳からも涙がこぼれる。右目の赫眼から、黒い涙が流れる。まるで怒り、殺意が消えていくように。
「ごめんなさい……ごめんなさい!アセイラム姫……ごめん、なさい!!」
謝ることしか出来なかった。いや、謝るしかなかったのだろう。彼女に対しても、仲間だった彼らにも。
他に白鳩の追っ手が来る前に、と2人は14区を去った。
一応偽名で通してる期間だけ表記を偽名にしてます。
スレインよ、今後活躍してもらうために過酷の道を歩んでもらうよ……。
許せスレイン