アルドノアグール   作:柊羽(復帰中)

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Episode.14 邂逅

『おい、界塚一等!いち早く中央に来るという話じゃなかったのか!?』

 

「はい。ですが、今はそういう状況ではありません」

 

『そんなのわかっている!本体が2本の羽赫を戻して、南方向へ向かった。君たちの方向だが、何をした?』

 

「敵喰種の羽赫を2体撃破しました」

 

『な、何!?……おそらく、それに気づいてそちらに向かった、ということか』

 

「そうだと思います。そちらは今どこに?」

 

『本体を追いかけているところだ。いいか、確実に本体と君たちが接触するだろう。そこをなんとか凌いでくれ』

 

「はい、そのつもりです」

 

 

ブッ……ツー。

 

ここで半分雑に無線が切れる。

 

 

伊奈帆は無線を置き、顔を前方へ向ける。

 

「鞠戸上等と韻子がいるところに戻って!」

 

伊奈帆が少し焦りが見える声で、運転手に指示を出す。

 

ワゴン車はそのままUターンをして、2人のいるところに向かって走り出す。

 

 

「い、伊奈帆!」

 

ワゴンはすぐに到着して、伊奈帆は直ぐさま降りる。

 

「界塚弟、残りの1体は本体と合流しに行ったってことか」

 

「そう、思われます。今さっき不見咲准特等から連絡がありました。本体がこちらに向かっているようです」

 

「え!?ってことは、私たちを狙ってきてる?」

 

2人に無線の内容を伝える。それは本体が自分らを標的に変えたと、すぐにわかるものだった。

 

「ナオ君。一体これからどうすれば……」

 

「っ……。本体が来るとなれば、あの羽赫は只の飛行物体から、パイロットが乗った戦闘機。下手すればあっという間に、みんな死ぬ」

 

「……!」

 

死ぬ、その言葉にその場の全員が息をのむ。

 

「けれど、そう簡単にやられるわけにはいきません。粘って、不見咲准特等が来るまでは……」

 

今までの相手も強かった。けれど、順々に手強さが増していくのを感じていた。

 

それでも、ここまで来たのだ。全く歯が立たない訳ではない。それなのに、ここでゲームオーバーになるのはどうしても避けたい。

 

そんな感情がいつも無表情の伊奈帆からも滲み出ていた。

 

 

「ハッ、当たり前だ。こんなところで呆気なく死んでたまるか」

 

そんな伊奈帆を見て、鞠戸は逆に落ち着いた表情を見せる。

 

「鞠戸……上等」

 

「一応粘る作戦みたいなのはある。これは、俺にかかっていると思うが、みんなの協力も必要だ」

 

鞠戸は真剣な目で皆の顔を見る。彼らも真剣な面持ち。言うまでもないかと鞠戸はうなずく。

 

 

彼らの最終フェイズ。その舞台の空には、一時出ていた雲は無くなり、美しく輝く満月が照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここら辺か」

 

フェミーアンはタイミングよく建物の屋根部分に着地し、止まる。

 

あたりは暗いが、いくつか残っている街灯と月光でいくらかはマシだ。

 

 

一呼吸置き、感覚を研ぎ澄ませる。

 

周りから聞こえてくる音を聞き分ける。そして、そう遠くないところを車がいるのを確認した。隠れているつもりなのかだろうが、エンジン音でバレている。

 

 

「何処へ逃げても無駄よ。行け、我が眷属たちよ!」

 

背中に羽赫を2枚出現させる。それを硬化し、体から発生させたアルドノアで包み、切断した。

 

2つの飛行物体は見事な連携した動きで、標的のところへ飛んでいく。

 

建物の上を通り、時には間をくぐり抜け、途中で二手に分かれた。挟み撃ちにするようだ。だが、簡単にやられるわけなく、車の方も動き出す。

 

 

いよいよ見えてきた。一方は後ろから、もう一方は前方に回り込む。

 

2つの戦闘機はほぼ同時のスピードで迫る。ここは直線の道路。曲がり角などない。完全に逃げ場を失っている。

 

 

「さあ、これでおしまいだ」

 

そう、フェミーアンは思った。

 

 

 

 

 

ガン!

 

そう、金属音のような、何かが貫通した音がする。()()()()()()

 

1つが力なく、燃料が切れたかのように失速し、地面に落下した。

 

もう一方の羽赫は狙い通り目標物を撃墜し、爆発させた。

 

「ラ、ラウム!なぜだ、敵はあの車内に……。まさか……っ!」

 

ここに来たときに感知したのはあの車。そこに自分の羽赫を倒した捜査官が()()()()()()()()()()()。けれど、それは違うのだと確信したとき、前方から何か青白いものが高速で飛んできた。

 

直前で気づいてなんとか避けたが、首筋ギリギリのところを通過していった。

 

「くっ……!そっちか!」

 

態勢を立て直し、残り1体の羽赫を攻撃してきた方向へ向かわせる。

 

 

 

 

 

 

 

――――わかりやすく言えば、囮を使ってさっきみたく撃ち落とす。囮は、このワゴン。これはCCGが改造したやつだ、その専用タブレットを使えば遠隔操作が出来る。

 

このワゴンは様々な状況に対応すべく、最先端技術を取り入れている。そのうちの1つがこの遠隔操作である。専用タブレットを使い、GPSを利用して走らせることが出来る。

 

――――ヤツが来るまでエンジンつけておく。おそらくこの存在に気づくだろうし、元々これをヤツはターゲットにしてたしな。俺は何処かの屋根にでも上る。そこで羽赫が来たら、タイミングを見計らって界塚に知らせる。そしたらワゴンを指定したルートで走らせろ。後はさっきと同じ感じで撃ち落とす。2つ来そうだが、1つは確実に撃ち落とす。

 

鞠戸が指定したのはほぼ直線道。ほぼ鞠戸の近くからスタートする。これなら、羽赫がどのタイミングで来てもワゴンの背後から来ても射程範囲内に納められる。ワゴンの横を狙われるのでは、と韻子が不安になったが、それはおそらく無いと伊奈帆が否定する。

 

本体が近くまで来ている。と言うことは、建物をうまく避けて攻撃してくるほどのコントロールで来るはずだ。生憎、選んだコースは比較的高い建物が並んでいる。さらに曲がり道がない。ワゴンは真っ直ぐしか動けないので前後から挟み撃ちで終わると相手は思うだろう。

 

――――では、そのうちに僕が本体を狙って一発撃ちます。

 

――――ちょっと、ナオ君!あなた正気?もし外したら……。

 

――――大丈夫。これはあくまで第二の囮。おそらく仕留められない。でも、そのうちに鞠戸准特等たちで狙ってほしい。羽赫は予定では残り1つ。一気にみんなを片付けられない。

 

――――でも……。

 

――――変な想像は止めよう。今は時間が無い。それに、もうすぐで不見咲准特等たちも来るはず。今は僕たちがやるべきことをやるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ナオ君!』

 

羽赫が伊奈帆がいる場所に向かっていく。そのルート上にある障害物は全て破壊していく。

 

伊奈帆はとっさに左斜め前にある建物の壁に狙いを定める。そこにクインケの刃を向けて、ギミックを起動させる。

 

刃の部分のみがワイヤーと共に射出され、狙った場所あたりに刺さる。軽く抜けないか引っ張った後、今度はワイヤーを巻き取るようにしてその場から移動する。クインケの石突に足を引っかける。

 

伊奈帆の体はいとも簡単に運ばれる。そしてまもなく立っていた場所は羽赫によって削り取られる。

 

「大丈夫!それよりも、みんなは本体を!」

 

体勢を立て直し、足で壁を蹴って着地する。ユキに無線で返答し、再びギミックを使って前方の建物の屋根に上る。

 

 

 

 

「ワラワをここまで手こずらせるとは……。ならば」

 

フェミーアンは羽赫を縦横無尽に暴れさせる。パイロットの乗った戦闘機は、もはや怒り狂った猛牛と化してしまっている。

 

 

 

 

 

「うわああ!!っもう!滅茶苦茶じゃん!!」

 

「むしろ、アレのせいでしっかり狙えない」

 

コントロールもなく、ただ目の前の障害物を壊す羽赫。これもそうだが、それによって生み出される瓦礫等を韻子とライエは避ける。

 

2人のの言う通り、無茶苦茶に動くせいで建物を壊すやら、こっちに飛んでくるやらでじっくり本体を狙えない。

 

こんな中どうすればいいんだ、無茶ぶりだ!と韻子は心の中で叫びながら、羽赫に狙撃を試みるが、側面に掠る程度だった。

 

『ねえ、ナオ君、これじゃ手も足も出ないよ!あの羽赫がここら辺あたり飛んでるし!』

 

「僕も破壊の揺れで一旦降りてるし……」

 

『おい界塚弟!ヤツが移動してるぞ!』

 

割り込むように、鞠戸が半分怒鳴り声が無線から響く。

 

伊奈帆がすぐさま建物の上にのぼり、確認する。

 

「……しまった」

 

赤紫色の光がこちらに近づいてきているのが見えた。伊奈帆は顔を少し歪める。

 

『え、本体は今どこに?』

 

「こっちに来てる。しかもユキ姉たちの方だ!早くその場から離れて!」

 

伊奈帆は地面に着地し、ユキたちの方に駆け出す。

 

 

 

「離れてって、と、とりあえずみんな分かれて行きましょう!」

 

慌てながらも韻子はライエとユキと各々で離れようとした。

 

 

「そこか」

 

フェミーアンは今まさに建物の屋根を蹴り、空を浮いた状態。そして彼女の赤い瞳は、3人の捜査官を映していた。

 

 

フェミーアンはただ羽赫を動かしていただけではなかった。羽赫から視界は共有できないので、事前に見たものをターゲットにして羽赫を遠方に行かさせていた。

 

だから、羽赫をあまりコントロールせず、建物を片っ端から破壊。それによって屋根に上って狙撃してくるのを防ぐ。また、羽赫とは感覚を少しながら共有できる。羽赫に攻撃を仕掛けてきた位置を大体把握できる。それが今、ビンゴだ。

 

 

「もうここに……!」

 

韻子は驚きを隠せない。もう逃げても無駄だ、と思ってしまったのか足が止まる。

 

着地と同時にフェミーアンは韻子の方に駆け出す。

 

「韻子ちゃん!」

 

ユキは咄嗟に自身のクインケ、アーマチュアαを発動。韻子とフェミーアンとの間にコンクリートの地面を盛り上げさせて壁を作る。

 

だが、羽赫によって簡単に破壊されてしまう。ライエも羽赫クインケで撃とうとするが、丁度ライエとフェミーアンと韻子が一直線上にいるため、韻子に当たってしまう可能性があるので撃てなかった。

 

「まずは……一人目!」

 

右の手のひらを大きく広げ、韻子の喉を狙って掴もうと迫ってくる。

 

 

その時、また2人の間を隔てるように壁が現れる。ユキがもう片方で生み出したものだ。

 

またか、と舌打ちするフェミーアンだが、羽赫で再び破壊しようとする。

 

フェミーアンの後ろから来る羽赫。それが壁に当たろうとした瞬間、壁より先に羽赫が砕ける。

 

頭上で予想外の事態が起こったフェミーアンは直ぐさま後ろを振り向く。するとそこには、民家の屋根に立つ伊奈帆の姿があった。

 

「コンクリートの壁を壊すには羽赫が必要。そのためにはちゃんと真っ直ぐぶつかるしかない。だから、それを利用して唯一の弱点、噴射口を狙えた」

 

「伊奈帆!」

 

韻子は壁と建物の隙間から出てきて、ユキたちと合流。

 

「さて、もう逃げられないわよ」

 

ユキが形勢逆転と言わんばかりの顔で、一歩前に出る。

 

相手の様子を伺おうとすると、拳を握って震えている。誰が見てもわかる、怒り。

 

 

「ボーティス、マラクス、ロノウェ、ハルファス、ラウム、ヴィネー……」

 

「……え?」

 

何を言っているのかわからない。ユキは怪訝な表情になる。

 

「ワラワの子らを、よくも……。ならば奥の手!!」

 

そう言い放つと、突如フェミーアンのアルドノアが急激に広がる。

 

荒ぶる炎のようにユラユラ揺れ、どこから沸いてきたと言わんばかりの赫子が姿を現す。と同時にフェミーアンの体に巻き付いていく。

 

「なに、あれ」

 

ライエが呆然とする。開いた口が閉じない。目の前の光景は想像を絶するものだった。

 

「これは……赫者、なのか」

 

伊奈帆も目を大きく見開く。

 

 

変化が終わったフェミーアンは面影もなく、()()()()()()となっていた。

 

「オオオオオオオオオ!!」

 

この世のものとは思えない雄叫びを上げたかと思うと、瞬時にジャンプする。あまりにも速すぎて、瞬間移動したのかと思えるくらいだ。

 

あの羽赫と同じ要領で飛んでいるが、噴射口が5つもある。

 

あっという間に旋回して伊奈帆のいるところまで来る。

 

「速い……!」

 

すぐにクインケのギミックで隣の建物に移った瞬間、相手も軌道を変えてきた。

 

――――飛んでいるのは本体。なら、自分で見て動けるのか……。

 

羽赫とは比べものにならない機動力に、ただ驚くしかなかった伊奈帆。

 

フェミーアンは伊奈帆が移動した建物に思いっきり突っ込む。その衝撃で伊奈帆は建物の破片と共に吹っ飛ばされる。

 

 

 

「いやああああぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

ユキの心が割れるような、そんな悲鳴が満月の夜空に響いた。

 

 

 

 

そんな時だった。こんな高速で飛ぶフェミーアンに一発撃ち込んだ者が現れたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分はまたも走っているな、と自傷するように思う。突然遠くから、クインケの発砲音のようなものが聞こえた。

 

この区で戦闘が行われているのだから当たり前だ、とここで考えを止め、今後のことに集中する。

 

 

先程から微かにエンジン音が聞こえている。音からして、車ではない。バイクだろう。

 

スレインが進む方向を音の方向から遠ざかるようにすると、()()はスレインを追いかけてくるようにまた近づいてくる。

 

――――どうして僕のいる場所がわかる?……上からヘリコプターで監視しているのか?

 

スレインは自分を追いかけられる理由を考える。

 

上を見上げたが、ヘリコプターなどどこにもない。あるのは黒い空に美しく輝く満月だけだ。

 

 

「……あっ!」

 

しばらく走っていると、目の前が開き、一本の川が見えた。

 

穏やかな流れで進む川の先に、先程聞こえた発砲音の在処がある。この川は、ヴァースとの戦闘が繰り広げられているであろう戦場との境界線。

 

これ以上先に行くと、アセイラム姫をより危険にさらすことになる。

 

かといって、他に逃げ道は残されていない。戻ろうとしても、追っ手と鉢合わせになるだろう。

 

今まで建物の陰に隠れつつ逃げてきたので、開けたここからでは見つかりやすい。

 

 

――――こうなったら……。

 

 

 

スレインは近くに川を渡る橋を見つける。

 

その下に、丁度柱で陰になっているところを見つける。そこに階段で降りて、アセイラム姫をゆっくりと下ろす。

 

目を閉じたまま、特になんの表情も無く只気を失っている彼女の頬を、そっと優しく撫でる。

 

「ここで待っていてください。僕は、追っ手を片付けてきます。その後すぐに、必ず、戻ってきます」

 

聞こえているわけもないその言葉を、彼女に言い聞かせるように、少し微笑みながら言う。

 

そして彼女を軽く抱きしめる。手を戻し、直ぐさま立ち上がる。

 

 

――――追っ手がもうすぐここに来てしまう。その前に……!

 

アセイラム姫を気にしながらも、スレインは走り出す。階段を駆け上り、元来た道を走っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブオン!!

 

満月の光がバイクの車体をよりかっこよく見せる。その上に人が一人乗っている。

 

「……おっと」

 

その人物はブレーキをかけ、止まる。何十メートルか先に、人影があった。

 

 

「偶然だな。また会うとは」

 

建物の陰で顔が最初はわからなかった。だが、それはすぐに自分が追っている相手、スレインだとわかった。

 

「偶然?……嘘つくの下手ですね」

 

スレインは少し笑うと、手のひらから何かの小型機械を取り出す。

 

「これ、発信器ですね。これで僕を追えた、ということですか。付けたのは最初に会ったときですかね」

 

「……バレちゃったか。やるねー」

 

トリックを見破られたが、終始笑っている。

 

 

その声、その喋り方、そいつの外見。一回見ているので忘れるはずはない。

 

 

 

「足立、さん……。でしたか?」

 

「クハハハ!まさか俺の名字を知ってるとはなぁ。それもさん付け。斉藤が喋ったか?」

 

その人物、足立はコートの襟を直しつつ、笑いながらこちらを見る。

 

「全く、逃げ出すし斉藤は取り込み中だし。だから追いかけてきた。……で、もう1人は?」

 

やれやれとジェスチャーする足立だったが、一人しかいないことに気づく。

 

「さあ、どうでしょう」

 

「あくまで教えないつもりか。まあいい。すぐに増援を」

 

 

そう、無線で連絡を取ろうとした時だった。

 

 

無数の羽赫のトゲが飛んでくる。

 

とっさにアタッシュケースを握って避けるが、乗ってきたバイクはあっという間にガラクタになってしまった。

 

「……スマン斉藤、後で弁償するわ」

 

斉藤から借りたバイクを見て、この場にいない本人に謝る。

 

そしてズキズキ痛みの走る左耳に手をやると、無線機は破片のみ残っていて、赤い液体が手にベットリと付いていた。

 

「へぇ……簡単には呼ばせないってか」

 

「次は、外さない」

 

スレインは先の戦闘でぼろぼろになった()()()()()を脱ぎ捨てる。その内側にあるのは、スレインの()()()()()()。黒色で、赫眼ではない左目を眼帯状に隠して、口元は歯をむき出しにしたようなデザイン。

 

そこから見える赫眼は、足立の姿を鋭く見据える。

 

「なんだ、勝負マスクってか?……まあいい、ここでお前を殺す!」

 

足立はクインケを取り出し、スレインに向かって走り出す。

 

スレインは2本の黒い羽赫を広げて迎え撃つ。月光で不気味に輝くそれは悪魔の羽のよう。

 

足立に羽赫のトゲを浴びせる。

 

それを待ってたと言わんばかりにニヤリと笑い、クインケのギミックを起動させる。

 

剣の持ち手部分を軸にして、刃先ちょっと手前まで表面全体が十字架のように4本にゴッと開き、スライドして傘の骨組みのようになる。刹那、そこから雷のようなものがそこにまとわり始める。

 

「!?」

 

剣を前に突き出すと、その雷のまとった部分でトゲがすべてはじかれる。そのまま足立は接近してくる。

 

スレインは羽赫を硬化して、ブレードにする。足立はギミックをしまい、思いっきり振る。それをスレインは2本の羽赫で受け止める。

 

「ハッ、お前器用だな」

 

「……っああ!」

 

力一杯込めて振り下ろそうとする足立を、スレインも力一杯に羽赫を振り上げる。

 

そのまま次の攻撃に移ろうとするが、足立は再びクインケを振るう。

 

それもスレインは受け止める。それをはじいて、また受ける。その繰り返しが少し続く。

 

 

――――強い……!

 

スレインはそう、思った。クインケの無駄のない動かし方でわかった。それにより羽赫のトゲが飛ばせない。

 

表情からは予想もさせない実力。これが喰種捜査官なのだと実感した。

 

「お前は羽赫だからなァ。距離あけると飛ばしてくるのが厄介だから、接近戦で行かせてもらうぜ」

 

「くっ!」

 

ギリギリとクインケが鳴る。少し、少しだが硬化した羽赫に刃が入る。切断を恐れてまたはじく。

 

一旦ここは距離を広げようとスレインは後退するが、そうはさせんと足立も間を詰める。

 

クインケを振るってくるが、今度は羽赫1本で受け止めようとする。押し返されぬよう、左手で支える。

 

余ったもう一方の羽赫でガラ空きになった足立に斬りかかる。

 

 

が、足立は羽赫が来る前に素早いステップで後退し、避ける。その動きに連動させるように、クインケを持ち直して横に振る。

 

空振りに終わった右の羽赫をクインケでさらに流し、スレインの右肩あたりが無防備状態になる。そこを突き、クインケの一降りをお見舞いする。

 

羽赫は切断できなかったものの、強烈な一撃がスレインを襲う。背中から脇あたりまで一直線に切れる。

 

「ガアアッ!!」

 

「まだまだだぜ」

 

苦痛に堪えるスレインに足立は休まず攻撃を続ける。

 

バランスを崩しているスレインの背後に回り込み、背中に斜めの直線を刻む。

 

後ろの相手に羽赫で応戦しようと回転しつつ羽赫を振るうが、しゃがんで見事に避けられる。

 

すぐに立ち上がり右足のキックを腹に受ける。衝撃で少し飛ばされるスレインに接近する。

 

硬化を解除してトゲを発射するが、ギミックによりまた防がれる。

 

 

――――まだ、まだあの未来予知が来ない。このままじゃ、殺られる……。

 

相手の強さに圧倒され、最悪の結末がよぎる。

 

それを振り払いつつ、再び硬化させて足立とぶつかり合う。

 

が、今度は足立が力を急に抜いて後退する。力一杯前に押していたため、スレインは前に少しよろける。それが最大のスキになってしまった。

 

 

「ほらよ!!」

 

クインケを下から上に振り上げる。剣先はスレインの腹から胸にかけてを斬り、スレインの血を撒き散らしながら一直線を刻む。

 

背中から生えていた羽赫が空気に溶けるように、消えた。力なくスレインは倒れる。

 

「が……あぁっ……」

 

「最初は油断していたが、結局はこういう結果だ。所詮逃げてるばかりのお前じゃ俺には勝てないってこと」

 

切り裂かれた激痛がスレインを襲う。体が震え、傷口が熱く、ジリジリとした電流のような痛みが駆け回る。

 

そんなスレインに足立は吐き捨てるように実力差を口にする。

 

「アカデミーの教官の時も、今の所属のところでも、多くの教え子、部下、同僚、先輩がいる。守り守られ、助け助けられ、協力して倒す。お前ら、喰種をな。無差別に、俺の仲間を殺すようなお前らを許すことは断じて出来ない。こそこそ2人で逃げて……、あ」

 

 

足立は目を細め、瀕死のスレインを見る。彼の、彼が持つ変わらない気持ちをスレインにぶつける。すると、何かを思い出したか、スレインが来た方向に目を向ける。

 

「そういや、もう1人は何処いったか白を切ったが、あっちだよな。つけた発信器があっちの橋で軽くウロチョロしてたからなぁ」

 

「!!!」

 

読まれていた、いや、油断していたのだとスレインは察した。

 

一回川付近に出て、橋あたりに近寄り、引き返してきた。その時には2人が1人に。発信器で動きの全てを見られていたのなら、だいたい予想は出来る。

 

「……橋あたりにでも隠してきたのか?俺1人で倒すからここに隠れてろってか?なめられたもんだ」

 

足立はアセイラムを殺す気だ。スレインは、いや誰でもわかる。

 

「安心しろ、ソイツの前にお前を殺してやる。それなら、ソイツの死体を見ずに済むだろ?」

 

「……っぁ、ああ!!」

 

 

 

 

死ぬ、ここで死ぬのかと最早諦めがスレインの中で勝ちそうになる。けれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アセイラム姫を守る』

 

 

 

 

 

『アセイラム姫を幸せにする』

 

 

 

 

 

あの時、自分で再確認した、自分の思いをが頭の中に浮かんできた。

 

 

 

 

 

『彼女は苦しまなくていい』

 

 

 

 

 

『幸せを、喜びをもっと感じてほしい』

 

 

 

 

 

『彼女の苦しみを、痛みを、僕が全て受け止める。代わりに受ける』

 

 

 

 

 

アセイラム姫が受ける痛みは、僕が受ける。そう、誓ったんだ。

 

 

 

 

 

『傷つくのは僕だけで十分だ』

 

 

 

 

 

傷つくのは僕。僕なんだ。だから、僕が死んで、僕が死んだ姿を彼女に見せれば、きっと傷つく。悲しむ。辛くなる。

 

 

 

 

 

そして、ヤツに殺されるだろう。

 

 

 

 

 

なら、アセイラム姫を守るためには、僕が死ななければいい。僕があいつを殺す。殺される前に殺す。

 

 

 

 

 

たとえ、彼を慕う存在がいても、彼を愛し帰りを待つ者がいても。

 

 

 

 

 

僕は僕自身の守りたい存在のために、そのために彼らから、あいつを奪う。

 

 

 

 

 

 

「うおおおおあああああっ!!」

 

全身に力を込める。体が悲鳴を上げているのはとうに知っている。でも、それでも、今は戦わなくてはいけない。そうしなくてはいけないのだ。

 

スレインの傷口が少しずつ縮んでいく。細胞が互いにくっつき、まるで植物のようにうねり、絡まっていく。

 

「ほう、凄い再生力だ。なら、今のうちにトドメだ!」

 

足立は思いっきりクインケを振り下ろした。

 

 

スレインは、自身の目をめいっぱい開く。

 

 

 

――――見える!ヤツの動きが見える!

 

彼の視界には、いつの間にか足立の動きの未来予想図が展開されていた。

 

周りはいたって普通の景色。だが、動いていた人や物はまるでビデオを停止したかのように動かない。それらからなんとも言えない光のような残像がゆっくり動き、足立の動き、クインケの動き、振り下ろされるスピード、どのタイミングで自分と接触するか、一目でわかった。

 

 

 

その数秒後世界は動きだし、残像の後を追うように足立が動き出す。

 

スレインは手足に力を込め、ギリギリ斬撃が当たらずにその場から転がりながら避ける。

 

クインケは何も捕えられず、ただ地面と接触して金属音を鳴らす。

 

「な、避け……っ!」

 

あの状態で避けたことに驚いたが、その先に視線を移したときには、スレインは羽赫を出してこちらに向かってきていた。

 

ここは一旦下がり、間を調整して攻撃に移そうとする足立。スレインはすかさず目に見えない力を込めるように、大きく見開く。足立の行動は今のスレインにはお見通しだった。

 

スレインは右の羽赫のみ硬化させて、左の羽赫からトゲを飛ばす。

 

これを防ぐためにクインケのギミックを展開し、トゲを防ぐ。ここをスレインは突く。

 

ギミック展開中のクインケに向かって右の羽赫を思いっきりぶつける。ギミックをしまう時間なく、そのままぶつかり合う。

 

ギリギリ鳴るが、すぐにクインケの方がミシミシと鳴り始める。

 

今のクインケはギミック展開中により、剣の太さが通常時より細くなってしまっている。それ故硬化した羽赫と押し合いをすれば、通常時よりも耐久値は下がっているため、先に悲鳴を上げることとなった。

 

 

「チッ!なら……!」

 

足立はクインケがへし折れる前にと、バリアのために出していた雷を一気に放電させようとした。

 

 

勿論、これも既に見ている。足立がギミックを発動する前に一旦離れる。そして再び距離を詰める。

 

この行動に対処しようと、ギミックをしまって近戦態勢をとる。

 

スレインは両方とも硬化させ、左の方を横に振る。それを足立は剣の腹に手のひらを添え、防御しようとする。

 

そこにスレインは直前で攻撃を止め、左足を軸にして回転し、足立の背後に回り込む。

 

「!!」

 

足立がしまったと言わんばかりに後ろのフォローをしようとするが、時既に遅し。羽赫で背中に斜めの直線を刻まれる。

 

「お返しです」

 

「ガハッ!……くそ、がぁぁぁ!」

 

なんとか持ちこたえ、スレインに向き合って攻撃を繰り出す。

 

が、それはほぼ意味をなさない。足立のクインケの間合いやスピードを見て、羽赫でいなす。先程は彼のスピードで真正面からガードするのみだったが、あらかじめ動きがわかるのでどうってことはない。

 

「くそっ。あの時みたいな、変な感じだ。まるで俺の動きが、事前にわかっているみたいな避け方だ……」

 

足立が苦しげに口から漏れる。

 

 

スレインが羽赫を振り上げようとする。足立も守りに入るが、突然片方の硬化を解除してトゲを発射。とっさに足立はギミックを展開して防ぐ。

 

その瞬間、もう片方でクインケに攻撃。目の前に来たトゲを防いだ直後だったので、ぶつかったときの衝撃でクインケがブレて前がガラ空きになる。

 

――――ここだ!

 

スレインはこの瞬間を逃さなかった。再び硬化させ、足立の腹あたりに羽赫を刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開け、体をゆっくり起き上がらせる。所々痛みが走り、うっと声が出た。

 

頭を軽く振ると、葉っぱなどが落ちてくる。

 

 

伊奈帆はあたりを見回してみる。ここはどうやらそこそこ広い公園のようだ。木製のベンチや白でペンキ塗りされたブランコなどが見える。それらを中央にあるライトが照らしている。

 

上を見上げると、不自然に一部分穴が空いたようになっている木がある。丁度ここに落ちてきて、さらに地面の草がクッションとなったのだろうと推測した。

 

 

 

奇跡的にも握って離さなかったスレイプニールを杖代わりにして立ち上がる。一応なんとか足だけで歩けるようだった。

 

 

周りがフェンスで囲まれていたので公園の入り口を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

そこから出ると、少し先に一本の川が見えた。近くに橋もある。

 

すると、穏やかな流れで進む川の先に人影が見える。建物に寄りかかって座っている。そして、街灯で照らされた体には()()が広がっていた。

 

 

伊奈帆が今この状態での全速力でその相手に駆け寄る。

 

 

 

 

 

「……足立、教官」

 

見つけた人物を、伊奈帆は知っていた。

 

伊奈帆がアカデミー時代に指導してもらった、足立上等捜査官だった。

 

「どう、して……。ここの担当では……」

 

別の区を担当していた彼がここにいること、大量の血を流して死んでいることが、理解出来ない。先程の衝撃で頭を打ったせいかとも思えた。

 

けれど、それは、自分が理解したくないだけなのだと薄々わかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザッ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、近くから足音がした。

 

音のした方を向くと、1人、立っていた。

 

 

所々衣服が傷だらけで、頭からつま先まで赤が飛び散っている。髪がクリーム色だけあって、余計に赤が際立つ。

 

そして、鬼のような、不気味なマスク。片眼は隠されていて、もう片方から赫眼が見える。こちらを、ただ見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伊奈帆は、問う。

 

「お前は、何だ?」




いよいよ、2人が出会いました
これから2人はどうぶつかり、どう交わっていくのか。そこを楽しんでいただけるのなら幸いです
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