アルドノアグール   作:柊羽(復帰中)

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前回投稿から一ヶ月経ってしまいました。
うまい展開が思いつかなかったり、課題に追われたり……。
さらにうまくまとめられず今回も長いです。



Episode.15 Who is the enemy?

「があっ!!」

 

自分の腹に何かが入り込む違和感。そこから全身を駆け回るよな痛み。そして底から湧き出るように、吐血した。

 

 

相手、目の前にいる"眼帯の喰種"によって、足立上等の腹部を羽赫で刺された。

 

その喰種、スレインは躊躇することなく羽赫を足立から抜き取る。その瞬間足立の腹部から血が滝のように流れ出てきた。

 

激しい痛みで足立はまともに立ってはいられない。足が震え、バランスを崩し、後ろに何歩か下がって膝から崩れ落ちる。

 

なおも血は止まらず、地面を赤に染め続ける。

 

 

「もう、終わりか」

 

スレインはポツリと呟く。

 

目の前の"敵"は、最早戦闘不能。立つことさえままならないだろう。

 

 

所詮"人間"だからだ。

 

 

 

「志半ばで、死ね」

 

ゴミを捨てるように、投げ捨てるように出したコトバ。

 

だが、それを行動に移さなかった。いや、移せなかった。

 

 

 

 

 

「………っぁぁあ!!あああああっっっ!!」

 

羽赫を振り上げた途端、前後左右から同時に強い衝撃を受けたような、そんな痛みがスレインの頭を襲う。

 

頭の中をグチャグチャにされるような不快感。耳鳴りもしてきた。少し音の高いサイレンを間近で聞いているようだ。

 

「……ぐうぅぅぅぁぁ!!」

 

彼も立っている余裕が無くなり、地面に膝を突く。

 

出現させていた羽赫もボロボロと崩れ始め、消滅する。

 

どうしようもなくて、頭を両手で押さえるが、そんなことで痛みが治まるわけもなく。

 

 

 

 

 

痛い痛い痛い痛いいたいいたいイタイイタイイタイイタイitaiitaiitai………!!!!!

 

 

 

 

呼吸ですら苦しくなってくる。目も開けられない。

 

どうしてこうなっているのか。決定的な原因とは言えないが、おそらく影響しているのは"アレ"なのだろう、とスレインは意識が持って行かれそうになりながら思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

そんな姿を足立は痛みに耐えつつ、細くなった目でとらえる。

 

震えながらも右手を伸ばし、あたりを触る。そして、クインケの感触を確認すると、それを取る。

 

持ち替えて、杖のようにする。動かすだけで電撃を受けたように痛みが走るが、それを堪えて足立は、ゆっくりと立ち上がる。

 

左手で壊れたダムの口を押さえる。右手でクインケを持ち、少しずつ、少しずつと方向転換する。

 

180度向きを変えると、今度は一歩一歩ゆっくりと前に進む。

 

進む度に血が地面に垂れる。立ち上がった場所から止まることなく溢れ出る。

 

離れていく。スレインから、仲間を殺したヤツから、"喰種"から。

 

 

――――たとえ手を斬られようが、足を斬られようが、腹をブッ刺されようが、命ある限り喰種捜査官は戦う。それが俺のモットーだ。

 

 

 

 

ああ、そんなことを、言ってたなあ。誰だっけ、もう忘れてしまった。けれど、俺には無理みたいだ、そのモットー。やっぱり、死は怖い。痛い。辛い。

 

 

 

 

 

最後の力を振り絞り、懸命に歩く。したたる血は彼の最期の足掻きを示すようだ。

 

開けた道に出て、左に曲がった。右手には川がある。

 

 

もう、足立は痛みさえ殆ど感じなくなっている。

 

痛くないのに、足取りが重い。むしろ、もう立ち止まりたい気分だった。

 

 

それでも、前に進む。ここから離れるために。逃げるために。

 

 

 

 

 

ああ、でも、もうダメみたいだ。意識が、引っ張られる。

 

 

 

 

 

まるで意識だけを、それを存在するものとして背中から引っ張り出すような、そんな感覚があった。

 

 

自分でもわかる。これが、ここが、自分の最期だと。

 

 

 

ついに建物の壁に手をつき、そのまま座り込む。

 

 

背中を壁に付け、静かに一回、深呼吸した。

 

 

空を見上げると、満月が光り輝いていた。雲一つ無く、煌々としたその月に足立は少し見とれた。

 

「全く、俺の最期にしちゃ、いい夜だな……」

 

そう、自嘲気味に呟くと下を向き、目を閉じた。

 

 

 

 

斉藤。バイク壊しちまった。どうしようもないから、自分の給料でまた買ってくれ。スマン。

 

 

森山。お前は色々こき使って大変だっただろ。飯奢ってやったのはあんまり無くて、スマン。斉藤とかに奢ってもらえ。

 

 

鞠戸。あの時からずっと、お前は大変だった。俺もお前を助けてきたが、もう無理みたいだ。でも、仲間を信じろ。きっと大丈夫だ。

 

 

界塚。そろそろ俺もソッチに行くらしい。お前の子供2人は、一応基礎はぶち込んだから大丈夫だろう。……お前の方が長いんだから、案内頼むぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭の中で様々な思い出が一気に溢れ出る。映画のフィルムのように、止めどなく一直線に映像が通り過ぎる。これが走馬灯なのか、と足立は驚きながらも笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシャーーン!!!

 

 

そんな爆発音のようなのが聞こえた。そんなに遠くではないようだ。

 

それによって飛びかけていたスレインの意識が少し引き戻される。

 

まだ痛みは治まらない。先程よりかはマシになったが。

 

なんとか顔を上げると、もう既に相手、足立の姿は無かった。クインケも見当たらない。

 

けれど、彼の流した血が彼の行方を示していた。池になった場所から一本線が伸び、川の方向に行って左側に曲がっていた。

 

けれど、追いかけようにも動けないので、スレインは頭痛が治るのを待った。

 

 

 

これほどの副作用があったのか……。けれど……、連続で使用したのは今回が初めて。徐々に慣らしていけば……。

 

 

 

痛みに耐えつつ、自身の謎の能力について考えた。今まで使ったのは一回のみ。複数回連続使用は初めてだ。

 

そもそも、今日が初めてこの力を使った。ダメージが蓄積されてこうなったのか……。

 

 

と、スレインは徐々に回復しつつある頭で色々思考を巡らせていたが、根本的な謎に引っかかる。

 

 

この"力"はなんだ?

 

 

 

その答。もうスレインの中では一つ、可能性大のものがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルドノア、だ。

 

 

 

自分が、知らぬうちに"アルドノアグール"になっていた、ということだ。

 

にわかに信じられないが、2回ほどアセイラム姫からアルドノアを受け取っていた。それによって体内でアルドノアを保持、生成出来るようになったのではないか。

 

 

けれど、おそらくそれは不可能だ。即座にそれを否定する。

 

 

スレイン自身も何回か見たことがある、"あの実験"。あれを見てしまったら可能性を否定せざるをえない。

 

初期の段階から見たわけではないが、アルドノアを入れる量の試行錯誤は大変なものであったそうだ。故に何十、何百と多くの喰種、または少数ではあるが人間も死んだ。

 

 

それでやっと見つけた妥当の量。多大な犠牲を払っての、初めての成功者が誕生した。彼はトリルランと名乗っていた。

 

実験関係者全員が大いに喜んだ。クルーテオもこのときばかりは笑顔を見せた。

 

 

 

しかし、次は失敗だった。アルドノアの量を間違えた訳ではない。何回も確認をした。

 

実験失敗で大半の原因が、拒絶だ。体がアルドノアを受け付けない。それに対してアルドノアも体に染み込もうとする。そのぶつかり合いが起こり、様々な異常を来す。

 

体が破裂、全身から出血、脳に障害が残る、など。

 

このまま大量成功者続出と余裕を見せていた研究者が再び頭を抱えた。そんな中でも死者を出す実験は続けられた。

 

 

そんな中で二人目が誕生した。ブラドだ。

 

1人1人の実験データを記録していたので、失敗者とブラドのデータを比較したが大して違いなど見られなかった。

 

 

只単に一定量を流せばいい、ということではなかった。ここまで来ると色々仮定が浮かんでは消えた。

 

まず疑ったのは個々の体格差だが、それは多大な犠牲者を一目見れば無いとわかった。

 

次に出たのはレートの問題。喰種それぞれの力を示すCCGが決めたレートだが、これは決定打とまでは行かなかった。

 

確かに、トリルランもブラドもSレート。けれど、死んだ喰種の中にもSレートはいたのだ。

 

 

今後はとりあえず実験は続け、Sレートの喰種のときには幾分注意を払っていく、という方針になった。

 

 

そして、3人目のフェミーアンが誕生した。

 

 

 

今現在、殆ど喰種捜査官と戦ってこなかったスレインのレートなど、知るわけもなく。

 

また、2回といえども赫子強化のために受け取った。元からアルドノアグールになるために入れられた量とは全然違うのだ。

 

 

では、この力は何なんだろうか……。

 

 

 

………出来損ないの、中途半端の、未完成の力なのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやら、あれこれ考えているうちに頭痛はある程度改善されたようだ。

 

ふらつく体をなんとか立ち上がらせ、足立が逃げた方角に視線を移す。月明かりに照らされた、赤の道を辿ることにする。

 

一歩一歩、しっかりと踏みしめる。そして、角を曲がる少し手前で、誰かの声が聞こえた。

 

 

 

「……足立、教官」

 

 

「どう、して……。ここの担当では……」

 

 

 

――――誰だろうか。足立教官と言っているから、すぐ近くに倒れているのか。

 

聞いたことのない声だが、内容で足立の存在を把握した。

 

もしかしたら死んでいるだろうか。死んでいても、その肉体を喰う。生きていても、トドメを刺す。そう思って、角を曲がった。

 

 

 

ここから少し離れたところに、足立と思われる人がいた。ピクリとも動かないので、死んでいるのだろうか。

 

そして、その隣にいる人間。服装からして、喰種捜査官だ。ボロボロで、所々出血していて、クインケも持っている。

 

その捜査官の目からは、意外にも滲みだした怒りなどは感じられなかった。むしろ、目の前に現れたスレインを見据えた、冷静とした目つきだった。

 

 

少しの静寂の後、彼はこう言った。

 

 

 

「お前は、何だ?」

 

 

――――僕は、何なんだろうな。

 

情けないことに、自分を説明できなかった。

 

ここで人間と言っても意味が無いだろう。こんな状態で、こんな身体で、どこが人間だ。

 

けれど、喰種とも言えなかった。自分自身を、どうしても喰種に位置付けたくなかった。何だか、自分でも表現しにくい、プライドだろうか。

 

 

僕は、半端者だ。

 

 

「ヴァース」

 

「!!」

 

彼からの問いに口ごもっていると、スレインでも知っているワードが出てきた。

 

「これに反応したということは、君はヴァースの一員かな?」

 

しゃがみ込んでいた彼はクインケを使って立ち上がる。

 

「この状況からして、君がこの人と戦った。そして、殺した」

 

一旦目線を足立に向け、少し見た後再びスレインに戻す。その間で、その瞳は沸々と湧き出るような怒りに変わっていた。

 

「……どうして、殺した」

 

この言葉は何だか消えそうな、でも怒りがまとわりついて存在し続けるような。

 

そこから感じるもの。それはスレイン自身も知っていた。最近味わった、味わいたくなかったあの感情。どうしようもない、あの不条理への反抗の感情。

 

状況からして敵である彼の言葉に同情というか、共通、通じるものを発見していた。でも……。

 

 

「殺す理由があったから、殺した」

 

そう、返した。朝日が昇ったらいつかは沈むような、当然のことのように返した。

 

 

だからなんだって言うんだ。

 

きっと彼は足立を何らかの形で知っているのだろう。その人を殺された。その悲しみを、その怒りを、相手にぶつける。

 

その気持ちがわかるから、僕はどうすればいい。只敵討ちでやられればいいのか。

 

 

違う。馬鹿か。

 

僕はあいつに殺されかけた。殺そうとした理由があって、だ。おそらく僕が殺したのはあいつの仲間だったのだろう。けれど、そいつらはリクを、コウを殺したのだ。

 

そもそも2人をそいつらが殺さなければ、結果的に足立を殺すことはなかったのだ。

 

 

ループなのだ。憎しみが憎しみを生む。平等なんてありはしない、残酷な世界。

 

そんな世界で何かを守るためには、躊躇なんていらないのだ。だから、僕は……。

 

 

「……そうか」

 

彼は一度目を閉じて、深呼吸する。クインケを握る力が強くなる。

 

「……一度聞いてみたかったんだ。君ら喰種の、本音を」

 

彼は走り出す。スレインに向かって、クインケの刃を月光で光らせて。

 

まだ頭痛はあり、体もだるさが抜けていないが、それでもやるしかない。

 

スレインはボロボロの体に鞭を打って、羽赫を出現させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グガアアア!!」

 

()()は低い声と高い声が混ざり合ったような、とても不快感を覚える声でうなりながら地面に着陸した。

 

高速で飛んでいたとは思えない質量で、勢いを止めようと踏ん張ったときに地面がえぐれる。そこが丁度伊奈帆が飛ばされた方向への道であったため、ユキと韻子は止まらざるをえなかった。

 

「グ……ダレ、ダ」

 

その声に自分を撃った者に対しての威圧と殺意が混ざっていた。

 

もはやどこが口なのかもわからないその身体は、ほぼ黄土色のゴツゴツとした赫子で覆われている。飛ぶための発射口も出ていて、先程のスラリとした女性らしい体とは思えなかった。2本の角が頭の側頭部から後頭部にかけてのあたりに生えている。

 

赫子と赫子の隙間から鋭く光る赫眼。もはやその姿は悪魔のようだった。

 

 

「いったい、誰が……」

 

ライエは目の前に降りてきたフェミーアンからくる恐怖を押さえながら、どこからの攻撃なのかあたりを探す。

 

その頃に鞠戸も合流していたが、彼も恐怖で押しつぶされそうな様子だった。

 

 

「増援の到着、遅れて申し訳ありません」

 

つかの間の静寂の中、女性の声が聞こえた。その声は凜とした、またそこから強さを感じるようなものだった。

 

声のする方向に注目が集まる。伊奈帆の安否が心配でたまらないユキと韻子も、涙で潤んだ目を向けた。

 

 

そこには1人の女性と2人の男性。女性の方は右手にクインケを持っていて、茶髪の方の男性は一つ、眼鏡をかけた男性の方は二つアタッシュケースを持っている。

 

「あ、あなたは……!」

 

ライエは目の前の出来事に驚きを隠せなかった。鞠戸も同じく、3人の方を向いて大きく目を見開いている。

 

 

CCGの中で、彼女を知らぬ者はいない。なぜなら、彼女はCCGで最強の名を手にする捜査官、ダルザナ・マグバレッジ特等捜査官だからである。

 

前で分け目をしっかり整えられたベージュのセミロング。キリッとした目に、口の左側にある艶ぼくろが印象的だ。

 

後ろにいる茶髪の祭陽希咲(まつりびきさき)と眼鏡の詰城祐太朗(つむぎゆうたろう)も、若いながらもマグバレッジをサポートしている手前、名前と顔はそれなりに知られている。

 

「ここは僕らに任せて、後に来る不見咲准特等と合流してほしいッス」

 

祭陽は4人をここから退避させるよう促す。けれど、ユキと韻子はそれどころではなかった。

 

「で、でも!い、伊奈帆が!」

 

「ナオ君が、建物ごと倒されて、あっちに……!」

 

2人はパニック状態で、落ち着きを忘れて言葉がつっかえつっかえだが、ここから簡単に退避できない理由を必死に話そうとする。

 

「わかりました。大丈夫です。喰種討伐後すぐに捜索をします」

 

詰城は落ち着かせるように両手をそれぞれの肩に置く。そして、マグバレッジの方を見て仄かに笑う。

 

「すぐに終わりますから」

 

 

 

「オマエ、カ!」

 

マグバレッジのほうを睨み付け、フェミーアンが唸る。

 

それに対し、彼女は何も声を発さずにクインケを向ける。彼女の肩から手首くらいまでの黒く艶やかな長い銃身。それとは変わって赤色の持ち手の下にもそれの半分くらいの銃身がついていて、その形は極端に言って工夫の"工"の字のよう。

 

大きさ故の、重い発射音とともに二つの弾丸が高速で飛んでいく。だがそれはフェミーアンが瞬時に飛んで難を逃れた。

 

「皆さん離れて。ここは私がやりますので。それと詰城、そちらのデューカリオンを」

 

マグマレッジの指示で皆がその場から離れる。その時に詰城が持っていたアタッシュケースの一つを催促する。

 

すぐさま詰城は渡し、中身を展開させる。それはマグバレッジが右手に持っているのと同じもの。このクインケ、"デューカリオン"は二つで一つなのだ。

 

 

最初の攻撃を避けたフェミーアンは加速して、マグバレッジを潰しにかかる。マグバレッジはそれを難なくかわしつつ発砲。

 

あの速い動きをしているフェミーアンに何発も着弾させる。その時に空気を斬る音なのかフェミーアンの苦痛の声なのか、これまた深いな音がした。

 

これだけでも凄いのだが、このクインケの扱いも驚きである。大きく、凄まじい反動を伴いそうなクインケを二つ同時操作。それも女性が、である。至って何も苦がない、冷静な面持ちで攻撃する彼女の姿はまさにCCG最強そのものである。

 

 

それから加速しては接近を仕掛けるフェミーアンだが、全くと言っていいほど当たらない。建物の隙間からの不意打ちもかわされる。

 

一方で彼女からの攻撃は当たってしまう。自身がなるべく速く攻撃しているのだが、簡単に反撃されてしまっているこの状況に着々と苛立ちを募らせる。

 

――――どうして、何故こちらがおされる……!ワラワは、赫者にして、アルドノアを持つ者であるのに……!

 

フェミーアンがこの状況を理解出来ず、何か策はないかと考えていたときだった。

 

 

「……意外に堅いですね」

 

マグバレッジはクインケのギミック操作を行う。そして再び発砲。その変化はフェミーアン自身がすぐに感じるものだった。

 

――――ホーミング?!

 

なんとか弾丸を避けたと思ったが、それは何処かの建物にぶつかって散ることなく、こちらを追ってきていた。

 

すぐに追加で発砲する。あっという間にフェミーアンを沢山のホーミング弾が迫り来る状態になった。

 

それらは必死に回避してマグバレッジに攻撃しようとするフェミーアンを容赦なく突進してきた。

 

伊奈帆などのクインケでは傷つけられなかったあの羽赫の厚壁より上であろう、赫者の鎧を次々と削り取っていく。

 

――――おのれ!人間の分際でぇぇぇ!!

 

もはや避けることすらのままならない状況で、フェミーアンは心の中で叫んだ。ありったけの憎しみを込めて。

 

するとホーミング弾が前方のいくつかの建物にぶつかり、崩れていく。ギリギリであったため、その崩壊に飲み込まれてバランスを失いかける。

 

破片がぶつかり、ホーミング弾がぶつかり、ボロボロの体をなんとか動かし、抜け出す。が、その前方にはマグバレッジが立っていた。

 

 

 

ふと、彼女の頭にある話の内容が流れてきた。

 

『フェミーアン、今日の攻撃で気をつけなくてはいけないのが"黒炎"だ』

 

『……それは白鳩ですか?』

 

『ああ。CCGの中で最も強力な捜査官だ。たとえ貴公が全力でも、張り合えるかどうかだ』

 

『ですが、やってみないことには』

 

『ああ。だが、無理はせず撤退しろ。ここで貴公を失ってもしょうがないのだからな』

 

 

 

 

 

CCGで最も強力。ワラワでも勝てるかどうか。

 

特にそれはどんな人物か聞いていなかった。けれど、それは対峙すればいやでも、目を背けたくなるほどわかった。オマエは……。

 

「黒炎かぁぁぁぁぁ!!!」

 

はがれ落ちた鎧から見える血だらけの顔。その口がマグバレッジの異名を言葉にした。

 

 

「今更ですか」

 

特になんの感情もなく、クインケの引き金を引いた。

 

弾は綺麗に一直線で飛んでいき、フェミーアンの頭と胴体を同時に打ち抜いた。

 

直前までまとっていた赤紫のベールは消え、乾いた土のようにまとわりついた赫子がはがれ落ちつつ、彼女のすぐ上を通り過ぎて地面に落下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今宵の月が照らし出すものはただただ、争いだけのようだ。

 

 

片側にあるのは建物、もう片方にはガードレール。その先にはなだらかな傾斜があり、その先にある人2人が十分並んで通れる道のすぐ横に川が流れている。

 

そんな場所でひたすら何かがぶつかる金属音が響き渡る。スレインは羽赫を硬化させて、伊奈帆はクインケを使って。

 

スレインは羽赫をトゲ状にして打ち出そうとはしなかった。むしろ出来なかった。

 

先程の戦闘でRC細胞をかなり消費しているうえ、未来予知の反動がまだ残っていて体が動かしにくかった。

 

伊奈帆の方も万全とはほど遠いものだった。おそらく落下によってどこかの骨を折れているだろう。それでもクインケを振えるのは、彼にとっては珍しい"感情"の力のせいだろう。

 

自分の恩師が殺された。その相手が、今目の前にいる。煮え上がるこの怒りを、悔しさを、心に留めることなくぶつけることができる。

 

体があちこち痛い。悲鳴を上げている。けれど、今はそれよりも怒りが勝っている。そんな状態の自分に驚き、同時に恐ろしくも感じた。

 

 

両者一歩も譲らない状況だが、2枚あるスレインの方が若干押し気味になってきた。

 

ここで伊奈帆はクインケ『スレイプニール』のギミックを発動する。

 

左右対称の刃が真っ二つに割れ、片方が180度回転して先が下を向く。そのまま石突のところまでスライドし、丁度半分のところで持ち手が分裂。二刀流になった。

 

「!!」

 

スレインは目を見開く。二刀流になったことにより、伊奈帆はさらにスレインに接近し、素早い攻撃をみせた。

 

対応しきれないスレインの体に少しずつ傷が増えていく。スレインも負けじと攻撃を仕掛けるが、スレインほどのダメージを伊奈帆に負わせられないでいた。

 

 

両者の二つ刃がぶつかり合い、静寂を生み出した。

 

「……何故、何故足立上等を殺した。それだけじゃない、大勢の人間が死んだ。お前らヴァースは何がしたいんだ?」

 

「!!!」

 

至って普通の、ポーカーフェイスから出た言葉は、どうあがくことなくスレインの心に突き刺さる。

 

ヴァースという、その言葉にスレインは動揺を隠しきれない。自分が以前まで身を置いていた場所。そして今、彼が憎んで恨んでどうしようもない場所。

 

「罪のない人々を平気で殺め、己の欲望のまま喰らう」

 

不意に伊奈帆は力を緩め、瞬時に後退する。それによってスレインは一瞬バランスを崩して前のめりになる。

 

――――まずい、このパターン……!

 

さっき足立にやられたような動きだと思い出すが、今の体では反応しきれない。

 

「正義を貫こうとした人、大切な存在を奪われた人、誰かを守ろうとした人。何故彼らが殺されなくてはいけないんだ」

 

片方のクインケでスレインの胸部あたりに斬撃を入れる。もう片方のクインケで羽赫の一部を破壊した。

 

「親を殺された子供たち、残された者の苦しみ、孤独、悲しみ。これを考えたことがあるか!」

 

隙を突かれた二撃でよろめいたスレインに伊奈帆はたたみかける。かろうじて羽赫で防御するところにクインケで攻撃。部位破壊した間を狙って限界を達した足で腹部に打ち込む。

 

一番感情が被さった一撃。踏ん張ることもできずにスレインは倒れ転がった。

 

伊奈帆の心臓はバクバク自分でも聞こえるくらい鳴っていた。これほど感情が高ぶったことがない故、どうやって落ち着かせるかがわからず、押さえ込むように深呼吸した。

 

 

「……僕は、全ての喰種が憎いわけではない。世の中には人を簡単に殺めない喰種、人とわかり合いたいと願う喰種がいると思っている」

 

 

 

 

 

 

 

 

…………は?

 

 

 

 

 

スレインは衝撃を受けた。痛みじゃない。物理的な攻撃を受けたわけじゃない。

 

今まで出会ったことのない、未知の衝撃。どう対応していいかわからなかった。

 

 

「CCGの多く、いや大概は喰種を憎んでいる。でなきゃこんな職には就かない。けど、僕は違う」

 

どうにかして腕に力を入れる。頭は依然として混乱状態だが、彼の姿を視界に入れることはできた。

 

「多くの方にこの考えを否定とかされたけど、それでもいると思う。そんな喰種の力になりたい。そして同時に人を食糧とした思っていない、人を不幸にする喰種を駆逐する」

 

真っ直ぐ見据えた目。そこからは黒い、汚れた嘘は見当たらない。彼は、本当に……。

 

 

あるとき、アセイラムが言っていたこと。

 

 

『私は、いつかきっと人と喰種がわかり合える時がくると信じています』

 

 

『無謀と思われても、無理だとわかっていても、私は諦めません。そして、同じ気持ちの人もいるはずです。その方と、賛同の喰種たちと、作っていくんです。新しい世界を』

 

 

 

 

スレイン自身も当時は本気で信じていなかったこと。脱走後は少しでも彼女を幸せにしたい思いで、そういう人間を探していた。そして、ついに……。

 

 

「僕はまず知りたいんだ。()()()()()()喰種は、どう思って人を殺すのか。簡単に、造作も無く。何のために生きているんだ?」

 

 

 

 

 

 

ああ、そうか。そうだな、わかっていた。

 

彼はきっとアセイラム姫が信じていたような人間なのだろう。けれど、違う。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それじゃダメだ。不合格だ。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……ざけるな」

 

「なに?」

 

両腕を力一杯伸ばし、体を浮かせて立ち上がる。傷からは血が流れ出て足下に落ちる。

 

「ふざけるな。きれい事ほざくなよ」

 

伊奈帆は目を細めた。スレインの言葉に困惑してるように見えた。

 

「お前が語っているのはあくまで()()()()()から見た考えだ。喰種のことを考えてる風で何も考えていない」

 

「お前は語る前に僕の質問に答えろ」

 

「黙って聞け!」

 

伊奈帆の目が今度は見開かれる。先程までとは一変した様子に伊奈帆は驚く。

 

「喰種にだって感情はある。人間と変わらない。だから、生きたいという思いも当然ある。人間みたいに生きたいと思ってるんだ!でも、人間を餌としか思っていない喰種もいる。それでも、喰種は結局人間を食べなきゃ生きていけないんだ!そうするしかないから!」

 

スレインの叫びは、暗い街に広がる。マスクを被った状態でも冬の冷たい風のように、鋭く刺さってくる。

 

「お前は理由を知った後はどうするんだ?仕方が無い理由なら生かすのか?違う。言動からして生かすわけがないよな?!」

 

伊奈帆は再び目を見開く。先程とは違う、何処か痛いところを突かれたような様子だった。

 

「やむを得ず人間を殺して生きている喰種は数多くいる。そいつらの人の殺し方が少々酷くても、お前はそいつらを『悪』と決めつけるのか?!」

 

伊奈帆は黙って聞いていた。睨め付けるような目で、黙らせるためにクインケを振るうことなくその場で立ち続けて。

 

「それに!喰種だって家庭が、大切な人がいる。それらを失った苦しみも、孤独も、悲しみも!お前ら人間だけじゃないんだよ!それを何故わかろうとしない!?」

 

僕は()()だから。僕は()()だから。この世界の理不尽さ、不平等さが痛いほどわかる。目を背けたくなる、その残酷さ。

 

「この世界は間違っている!歪めているのは喰種だけじゃない!人間もだ!」

 

スレインは目を大きく開き、伊奈帆をとらえた。その目に迷いはなかった。

 

黒々とした羽赫を出現させる。硬化はさせず、トゲ状にして飛ばす。

 

伊奈帆は避けつつクインケではじこうとするが何発か体を掠り、当たる。表情が少し歪み、なんとかバランスを保とうとする。

 

スレインは一気に距離を詰める。伊奈帆はクインケを槍に戻し、対抗する。

 

「そういえば、答えていなかったな。僕は何なのか、を」

 

二つと一つがぶつかり合う。お互い限界を超える状態での力の張り合いは、先程以上だった。

 

 

あと一回、それだけでいいんだ。コイツだけは……!

 

スレインは目を力一杯見開く。

 

 

 

 

 

静寂の、時が止まった世界。そこから、伊奈帆がクインケを上に振り上げ、羽赫も上に持ち上げる。ガラ空きになったその一瞬を突いてくる。

 

 

 

 

 

――――見えた!

 

頭が割れそうだった。それでも、その未来を、一瞬先の未来を無駄にはしたくなかった。

 

クインケを振り上げ、伊奈帆は勢いを殺して持ち直し、スレインの腹部めがけて突きを繰り出す。

 

 

――――知ってるよ。

 

彼からしたら、この攻撃が来ると、どういう風に来るかがわかっている様な動きだっただろう。

 

 

 

「僕は、君の敵だ」

 

 

 

左の羽赫でクインケを押さえ、右の羽赫で伊奈帆の胸から脇腹あたりまでかけて斬る。

 

 

血しぶきを上げならが、さながらドミノのように後ろに倒れた。ガードレールを越えて、斜面を転がって、止まった。




スレインは一旦やられると強くなるっていう展開が定番になってしまったようです……
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