いや、最近ですね、グラブルにお熱でして……(言い訳)
でも、小説飽きたとかそういうんじゃないんで!ちゃんと続けていくので!お気に入りはずさないでぇ(切実)
僕が生まれた場所は、確か北欧あたりだった気がする。昔小さい頃に母親から聞いたのだが、国名などはもう頭の中から消え去ってしまっている。儚いものだ。
これまたうろ覚えの話になるのだが、僕が2、3歳の頃に日本に来た。父が生まれた国の出身で母が日本出身。父の仕事が日本で行うということが理由だ。それ故、僕が話せるのは日本語だけなのである。家でも父と母は日本語で話しかけてくれていた。逆に母国語が話せないというのは今時のテレビに出てくるタレントでもいそうだ。
まぁ特に言語の壁は元から無かった僕は、近くの小学校へと進む。入学式からはこれと言ってキツイ洗礼などは受けなかった、気がする。何せまわりは純日本人なのだから、ハーフの自分は浮いてしまう存在になりそうだと思ったからだ。
だがその予想とは反対に、珍しがっても仲間はずれなどにはせずに皆仲良くしてくれた。きっとここで自分の出身国を言って皆を驚かせていたのだろう。そんな様子が見える。
低学年の頃の僕はとにかく楽しそうだった。友達と校庭でサッカーをしたり、一緒に宿題をやったり、給食のおかわりジャンケンなんかもしていた。今の僕とはかけ離れた、はじける笑顔で毎日を過ごしていた。
そうしているうちに物語は進む。僕が小学三年生の頃だろうか、いつも笑って接してくれた母が突然泣き出した。顔をくしゃくしゃにしてひたすら泣く母にどうしたの、とわけがわからず心配をしている僕。でも場面が一気に変わって行くにつれてその理由がわかった。
父が死んだ。僕の、いや人なら誰でも持つ父が死んだ。死因も今はわからない。僕のいないところで母が聞いたのだから知っているはずもないのだが、きっと殺されたとかではないと思う。
それを悲しむように通夜の日は雨が降っていた。ザアザア音を立てて砂利に雨を打ち付けている。傘をたたみながら父の友人やらが中に続々と入ってきた。皆揃って喪服を着ている。並べられた椅子に座った黒々とした景色は、異様にまで寂しくて静かだった。
遺族として僕は一番前に座っている。父の遺体が棺に入れられて、まわりには服装とは対をなすように綺麗な花々。そして、父の遺影が中央に置かれている。
その父の顔は……わからない。まるで子供のラクガキのように白鉛筆で鼻から上が塗りつぶされたようになっていた。
そうだ、今までの場面で父の顔は1回もハッキリとした時がなかった。全て白鉛筆で隠されていた。声すらくぐもった感じで曖昧なため、本当に僕の記憶からは父は欠落しているようだ。
そんな父を、この時の僕はどう思っていたのだろうか。悲しそうな目で遺影をひたすら見つめているが、泣いてはいなかった。
「……がああああああああ!!!」
とてつもない激痛が体全体を駆け巡る。鋭い針を何本も同時にブスブスと高速で刺さされたような感覚。それが終わった瞬間に呼吸困難に襲われる。急転直下の展開に何一つついて行けない。
一気に脱力して頭が自然と下を向く。まだ体は痺れていて、目を開けるのも辛い。だが視界に映ったものは、むしろ辛さが増幅する光景だった。
「起きたか、スレイン」
どうやら椅子に座らされているようだ。しかし、体はまったく身動きがとれない。腕は横に広げられて指一本一本まで固定されてあるようだ。両足も同じくしっかりと指までホールド状態。そんな自分自身が薄暗くて、やけに広い部屋にいることを知る。
そして、聞き覚えのある声。それは聞いたことのあるようで何かが違う。その差異については今までの経緯からしてスレインでも察しが付いた。
「やっと、面と向かって話が出来る」
声だけでさえ怒りがひしひしと感じる。こちらはスレインが座っているものとは天地の差のごとく、豪華な作りの椅子。肘掛けや背もたれも大きく、黄色の装飾が目立つ。その椅子に座るのが、忘れるはずもない人物、クルーテオだ。
「先程も2回、電流を流したのだが起きなくてね。3回目で目覚めてくれたよ」
「……っ!」
彼の手には何か黒いリモコンのようなものが握られていた。電流を流した、と言っていたのでおそらくそのスイッチ的なものだろうとスレインはクルーテオを睨む。
「まあまあ、そう睨むな。……貴様が悪いんだろうが」
彼の声が、一段階低くなる。睨むなと言った方がさらに睨みを増す。だがすぐに目を閉じて、手にしていたリモコンを片手にパンパン軽く当て始める。
「だがこうしていてもしょうがない。これから行う尋問に時間を割きたい」
立ち上がって、スレインの方へと近づく。ゆっくり、ゆっくりと足音を響かせながら。
「簡単な話だ。今アセイラム姫がどこにいるかを教えてくれれば良い。それだけだ。さぁ、答えろ」
2人の距離はもう拳二つ分程度しかない。クルーテオの見開かれた目にはただスレインだけが映る。その迫力ある目からスレインは逃げたい気持ちでいっぱいになる。しかし、言うまでも無く逃げられない状態だ。顔だけ横を向ける。
刹那。
「あああああああああああ!!!」
再び訪れる激痛。縦横無尽に走り回る痛みは先程よりも長く続いている気がする。もう皮膚が剥がれてしまうのではないかというくらいで、スレインはもがく。でも、動けない。
「貴様が早く言わなければ、そうやって自分自身を傷つける」
激痛によって歪んだスレインの顔をクルーテオはニヤリと笑いながら覗き込む。スレインが痛みを感じているほどクルーテオは喜び、というか快感を覚えていた。
「……まぁ、貴様が簡単に口を割るわけではないか。なら、こっちも
スレインの顎を左手で上げていたが、それを止めて自身の椅子に座った。手に持っていたリモコンを指で操作していた。また電流か、とスレインは予想していたが……。
「今から貴様は痛みを感じる度に1000から7を引いた数を口に出して言ってもらう。絶対にだ」
一体何を言っているのかわからなかった。単純な引き算の答を言っていくことに何の意味があるのだろうかと疑問が一瞬浮かんだ。だが、それの意味をすぐに知ることとなった。
グリュッ
「……っっぁあああああ!!!」
無理だとわかっていても痛みで腕が震える。コンクリートの地面に無造作に落ちているそれは、自らの親指だった。自分の手から離れてしまったそれは、何故かどう見ても別のものに見えてくる。無機質な、ゴミのようにも思えてくる。
「1000引く7は?」
そんな状態のスレインにクルーテオは問いかける。簡単な算数ではあるが、スレインにとってはこれでさえ一苦労である。
「き……993」
グリュ、グリュ
スレインが答を言ったと同時に次の断絶が始まった。今度は2本同時に落とされてしまった。まだ切り落とされた親指の部分に加えてさらに痛みの範囲が広がる。
「あああああああ!!!」
「さぁ、続きを言え」
もう叫び声でしか痛みを表現できない。それでもクルーテオは問い続ける。今まで散々自分を困らせ、危うく命の危機まで感じて怯えてきた。それでやっと自分のこのやり場のない怒り、憎しみをぶつけられる相手が帰ってきた。そしてそれを今実行している。スレインとクルーテオは今、互いに反する表情をしている。
「……はぁ、あ、986……9、79」
なんとか声を絞り出して答える。ただの算数。小学生で解ける簡単なものでさえ危うい。痛みのせいでろくに頭が回らない。
……いや。
「どうしてだ」
僅かに浮かんだ疑問が、口から零れる。
僕は、
それをくみ取ってか、クルーテオが大げさに手を広げた。
「ほう、貴様でも気づいたか。そうだ、貴様は今、人間と同じくらいの強度になっている。では何故か。……これだよ」
そう言って椅子の横にある小さな机の引き出しから、瓶を取り出す。中に入っているのは透明な液体のようだ。手で揺らしてスレインに見せる。
「これはRC細胞の活動を抑えるものなんだ。これを貴様が眠っている間に投与しておいた」
あぁ、だからか。この不快感はそれのせいか。
スレインは先程から感じている感覚が何なのかを理解した。それによって赫子も出せないことにも納得がいった。最早、八方塞がりなのだ。
それからどのくらい続いたのだろうか。圧倒的絶望に落とされた気分だ。僕にはもう生きることさえ否定された、ただのオモチャになっている。
何回も何回も何回も痛みが僕を襲う。手の指だけではなく、足の指も切り落とされた。辛うじて最初のあたりでわかったのは、固定されているのは第2関節あたり。切り落とされるところは第1関節と第2関節の間。一通り切り落とすと今度は僕に"肉"を食わせた。勿論、人間のだろう。そうしたならあっという間に指が再生した。間髪入れずに再び切り落とす。
その際に言わなくてはいけないこの引き算。これは、きっと僕が意識を失わないために行っているものだろう。でももし気を失ったのなら電流で起こすだろう。そうじゃなくても、僕が答える時間が遅かったりすると、容赦なしに電流を流してきた。
アセイラム姫の居場所を聞き出すのが主な目的じゃない。僕を痛めつけ、苦悩な表情を見て彼は楽しんでいる。それが一番の目的に思えた。
けれど、もう、そんなことはどうでもいい。
切って切って切って切って切って切って切って切って切って切って。
そして、人の肉を喰う。二重の痛みをどのくらい味わったことだろう。クルーテオはこの部屋を出て行った。古いドアなのか、横に引いて開ける時に耳障りな音をたてて開いた。
全身に淀んで消えようとしない痛み。呼吸すら普通に出来ない。いったい僕はどうやって呼吸をしていたのだろう。ろくに回らない頭で考えてみる。
けれどそれは無理な話だ。もう、意識を保てない。
また、僕は、暗い暗い闇の中に、消えた。
「祖父、ということは……貴女の父にも同じ力が?」
少し間が空き、鞠戸が質問を再開した。
「はい、そうです。同じ家系では力をそのまま持った状態で生まれてきます」
2人がペンを走らせる。よくよく考えてみればそうなるのも当然かもしれない。代々引き継がれし力、アルドノア。その今だ全貌が見えぬ力に伊奈帆は恐怖を抱きつつも、興味が沸く。
「今その父親もヴァースに?」
今度は伊奈帆が問う。だが、それを聞いてアセイラムは顔を曇らせる。
「……いえ」
「では、別の場所ですか?それとも……」
「もう、いません。あの日から」
現在も別のアルドノアを使う喰種が存在するかもしれない、その一人がアセイラムの父かと思っていたが……。依然と少し俯いたままのアセイラムは、消えて行ってしまうような声で続ける。
「10年前の、あの日からです。でも、父の最後を見ていたわけではありません。それに、母はアルドノアを持ってはいませんが、父よりも早くに亡くなっています」
伊奈帆の手が、止まった。改めてアセイラムの方を見る。曇った顔、俯いた状態で静かに語る彼女の姿。何か、自分と被る何かを感じた。
そう、伊奈帆ももう両親は他界している。そうなって間もなくの時と、同じ顔だ。
「……では、続いてヴァースのことについて伺います」
どうにも気まずくなってしまった。鞠戸がここで次に進んだ。力についてはあらかた聞き終えたと感じた。そもそも、力自体を研究することよりもヴァースの実態を少しでも多く知ることが大事だ。
「貴女方が言うヴァース……規模はどのくらいなのですか?」
「……申し訳ないのですが、私もハッキリとはわかっていません」
鞠戸の質問にアセイラムは顔を上げて、先程よりははきはきと返答する。
「そう、なんですか」
「はい。私はあくまでこの、アルドノアをヴァースの方々に1人でも多く受け渡せるようにする役割……道具なのです。皆から"アセイラム姫"だなんて呼ばれていますが、むしろ力のことにしか目が行ってないように思えてきます。ヴァースの全貌とはいかないでも、人員がどのくらいとかは他の方たちがすべて管理しています」
"道具"。その言葉を口にしたとき、アセイラムは自分の着衣の胸元あたりをギュッと握った。
「では、貴女が知ってる範囲で構いませんので」
「はい、えっと……。父が死んでからは、私の身を引き取ってくれた方が一人います。その人の部下が30名ほど、だったと思います。……あぁ、これはあくまでその方の部隊です」
「……となると、他にもそういう部隊があると?」
「はい。でも、その数も私はわからないのです。……えっと、それらの部隊を束ねるのが、私の祖父を含めた3人の方たちです」
「その2人も……」
「はい、アルドノアを持ちます」
「貴女を引き取った人物はアルドノアを?」
「いえ、それは違います」
鞠戸は生唾を飲む。この時点で敵対するアルドノアグールは少なくとも3人いることが発覚した。今まで戦ったアルドノアグールを含めたヴァースを統率する3人の存在。それだけでさらなる脅威を感じざる終えなかった。
「でも、もう……その方には会いたくありません。あんな実験は、もう嫌ですから……」
再びアセイラムは視線を下げた。父を失った辛さは伊奈帆自身もわかっている。そんなときに自分を支えてくれる存在がいればとても安心だろう。けれど、その人物から精神的苦痛など受けたら、たまったものじゃないだろう。
「……あ、あと!私がヴァースから抜け出してきたときに、1人協力してくれた方がいるんです。その方はいろんなことを知っていて、ずっと施設暮らしだった私にそれらを教えてくれました。私の、和平についても理解をしてくれて、彼の手助けで逃げてきたんです。でも、私を庇ってくれて……もうどこにいるのかわからないのです」
突然何かを思い出したようで、目を開いてこちらを見る。その説明からして、その人物も争いを好まない喰種なのだろう。
「その……無理を承知で言いますが、その人物を見つけたら、保護してください。男性でクリーム色で少し長くて、背は多分、イナホさんより少し高いくらい、です」
一応その情報もメモしておく。ペンを止めると伊奈帆は顔を上げてアセイラムを見る。
「保護できる保証はありません。何せ、その時点で第3ののアルドノアグールとの戦闘がありました。それに対抗して多くの捜査官が出動していた。故に、彼らによって駆逐されている可能性もあります」
伊奈帆は淡々と喋り、アセイラムは少しビクッとする。少し顔が強ばっている。
こればかりはどうしようもない。けれどあくまで可能性の話である。生きている可能性も勿論ある。
「こちらの方で一応捜査を進めておきます。重要参考人なら動くでしょう」
「よろしくお願いします」
アセイラムは深々と頭を下げた。それをちらりと見ると鞠戸は机のものを片付け始める。
「今日はこれで終わります。アセイラムさん、ご協力ありがとうございました。また何かあればまた聞き取りを行います」
伊奈帆も続いて帰り支度を始める。メモ帳を閉じて鞄にしまうとき、ふとアセイラムの表情を見る。その顔は若干の寂しさを感じさせた。
そんな彼女に軽く会釈しながら、部屋を後にした。
コクリアから出て、やっと空気を感じる。このまわりは活気づいているわけではないが、車の音などはどこからか聞こえてきた。異次元から戻ってきた何かの物語の主人公さながらの感じだ。
「いろいろ聞けたが、まだ奥に潜んでいる感じはあるな」
「ええ。まぁ一気に聞けるなんてことはないだろうと思っていましたけど」
鞠戸はショルダーバッグを改めて方にかけ直し、天を仰ぐ。
「未知なる力を授けし喰種のお姫様、ねぇ」
そう、鞠戸が呟いたとき道路に車が止まっているのが見えた。そこに乗っている人物には見覚えがあった。
「おお、増田か」
「どうも。この時間まで聞き取りって聞いてたもんで、待ってました。乗ってください」
彼の車の後部座席の2人は乗り、21区へ戻って資料作りとなる。
車は発車し、道路を駆け抜けていく。窓から見える空を伊奈帆は眺める。ボーッと見つめるその瞳の奥には、先日の記憶が映し出されていた。
『そういえは、答えていなかったな。僕は何なのか、を』
『僕は、君の敵だ』
あの時の喰種も、暗がりでしっかりとは確認できてはいなかったが、髪はクリーム色で短くはなかった。それに身長も僕よりは高かった。
「そんなわけは、ないか」
そう、伊奈帆は呟いた。
それは、また記憶が曖昧なのだが、さほど年月は経っていないとは思う。過去の自分の姿を見て、おそらく僕が小学4か5の時だろう。
父が死んでから、母はほぼ一日中働いていた。祖父母も既に他界しているので頼ろうにも頼れない。死んだ父の保険金も葬儀やら何やらであっという間に消えてしまったのだろう。
疲れて家に帰ってきたときにはソファですぐに寝てしまっているほどだ。そして辛いことに、母は寝言で
『行かないで……。私と、スレインを、置いてかないで』
涙を流すその姿をソファの前で見る過去の僕を、リビングの入り口で僕は見ていた。今の僕でも胸が弾けそうになる。
それから僕はなるべく母に苦労をかけさせないように、家事を手伝い始めた。まずは単純な洗濯をしている。料理は時間を見つけて母が買った料理本なんかを見ながらおどおどやっている。
母は喜んでいる。その笑顔で過去の僕も笑っている。
そんな時間が過ぎていくとき、ここである出来事が起こる。僕にとって重要な、ターニングポイントが。
あるとき母がやけにニコニコしながら帰ってきた。
『どうしたの?』
『ふふふ。あのね、お母さんが大学の時に一緒だった人と偶然会ったの』
過去の僕にとっては、これを聞いたときはただ喜ばしいことだろう。いつも何処か暗く、時には涙まみれになるまで泣いていた母が、こんなにも笑っているのだ。
それからというもの、母の頑張りで収入も少し増えてくると、その人と度々会うようになっていった。やはりこの時点での僕は喜ばしとしか思っていなかったが、今ならわかる。
ぽっかり空いてしまった穴。それはことによっては広く、深い。それを埋めるには並大抵のことじゃあない。変に気を遣われてもむしろ邪魔なだけ。けれど、それを埋めるような存在が、あるときヒョイと現れたとしたら。その答えは実に簡単である。その存在に、頼り、依存する。
だから結果的にこうなったのだろうとわかる。
ほどなくして、母が結婚のワードを口にした。勿論、母は僕の本当の父を忘れることじゃないとか、多分この時の僕にはあまり理解できないだろうことを喋っている。でも、その僕も、今の僕も、同一人部だから。母がまたいつものように笑って過ごせるのなら、その事実を受け入れる方に挙手する。
そうなったのなら、その相手に会うのは当然だろう。後日、母は僕を連れて町へ出る。母はこの人ばかりに外出用のぴしっとした服装だ。
その母と一緒に歩き、待ちのカフェに入った。キョロキョロと目的の人物を探している。その人物はすぐに見つかったようで、笑顔がこぼれる。
机を避けて少し奥の席に進む。過去の僕は見るからにして緊張している。けれど、嫌な顔ではない。
何だか笑えてくる。
その人物はこちらに気づき、微笑して手を振ってくる。
『ごめんなさい。待った?』
『いいや、大丈夫さ』
母と過去の僕は手前の椅子を引いて座る。
『じゃあ、初めての顔合わせだね。この子がスレイン』
母が僕のことを紹介する。緊張でろくに言葉が出ない様子だが、ちいさくこんにちはと言って会釈する。
『それでね、スレイン。この人が、新しいお父さんだよ』
その、新しい父になる人物は指を絡ませた手をテーブルにおいて、今度はニッコリと笑った。
『初めまして。アーデル・トロイヤードと、言います』
久しぶりにみたあの顔。今まで忘れもしなかったその顔を見て、僕の中から憎しみが溢れ出した。