色々場面が飛びますので読みにくかったらごめんなさい
「………と言うわけで、色々調べたけど何もわからなかった。ごく普通の喰種だったよ」
あの戦闘後数日が過ぎた。伊奈帆たちは21区支部にトリルランを持ち込み解剖を行った。鞠戸たちがトリルランとの戦闘中に特殊能力について報告したところ、なるべく体が原型をとどめた状態で持ち帰り、解剖してその能力について解明しろ、との命令が来たからだ。
そもそも自分たちが生きて帰れるかもわからないのにそんな命令を出すのかと呆れていた。だが一人の捜査官、界塚伊奈帆のよってこの無謀な命令を遂行することができた。
「そう……だったんですか」
「あの”光を放つ喰種”が再び現れたって最近その話でもちきりだけどさ、一筋縄ではいかないようだな。まぁ上には俺らが報告書出しとくから」
「ありがとうございます」
そのまま伊奈帆は喰種の解剖など行う専門機関の部屋を出る。
普通は来る必要もないのだが、伊奈帆はあの能力について興味があった。今まで見たことのない不思議な力。あんな物をどこから生み出したのだろうか、とても気になっていた。考えてみても何一つわからないが、一つ気づいたことがあった。それはあいつの………。
「あ、ナオ君こんなところにいた」
ふと声がした方向を見るとユキ、鞠戸、佐々木がいた。
「界塚弟、これから俺らメシにするけど、お前はどうする?」
なんだ、もうこんな時間なのか、と伊奈帆は気づく。ずっとあのことばかり考えていたので頭から空腹のことを忘れていた。
「はい、僕も」
「全く、あの時はヒヤヒヤしたね。橋から落っことしてバリア解除したところを一気に叩くなんて発想出てこないぜ」
場所は移って四人は食堂にいる。広い場所に捜査官たちが多く食事をとっている。
四人は偶然か合わせたのか、皆カツ丼定食を食べる。そしておもむろに鞠戸はトリルラン討伐の時の話を始める。
「確かに、僕はヤツに弾丸がはじかれないか心配だったよ」
「いえ、撃つ直前までチャージを行っていたのであれは大丈夫でしたよ。射撃威力は佐々木上等のクインケの方が上ですし」
「というか、あの作戦私が一番荷が重かったんだよ!あいつにジャンプさせるように橋を壊して、着地した瞬間と同時にそこを破壊するってナオ君ハードな要求するんだから」
「そこも問題なかったよ。カームを助けた時だって的確に地面操作してた。プロト版クインケでも十分に使いこなしていたユキ姉の実力だからこそ頼んだんだよ」
「え、あ、そうなの?えへへ照れるじゃないか」
「「単純」」
「それよりも、あれから伊奈帆君浮かない顔してるけど何かあった?」
伊奈帆の向かい側に座っていた佐々木は少し心配そうに言う。
「あ、いえ、あの特殊能力について気になってて」
「やっぱりそうか。あんなモノを見せられては気になって仕方がないはずさ」
「でもとりあえず終わったんだし、ナオ君はちょっとは休んだら?この頃色んな人に質問攻めにあったりずっと考え事してるし」
討伐後、その場にいた6人はあの喰種についてたくさんの人から質問の嵐を食らっていた。10年ぶりの光を放つ喰種出現と言われているだけあって、みんなの興味はそれに集中している。
「うん。でも、案外あの時ユキ姉の言ったことは間違ってないかもしれないんだ」
「え、なんか私言ったっけ?」
「現場に駆けつける前、これはあくまで序章にしか過ぎない気がするって。多分始まったばかりなんだ、まだ見ぬ脅威との戦いが」
「どういうことだ?」
鞠戸はコップの水を飲み干し、伊奈帆の方へ身を乗り出す。
「あの喰種の話題であまり話されていませんが、13区の方はほぼ壊滅状態。そちらの喰種は紫オーガと同時に襲撃を開始した。しかも今回は紫オーガの下っ端と思われる喰種が数十体来たそうです。そいつらは不見咲准特等が一掃したそうですが。この一連から、おそらくやつらは組織になって動いていると思うんです。そして、紫オーガに特殊能力があったのなら、もう片方にもなにか特殊能力があってもおかしくない」
「なに!?トリルランがやられただと!!そんな馬鹿な、あいつの力は実験成功者の中でも強力だったはずだ!で、やったのは誰だ?あの”黒炎”ではないのか?」
クルーテオは突然の出来事に驚きを隠しきれない。
「は、はい。トリルラン様と戦っていたのは普通の
スレインはクルーテオに、あのトリルランがやられた時のことを正確に伝える。
「おのれ………。やつらもそれなりに強い人材がいたというのか」
「どうかなされましたか、クルーテオ様」
そこへクルーテオと同じくらい背の高く、筋肉質な体型の喰種が声をかける。
「ああ、ブラドか。21区に向かわせたトリルランがやられたのだ。数少ない実験成功者をこうもあっさり失うとは、予想外だ」
「それならこのブラドが出陣し、21区を潰してさしあげましょう。」
ブラドは余裕に満ちた顔で宣言する。
「だがブラド、トリルランが負けたところだ。そう簡単にはいかぬぞ」
「心配ありません。やつは自分の力を過信しすぎていて何も考えずに突っ込んだ結果、死んだのです。しかし私には戦略があります。これさえあれば私は負けません」
ブラドの目からしっかりした意志が見て取れる。
クルーテオもそれを理解する。
「ならばブラド、必ず勝利を勝ち取れ。我ら"ヴァース"のため、いや、
「なるほど、喰種が組織を作って襲って来ている可能性がある、か。しかも13区を襲ったヤツにも特殊能力があるかもしれないと.....」
ここは21区対策局。あちらこちらに建つビルよりも高く、かなり目立つデザインだ。
そんなところの上層階に、その部屋はあった。
茶色のいかにも高そうなソファに鞠戸と佐々木が座っている。目の前のテーブルには紅茶が入れてある。
その向かいに座るのは
久保田は対策Ⅱ課に所属していて、主に作戦の計画、指揮をする。喰種と戦闘を行う捜査官はほとんど対策Ⅰ課に所属する。
「確かに、ここ最近ヤツらは組織的な行動をしているようだ。偶然タイミングがあった、なんてことは考えにくい」
久保田は紅茶を啜る。
「僕も言われてみればそうだと思いました。喰種が組織を作るとは今まで無かったですし。さらに特殊能力を持つ喰種の登場。喰種側で何かがあったと考えられます」
佐々木は落ち着いた様子で話す。
「うん、そうだろうね。もちろん私もそう思っている。で、他にも言いたいことはないのかな?」
久保田は足を組み、二人をじっと見る。
「ええ、まあ。実は、あの特殊能力を持っていた紫オーガを倒したことにより、今後他にも強力な喰種がここ21区を襲ってくる可能性が高い。なので、熟練の捜査官を多数呼び入れた方がいいのではいか、と」
「ほう、鞠戸もちょっとは自分の意見を言うようになったな」
「あ、いえ、これは俺のではなくて界塚伊奈帆の意見です」
鞠戸は少し申し訳なさそうに言う。
「ん?界塚………あぁ、
「ええ、そうですね」
三人はかつて捜査官だった伊奈帆の父、淳也を思い出す。彼の顔を頭に浮かべ、久保田は少し微笑む。
「……で、その本人がここにいないということは、仕事があるから代わりに言っといてくれみたいなことかな」
「はは、そういうことです。なるべく早く報告しておいた方がいいです、なんて言われましたよ。さらっと人を使うところも似てますわ」
再び三人は笑いに包まれる。少しして久保田は真面目な顔に戻り、
「私もそうした方がいいと思ったんだがね、10、12,13と来て21なんて来るから他の区も警戒してるみたいだ。そう簡単に派遣は出来なさそうだ」
「そう……ですか」
「しょうがないですよ。まぁ、また来たら俺らが倒せばいいんですよ。それが喰種捜査官の仕事ですし」
鞠戸は紅茶を飲み干し、笑いながら席を立つ。佐々木も続いて立ち、鞠戸はドアノブに手をかけた。
「おい、鞠戸」
すると久保田が呼び止める。
「もう、いいんじゃないか?ずっと過去のことを引きずってても
少しの間があった。
鞠戸は久保田の方を振り返らず、部屋を出た。
「………」
「簡単に吹っ切れるなら、苦労はねぇよ」
ーーーーーブシャァァァァァァ!!!
男の体から血が噴水のように吹き出す。そのまま広い範囲に飛び散り、あらゆる色を赤に染める。いや、この光景は数え切れないほど繰り返されたのだ、染めようにもそこはすでに真っ赤である。
私は……一体何をやっているんだろう……。何度これを……見ただろうか、何度繰り返しただろうか。
終わりのない夢を見てるよう。ひたすら私を使い、ひたすら………実験。
そのたび誰かが死んでいく。
喰種が
時には人が
何も悪いことをしていないのに…。
ある人は腹から内蔵を飛び出して死んだ。ある喰種はあらゆるところから血を出して死んだ。ある喰種は突然破裂し、バラバラになって死んだ。ある喰種は脳に障害が出て、幻覚を見て、自分に赫子で攻撃して死んだ。
みんな、みんな、死んだ。私の持っている力の実験として。
くやしい、くやしい、自分の力のために関係ない喰種や人間が死んでいくのが、くやしい。
私は、何のために生きているのだろうか。私は………。
「おい、起きろよ姫サマ。まだ睡眠の時間じゃねぇぞ」
その言葉でアセイラムは我に返った。一人の喰種がアセイラムを無理矢理立たせる。
「アセイラム姫、頑張ってください。今のところ順調です。少しずつどのくらいが適応であるかわかってきています」
一体……何が順調なのでしょうか。次々と実験が失敗して死んでいくのが、これが順調……?
クルーテオ、あなたがやりたいことはこんなことなのですか?何かを手に入れるためには、何か捨てなければいけないとはいえ、こんな……無差別に殺してよいものなのでしょうか?
ねぇ、教えて、クルーテオ。これは……喰種のためなのですか?それとも、自分の………ため?
結局、あの後数時間も実験が行われた。いや、時計なんて見ていないので案外数十分で終わったのかもしれない。
もう、わからない。自分がわからない。
あぁ、死にたい、死んでしまいたい。こんな、辛い思いをするなら死んで楽に………。
そう自室のベッドで横になって泣いていたとき、誰かがドアをノックする。
「アセイラム姫っ!!お体は大丈夫ですか?」
スレインが慌てた様子で駆け寄る。
「今日は、今まで以上に実験継続時間が長い。しかも前回との休息時間が短かったと聞いてッ!無茶ですよ!」
「い、いえ、心配無用です。クルーテオがやるというならば私は頑張るまで、です。それに、私は喰種です。すぐに疲れなんかとれま………」
水を飲もうと立とうとした瞬間、力が一気に抜けて崩れ落ちる。
「アセイラム姫!」
スレインはすぐに駆け寄り、アセイラムを抱える。するとアセイラムの目からは涙がこぼれ落ちる。
「.....私はっ!悔しい...!私のせいでたくさんの喰種や人間が死にました...。私の力のために!私、自分が怖い、自分が憎い、.....でも、辛い、悲しい!ねぇ、スレイン...私の力は何のために.....私は何のために生きているの?」
これはアセイラムの溜まっていた本音だ。日々削られていく精神が限界を迎えた。
最初は自分ではこの力についてはわからなかった。前代未聞の力についてみな困惑した。だが、徐々にこの力を利用しようと考え始めた。
そして、アセイラムを当時世話していたクルーテオによって実験が行われる。
ちょっと調べるだけだから、この言葉から始まった。
最初は苦ではなかった。だが次第に実験はエスカレートし、力を他の喰種に埋め込み始める。加減がわからず、力の暴走で多くの喰種が死んだ。時には人間でもやった。当然死んだ。
そのうちうまく調整し、力の移植に成功した。ここで一つ驚きの事実がわかった。それは移植した力はそれぞれによって異なるのだ。同じ力は現れない。
また、その力には限度があり、最大量を出し続けると力が底を突く。一定量ならば、すぐにその分を生成できるのだ。
少しずつわかってくると、もはやクルーテオは止められなかった。アセイラムのことは気にせず、力のことだけを見ていた。もうアセイラムは道具にしか見えていないのだ。
クルーテオは、自分が最強の存在となることを目指していた。
それはスレインにも薄々わかっていた。
「アセイラム姫」
アセイラムが涙を流しながらもスレインの顔を見る。そこには決意を固めた面持ちのスレインがいた。
「僕に1つ、考えがあります。姫が望むのであれば」
次はブラドが動きだします
果たしてスレインの考えとは……?