夜も深まってきた。戦闘により街灯も倒され、ビルの屋上に設置した移動式ライトが唯一の光といっても過言ではない。
しかし、その光に対する闇の広さが、今の状況を表している。
相手の裏をかき、一斉に仕掛けるつもりだった。だがそれは通じなかった。それどころか、人数では勝っても精神面、”心”では負けている。
大勢があっけなく、あっという間に死んだ。
未知数の相手に、恐るべき破壊力。捜査官たちに恐怖を植え付けるには十分だった。
捜査官とはいえど、人間だ。全員がどんなことにも動じない性格な訳がない。これを見て恐怖を感じない方が滅多にいないだろう。
だが、それでも、抗う人間は必ずいる。
ブラドの正面から羽赫クインケの攻撃が飛んでくる。先ほどの大振りを感じさせないような、平気な顔をして防ぐ。
「なにを怯んでいる!ここでグダグダしていると全員死ぬぞ!」
少しばかりの静寂を破ったのは、不見咲だ。左手に持つキリガクレを横に振り、周りの者に喝を入れる。不見咲の方に振り向き、生唾を飲む。
死にたくない、当たり前だ。だが、ブラドを倒せるビジョンが見えない。どんな物でも必ず切り裂く刃にどう対抗すればいいのか。
すると、
「不見咲准特等、少し試したいことがあるので突っ込みます。ユキ姉、さっき僕が言ったとおりに頼む」
「?!」
「うー、わかってるよ!」
伊奈帆は一方的に告げると、そのままブラドのところへ走っていく。
「ほう、まだ戦えるヤツがいたか」
ブラドは自分と戦える相手が来て喜んでいた。彼も走り出す。
伊奈帆は槍クインケ、スレイプニールの刃を向けて、ブラドは甲赫を振り上げた状態で、交わろうとする。
ここで伊奈帆が仕掛けた。
ギミックチェンジだ。槍からライフルに瞬時に変形する。
「!」
流石にブラドにとってこれは予想外。槍の突きよりも早く切り裂こうとしていたのだ。
そのまま複数弾発射。ガードが間に合わず、被弾する。左脇腹にひとつ、左足にひとつ。
「ぐっ!」
痛みに顔を少し歪めつつ、甲赫で伊奈帆をなぎ払おうとする。だが、伊奈帆はブラドから見て左斜め前にいる。甲赫があるのは右手。
つまり、甲赫が伊奈帆に当たるまでの距離が生まれる。むろん、攻撃を避けやすくするためだ。
そのままサイドステップをし、甲赫の攻撃を回避する。
それで終わるなら苦労なんてしない。無駄なく次の攻撃を繰り出そうとする。
「ユキ姉」
その言葉を待っていたか、それとも言われなくても分かっていたか。ユキはすかさず自身のクインケ、アーマチュアαを使う。
地面を叩くと、瞬時に指定したポイントが四角く切られ、そのまま棒状となってブラドのところへ飛び出す。
出てきた音で気づく。後ろを振り向き、その勢いで軽々と斬る。
これにも色々な狙いがある。
このスキを逃さず、ブラドの背中に打ち込む。
「……!ちょこまかと!!」
自分がたった2人にもてあそばれている状況が気にくわなかった。ここで再びブラドのアルドノアが巨大化する。相変わらず不気味な音を発している。
伊奈帆は素早く後退する。それを簡単に逃がすわけもなく、
「消し飛べ!!」
上から見て今度は左回転で衝撃波攻撃をしようとする。この距離ではもろに食らってしまう。
が、
ーーこれを待っていた。
「今だ!」
これが勝負を決める瞬間。
ユキがクインケを作動させる。
ガガガガ、ガガガ
伊奈帆の目の前に地面が壁となって出てくる。
ーーハッ、そんな物では防げんぞ……!
ブラドはニヤリと笑みを浮かべて思う。
そう、防げない。ブラドのアルドノアをまとった甲赫はどんな物でも切り裂く。建物でもいとも簡単に壊すのだから、壁なんて言うまでもない。だから、これは
本命は別の場所。ブラドが甲赫を振る軌道上にそれはあった。
ダミーの壁よりも太く、長方形と言うより正方形に近い形で地面に垂直で飛び出してくる。
これはちょうど攻撃が伊奈帆にあたる直前、ブラドの腕、手首から肘の間あたりにぶつかるように出ていた。
これにより、つっかえて攻撃が止まる。
伊奈帆はこれを狙っていたのだ。
ブラドのアルドノアは主に手首から先で形成されている部分が刃である。通常時は手首から肩までにもある程度アルドノアをまとっているが、衝撃波を撃つ体勢になるとより力を放出するためか、刃の部分にほぼすべてのアルドノアを集めるため、その部分は何もまとわない状態になる。
伊奈帆はアルドノア事態に何か破壊する効果がある可能性は否定できないとしていたので、この戦法にした。
ーー斬撃を防げないのなら、攻撃させなければいい。
ダミーの壁から瞬時に飛び出す。クインケはいつでも撃てるよう、雷が十分にチャージされていた。
ブラドが甲赫でガードしようとする。が、それをする時間なんてなかった。
伊奈帆はトリガーを引いた。相手の心臓あたりめがけて。
雷をまとった弾はブラドに被弾、直後に高電圧により爆発する。
その衝撃で十数メートル先まで吹っ飛ばされる。
「………やったの、か?」
「すげぇ………」
「なんてやつだ………」
皆、敵を倒せた喜びよりも、圧倒的な差を感じた相手を見事な連係プレーで倒したという驚きでいっぱいだった。
伊奈帆は倒れるブラドの近くまで寄る。右腕の甲赫からはアルドノアは消えていた。
「………?」
ザザッ……
『………るか?聞こえるか?応答せよ!』
ここで無線がつながり、久保田の声が聞こえてきた。
「こちら不見咲、戦闘により敵の討伐に成功した、もようです」
不見咲がすぐに状況を説明する。
「討伐?!そうか、よかった……。先ほどの一発で設置したカメラがやられ、通信もできなくなって、まさか……と思ったよ」
確かに、ブラドが放った衝撃波の後から対策局と連絡が取れなくなっていた。
衝撃波の影響かと考えたが、可能性はほぼ無い。または手下によるジャミングとした方が納得がいく。
まぁ今はそれは問題ではない。怪我人、喰種の遺体の搬送などが………。
「警戒態勢!」
「?!!」
突然、伊奈帆が叫ぶ。と同時に後ろへと下がる。
見ると、倒したと思っていたブラドが立ち上がっていた。
「何故……!」
伊奈帆もどうして死んでいないのがわからなかったが、ブラドの姿を見て目を見開く。
ブラドの心臓あたりに何かうごめいていた。
赫子、甲赫だ。両肩にあったのだ。
「全く、ここまで私を追い込むとは予想外だったよ。君たちは強い」
左の甲赫は、右のと同じ位置に移動する。伊奈帆はまさか、と悟った。
「だからこそ、ここで本気を出さないとな。無礼だ。」
両手には甲赫で形成した刀。軽く上げた状態で止める。
「抜刀」
刹那、水色のオーラが甲赫を包む。ヤツは、二刀流だったのだ。
「……!」
伊奈帆がとうとう顔を曇らせる。完全に予想外の事態。
さらに追い詰めるように、ブラドは右甲赫のアルドノアを活性化する。
これは強力が故、遠心力でとばす時にスキが生まれる。そこを再び突こうとユキは自信のクインケを使う。
が、出てきたコンクリート棒は左側で切り裂かれる。
「同じ手を何回も食らうと思ったか!」
そう言い放つと、回転もなしに衝撃波を放つ。下から上に切り上げるようにして発生した衝撃波は、まるでサメの尾びれのように襲いかかってきた。
「なんだと!」
誰かが言ったその言葉はあっという間に切り裂かれた。
「……まずいな」
不見咲は愚痴をこぼすように言う。
『おい、どうした!?』
「敵は生きていました。それも、甲赫を二つ持っています。なので、どんな物でも切り裂く刀が二つあるということ、です!」
ブラドが無造作に攻撃を放っているため、それを避けながら久保田に状況説明する。
この猛攻撃により、その場はかき乱されていた。逃げるので精一杯なのだ。
だが、ここで1人の捜査官が死体に蹴躓いてしまう。
「起助!」
「起助!逃げて!!」
その光景を見た伊奈帆と韻子が叫ぶ。
この状況で転ぶ。あたりには建物があり、逃げ場がそんなに無く、そもそもブラドが起助に狙いを定めた。
「う……ぁぁ……」
自分に向けられた殺意を感じてしまったか、起助は立ち上がれない。
殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される
「自分の不運を恨め」
衝撃波を繰り出す。無慈悲に、只一直線に進み、起助を襲おうとする。
伊奈帆たちが助けに行こうとするが、追いつくはずもない。ユキのクインケは先ほどブラドに集中攻撃され、破壊されていた。
為す術なし。あぁ、あっけねぇな。僕の人生………。
ドガァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!
ブラドの猛攻により、一瞬目を離した。そして、すぐに目線を戻すと、そこには建物が崩れ、土煙が舞っていた。
「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」
韻子がブラドにひたすら羽赫クインケで撃ち込む。
目の前で起助がやられた。仲間がやられた。
その怒りは押さえつけることはできない。
「韻子、落ち着け!闇雲に撃っても意味がない!」
伊奈帆はブラドの攻撃を避けつつ、韻子に向かって言う。
けれど、その声は届いていないようだ。ひたすら撃ち続ける。
不見咲も動きを見極め、撃ち続ける。
途中で右手の方のクインケが不具合で動かなくなると、やられてしまった捜査官が持っていた羽赫クインケを拾い、撃つ。
生き残った他の捜査官も、クインケを拾って撃つ。
全員がこうして撃ちまくっているのも訳がある。もちろん、近戦では圧倒的に不利だからというのもあるが、もう一つある。
ブラドが疲労してきている。
さきほどから、動くスピードが落ちている。最初よりも鈍くなり、息もあがっているのが見て取れる。
誰かが撃った弾丸が、完全ガードのはずだったアルドノアを貫通し、ブラドの肩をかすめる。
「……不見咲准特等」
「あぁ、どうやら相手も余裕はないみたいだな」
2人は少し言葉を交わし、再び相手に注意を向ける。
ブラドはぜえぜえと息を切らす。
ーークッ、ここまで追い込まれるとは……。アルドノアを使いすぎた、体が保たない……。
………ならば!!
ブラドは決心した顔つきになり、1人を標的にして全力で走り出す。
不見咲の方だ。
「!!」
まだこれほどの力が残っていたのか、と驚くがクインケを構え、放つ。
ブラドは左手の方でガードする。もう限界か、いくらかは貫通している。
「最初に我と一戦交えた者よ!貴様だけでも!!」
ブラドの初戦闘。そこで不見咲はブラドに傷を負わせている。だからこそ、なんとしてでも倒したかった。
「喰種が、准特等をなめるな」
不見咲は左肩に集中攻撃をする。いくらかは貫通し、徐々に当たる数が増えてきた。
そして、互いの距離が6メートルくらいになったとき、ついに耐えきれなかったかブラドの左腕がはじける。綺麗に宙を舞い、後方に落ちる。
「っ!!!」
ちぎれた痛みが全身を駆け巡るが、そんなことはどうでもいい。
今は、目の前の相手を!殺す!!
そのまま距離を縮めて、右手を横に振る。
不見咲はそれを低姿勢で避け、再び距離を置く。それと同時に、何発かをブラドの左脇腹に撃ち込む。
彼はそれを防ごうとはしなかった。その代わりに、悲鳴を上げる体に鞭を打ち、全力の衝撃波を放つ。
放たれたそれは不見咲に襲いかかる。だが、不見咲はまたも姿勢を低くし、ギリギリのところでかわした。
その直後、スローモーションのようだった。
彼女の目には衝撃波が迫っているをとらえた。
ブラドは衝撃波を放ったすぐ後にもう一つ作っていたのだ。
「くっ!!」
彼女も体に相当なダメージを負っているが、それでも低姿勢から無理矢理横に飛び込む。
直撃は免れたが、キリガクレが綺麗な断面を残し、只のガラクタと化してしまった。
二つの衝撃波が今は瓦礫の山同然のところに突っ込む。
一回転し、体制を立て直した不見咲は、脅威の青白い光が空気に溶けていくようになくなったのを見た。そのまま片膝をつく。
「はっ、はっ、くぅ………!」
渾身の二撃で仕留めた、と思っていたのだろう。今は唯一の光を失ったかのような、意気消沈とした雰囲気がマスクを漬けていてもわかった。
「………もう出尽くしたか、騎士よ」
不見咲は息をなんとか整えながら言う。
周りで散開していた伊奈帆たちも集まってきた。
「不見咲准特等、こいつは駆逐しますか、それとも捕獲して情報を聞き出しますか?」
伊奈帆はいつものように落ち着いた感じで不見咲の指示を仰ぐ。
「私たちはコイツらについての情報が限りなく少ない。ここは完全に動きを封じてから捕獲……」
そう、言いかけた時だった。何か、陰で動くのを見た。
「避けろ!!」
これが何か危険を示す物だとすぐに察し、全員後退する。
先ほどいた場所に羽赫の攻撃が突き刺さる。ブラドと伊奈帆たちを分ける境界線のように撃たれた。
途端に、新たな喰種が5体現れた。全員、半分が白で半分が黒のマスクを着けている。うち1体は羽赫を出しているので今のはこいつだろう。
「すまんねぇ、コイツぁ俺らが預かるよぉー」
ある1体の喰種がしゃべる。ずいぶんだらしない話し方である。
「意味がわからないな。そんなの許すわけないだろ」
伊奈帆がクインケを向ける。
すると、そいつはフフッと笑うと、
「はぁい、勿論許さなくて結構ですぅ~」
ふぬけた返事をすると、地面から赫子なのだろうか、が何本も飛び出して壁を作った。
「ではでは、失礼しますでー」
巨体の喰種がブラドを抱え、そのまま離脱する。
「まっ、待て……」
不見咲のその言葉をかき消すように、どこからか羽赫クインケの攻撃が喰種向けて飛んでくる。
それは簡単に防がれてしまい、彼らは闇に消えた。
その攻撃が来た方を向くと、久保田率いる捜査官たちが駆けつけていた。
多くが周りで倒れている捜査官たちの救助に向かう。
ユキやライエなどは担架に乗せられていた。
「すまない、もっと早く駆けつければ良かったんだが、運悪く対策局にも攻撃が来てね」
「え、対策局にもですか?!」
久保田の発言に韻子が驚く。
「あぁ。さっきのマスクと同じ奴らだった。幸い、そこにも喰種捜査官を置いておいたからなんとかなったがね」
久保田とそう会話をしていると、
「おい、クラフトマン!しっかりしろ!!」
その単語に伊奈帆と韻子はすぐ反応する。見ると、担架を持った捜査官たちが先ほど起助にむけて攻撃された場所にいた。
すぐさま駆け寄ると、左足の膝下からが無い、悲惨な姿のカームがそこにあった。
「きゃっ!」
「カー、ム……」
2人は呆然としていた。
「……ハハ、すまねぇな。ちょっとミスった……わ」
痛みに耐えながらも、カームは2人に言う。
「無理に喋るな。おい、救護班、こいつを頼む!」
カームを乗せた担架が運ばれる。
そして、そこには涙でぐしょぐしょになり、俯いて魂が抜けたような姿の起助がいた。
「おい、これは一体どういうことだ……」
クルーテオは唖然としていた。
ヴァースの会議が終わり、戻ってみるとこの有様だ。部屋のドアやら置いてある物は壊れ、通路は荒れに荒れ、何十人もの手下が死傷していた。
そして、その場に
「おい、アセイラム姫とスレインはどこだ?!」
まだ喋れる手下の胸ぐらをつかみ、彼らの行方を聞く。
いつもの冷静冷徹な姿とはかけ離れ、焦りを隠しきれない様子にビックリしながら手下は答える。
「……そいつらですよ」
「何?」
「その2人が脱走したんですよ。スレインが俺らを攻撃してアセイラム姫を連れ出しました」
「!!!」
クルーテオはそれを聞いて衝撃を受けた。
いつも威圧をしていたら逆らわないと、勝手に思っていた。
だが、それは大きな誤りだったようだ。
さて、
しつけをもっと厳しくしないとな。
「わかった」
手下を離す。
その時のクルーテオの顔は、いつものような冷静なポーカーフェイス。だが、そこには底なしの怒りがにじみ出ていた。
「動けるやつはどのくらいいる」
周りを見渡しながら大声で言う。
すぐに救護以外の手下が集まってくる。
「今すぐ2人を探し出せ!!周りの仲間に情報を聞き出し、なんとしてでも連れ戻せ!!姫は慎重に扱え、スレインはいくら攻撃しても構わない!!」
声を張り、指示を下す。喰種の何人かは”攻撃”に反応し、ニヤリと笑う。
「行け!!!」
それを合図に全員外へ出て行った。
そのあと、クルーテオは少しうつむきながら考える。
「ブラドの方は大丈夫だろうか。私の手下を送り、何かあったら報告するように伝えておいたのだが……」
「さ・て・と。ここだね」
5人の喰種が立ち止まり、ブラドを雑に落とす。
「ぐっ!!……貴様らはなんだ?クルーテオ様の、部下ではないな?」
ブラドは知っている。襲撃作戦を行うにあたって、クルーテオの部下を何十人か参加させた。
そう、クルーテオのならマスクがグレーだ。
幹部を表そうとしているのかもしれないが、そもそも知らない。クルーテオなら物事を細かく指示するはずなのだ。
「あぁ、そうだぜぇ。んでさ、クルーテオのはって、あれやろ?」
彼が指さす場所に目をやる。すると、そこには十数人のクルーテオの部下の無残な死体が山積みになっていた。
「!!?!きっ、貴様ァ!!誰の!誰の差し金だ!!」
声を荒らげ、その喰種の胸ぐらをつかむ。
すると、
「私だ」
ふと後ろから声がした。それはどこかで聞いた覚えのある声。
振り返ると、ここにいるわけがない方だった。
「なっ!?!何故、こんなところに……あなたが……」
その人はゆっくりとブラドに近づいてくる。
そして、質問に答えた。
「知る必要はない。何故なら、君はここで死ぬからだ」
次の日だった。戦闘被害を検査するためにきた捜査官たちが、無残に、殺されていたブラドを発見したのは。
ブラドをどう倒したらいいか考えてた結果、ゴリ押しになりましたw
次回はスレイン中心に行きたいな、と