ジャンヌ・オルタは不器用可愛い   作:雨あられ

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ジャンヌ・オルタは不器用可愛い

贋作英霊たちを倒し、最後には、リーダーとして本気で戦い……そして、自らも消えていくことを選んだ彼女/黒い聖女。

 

『いい、ここまで恥を掻かせたんだからね。貴方が、きっちり、責任を取るのよ?』

 

そういうと別れの言葉をつぶやき彼女は、寂しげな、

けれど強気な、

そんな笑みを浮かべて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩。何をしているんですか?……え?ぎ、儀式ですか?触媒を用意するほど当たりやすくなる?はぁ…」

 

ここはカルデアのとある一室。

英霊・召喚システムフェイトを要する、青白い光を放つ大きな工房。

 

「先輩、今度は何を……え?光が最大になる時を待ってる……何を言っているんですか?」

 

薄紫色のボブカット、眼鏡と白衣を身に着けた、後輩系デミサーヴァント……マシュ・キリエライトは困惑していた。

自分のマスターが、時々すごくおかしなことをするのは知っていた。けれどもそのおかしなことを口走るのは操られていた時や、脳で処理を行うのが不可能なレベルの異変に出会ったなどの、明白な理由がある。

 

「先輩……失礼します」

 

むにいっと、思いっきりマスターの頬っぺたを引っ張ってみる。

 

「え、痛いですか?……そうですか、あの、すみません…」

 

どうやらマスターは正常だったらしい。ぱっと手を放し慌てて謝ると、向こうは気にするなといって微笑んだ。精神、身体、どちらも問題がなさそうだ。では、なぜ、召喚スイッチを前に、マスターは祈りをささげているのだろう。…あ。

 

「もしかして、ジャンヌ・オルタさんのために?」

 

触媒、ではないが、次にマスターが取り出したのは虹色に輝く聖昌石…!この世界(カルデア)において、魔石1つは礼呪3画分に匹敵する。それを4つほど投入して、マスターがサーヴァントや礼装を召喚、錬金しているのを見たことがある。

しかし……マスターがあれを使って喜んでいる姿はほとんど見たことがない。

クーフーリンさんやカエサルさんといった強力な英霊を召喚しても、この世の絶望と、あきらめに近い目をマスターは浮かべる。最後に喜んでいたのは、ジャックさんやアルト…ヒロインXさんがこのカルデアに来たときでしょうか。それくらい、あれは先輩を惑わす悪魔の石…

 

「先輩、確かに、彼女は責任をとってほしいとは言っていましたが…って、先輩!!!」

 

石ならある。

先輩はそう言って懐からすごい数の聖昌石を取り出した。1、2…ざっと見ただけで50!

 

「すごいです、先輩!これだけあれば、ジャンヌ・オルタさんも召喚できます!」

 

地道に、色々なクエストをこなして集めたのだろう。

そう私が言うと、マスターも嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、そう、肩を落とさないでください。」

 

まぁ、知っていた。

そう先輩はつぶやくと、死んだ魚のような目をしながら、バイクや魔猪といった強力な礼装たちをまとめてダ・ヴィンチちゃんの質屋…もとい工房へと持って行ってしまった。

 

「あ、先輩。どうしたんですか。え、まだ終わっていない?」

 

ウィンと自動ドアを通り、戻ってきたマスターの顔には、先ほどの召喚システム起動前のような、希望に満ちた顔。ぱっと私に見せてくれたのは、金色の…これは呼符!それも5枚も!

 

「これだけあれば、いけます!先輩!」

 

召喚と同じほどの魔力を秘めたこの呼符なら!

 

「え?フラグを立てるな?す、すみません」

 

先輩はいつになく真剣な目をしてそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サーヴァント、アヴェンジャー。どうしました?その顔は」

 

あまりの驚きに、召喚を行った体制のまま固まっている先輩の方へと歩み寄っていく黒い聖女。驚いた、金色や虹色の光が出ることもなく、普通に召喚された。彼女は、まさしく、オルレアン、そして、この贋作騒動の黒幕…!

 

「え?来るとは思わなかった?…ハ、白い方じゃなくてさぞ残念でしょう。

……そんなことはないですって?」

 

「はい、先輩は、あなたを呼びたかったらしいです。ジャンヌ・オルタさん」

 

「私を?……酔狂なマスターも居たものね…。まぁ、良いわ、私の憤怒に、焼き殺されないように気をつけなさい……さぁ、これが契約書よ」

 

ピラと、彼女が取り出したのは、A4用紙ほどの紙。

契約書?サーヴァントとの契約の際に、そんなものを書いただろうか?

好奇心から、先輩の方へと近づき、契約書をのぞき込んでみる。

 

「先輩、これ…」

 

これが、契約書?字は綺麗で読みやすいが、マスターの名前の部分がみみずがのたくったような字で読み取れない…、そしてなにより…。

 

「あの、漢字がところどころ違うようですが…」

 

何時は、ではなく、汝は、だろうし、結すぶとか、振り仮名もおかしいような…

 

「……そんなわけないでしょう。漢字辞典にもちゃんと…」

 

わたわたと慌てて、自分の書いた契約書を見直すジャンヌ・オルタさん。

しかし、そんな彼女をしり目に、マスターは、その紙をすっと受け取ると、胸にさしていたペンでさらさらと名前を書いていく。そしてそれを彼女に渡すと…

 

「ようこそ、カルデアへ?ですって、ふん、勘違いしないでください。私はあなたをマスターとして認めたわけではありませんから」

 

差し出された契約書を見て、彼女は、邪悪な笑みを浮かべる。

しかし、その邪悪さとは裏腹に、慎重な手つきで出された契約書をくるくると丁寧に、大事に、しまい込んだ。そして、そのまま手を差し伸べるマスターの手を払って工房を出て行ってしまう。でも

 

「よかったですね。先輩」

 

あれくらいの塩対応。私のマスターにとっては慣れたものだ。

それよりも、彼女が望み通り来てくれたことを心のそこから嬉しそうに……

 

「そういえば、ジャンヌ・オルタさん、このカルデアの中の事はご存じなのでしょうか?」

 

「……」

 

背を向けて駆けだしたマスターに慌てて続く。なんだか、非常に嫌な予感がします!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む?」

 

「げ。世界最高にいけ好かない女がいるわね…」

 

遅かった!

通路で彼女の背中をみつけたと思えば、その正面には……

 

「聖なるものが、真っ黒い聖剣なんかつかっちゃって……気色が悪い」

 

「出会って早々、口の減らない聖女/復讐者もいたものだな。生憎鏡は持ち合わせていない。自分自身への悪態をつくのならトイレにでも行ってくれ」

 

「はぁ?」

 

「お、落ち着いてください二人とも」

 

ドントストップ!と叫ぶ先輩、きっと意味もなくぼけた、いつもの病気だ。それどころではないというのに!

彼女の名はアルトリア・ペンドラゴン…。そう、かの英国の騎士王が聖杯によって黒く染まった存在。

 

「キリエライト、何だこいつは」

 

「はい、えーっと、ジャンヌ・オルタさんは今日先輩が召喚なさった、新しい…」

 

仲間だよ。そう言って嬉しそうに笑うマスター。まったくこの人は。

 

「ふむ、マスター。がそういうのであれば、そうなのだろう。よろしく頼む」

 

「……へぇ、これは驚いたわ。さすがは淀み切ったブリテンの騎士王。すっかりマスターの従順な…犬ね」

 

「…おまえは相変わらず多弁だな。さすがはオルレアンの乙女といったところか。町娘と変わらない精神構造、というのも考え物だ。頭の中はお花畑か?」

 

…ああ、先輩、先輩!邪悪な空気が渦巻いています。すごく、すごくこの場から逃げ出したいのですが。

仲良きことは美しきかな?…ですか?

先輩、目、大丈夫ですか…!?

 

「あの、セイバーさん、ジャンヌさんも初めての環境できっと心中穏やかではないのだと思います。なので…」

 

「ああ、わかっている。味方になってまでいがみ合いを続けるつもりはない」

 

っほ。

そういってセイバー・オルタさんは柔和な笑顔でその白い手を差し出した。その様子を見て、っち、と舌打ちをしながらも渋々ジャンヌ・オルタさんも手を差し出し……!?

 

「…!?これは」

 

「おっと、うっかり手から画鋲が生えてしまったようだ」

 

セイバーさーーん!!!

よく見ると、彼女の差し出した手の平にはきらりとかがやく金色の画鋲が……

 

「吼え立てよ、わが憤怒<ラ・グロンドメント・デュ。ヘイン>!!」

 

「なに!?ぐ、貴様!」

 

「醜い顔ね!いいわ、その憤怒!私の憎悪とどちらが強いかしら!」

 

「あぁ…やっぱりこうなってしまうのですね。先輩、指示を!

…え、ジャンヌさんを全力で援護?は、はい、わかりました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘はすぐに終わった。

セイバーさんは宝具など使わずとも、持っている黒い聖剣を何度か振るうだけで、ジャンヌさんを圧倒する。そして、危なくなったところへ、私が滑り込み、盾で攻撃をはじき返すと、セイバーさんはそれ以上の攻撃をやめてくれた。

 

「はぁ、はぁ、どうして、こんなにも、私の力が?」

 

「フン、知らないなら教えてやろう。お前は召喚されて間もないのであろう?だったら、貴様のレベルは……1だ!」

 

「な、そ、そんなこと聞いていません!私は、呼ばれたこの瞬間より、最高の力をもってマスターちゃんのやく……ん、もとい、マスターを含めた世界を蹂躙する役目があるというのに!」

 

「せいぜい、マスターに種火をつぎ込んでもらうことだな。ちなみに、私のレベルは80だ。当分、無謀な喧嘩はやめることだな。」

 

「ぐ…ジル、ジルはどこですか!すぐにたねびとやらを100こ用意するのです!そうすれば、私もレベル100に…」

 

「……残念ながら、一番良い種火が100個あってもレベル60にも到達しません。それに、ジャンヌ・オルタさんの場合、エクストラクラスなのでほかのクラスより経験値が上げずらくて……」

 

「……話が違うわ!く、こんなはずじゃ……

……え?これから一緒に強くなっていこう?……!」

 

先輩はそう言って床にへたれこんでいたジャンヌ・オルタさんに回復のスキルを使う。

彼女は、治癒が行われている間、まるでシャワーをかけられたフォウさんのように硬直していたが、治癒が終わると、いつもの苦虫を噛潰したような表情に戻る。マスターに手を差し出されると、それをはじいて旗を杖のようにしてよろよろと立ち上がる。

 

「…まぁ良いでしょう。卑しい先王、ヴォーティガーンのそっくりさん。首を洗って待ってなさい」

 

「ああ、そうしよう。汗をかいたのでシャワーを浴びたい気分でな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、先輩、私、疲れました…

廊下を歩いていると、「セイバアアアアアア!」という掛け声とともに、私以外の人気出そうなセイバー顔は倒します!と切りかかってきたアルトリ……ヒロインXさん。たまたまリリィさんが通りかからなければ、きっとバラバラに切り刻まれていたでしょう。ジャンヌさんは、いつものように憎まれ口をたたいていましたが、先ほどの一件があったからかずっと私とマスターの後ろに隠れていました。

 

部屋に向かう途中の庭園で出会ってしまったのが清姫さん。はじめからクライマックスとばかりに、清姫さんに異常だの、尼になった方が良いだのと吐き捨てていくジャンヌオルタさん。胃がきりきりと痛みましたが、この段階では、清姫さんもにこにことジャンヌ・オルタさんと会話をしていました。(曰く、正直者は好きとのことでした)

しかし、ジャンヌオルタさんがどや顔で契約書を見せびらかしたところから、清姫さんの様子は一変。契約…婚約…シャァ!!!!と言って襲い掛かってくる。二人の憎悪は絡み合い、爆発し、たまたま歩いていたドクターは瀕死の重傷に……

 

しかしそんなこんなで。

 

「や、やっと着きました。」

 

白い廊下を進んでいくうちに、やがて、彼女のような新規で加入した英霊のための部屋が目に入る。

 

「ここ?……質素な部屋ね。まるでドブネズミの暮らす下水道みたいな場所…」

 

「そういわないでください…。近年、英霊が急速に増えてしまい、急遽増築したくらいなんです…」

 

10畳ほどの部屋に収納スペースやホログラムシステム、ガルデアの作り出した文明機器の数々など、暮らしていくには十分すぎるスペース。それに、先の亡霊マンション事件以来、なるべく英霊のみなさんには、不自由なく暮らせるように改善も行われている。だが……彼女には合わなかったみたいだった。

 

「ここでは駄目ね、まいるーむとかいうところに連れていきなさい」

 

「…な!?」

 

そんな!新参者のサーヴァントが、いきなりあの聖域にふみこむなんて!

マイルーム通称、マスターとのいちゃつき部屋。私でも、最近はイベントや異変がなければなかなか立ち入れないというのに…!マスターだって、きっと、いきなりそんな…え、OKですか?軽くないですか先輩……

二人が新しい部屋を後にして、マイルームに入っていく姿を、私は黙ってみているしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くくく、見た?あの娘の顔?自分がいつまでも隣にいられるなんて思っているから足元をすくわれるのよ、くくく!」

 

部屋に入るなり、ベッドの上に座り込むと、膝を抱えて笑い出す。

どうやら、この部屋にやってくることは、こちらに何かしたいからというわけではなく、単にマシュに意地悪をしたかったかららしい。何とも彼女らしい。しかし、せっかくカルデアに来たのだから、みんなと仲良くしてくれた方がこちらとしては有り難いが…

 

「仲良く……?ハ、そんなの、復讐者(ワタシ)が黒聖女(ワタシ)でなくなってしまうわ!面倒で、ヒール役で、捻くれもの…それが、ジャンヌ・ダルク(ワタシ)なのでしょう?」

 

確かに、そういわれれば…、まぁ、そういうところもまた彼女の魅力なのだけれども。

 

「…あなたって、相当な変わり者よ…」

 

ゴロンと、寝転んで壁の方へと向いてしまう。

自分自身、彼女が寝ているベッドへ腰かけると、特に、言葉をかけるでもなく、なんとなく時計を眺めていた。こくこくと流れる時間。なんとなく、眠くなってくる。

 

彼女も寝てしまったのだろうか。そう思っていながら目をつむると。

 

「よろしく…マスター…」

 

ぎゅっと、袖を摘ままれてしまったようだった。あぁ、やはり彼女を召喚してよかった。

自分もベッドで横になると、背中を向けたまま、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日、カルデアには血の雨が降る。そう、マスターちゃんと一緒に寝た。という彼女の誤解ある発言のせいで……

 

 

 

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