おかえり、ペロロンチーノ   作:特上カルビ

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一緒に出発

「うむ、ご苦労だった、プレアデス達よ。各々持ち場に戻るがいい」

 

 笑顔のルプスレギナは元気よく頭を下げる。他のプレアデス達も無念の気持ちを振り払うように優雅な一礼をし、命令に従って執務室の扉へと向かう。

 

「アルベド、シャルティアを呼べ。任務に必要なアイテムを貸し与える」

 

「畏まりました」

 

 捕縛した陽光聖典から聞き出した情報で、この世界にはユグドラシルには無い特有の能力が二つあることが判明していた。生まれながらに異能を持つタレント、特殊技術(スキル)とは異なる戦士の魔法とも言える武技。アインズはこの二つに高い関心を寄せ、いなくなっても問題の無い使い手を捕獲して来いと、命令を下していた。どうにかして、これらをナザリックの強化に活かしたかったのだ。ペロロンチーノがいることで、この場所を守るというの意思はかなり強くなっている。

 

「あっ、アインズにシャルティアの任務で言いたいことがあったんだ。ユリ、少し待ってくれ」

 

 名前を呼ばれたユリは扉に伸ばしていた手を下げ、先程まで立っていた場所へと戻る。

 

「どうしたんだ、ペロロンチーノ?」

 

「シャルティアの供にユリをつけようと思ってる」

 

「ふむ、それはいいが理由はなんだ?」

 

「血の狂乱を防ぐためだ」

 

「なるほど。だが、シャルティアもそうならないよう行動するんじゃないか?」

 

「アインズはシャルティアの脳筋っぷりを分かってない。雑魚を狩りまくって調子に乗った挙句(あげく)、暴走する姿が俺には見える。それに予想外な状況になっても、冷静に助言のできるユリがいた方がいいと思う」

 

「成る程、理解した」

 

 普段のシャルティアの言動を見るに、あり得る話だと納得する。

 

「シャルティアもユリと一緒だと喜ぶし」

 

 そう意味深な言葉を発したペロロンチーノは、チラリとユリを見る。何か思い当たる節があるのか、僅かではあるがユリが反応を示した事にアインズは気付く。シャルティアが何故ユリと一緒なら喜ぶか考えるが、皆目見当(かいもくけんとう)もつかない。

 シャルティア・ブラッドフォールン――見た者の心を鷲掴みにする美貌とは裏腹に、数多の設定を紳士ペロロンチーノにより組み込まれていた。両刀、嗜虐(しぎゃく)趣味、ロリババァ、ロリビッチなど、ありがちな設定を惜しみなく与えられ、他にもまだまだ存在する。ユリは数ある性癖の中にある屍体愛好家(ネクロフィリア)と巨乳好きに合致しているのだ。シャルティア自身も一見巨乳に見えるが、幾枚にも重ねたパットで盛り上げているだけで実際はほぼない。自分は貧乳だが巨乳に目がない、これもペロロンチーノが描いた譲れない(こだわ)りの一つ。

 ユリもその性癖を知っていて、飢えた獣のような目を向けられる(たび)、反応に困っていたのだ。シャルティアの期待には応えられないが、階層守護者を無下に扱うこともできないジレンマ。

 そんなユリの心配をよそにアインズとペロロンチーノの会話は途切れることなく続いていた。シャルティアとユリの関係、ナザリックの強化計画、冒険者になった時の方針、アルベドにはアインズがとても活き活きしているように見えた。至高の御方が誰も来なくなってから見せていた、哀愁漂う姿はそこにはない。アルベドはただ微笑み、愛する至高の御方を見つめた。

 二人の会話は時が進むにつれ、激論へと変わっていった。

 

「分かってないなアインズ、だからそこは――シャルティアが来たな」

 

 ペロロンチーノの言葉と同時に執務室の扉が開き、予測通りの者が姿を現す。偽の胸を揺らす、黒に近い紫色のゴシックドレスに身を包んだ真祖(トゥルーヴァンパイア)、シャルティア・ブラッドフォールン。

 至高の御方々の前で足を止めたシャルティアはスカートを摘み、貴族がするような可憐な一礼をする。それはどんな美しい王族や貴族が同じことをしても、霞んでしまうほど華麗(かれい)だった。見惚れたペロロンチーノは思わず拍手し、口笛を吹く。シャルティアは嬉しそうに微笑んだ。

 

「お待たせして申し訳ないでありんす」

 

「よく来たなシャルティア、相変わらずパーフェクトだ」

 

 腕組みし、ニヤリと笑うペロロンチーノに、シャルティアの透き通るような白い肌が赤く染まっていった。長らく造物主がいなかった喪失感は遠い昔のよう、今その身を満たすのは歓喜を遥かに凌駕する幸福感、これは何度会っても変わらなかった。ただ姿を見るだけで体が熱くなり、火照っていく。

 

「あ、ありがとうございます! ペロロンチーノ様!」

 

「そんな完璧少女に渡すものがある、アインズあれを」

 

「うむ、シャルティアこれを。世界級(ワールド)アイテム、強欲と無欲だ」

 

 ――世界級(ワールド)アイテム、総数二百種類存在した全アイテムの頂点。ユグドラシル時代、それぞれがゲームバランスを崩壊させかねないほどの破格の効果を持ち、一つでも所有したならばすぐさま名声が轟いた。対抗する手段は同じく世界級アイテム(ワールドアイテム)を持つか、最高峰の職業ワールドチャンピオンのスキルのみ。まさに切り札の中の切り札。

 現在ナザリックにはそんな世界級(ワールド)アイテムを十一保管してあり、無数にあったギルドの中でも断トツの最多だ。

 

「それで世界級(ワールド)アイテムから身を守れ。強欲と無欲はレベル百でも経験値を集めることができる。この世界に経験値があるかどうかを調べ、あったならばできるだけ取集せよ」

 

 ガゼフというこの世界最高クラスの戦士を殺したのがプレイヤーの可能性もある以上、世界級(ワールド)アイテムの危険が常に付きまとう。シャルティアは最強クラスの強さだが、世界級(ワールド)アイテムの力は、それすらをも容易く凌駕するだろう。

 シャルティアは了解したと受け取った強欲と無欲を大事に抱え、任務を絶対成功させると固く誓い礼をする。

 

「それと補佐としてユリをつける。何かあったらユリの言葉に耳を傾けよ」

 

「承知したでありんす」

 

 ユリと聞いて、任務に楽しみができたと心の中で密かに歓喜する。シャルティアの気持ちを鋭く察したペロロンチーノは満足げに頷き、全く気付かないアインズは話を進める。

 

「セバス達ともうまく連携しろ。では任務の成功を期待する」

 

「頑張れシャルティア、俺も応援してるぞ」

 

 真に忠義を尽くすペロロンチーノと敬愛なるアインズに見送られ、シャルティアは執務室を後にする。

 

「さて、ペロロンチーノ、そろそろ私達も行くか」

 

 アインズは黒革の椅子からゆっくりと立ち上がる。

 

「あぁ、ついに冒険が始まるな」

 

 まだ見ぬ少女達を想像し、ペロロンチーノの胸は高鳴っていく。

 アインズも激務から解放される喜びを抱え、ルプスレギナに伝言(メッセージ)を飛ばす。

 

『ルプスレギナ、出発だ』


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